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異世界憑依で運命をかえろ  作者: のこべや
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 領内からの増員で護衛の数が8人となった。彼らの印象というと皆 父様よりは年をとっているということだ。その中の一人が応接間で待っていたボクらに近づく。この中で一番年をとっているにも関わらずその大きな体躯はしっかりとしていた。歴戦の戦士といった言葉がぴったりな男性であった。

 彼はヴォルフ ルナフィンク領の領兵隊の隊長である。詳しいことをこっそりステラが教えてくれる。彼女に打ち明けておいてよかった。


「本当によかった これでお嬢様を守れるッ おいッ おめぇら 気合いいれろよッ」


 ボクに向かってしみじみというと後ろに控えていた兵士達に檄を飛ばすとおぉと拳があがった。なかなかに感じのよいおっちゃん達である。

 この領兵。実は大半が黒の騎士団の退役者であった。体力的に限界とかけがの後遺症で戦えないとか理由があるらしいがボクから見るとまだまだ強そうみえる。人間相手なら問題ないらしい。しかし魔物とはもうダメなんだとか。魔物の戦闘力は人間のソレを遙かに越えているのである。

 領兵の方々との対面はうまくいったのだが問題な人が訪れていた。そうすべての騎士団を束ねる団長の息子 『エルゼン・ザザ』。その人である。

 殿下と同年であるにもかかわらず父親似の大きくてガッシリとした身体には筋肉の重みを感じる。余程剣技を磨き続けた身体だと思わずにはいられない。父親譲りの深い蒼の髪を肩まで伸ばし、それを後ろで一つに束ねていた。剣士なのだから短いと思っていたのだがファッションなのかそれとも切るのもめんどくさがる程の出不精なのか判断できないがこの際どうでもいい。野性味あふれる冷えた紫の瞳がご令嬢などを震え上がらせること間違いなしである。実際、ロザリアは一歩下がって地味にボクの影に隠れていた。朗らかな殿下とは違って氷点下な印象を受ける男である。そんな男が口を開いたのだが。


「この際 はっきり言っておいてやる 俺は『令嬢』というのがだいっ嫌いだ 一応父上の頼みだから護ってやるがこれっきりだ いいなッ」


 第一声がコレであった。ピンポイントな所が余程、昔か現在進行形でご令嬢様に嫌な思いを味合わされたんだなと思わせる一言である。自分の言いたいことを告げるとヴォルフ達の集まりの中に入っていってしまった。


「何ですのあの態度ッ 騎士を目指すものとしてどうかと思いますわッ ねぇ お姉様」


 憤然とするロザリアの気持ちもわからんでもないが、ボク的には関わらないのならそれでいい。ある意味潔くて好感がもてる。


「そうですか? 何だかんだ言ってここにいるということは責任感があって人が良い方だと思いますよ」


 ボクの返答に嫌そうな顔をするロザリアを宥めながらボクらは旅路の準備にうつった。

 旅の行程をヴォルフから告げられる。ルナフィンク領は王都より内陸で山脈に向かって進む。馬で休憩なしで爆走すれば1日かかる距離らしいのだが、今回はしっかり護衛をつけて慎重にいくため王家直轄領の一番端の村に一泊する予定である。

 街道は青の騎士団が警邏して賊を排除しているので比較的安全のはずなのだが前回それで襲われているのであてにならない。ちなみに領内の街道はそれぞれの領兵が管理している。青の騎士団はあくまで王家直轄領内だけである。

 ルナフィンク領の事を事前にステラから教わっている。かの領地は他の公侯爵と比べて狭いらしい。領土の大半を森と湖で埋め尽くし、大きな山脈を抱え込んでいる土地だ。しかし、その人の手が入っていない雄大な森は『精霊の森』と呼ばれ、濃密な精霊で埋め尽くされているらしい。そのため魔物の元である『触』が全く発生することがなく、かの地には魔物が一匹も出現しないという特徴があった。

