表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界憑依で運命をかえろ  作者: のこべや
35/48

35


 次の朝、ボクは朝食の前についに始めることにした。寝室にまだ眠っているリリをそのままにして、隣の部屋に移動したボクは、手首や足首を回し、腰を捻ったり、アキレス腱を伸ばしたり、上体を曲げたり反ったりと身体を動かす。これから水の中で泳ぐので準備体操を程度の軽いストレッチだ。後ろを振り返るとドアの前でポカーンとした顔で固まっているステラの姿が目に入ったがスルーしている。

 なぜ、彼女がそんな状態なのかというとボクの姿が下着に膝上丈のやたら生地の薄いワンピース姿だったからである。しょうがないじゃないか。動きやすそうな服はないかと衣装部屋の中を漁ってみたがどれもヒラヒラゴワゴワでとてもじゃないけど動きづらい。唯一今きている服が多少ヒラヒラしているが身体にピッタリ張り付くような感じなのでコレにしている。なぜか胸の下から前に切れ込みが入っていておへそが丸見えなのはご愛敬で……。


「おっ おっ お嬢様ッ なんて格好をなさっているのですかッ」


 あっ、起動した。これでも男の自分では服を着ているつもりなんだけど、ステラの言い分では下着姿で歩き回っているように見えているようだ。女の人は身だしなみも大変だね。


「ステラ 黙って…… これは私のためでもあるのです」


 ボクの言葉にいろいろ言いたいことをとりあえず飲み込んで彼女は口を一文字に紡いでくれた。

 ボクは、柔らかい絨毯の上にうつ伏せに寝ころぶと手をついて身体を支える。そう、腕立て伏せである。

 体力づくり、体力づくり。とにかく人並みぐらいにはなりたい。まずは腕立て伏せと腹筋で筋力をつけないと。そのためにはいつも着ているドレスでは邪魔でしかたがないのだ。この格好なのはわかって欲しい。腕立て伏せと腹筋、10回を休憩入れて3セット。まずはこれくらいから始めてみよう。やるぞぉぉぉ~~ッ。

 ……っと、勢い込んでいた時期がボクにはありました。


「お嬢様 無理をなされない方が……」


 手も貸せず、オロオロと見ているしかないステラの声が聞こえるが、今のボクは返事する余裕もない。床に膝を立たせて仰向けに寝ながら、上体を起こそうとした態勢で身体をプルプル震わせていた。

 嘘だろッ まだ5回もやってないじゃないかッ 腕立て伏せも3回だったし、嘘だといってェ。


「せめて あと いっかい」


 がんばって上体を起こそうとしているお腹の上にヒラリとルオレナが舞い降りた。

 グフッ! なんてことをッ!

 ボクは横に倒れてお腹に手をやる。腹筋イテェ~。


「ダッ 大丈夫ですか お嬢様? お腹ですか? あぁ だからご無理なさらないように言いましたのに」


 ステラは大げさにボクを抱き上げる。


「だっ 大丈夫です ステラ よもや ここまで酷いとは思ってもみませんでした」


 息も絶え絶えでフラフラしながらステラに支えらて立ち上がる。腕痛い。お腹痛い。これは、前途多難だ。しかし、男のつもりで無理に鍛えると思わぬしっぺ返しを食らうかもしれない。女の子の身体はデリケートだと聞いたことがあるから無理は禁物かな。今日の筋トレはコレぐらいにしておいてやろう。決して、めげたわけではないぞ。まだまだ、こなさなくてはいけないメニューがあるのだ。

 ボクは用意しておいたある程度の長さに切ってある縄の両端を手に持つ。垂れ下がって湾曲した縄の中心を足で踏んで、肘を曲げても余裕がある事を確認するとそのままかかとの後ろに縄をもっていった。持ち手の部分がまだ鋭利制作中なので縄が擦れてけがしないように手袋をはめると準備完了だ。そう、これは縄跳びである。さすがに、ジョギングはやらせてくれないのでその場で体力作りといったらコレぐらいしか思いつかなかった。それにしても、ほぼ下着姿で手袋をはめて縄を持つ美少女。端から見たら絵になるより何かアレだな。この際、外見など気にしている場合ではない。レイチェルの体力のなさは実証済みだ。やらねばならない。

