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異世界憑依で運命をかえろ  作者: のこべや
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難しいお話


 侍女さんが大きな扉を開けるとそこには大柄な男が立っていた。白銀の鎧に真紅のマントを掛け、その顔には年相応に刻んだ皺が見て取れる。白髪が混じっているが黒に近い青色の髪を後ろに流し、堅い性格が表したような目を伏せ、王妃様に挨拶そこそこにボクの方をチラリと確認する。


「これはこれはルナフィンク嬢もいるとは… ちょうどいい キミに聞きたいことがあったのでな」


 わざとらしい。いるとわかっているから訪れたのだろうに。王妃様を通すと確実に断られるから彼女と一緒にいるときになし崩しに話をしようという魂胆が丸見えである。これではどうやっても断れない。


「王妃様からお聞きしました ザザ侯爵様は私に先の事件の事をおききしたいのでしょう?」


「わかっているのなら話が早い」


「しかし どうか妹にはお聞きにならないことを拙に願います」


 ボクはソファから立ち上がると頭を下げた。ボクは平気だがロザリアのあの様子では取り乱すに違いない。


「わかった」


 とにかく話が聞ければ侯爵にとってどちらでもいいようだ。侯爵様は黙ってボクの向かいのソファに座ったのだが、王妃様と殿下はボクを挟み込むように隣に座っていらっしゃる。ソファは広いから大人3人で座っても窮屈ではないがなんだか落ち着かない。その後ろに静かにステラが立っている。そのステラの姿を見た侯爵が眉をひそめた。


「なぜ侍女がここに?」


 訝しげにボクに問いかけてくる。


「彼女はステラ 私の専属の侍女であり事件時は私と共におりました 少しでも侯爵様のお役に立てると思います」


「ふむ おまえが噂のルナフィンク家の戦闘メイドか」


 何そのフレーズ。格好いい。ドキドキしちゃう。ボクがその二つ名にときめいているが侯爵様はあからさまに侮蔑の表情をしていた。


「女が剣を持って戦うとか感心できないな」


 あぁ、そういう価値観かぁ。これは侯爵様だけではない。多分ボク以外の人間全てがそう思っている。ステラには肩身の狭い思いをさせてしまっているのだろうか。女性に剣技を教えてくれる者がいないからステラはレイチェルを守るためにあのような能力を持っていたのだろうな。

 ボクはソッと後ろに控える彼女の様子を伺う。そんな言葉にも彼女は動じた様子は見られずただ前を見据えて立っていた。強い女性だ。ボクも負けてはいられない。ボクは意を決して侯爵様の方に向き直った。


「それで 侯爵様は私に何をお聞きしたいのでしょうか?」


「当時の状況で何か疑問に思った事はないか?」


 ストレートだな。そんな事言われてもレイチェルの記憶は残っていないし、こちらの世界に来た時に状況を確認したけど襲われている情景しか思い出せなかったなぁ。


「申し訳ありません 馬車の中でしたので男性にいきなり襲われたことしか覚えておりません」


「それだけか……」


 侯爵様の顔に落胆の色が見える。多分そのことはすでに聞き及んでいる事柄だろう。


「ステラ あなたはどうですか?」


 ボクは後ろに控えている彼女に水を向ける。


「私も襲撃されたこと以外これといって変わった事は何もございませんでした」


 彼女の言葉に彼のただでさえ深い眉間の皺が更によった。このままでは収穫なしは確実だ。


「そんな事はわかっている 何でもいい 何か気になったことはないのかッ」


 彼の声が苛立ちで自然と大きくなり睨みつけるようにボクに問いかけてくる。焦っているのはわかるけど女性にむかってそんな顔されては怯えてしまうじゃないか。ボクもちょっと迫力負けである。

 やんわりとボクの手が包まれる。隣に座っている王妃様の手だった。こちらにその柔らかい微笑を送るとキッと侯爵様を睨みつけた。


「ザザ 言葉がすぎてよッ」


「ぐっ 王妃様 しかし……」


 引かない彼の態度からもうここしか情報がないと言わんが如くだ。ここは素人感覚でもいいから思ったことでも言ってみよう。そうでもしないとこの人は諦めず、もしかしたら約束を違えてロザリアに問いにいくかもしれない。それだけは絶対阻止だ。


