ヒロインの謎行動
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ユスティーヌとこのケーキがおいしいとか当たり障りのない会話をしながら、時を過ごしていた。さすがに信用はされていないので上辺だけの会話しかできないがボク的にはヒロインと話せて満足だ。話には聞いていても実際に存在するか不安だったし、とんでもない性格だったらどうしようと思ったけど外面は良い子のようだ。これなら安心して領地に戻ってのんびり暮らせるかなぁ~。できれば、お手伝いしたいけど自分は転移者だといっても、ゲームの内容も知らないしお役に立てそうにないので黙っておこう。
「ところで レイチェル様に聞きたい事があるんですけど?」
「何でしょうか?」
「王太子殿下の事 どう思いますか?」
ところでもなにもいきなり話が飛んだなぁ~。ケーキの話はどこいった。これがいわゆる「女の子の会話ってよく飛ぶ」ってやつか。
それにしたって何の脈略があってこの話になったんだ。女の子はほんと謎だ。
とりあえずヒロイン様の質問なのだから答えておくか。
「え~~と 殿下ですか? あまりお会いしておりませんのでどうといわれましても… 正直わかりません」
実際会っていないのは事実なのでボクにはこうとしか答えられなかった。
「もし 殿下に会ったらグイグイ積極的に話にいく?」
「いっ いえ… 恐れ多い事ですし 殿下の都合も考えないでグイグイいくとあまり気分のいいことではありませんでしょ」
同じ男として猛禽類のような目で詰め寄られては例えうら若き乙女だとしても怖いしひく。想像だけど。
「じゃぁ 女を武器に殿下を堕としたいとか?」
「いいえ 全然」
さすがにそれはないと即答できる。男のボクに女の武器なんて使えるはずないじゃないか。
「華美なドレスや宝石に興味ある?」
「いいえ」
女性モノの服なんてよくわからん。
「今 好きな人がいる?」
レイチェルの記憶の中には…。 ないようだ。 いたら大変だよ。
「いいえ」
「婚約者は?」
レイチェルの記憶の中には…。 ないようだ。よかったぁ~。
「いません」
なんだろうこのアンケートみたいのは? 彼女は何がしたいのかな?
「―――よし 完璧ッ」
彼女が小声でささやくとテーブルの下で隠れている手をグッと握った。 意味不明です。これが女子トークという奴か? やはり男のボクにはハードルが高すぎる。何が言いたいのかさっぱりわからん。
「あの ユスティーヌ様 今のはいったいどういう―――」
「あぁ 気にしないで こっちの話だから」
ボクが詳しく聞こうかと思ったら彼女の方がニコニコしながらバッサリと切ってきた。
もしかしてこの質問って彼女の敵認定のテストなのでは? 何となく彼女の堅かった表情が少しだけ柔らかくなっているような気もするし… ボクは合格したのかな。もちろんあなたのする事に邪魔はしませんよ。ボクが出来ることなら積極的に手を貸す所存であります。
二人してニコニコしているのを訝しげに端から見ていたステラはボクに声をかけてきた。
「お嬢様 そろそろお時間です」
「そうですか それではユスティーヌ様はどうされますか?」
「私はお腹いっぱいなのでもういいです」
彼女はお腹をポンポンと軽くたたく。ケーキ5個も食べてたもんね。羨ましい。でも、淑女がそんな格好してはいけませんよ。
「そういえば ユスティーヌ様はお付きの者の姿がお見えになりませんが お一人ですか?」
「えっ?! えぇ まぁ」
彼女はばつが悪そうに顔を背けた。ボクもステラ一人しかいないので偉そうな事言えないけど、彼女は本当に一人のようだ。格好を改めてみると、生地は上等だがボクが着ているようなドレスとは明らかに違う動きやすそうな服装だった。もしかして家に黙って出てきているのかと勘ぐってしまう。まぁ、そういう話ってよくあることだよね。
「私達は馬車できておりますけど邸の近くまでお送りしましょうか?」