 ボクは、軽くその場でジャンプしながら縄跳びを始めた。おぉぉ、いける。いける。これなら100回は目指せるかもッ。

 ……そう思っていた時期がボクにはありました。

 20回ぐらいを越えたところで息があがったのもあるけど、それよりもやめた理由が他にあった。

 今ボクはその場で膝をおって、しゃがみ込みながら両手で顔を覆っている。多分、遠目のステラにも耳まで真っ赤になっているボクの状態が見て取れるだろう。恥ずかしい。めっちゃ、恥ずかしい。なにが、ここまで恥ずかしいかって……。


 それは、胸が揺れるからである。


 もう一度言おう。胸が飛ぶ度にプルルンと揺れるからである。

 なんかねぇ。男では味わえない感触というか感覚というか。揺れてる胸がなんだかいたたまれなくなって、無性に恥ずかしいというか罪悪感を感じるというか。男として破廉恥なものを見ている気分になってきたのですよ、はい。


「お嬢様…… 今日はこのぐらいで……あと お召し物はいろいろご用意させていただきます」


 ステラの困った声にボクは顔を覆ったままでうなづいた。乳揺れぐらい慣れなくては……。

 汗をかいたのでお湯で流そうと思ったのだが、お風呂の用意となるとちょっと大変なのである。普通の人でもお湯を精霊術で生み出すことはできるが量が圧倒的に少ない。使用人達を何人か集めてお湯を作り出すか、普通にお湯を沸かしてここまで運んでくるかの二つの方法があるが、どちらも大変そうだ。なのでボクは、そのまま自室に備え付けになっている浴室に入っていく。


「お嬢様 今 湯の準備をさせますのでお待ちください」


「その必要はありません」


 ボクは、浴槽の前に手をかざすと力ある言葉を紡いだ。一人用の浴槽の上に湯気を立ちこめながらボワンと波打つ大きな水の固まりが浮かび上がる。そのままゆっくりと浴槽の中におろすと風船が割れるように中で広がった。たいぶ溢れ出したのはご愛敬だが、手を入れてみると良い温度だ。


「お嬢様がそのようなことなさらなくても…」


「そうですか? 便利でしょ ステラ達もお風呂入りたかったら声をかけてくださいね いくらでもお湯を出しますよ」


「いえっ お嬢様の手を煩わせるなど」


 すぐにステラから遠慮の言葉がでる。立場上、そう言わざるをえないだろう。お湯を張るぐらいボクにとって何でもないのに利用できるモノは利用してくれていいのにな。

 平民のマナ保有量は貴族に比べれば圧倒的に低い。貴族がこうやってお湯を張ったり土木工事や治水工事など、いろんな事に強力な精霊術を使えば、世の中はもっと便利に生活できるだろうにもったいない。立場とか見栄とかめんどくさい限りだ。しかし、一番の問題は根底に、『精霊術は戦う力である』という考え方であろう。これが覆らない限り精霊術が国の発展に貢献する日は遠そうだ。

 ボクは汗に濡れた服を脱ぐと自前のお湯の中にゆったりとつかる。あぁ、やっぱりお風呂はいいなぁ~。やっぱり温泉欲しいなぁ、などとぼんやりと考えながら、強ばった腕の筋肉を揉みほぐすのであった。細いなぁ、ボクの腕。


 お風呂からあがると起きあがってきたリリをつれて遅れて食堂にやってきたロザリアと共に朝食を頂いた後は、暇になってしまった。

 さて、これからどうしようか。トランプを作ったがよく考えてみたらコレは一人でできる暇つぶしではなかった事に気づいた。では、ご令嬢の暇つぶしと言ったら何だろう。

 一度視たレイチェルの記憶の中には、刺繍をしたり、本を読んだり、庭を散歩したり、貧しい者に施しを与えたり、教会に行って祈ったりとあったけど……。正直言ってどれも魅力を感じない。