「侯爵様 一つお聞きしてよろしいでしょうか?」


「何だ?」


「私は後で盗賊に襲われたと聞き及びましたが 盗賊というモノは問答無用で襲ってくるモノなのでしょうか?」


「んっ まぁ そういうこともあるかもしれないなぁ」


 話の意図がわからないと眉をひそめる彼に、ボクは両手を軽く広げて身体が見えるように背筋を伸ばす。


「ご覧の通り 私はあまり華美な装飾をしておりませんが彼らはそれすら手に取ることもなく私に襲いかかってきました」


 そうレイチェルはあまり装身具をつけない。興味がないのかお金がないのかわからないが…。後者だったらちょっとやだな。あの時も何かを奪われている感じはなかった。侯爵を見るとなぜか目を反らしていた。胸を突き出すような姿勢だったからだろう。決して小さくないモノが眼前に主張していたのを思い出した。 これは失礼。


「つまり 物盗りが目的ではなかったと……」


 ボクの言葉に殿下が口を開く。そんな言葉にステラの肩がピクリと動いた。はて? 侯爵様ならいざしらずステラが反応するとはどういうことだろう。


「物取りでないというのならなんだというですか?」


「最初から彼女達が目的だった ということかな」


 ボクのかわりに殿下が答えてくれた。その言葉にありありと侯爵の呆れの声が聞こえてきた。


「ありえない 貴族の令嬢を殺害することが目的だったというのか?!」


「それもあるが気になることは他にもある」


 一端言葉を区切った殿下は侯爵に向き直る。


「ザザ おまえが知りたがっているのは何故に15人モノ賊が隠れ潜んでいる事を見逃したのかであろう」


 その言葉に浮き上がっていた侯爵の腰がソファに沈む。殿下はその様子を確認するとボクに向かって話を促してきた。ボクは頷くと自分が思っている仮説を口にする。


「騎士団の方々の能力を疑っているわけではありません そもそも彼らはずっとあの場所で潜んでいたのでしょうか?」


「どういうことだ?」


「今は祭りの期間です 王都に入ってくる人達の管理はしっかりなされていると思います」


「無論だ」


「では 出て行く人達の管理はどうでしょうか?」


「出て行く者など知ったことではない」


 憮然とした彼の態度が見て取れる。


「私達が王都を離れる時 賊達が商隊か何かに扮して私達より少し先に移動していたら15人もの大人数が隠れ潜んでいても警邏の方達が見つけることはできなかったでしょう」


「つまり 奴らは当日まで身元を偽って王都に潜んでいたということになるな」


 ボクの予想に殿下も乗ってくる。先日のラキアの者がやっていた手口に似ているからだ。


「そんなはずはない 身元はしっかり確認している だいたい15人ものの不審者に気づかないはずがないッ」


 自分達の仕事を軽んじられていると思ったのか侯爵様は声を荒げた。それを女性に言われるなど心外でしかない。


「いるだろう 大人数の私兵を調べられることなく通過できて匿まえる場所を持っている者 かつ 彼女達の動向を伺え 警邏のスケジュールを知ることのできる存在が……」


 殿下は声を潜めると侯爵に向かって意味ありげな視線を送った。その意図に気づいた侯爵が瞠目する。


「まさか殿下 貴族が関わっているというのですか」


 疑念に漏らした言葉が部屋に響く。


「可能性の話だよ」


 殿下はそういうとボクに目配せする。


「侯爵様 私達は近々領内に戻ります」


「いや まだ何の手がかりもないままで王都を離れられても困る」


 思考の渦の中にいた侯爵が跳ね上がるように顔をあげた。


「これ以上王城に匿っていては他の貴族から贔屓だと思われてしまう かといって警備の薄い王都の邸宅に引き留めては襲ってくれと言っているようなものだ」


「殿下はまだ襲撃してくると?」


「可能性の話だ 彼女達は滅多に領内から出てこないと聞く 狙うなら今しかないと思わないか」


