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異世界憑依で運命をかえろ  作者: のこべや
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「一人で戦おうとするなッ お嬢様方を護れッ!」


 緊迫したヴォルフの声が辺りに木霊する。


「さがれッ!」


「お嬢様ッ!」


 側にいたザザ様とステラがボクの前に躍り出る。二人の隙間からボクはロザリアの姿を探していた。馬に触っていたボクより離れていた彼女はかなり離れた所に護衛の兵士一人に守られていた。あの場所では魔物に近すぎる。


「ステラ ロザリアを護ってッ!」


 ボクは咄嗟に叫んだ。その言葉に弾かれるようにステラはロザリアの方に走る。


「馬車まで走れッ」


 ザザ様が声をあげながら馬車の方に誘導する。有事の際のマニュアルとして護衛対象は馬車の中に匿うことになっていたようだ。護衛達は馬車を守ればいいのだからやりやすいだろう。ボクは慌てて馬車に向かおうとするがいかんせん、この身体は、思っていたほど走れない。

 馬車の方を見ると、その奥の森から誰かの悲鳴と肉を引き裂く音と共に新たな魔物が姿を現した。陽炎のように揺らめく漆黒の強靱な体躯は人のような四肢をもちながらその全長は3メートルは優にある。真紅に輝る双眼が獲物を探すように爛々とし、横に引き裂かれたような大きな口元には食べかけの人だったモノがぶら下がっていた。辺りを見渡すとこの広場を囲むように次から次ぎへと魔物達が躍り出てくる。


「くそッ! 何でこんな街道近くでこんなに魔物共が現れるんだよッ」


 悪態をつきながらもボクを背に隠して、向かってくる黒い巨体に剣を振りおろす。本能のまま、ただ突進してくる魔物達は伸ばしていた腕を斬りつけられてもひるまない。ザザ様はボクの腕を強引に引いて相手の進行上からボクを外すが、きっと護衛は初めてなのだろう。その加減のない力ではボクの身体は逆に地面に引き倒されてしまった。


「わるいッ!」


「かまいませんッ」


 相手と対面しながら横目で気遣う彼にボクは、すぐに立ち上がろうとするがやっぱりすぐには動けずノロノロと立ち上がった。手や膝がジンジンする。擦りむいたかもしれない。たったこれだけでもう息切れがする。でも、そんな事言ってられない。ボクは、馬車の姿を探して辺りを見渡す。すると、その視線の先の森から一人の少女が現れた。口には猿ぐつわ。縄で拘束された両手。必死で森から出てきた彼女の後ろには魔物の大きく開かれたアギトが見える。


(ダメだッ!)


 ボクの身体は反射的に彼女に向かって走り出した。これもなっちゃんの特訓の成果であろう。咄嗟な時になればなるほどボクの神経は庇うように動いてしまう。だが、今のボクは非力な人間ではない。ボクには精霊術がある。確か、ステラに聞いていたが魔物は『触』の塊であり生物としての機能はない。筋肉もなければ血も通っていない。内蔵もないのに人間を食べるのはその身体を構成するマナを吸収するためである。食べると言うより呑み込むといった方が正しい。痛みもない存在にちょっと剣で斬りつけても効果はない。奴らを倒すには、その身体を構成する『触』の塊。『魔核』を破壊するか、身体が維持できいないほど炎で燃やし尽くすしか方法はなかった。

 だからボクは迷いなくその方法を選んだ。


「精霊よッ!」


 ボクの力ある言葉に反応して魔物に向かって業炎が現れ、凪ぎ払う。その衝撃で、魔物は全身を焼かれ、のけぞるがその前にいた彼女もボクに向かって噴き飛ばされ、地面にしこたま身体を打ち付けていた。咄嗟の判断のため力の加減を忘れていた。


「大丈夫?」


 ボクは慌てて彼女に駆け寄るがその腕を強い力で引き寄せられた。


「バカ野郎ッ こんな所で炎を使う奴があるかッ!」


 驚いて振り向くボクに向かって怒鳴る彼の言葉にハッとして辺りを見渡すと、惨状が広がっていた。

 ここは森の中だ。そんな場所で強力な炎を放てば周りに引火するのは当然の事だ。助けようとしたボクの行動は、少女を救うことはできたが、かわりに周りに引火した炎でボクらは皆から分断されてしまった。

 例え、強力な精霊術が使えようともボクには生前ともに圧倒的に戦闘経験がなかった。訓練を積んでいないボクでは瞬時の判断を簡単に謝る。その証拠に炎が有効と聞いてそのまま実行してしまったのだ。最悪なことに威力が大きかったため大惨事だ。

 あまりの光景に呆然としてしまったボクの腕を強引に引くと、地面に転んでいた少女を小脇に抱えて彼は走る。


「ボーとするなッ 走れッ!」


 ザザ様は炎が舞い上がる皆とは反対の方向。薄暗い森に向かった。ボクはただ黙って手を引かれるまま森の中を疾走する。

 どうしようッ 失敗したッ 失敗したッ ボクの所為だ。


「ごめんなさい ごめんなさい」


「いいから 走れッ!」


 勝手に涙が出そうになる。頭がグワングワンと揺れて何も考えられない。これは精神的な事だけではない。肉体的にも限界だった。腕を引かれて森の中を全力疾走なんて、レイチェルの身体では無理だと訴えかけてくる。

 息切れが酷くて呼吸できない。脳に酸素が足りなくて朦朧とする。腕を引かれる身体はもう引きずられるようになるのに時間はかからなかった。これ以上迷惑をかけないようにと必死に足を運ぶがこの身体はそんなに優秀でないことをここ数日で嫌と言うほど味わったはずだ。

 そしてボクは、地面から這い出る太い根に足を取られ、盛大に転倒することになった。

 急に離された手に慌てて振り返る彼は無様に転ぶボクの姿を一見した。

「大丈夫かッ?!」


 引き返してきた彼に心配させまいと急いで立ち上がろうとしたボクは右足に激痛を感じてそのまま膝をつく。


「どうしたッ?!」


「足を捻ったみたいです」


 ボクを抱えようとするがすでに抱えている少女の存在に気づいて吐き出すように声を上げた。


「くそッ!」


 彼は力ずくでボクを立ち上がらせると、そのまま鬱蒼と生える草むらの中に飛び込んだ。


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