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「こっちッ あの子が案内してくれたんだから お姉様は絶対こっちよッ!」
ロザリアの声が暗い森の中に響いて聞こえてくる。あの子とはどの子のことだろう。あぁ、きっと隣で寄り添ってくれてるこの子のことだろうか。ロザリアもあの時のことを覚えているのかな。
ボクは重い身体を起こそうと立ち上がるがうまくいかない。情けないことに膝が笑ってる。恐怖もあるがやっぱり体力の問題が一番だ。抱き抱えている少女をまともに持ち上げられないなんて、これは早急に体力造りだよね。それでも彼女を抱き抱えていられるのは、胸の中に顔を埋め、首に回った腕でがっちりホールドしているからだ。お気遣いありがとうがとうございます。
挫いた足を引きずりながら藪から出てくると、キラリと光に照らし出され、真っ暗な森の中にボクの姿を浮かび上がらせた。
「お姉様ッ!!」
ロザリアとステラが木々の中から走り寄ってくる。森の中を走ったことないロザリアは所々で根に足を取られて転びそうになりながらもボクの元へ駆けてくる。
「ロザ…うっ!」
抱き抱えている少女ごと彼女は飛び込んできた。ロザリアは何もいわず、肩を震わせながらボクの身体に回した腕にギュッと力を込める。すみません、ちょっと苦しいです。
そんな彼女と共にやってきたステラは、ボクの周りをグルグル回りながら状態を確認していた。
「あぁ お嬢様 こんなに傷だらけになられて…… こんな場所で… 怖かったでしょうに……」
うん。確かに怖かった。でも、ボクは男の子だから言わない。いや、女の子か……。まぁ、いいや。
言われて初めて知ったが、服は枝などにひっかけたのか所々破れ、体中の至る所に擦り傷や切り傷を作っていた。ここ数日は、怪我ばかりして申し訳ない。
「よく待てたな……」
遅れて護衛の人達と一緒にザザ様が姿を表した。彼も無事だったようだ。
「約束でしたから……」
忘れられたらどうしようかと思ったよ。ほんと捜しに来てくれてよかった。そんな気持ちを込めてボクはニコリと彼に向かって微笑んだが、疲れと痛みであまりうまく笑顔にならなかった。そんなボクの顔を痛ましそうに彼の表情が曇ったが、助かったボクにはソレを気にする余裕などなかった。
「さぁ お嬢様 戻りましょう」
ステラはボクにしがみついていたロザリアの肩をソッと離し、ボクの胸の中にいた少女をかわりに抱いてくれた。よく見ると彼女は眠っていた。なかなか剛胆な娘なのか、もしかしたら、気を失っているのかもしれない。身が軽くなったのは良いが。
「ごめんなさい 足を挫いていて……」
実際立ってるだけでも痛いが顔に出さないようにと努めるために強ばった表情になってしまう。そんなボクの姿にステラがオロオロしだす。
「俺が運ぼう」
ザザ様がボクに近づくと軽く横抱きに抱えた。
「ご迷惑をかけます」
なんかこんなんばっかのような…。ボクは別に楽だからいいけど、お姫様だっこもここまでオンパレードだと、女の子でもありがたみがなくなるんじゃないのかな。
「かまうものか 鍛え方が違う」
間近にあるボクの顔から視線を反らすように彼は答えてくる。キョロキョロとせわしなく動く彼の視線が照れているように見えたが、きっと周りを警戒しているのだとすぐに思い至った。さすが、未来のヒロインの騎士。パないです。
殿下の時は視線を合わせてボクの事だけを心配をしていた。彼は敵からボクを護らんと周りに気を配っている。人それぞれなんだな。そんな反応がちょっとおもしろくてクスリと笑ってしまった。
「なんだ?」
「いえっ 依然殿下に抱えられた時とは別の反応を見せられまして いろいろあるのだなと思いました」
「ふ~~ん 殿下ね……」
あれ? 何か引っかかる言い方。何か機嫌が悪くなったような……。
「殿下と比べて乱暴だとでも思ったんだろ」
「いえ 周りを警戒なされるザザ様は やはり騎士なのだと痛感いたしました」
思ったことをそのまま言葉にしたボクをしばし彼は瞠目する。顔が近いから丸わかりですよ。
「そっ そうか……」
そういうと彼の視線は再びさまよい始めた。いやいやこれは警戒しているんだって……。
なぜか後ろを歩いていたロザリアがジロリと睨みつけている。彼女もしてもらいたかったのだろうか。そうだよね。女の子憧れのお姫様だっこだものね。でも、ごめん。ほんと歩けないんです。すみません。
彼女をよく見るとその胸に白いモコモコを抱き抱えていた。いわずもがなあの白い彼である。
「ロザリア その子……」
「はいッ お姉様 この子がここまで私達を連れてきてくれたのです」
機嫌が悪かった彼女だったがボクが声をかけると花が咲いたように表情を変えると抱えていた彼を見せてくれる。
「そうですか… 二回目ですね この子に助けられたのは…」
ボクは自然と彼女にほほえんでいた。
「はいッ」
ボクの言葉にその大きな瞳に涙を湛えながら彼女が大きく返事をした。セ~~~フッ 思い出せれてよかった。
「ところで その子を連れて行くのですか?」
「はいッ」
いい返事だ。
ところで、いいのか、おまえ?
クワァ~と彼女の胸の中で欠伸をしている彼をジッと見つめてみる。全然気にした様子はみられない。人懐っこいにも程があるだろうと思ったが護衛の兵士の何人かがその毛に触れようとすると睨みつけてくるところから誰でも言い訳ではないようだ。
面食いなのか、この子。
ボクらは暗い森を手にする精霊術の明かりをたよりにしばらく歩き、街道に出てきた。そこは、ボクらが休憩していたところとは違った場所であった。ボクが引火させた跡が残っていなかったからわかった。
停めてあった馬車に放り込まれるように入れてもらった。ボクはレディではないのでいいけどもうちょっと優しくした方がいい。彼も慣れてないのだろう。いろいろぶつける度に「悪い」と焦っているところがおもしろくてついクスリと笑ってしまう。
今日は、このままここで休むことになった。もう日も落ちて辺りは真っ暗で移動には的さないからだ。馬車の中にステラだけ入ってくると扉を閉める。
「お嬢様 今の内に治療を……」
彼女に促されてボクは精霊術を使う。全身に暖かい光が漏れると身体を駆けめぐっていた痛みがすんなりと引いた。本当に便利な世界だ。そのかわり、ものすごくだるい。気を抜いたら眠ってしまいそうだ。今なら5秒で寝られる自信がある。
「お嬢様 眠いのですか?」
「ごめんなさい もう限界……」
「いえ もうお休みなさいませ 私達がしっかり番をいたします」
濡れた布で汚れたボクの身体を拭きながら、もう痛みもない足首に包帯を巻いていく。たぶん、ボクの力がバレないように偽装を施しているのだろう。そんな彼女の行動を最後まで見れず、終わった安心と極度の疲れでボクは知らない内に眠りについていた。
だから、知らなかった。馬車の側の木の枝にとまっていたモノに…。ソレは王都で見た金色の鳥であった。
その瞳は馬車の中を見透かすように見つめていると無機質な声がその鋭いくちばしからもれた。
「エラー……エラー……襲撃者が魔物であったエラーを修正 ……修正完了 連動イベント『護衛』のクリアを確認」
その言葉は誰に知られることもなく、かき消すように彼の姿は闇の中に消えていった。




