和解はお早めに
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むむむ… 困った。ロザリアが離してくれない。
「…あの ロザリア」
「いやです」
即答である。この会話は、もう何度目だろう。
ベットの端に座ったボクを後ろから首に手を回し、流れる髪に顔を埋めて時々頬をスリスリしている。
ちょっと恥ずかしい。こんなべったりなのはレイチェルの記憶の中にもなかった状況だ。かなり心配させちゃったからなんか変なスイッチでも入っちゃったのかな?
そんなロザリアの奇行に混乱しているのはステラも同じで着替えるのかそれともまだ休ませた方がいいのかどうしていいか迷っている様子がありありとわかる。せめて先ほど部屋を出ていったサリーが治癒士をつれて戻ってくるまでの辛抱かな。
そんな願いが届いて寝室の隣の応接間に人の声が聞こえてくる。
「お待ちくださいッ いくら旦那様でも年頃の女性の寝室に」
おや? サリーの焦った声が聞こえる。いつも鉄面皮の彼女にしてはめずらしい。そんな声がドンドン近づいてくるとバンッとドアが破壊される勢いで開け放たれた。
「レイチェルッ! ロザリアッ!」
「おっ お父様ッ?!」
そこには、彼女達の父親 ダグラスの姿があった。
ボクの慌てた声にロザリアが埋めた髪から顔を上げる。
「お父様?」
「二人とも無事でよかっ―――」
台詞が終わる前に後ろから来た誰かに押しのけられると、彼は部屋の隅にたたらを踏んだ。
押しのけた誰かはそのままベットの上でポカーンとしているボク達を見つけると走り寄ってきて飛びつくが如くロザリアごと抱きついてきた。おかげでボクはまたベットに逆戻りである。
「レイチェル ロザリア 本当によかったわ」
信じられるかい? なんと抱きついてきている美女はこの国の王妃様なんだぜッ ボクも大変混乱しております。言っては悪いけどロザリアぐらいな慎ましい体型なら、まぁ耐えられるけど、このどこもかしこも女を醸し出している妖艶な美女に思いっきり体を密着され頬ずりされては思考が固まってもしょうがないじゃないか。ボクも健全な男の子です。あっ、今は女の子だけどね。
「王妃様… なぜこちらに?」
固まっているボクのかわりにロザリアが代弁してくれた。
「あなた達が襲われたって聞いていてもたってもいられないじゃない… 目が覚めたと聞いて飛んできたのは当たり前でしょ」
「安心して 警邏の一つも満足にできない役ただずの騎士共は皆、罷免させてやるわ」
いやいやだめでしょ。襲われたのは偶然であって騎士さん関係ないから。確かに心配してくれてうれしいのだがこの国の王妃様がホイホイと出歩いて大丈夫なのかな? 見たところ護衛の騎士が見あたらないけど…。と、思ったら部屋の前でサリーが誰かと押し問答している。男の人の声だから多分護衛の騎士なんだろうか。ご苦労様です。
たっぷり頬ずりを味わった王妃様は、急にボク達を離すとキッと振り向いた。そこには、バツが悪そうに佇む父の姿があった。
「ダグラスッ! もう我慢できませんッ あなたに任せていたらこの子達の将来が心配ですッ 二人は私が引き取りますッ!」
ええええええぇぇぇッ!?
そんな親戚のおばちゃんが親権を主張するみたいな事言われてもッ 無理ですよね? 王族の養子なんて絶対問題ありですよね?
「そっ それは無理があるような…」
ですよね。佇んでいた父は慌ててベットに近づいて否定してきたが―――。
「お黙りなさいッ! あなたがウジウジとこの子達を13年も放っておくから肝心な時にいられないじゃないですかッ あの時だってレイチェルの側にあなたがいればッ」
そこまで声を荒げた王妃様はボクの顔を見てハッと息を呑むと口を閉じた。それはボクにいい辛い事なのだとわかるけど、あの時とは、どの時でしょうか?レイチェルの記憶の中には何かあったかな?