 そのおかげでルナフィンク領はこの国の保養地として発展している。領内には他の貴族や王族の別荘が建ち並んでいる。

 保養地かぁ~。近くに大きな山脈もあることだし温泉とか沸いたらもっと保養地として発展しそうだな。

 護衛が8人。ザザ様とステラと全員で10人。なかなかの数だ。万が一もないだろう。サリーは、後から来るそうだ。侍女長である彼女はこの別宅で父様のお世話をしているのだが、これからは父様が何かと理由をつけて領内に帰ろうとするから、引継をしてからくるそうだ。父様、今までは領内に帰らないようにしてたもんね。

 ボクは、メイドさん達に旅装に着替えさせてもらう。今までのゴテゴテヒラヒラした服よりはだいぶましで動きやすいがヒラヒラしているのは変わらないのでボクにはあまり違いがわからない。それよりも一番はヒールではなくブーツであることだ。これはうれしい。よく女の人はあんなかかとがあがった状態で歩けると心底感心していたものだ。

 準備が整うと玄関に馬車が2台止まっている。一つはボクらが乗り込むものでもう一つは荷物用だ。主な積み荷は父様から贈られたプレゼントの山である。

 皆は、領内に帰るので淡々としているがボク一人は内心ウキウキしながら馬車に乗り込む。だってしょうがないじゃないか。皆にとっては慣れた場所かもしれないけどボクにとってはルナフィンク領も未知の場所だ。旅行するみたいで心躍ってしまってもいいじゃないか。


「お姉様 なんだか楽しそうね」


「そうですか」


 ロザリアの手前、お姉ちゃんらしく振る舞おうとしても体が勝手に左右に揺れてしまう。

 準備が整うと一段がゆっくりと別宅から離れていった。馬車の周りを固めるように護衛の6人が馬に騎乗して併走する。ザザ様も自分の馬の方だ。残った2人は有事の際を考えてそれぞれの馬車の御者をしている。ステラはボクらと同乗している。

 車窓から外を覗き見ているとしばらくして大きな門を通過して王都から出立した。

 遙か向こうまで見える草原と長閑な穀倉地と点々と並ぶ家々。見るモノ見るモノが新鮮だ。なんでもない風景でもやっぱり知らない場所に旅行にきているみたいでどれもこれも興味深い。ついつい対面に座るステラにアレコレ質問してしまう。

 やっぱり一番の興味は動物である。毛並が長く大きな2本の角を生やした牛のような生物が顎を横に動かしながらのんびりと草をはんでいる姿に目を輝かせたってしょうがないじゃないか。すれ違う荷馬車をトカゲとサイが合わさったようなデカイ生物が引いていたら目が釘付けになってもしょうがないじゃないか。

 やっぱりファンタジーはこうでなくっちゃ。だからボクは周りに気を配らないで一人はしゃいでしまっていた。それはもう見事に子供っぽかっただろう。楚々な顔立ちのレイチェルがキラキラしながら笑顔を振りまいていればそれはもう眼福にちがいない。護衛のおっちゃん達にしてみれば彼女は娘のような年頃なので温かい眼差しを送っていた。

 約一名、なんだこいつはと若干引き気味でみている男がいらっしゃったがボクはかまわない。それどころか窓を開けたすぐ側にいたためボクはアレコレ彼に聞いてしまっていた。


「ザザ様 あの子はなんというのですか?」


 平坦な街道を進んでしばらくすると森の中に入っていったため、木々には見知らぬ生物が見て取れた。だって顔はリスなのに身体がサルなんだよ。珍しすぎるだろ。


「だから 俺に話しかけるな」


 そんな事をいいながら彼はチラリとボクが見ている生物に視線を送る。


「アレは ジョシュスだ 木の実を食べる木登りのうまい奴だな」


 何だかんだいいながら答えてくれる彼はやはり人がいい。


「物知りなのですね ザザ様は」


「おまえがモノを知らなさすぎるだけだ」


 辛口コメントでもボクは気分がいいのできにしない。実際知らないのは本当なのだからね。そんなボクの態度に彼はあきらめがついたのか嘆息すると改めてぐるりと周りを見渡す。