「いったい何者が狙うというのですか?」


「そうだな 例えば 隣国とかかな」


「そんなまさかッ! それでは内通者がいると…… 何のためにッ?」


「それはもちろん狙いはロザリア嬢だろうな…」


 彼女の名に思い当たった侯爵様は興奮した口を閉ざすと思案にふける。


「しかし 今の時期 騎士団を動かすのは……」


 侯爵様の悩みもわかる。一侯爵に青の騎士団を動かす理由がない。あれは王都の警備を主にしている者達だ。王族警護の白の騎士団などもっての他。赤にいたっては国境だ。お父様の黒の騎士団は用途が違っているし今遠征中だ。時期が悪い。それに騎士を動かせば自ずと情報が漏れる。身内なら尚更だ。もしかしたら相手はそれを見越しているのかもしれない。なかなかに事情通だ。

 二人して難しい顔して悩んでいる。なんだか大事になっているような感じだ。こちらも増援を呼んだし、これからはボクの周りにも警護をおけるからそんなに悩む事ないと思うんだけど。侯爵様にとってはもう失敗できないこと故に慎重にならざる負えないことはわからなくはないが殿下にとっては関係ない話だ思うんだけどなぁ。人のいい彼だからほっとけないのかもしれない。


「では 私の息子を彼女達の護衛につけましょう」


「エルゼンか 確かにあいつの剣技は目を見張るものがある」


 おや、なんだかトントン拍子で事が決まっていっているぞ。今何と言いました。エルゼンって エルゼン・ザザ? 騎士団長の息子。そしてヒロインの攻略対象じゃないか。


「身贔屓に聞こえますがあいつの腕はすでに騎士に通用するものです 賊から令嬢をお護りするぐらいわけないでしょう」


「彼女もいることだしな」


 殿下はボクの後ろに控えているステラを見あげると彼女は黙礼した。


「ちょっと待ちなさい レイチェルのそばに男を近づかせることは許しません」


 今まで黙って聞いていたレイチェルのトラウマを知っている王妃様が口を開いた。ボクって世間では男嫌いだった。


「あぁ それがあったな…」


 侯爵の顔が胡乱気になる。めんどくさい女ですみません。


「大丈夫です王妃様 第一 今私は侯爵様と殿下と会って普通に話せております」


「あら そういえばそうね」


 マジマジとボクと殿下達を交互に見つめてくる。


「殿下といろいろありまして前よりはマシになりました」


「ふ~~~ん そう言うこと」


 半目になった王妃様の視線がボクを越えて隣に座っている息子に注がれる。殿下は気まずそうにこちらを見ないようにしている。なんだか誤解されているような気がするが詳しくは言えないので黙っておこう。


「では そのように手配しておきます」


「あぁ 頼んだ」


 侯爵様はこの事情聴取で何かを得たのかソファから腰をあげると颯爽と部屋から出ていった。これは満足いく情報を与えられたのかな。もうロザリアに突撃することはないと思いたい。不安を覚えたボクは殿下に相づちを打ってもらいたくて視線を向ける。


「殿下 あの……」


 ボクの言葉に微笑みを浮かべた殿下は、そっとボクの頬に自分の手を添える。


「心配することはない 本当は私が側についていたいのだがな」


 慈しむように頬をなでてくる殿下。あまりにもいきなりだったので驚いて硬直してしまったボクは何も言えず、彼を見つめたままになってしまった。

 ヒィィ 背筋がゾワゾワするぅ。顔面蒼白で口元がひきつってないだけマシだろう。女の子はスキンシップ大丈夫らしいが同姓とはいってもやっぱりボクにはダメだぁ。あぁ この場合は異性か? いや、やっぱり同姓だろう。いやいや、ボクは女の子なんだからイケメンにこんな事されたら喜ぶ?。

 男の立場か女の立場かどうでもいいことに混乱しているボクをステラと王妃様は生暖かい視線を送っていた。


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