お忍び時は邸ではなく近くまでというのが鉄板だ。バレるからね。
「えっ? いいんですか?」
「えぇ これも何かの縁ですし これからも仲良くしてくださるとうれしいです」
特にロザリアがらみでね。ロザリアはあなたにご迷惑をおかけしませんよね。彼女のためにも仲良くなっておかねば…。
「それじゃ お言葉に甘えて…」
「では お嬢様 馬車を呼んできますので少々お待ちください」
ステラはボクに声をかけると早足で店を出て行った。走ってないのにあの速さ ステラさんパないです。
さて、この待ち時間どうしょう。ボクは何気にユスティーヌに視線を向けると彼女は窓の外を眺めていた。ボクもつられて眺めてみると丁度窓から見える木の枝に鳥がとまっていた。その鳥は結構大きいオウムのような姿形をしていて、金色の羽毛が日の光を浴びてキラキラしていた。尾羽と羽の先が綺麗な七色に染められていて、さすがファンタジーの鳥は奇抜な柄だなと感心していた。
「―――やるしか…ないのか」
彼女がボソリと何かをつぶやいたがそれを聞くより先に彼女が動いた。
「そうだ レイチェル様 ちょうど店の裏に良い露店が出ているのですよ 見に行きませんか?」
席から勢いよく立ち上がった彼女はボクの腕を取るとグイと引っ張り上げた。ボクの体は簡単に椅子から浮き上がる。
「露店ですか では ステラが来てから―――」
「さぁ さぁ 行きましょう」
ボクの返事を無視して彼女がボクを引っ張っていく。残念ながらボクの力はヒロインにも負けるようで抵抗もできず店の外まで引きずられていってしまった。これは女の子の体なんだからとタカをくくっていたがレイチェルの体はやはり非力なのだと実感した。
「あの ユスティーヌ様 勝手に動いてはステラが心配します 彼女を待って―――」
「こっち こっち」
もはや強引と言わざる負えない状態で彼女は店の裏路地へとボクを誘っていく。ヒロインなんだから何も心配していないけどこの行動の意味はなんだろう。女の子同士の付き合いなんて知らないからきっとこんな強引な事も当たり前なんだと納得した。
それでも彼女が引く手は力強く、あまり運動が得意でないレイチェルの体ではすぐに転びそうになってしまう。
「あの ユスティーヌ様 待ってください そんなに強く引っ張られてはッ」
危うく転びそうなる足を必死になって支えながらボクは彼女についていく。
「ほらほら こっちですよ」
手を離した彼女は軽やかな足取りで角を曲がっていく。ボクはもたつく足を動かして何とか彼女の後を追おうと慌てて角を曲がったのだが―――。
「ユスティーヌ様?」
人が二人ぐらい余裕で入れるような道幅の路地の中に彼女の姿はなかった。
どう言うことだ。あのわずかの差で見失ってしまったのだろうか。ボクはなんてトロいんだ。もしかしたら戻ってきてくれるかもしない。
辺りは建物に囲まれていてかなり薄暗い。よくよく考えてみたらついて行くのがやっとだったためどこをどう歩いてきたかわからない。これでは戻ることも困難だ。
とにかくここにいてもしょうがないので先へと進んでみると、運良く人の話し声が聞こえてきた。
ユスティーヌがいっていた露店かもしれない。彼女もきっとそこにいるだろう。ボクは、何気なしに声のしている方に足を進めると、目の前には露天などと言うモノはなく、ましてやユスティーヌの姿も見えなかった。
そこに立っていたのは、見るからにゴロツキですという風の男が3人。顔をつき合わせて話し合っている姿であった。
(あっ これ 絶対まずいやつだ)
一歩後ろに下がるボクだったが無防備に歩きすぎていた。もう遅いとわかったのは彼らの視線がボクの姿を完全に捕らえて離さなかったからだ。
ニヤリと男達は口角をいやらしくあげるとボクに向かって囲むように近づいてきた。
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