「それにしても 襲ってくるような奴でないがやけにいろんな動物が近くに集まっているな」


「そうだな 俺もこんなに野生の動物を見るのは初めてだ」


 そんな彼のつぶやきに隣にきた護衛の人との会話が聞こえるがボクにはどうでもいい。自然な動物園で見放題なのだから楽しすぎる。

 日が一番高い場所まで来たところで道の脇にできた広場で休憩をとることになった。順調にいけば夕刻までには一泊予定の村にたどり着ける話だ。

 それぞれ馬を休めるため思い思いにくつろがせている。馬車から降りたボクはさっそく馬車を引いていた馬の所へと足を運んでいた。

 間近で見る馬はやっぱり迫力があってかっこいい。ボクらの世界の馬より若干大きいようだ。できれば乗ってみたい。


「お姉様 危ないですわよ」


 ついてきていたはずのロザリアは、ボクの遙か後ろで声をかけてきた。


「大丈夫です 見ているだけですから」


 そんな事いいながらついつい距離を縮めてしまう。そんなボクをブラッシングしていた御者役の護衛の人が苦笑する。


「どうですか お嬢様 触ってみますか?」


「いいのですか ぜひッ」


 喰い気味でボクは反応する。


「やめとけ 半端な気持ちでふれると痛い目みるぞ」


 いつの間にか隣にやってきたザザ様の忠告が聞こえてくるが馬にふれられる事に頭一杯のボクの耳はそのまま素通りだ。


「おい 聞いているのか 暴れるだけだぞ」


 ボクはソッと馬の首筋に手をおく。まるでもっと触ってと首を曲げながら馬が顔を寄せてくる。なかなかに人懐っこい子である。

 ボクは毛並みを梳くように手を動かすとうれしそうに嘶いた。手のひらに感じる脈動が生き物の暖かさを感じる。あぁ 癒されるぅ~。


「うそだろ 初めて触るんだろ」


 なんだか隣で驚いている人がいる。おとなしいこの子が珍しいのだろうか。ボクは、なでながら御者さんの方を見ると彼も驚いた表情をしていた。


「いやいや お嬢様は動物達に好かれるのですかね」


「きっと お嬢様は精霊に愛されているのでしょう」


 御者さんのつぶやきにステラが満足そうに答えた。あぁ、それには思い当たるモノがある。もしボクがステータスを見ることができるのなら必ずあるはずだろう。『天使なっちゃんの祝福』とかいう称号が……。

 ボクがスキンシップを堪能していると視線の先の木の上に珍しい子がいた。真っ白な毛並み。獅子のような顔つきにピンとたった耳の前には大きな角が生え、しなやかな猫のような四肢が枝の上にしっかりと立ってこちらを見据えていた。その瞳は青色だと思っていたが角度を変えると黄色になったり赤になったりと七色に変わる珍しい瞳をしていた。

 一言で言えばとても綺麗な子だった。まるで高貴な生き物のように思えたボクは目が離せなかった。その子もボクのことをジッと見ていたが不意に顔を上げると目の前の森の奥を険しい目つきで睨みつけていた。ボクもつられて振り返り、馬から手を離すと視線の先を目で追った。


「どうした?」


 突然のボクの行動にザザ様が眉を潜めて、ボクが見ている森の奥を見る。


「何かくる」


 ボクは何か感じた事をそのまま口にした。ボクの声に周りにいた護衛の人が森の中を注視する。

 護衛さん達が一斉に腰の剣に手をかけた。目を凝らすと森の中から人が走って近づいてきているようにみえたからだ。


「止まれッ! そのままくれば斬るッ」


 一番森の近くにいた人が声をあげた。それでも走りは止まらない。その姿が暗い森の中に浮かび上がってくる。女の人のようだ。しかし、おかしい。両腕が不自然に身体の前に固定されている。彼女は声を上げているのだろうが激しい呼吸音とうめき声しか聞こえてこない。

 そのはずだ。彼女は口に猿ぐつわをかまされていたのだ。それに気づいた時、彼女の背後から大きな黒い影が躍り出ると彼女を飲み込んだ。森の中にくぐもった悲鳴と赤い飛沫に骨が砕ける嫌な音が響きわたる。

 その正体に気づいたヴォルフさんが剣を抜き放ち叫んだ。


「気をつけろッ! 魔物だァッ!」



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