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異世界憑依で運命をかえろ  作者: のこべや
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見よ これがチート能力だ

ブックマーク、ありがとうございます。励みになります。


―――ジュゥゥゥゥーーーッ!!

 ロザリアの後ろから最早タックルを仕掛ける勢いで抱きつくと彼女とボクの間で音を立てて水蒸気の煙があがる。

 彼女は獣のような叫び声をあげるとボクを振り払おうと暴れ始めた。ボクは振り解かれないようにとギュッと腕を寄せると体をさらに密着させる。纏った水で彼女の体に燃え移った火は消化していくがその下から痛々しい火傷の後が見て取れる。それが染みて激痛になっているのはわかるが離すわけにはいかない。


「ロザリアッ! ロザリアッ!」


 ボクは、叫び声を上げながら視線を彷徨わせている彼女の顔を見つめながら何度も彼女の名を呼ぶ。

 熱いッ ボクが纏っている水がもうお湯になっている。まだ熱いお風呂に入っているような感覚だがこれ以上温度が上がったら、ボクも全身大火傷は必死だ。このままじゃ ボクもこの子も死んでしまう。


「チート能力をくれたんだろッ! だったら少女一人ぐらい救わせてよ なっちゃんッ!!」


 身体の奥底まで掻き出すように集中する。すると、急に体の中から何かが更にあふれ出てきた。まだまだマナはありそうだ。ありがとう、なっちゃん。いっぱい用意してくれて…。

 纏っていた水はさらに膨れ上がり、ボクとロザリアを体ごと包みあげるほどの球体となった。まるで、水の中に飛び込んだような感じだ。


「ロザリアッ!!」


 ボクは、彼女の顔を両手で掴むとこちらを強引に向けさせ彼女の名を叫んだ。彼女の見開かれた大きな瞳の中にレイチェルの姿が映し出されると、徐々に力が抜けていく。何か言おうとしている彼女だったがその口からただ気泡が溢れるだけだった。あれ、もしかして息ができているのはボクだけ?

 ボクは、慌てて術をとくように精霊に頼むと、ザバーッと音をあげて足下に水溜まりを作っていく。ボクらの体は水の中を泳いできたかのように髪も服もびっしょりだ。そのまま二人して抱き合いながら地面に膝をついた。


「おっ… おね…さま…」


 ロザリアの瞳に理性の光が戻ってくる。ボクの胸にぎこちなく手を添えると縋りつき、ボクが作り出した水とは違うものを瞳に溢れさせていた。


「い… いきて…」


 そのまま彼女は糸が切れた人形のように瞳を閉じてボクの胸の中に倒れ込んできた。ボクは慌てて彼女を支えるが、勢いに耐えきれずそのまま尻餅をつく。この体が女の子だということをすっかり忘れていた。

 彼女の膨らみ始めた胸が上下にゆっくり動いているのが見えた。


 生きている。


 よかったぁ~。お姉さんは生きて、妹は死んだなんて嫌だもの。

 まぁ、そのお姉さんは死んでボクなんですけどね…。

 もう一度、ロザリアの体を見てみる。体が燃え上がったため着ていた服はもはや機能していない。いろいろ見えていけないところまで見えてしまっている。そして所々にできた大きな火傷の痕。治癒術で後も残らず治るといいんだけど… そういえば、刺されたはずのボクの胸の傷が跡形もなく消えているのだからもしかしたら可能なのかも。

 とにかくここにいてはダメだ。とりあえず馬車の所までとボクは彼女を抱き上げようとしたがビクともしなかった。非力すぎる。それとも女の子の腕力ってこんなものなの? 引きずっていくのもなんだし、どうしよう?


「お嬢様ッ!!」


 ボクが途方に暮れていると誰かの声が聞こえてきた。ボクは反射的にそちらに向くと瞠目した。

 そこには、メイド服であろう服を着た20代の女性がフラフラとした足取りで近寄ってきていた。きれいなメイド服であったのだろうモノは所々切り裂かれ、スラリと延びた四肢から血が滴り落ちていた。左腕などプランと垂れており、動かないことを物語っている。首元に短く切りそろえた濃い茶色だったはずの髪が血で黒くなっている。猫のような鋭い瞳が額から流れる血で左目が閉じられていた。


「すっ ステラッ?!」


 レイチェルの記憶の中に彼女の顔がすぐに思い出された。彼女の専属の侍女である。ステラはボクらの近くまでくるとそのまま跪く。その際、右手に持っていたモノが地面に落ちて金属独特の音が響く。よく見ると真っ黒に染まった短剣だった。彼女は戦っていたのか?


「えっ? ステラッ?! キミは戦ってッ?」


 ボクは驚きで固まっていたが、唯一開けられているその切れ長な右目を大きく開いてボクの姿を映すとステラは涙を溢れさせた。


「よく…ご無事で… よかった… いきてらっしゃるッ よかった… 本当によかった」


 大人の女性がボクの前で嗚咽を漏らしながら、よかったと何度も言葉を紡いでいる。こういう時なんて言えばいいんだろう。いや、そんなことより傷の治療だ。ロザリアの火傷もあるし一気にやった方が効率もいいだろう。ボクは右手で気を失っているロザリアの体を支えると、左手を地面に添えられたステラの手に置く。


「お嬢様?」


「精霊よッ!」


 有無をいわさずボクは術を発動させる。二人の体が光に包まれるとまるで逆再生していくかように傷が徐々に治っていく。よし、範囲効果もできた。


「いけません お嬢様ッ! これほどの重傷の体をッ しかも一気に二人も癒そうなどしたらマナがッ!」


 彼女が変なことをいってボクの手から逃げようとするが治療中に動かれても困るので彼女の手をしっかりと掴む。


「私はいいのですッ お嬢様が生きていらしたのならそれでいいのですッ」


 イヤイヤと首を振る彼女を無視してボクは手に力を入れる。なっちゃんが用意してくれたチート能力は伊達ではないぞッ 何といっても致命傷の体すら治してしまうんだからな。

 光がさらに輝きを増すと目に見えてステラの傷口も、ロザリアの火傷の痕も消えていく。よしッ うまくいった。

 ボクが術を解くと辺りをまぶしく照らしていた光が消え、森の薄暗さが戻ってきた。


「お嬢様…」


「よかった… みんな 生きてい…る…」


 ボクの体が勝手にグラリと揺れた。


「お嬢様ッ!!」


 あれ? 体に力が入らない。ステラの悲鳴が聞こえるけど動けない。

 あぁ、これがマナの使いすぎかぁ~ ここが限界だったかぁ~などと、やり遂げた安堵から暢気な事を考えながら、ボクの意識はブラックアウトした。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


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