 刺繍はちょっとやってみたいけど、指が血だらけになる未来しか見えない。自分、不器用ですから……。それでも少しはたしなもうとステラに言って挑戦してみた。

 レイチェルの身体が動きを覚えていたようでしばらくは悪戦苦闘したがなんとかチマチマと進められるぐらいには指が動いた。出来映えはさすが初心者である。しかしいかんせん、面白味を見出せなかった。女性はこんなものをして何が楽しいのだろうか。男がプラモデルに勤しむのと同じ感覚なのだろうか。さすがに長時間はやる気がでないので暇を見つけてはチマチマやろう。

 次は本を読んでみよう。これでも生前は読書家である。もっぱらライトノベルだけどね。なのでこの世界の実用一直線の本には、やはり琴線にはふれなかった。大衆向けの冒険小説や恋愛小説はないのか。ヒロインが広めてくれないかなぁ。

 しかたがない、絵でも描くかぁ。

 こう見えて生前では、小説や絵といったモノは一通りかじっている。インドア派としては当然の嗜みである、えっへん。

 とりあえず、何か描いてみようとステラに絵を描く画材を用意してもらおうと声をかけた。


「お嬢様 絵をお描きになれるのですか?」


 すごく驚いた表情してますよステラさん。そりゃ、普通の人は絵なんて描かないけどさ、そんなに驚くことなのかなぁと思っていたが理由を聞いて納得した。この世界では画家は一握りしかいない。娯楽が発展していないため芸術の分野も下火なのだ。なので、絵を描く技法というのはその画家によって門外不出なのである。弟子の希望もあまりなく、芸術学校なんてないので世間一般には広まらない技術なのだ。なので、趣味で絵を描く人などほとんどいない。


「『とらんぷ』といい『絵』といいそのような知識 どこで覚えになったのですか?」


 彼女の問いかけに冷や汗ダラダラである。もしかして、疑われている?。


「えっと…… 読んだ本に少しだけ畫かれていましたので ためしに……」


 ちらちらとステラの表情を伺いながら、声が最後の方に向かって小さくなってしまう。


「そうでしたか わかりました ご用意いたします しかし 申し訳ありませんが そういったモノは必要とされていなかったため手持ちにございません 商会に用意させますのでしばらくお待ち願えますか」


「えっ えぇ かまいません」


 助かったぁ~。ステラのような平民は、読書という習慣がほとんどないので疑われなかった。それというのも本が高価なものであるからだ。紙の値段が高いというよりは、印刷技術がないため、一つ一つ手作業で書き留めるため、高価な物となってしまった。

 反対に貴族はまずい。レイチェルだって読書をしていたのだ。ロザリアに「それはすごいですね 私もその本を読んでみたいですわ」とか言われたらツむ。この言い訳はあまり得策とはいえない。

 これ以上、この世界にないモノを作ろうとしたらまずいかもしれないぞ。ヒロインのように最初からユスティーヌだったら、天才ということで成り立つが、ボクのように途中からレイチェルと入れ替わった者は、その人からかけ離れた知識をひけらかすと別人と思われてしまうかもしれない。疑われてはまずい。自重しなくては……。

 画材は商会の者がこちらに持って伺うことになったのだが、ここはやはり街の様子を見てみたい。王都とはまた違った雰囲気の街並みが見れるだろうなと胸をときめかせる。こちらから店に出向くと言うと案の定ステラが否と言ってきた。王都ではそれでやらかしたもんね。

 お出かけはなしかと残念に思ったが意外なことに執事のセバスから了承がとれてしまった。理由を聞くと、先の襲撃が街で噂になっているため、領民がボクらを心配して不安がっているそうだ。ありがたい話である。

 なので、買い物がてら元気な姿を見せて領民を安心させてほしいと彼はいうのだ。そういうことなら断る理由はない。ボクにしてみれば街に出られて一石二鳥だ。というわけで、渋るステラを横目に午後からお出かけとなりました。ヒャッホォォッ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