魅力的な王妃様の体が離れたことでボクの思考もちょっと戻ってきた。
「そっ それは その …」
王妃様の迫力に言いよどんでいる。そうだったこのお父様、ヘタレであったのだ。ボクは、なんとかがんばってほしいとジッとお父様の顔を見るが視線をそらし俯いてしまった。コラコラッ ここは黙っちゃダメでしょッ
「お父様…」
ギュッとボクの服が引かれる。そちらに目を向けるとロザリアが心痛の趣で俯いていた。
そうだ、彼女はお父様に愛されていないと勘違いをしているのだ。母親を殺してしまったと本気でこの13年間悩んでいるのだ。その寂しさを紛らわせるためにレイチェルに依存してしまっているのだ。
このタイミングで、ここでやらなければいつできるというのだ。多分、レイチェル本人だったらこんなデリケートな問題に首はつっこめない。赤の他人であるボクだからこそ無責任に踏み込んでいけるのだ。
「お父様」
ボクはソッとベットから降りるとお父様に向かって声を掛ける。彼は、ボクの声に反応するかのように顔を上げた。
「レイチェル?」
「一つだけ嘘偽りのないお父様のお気持ちをお聞かせください」
ボクが一歩 踏み込むと反射的に彼は一歩退く。娘の迫力に負けてんじゃないよお父様。
「何を?」
こういう口下手で不器用な男は簡潔にした方がいいに決まっていると思ったボクははっきりと聞いた。
「お父様ッ 私達を愛してくれていますか?」
それは、簡単な問い。そして、今まで誰も聞かなかった問い。いろんな事情も言い訳もあるだろうけどこれだけが真意であるのだ。
「あぁッ! もちろんだッ!」
はっきりと即答でお父様の返事が帰ってきた。
よしッ! よく言ったぞ父よッ! 言い淀んだらどうしてくれようかと焦ったよ。
「ほ…んとうですか?」
ベットの方から震えるロザリアの声が聞こえてくる。
「あぁッ おまえ達を愛していない時などない」
今度はロザリアの方を向いて答える父。そうするとロザリアの瞳から涙が溢れだし彼女の体が崩れ落ちた。慌てて隣にいた王妃様が体を支える。
「よかった… 私は 憎まれていなかったのですね…」
彼女のつぶやきと嗚咽が部屋の中にいやってほど聞こえてくる。
「何を言っている? 誰が憎んで…」
娘の急に泣き崩れた状態に慌てている父の一言にロザリアが13年もの言えずにいた思いを叫んだ。
「だって 私が生まれたことでお母様が死んでしまったのよッ 私がお母様を殺してしまったのよッ だからお父様はそんな私をッ!」
言葉を詰まらせる彼女の背を優しくなでる王妃様は、あまりの告白に茫然自失となっているお父様をにらみつけた。全ては、母の死を乗り越えられず家族を省みなかった彼の所為である。
ボクは、ソッとお父様に近づくとロザリアの方に手でおした。彼は押された反動なのかフラフラとベットに近づくと彼女の前で膝をついた。
「すまないッ オレがふがいないばかりにおまえにそんな気持ちでいさせていたなんて… すまない… すまない…」
彼はギリッと音が鳴りそうなほど食いしばるとロザリアの顔をしっかりと見つめ、ベットの上に手をつく彼女の手を力強くとった。
「シルビアに言われていたのに… 側にいてあげられないあいつに変わってオレがずっとおまえ達の側にいると約束したのに… オレというやつは… すまないッ!」
「お父様」
見つめ合う二人の瞳から暖かいモノを感じた。そうだよ、こんな簡単なことだったのに13年もこじらせていたなんて…
ふぅと王妃様の溜息が聞こえてくる。この場で割にあわないのは彼女であろう。
「王妃様 申し訳ありません」
ボクは、彼女に向かって謝罪の言葉を述べると腰を少し前に傾け頭を下げた。
「レイチェル?」
そんなボクの態度にいぶかしげな王妃様に向かってボクは顔を上げると満面の笑顔で伝えた。
「私は レイチェル・ルナフィンクでいたいのです」
言い切ったボクの顔を瞠目していた彼女だったが、すぐに表情を戻すとクスリと笑みをこぼす。
「わかっているわ…」
「さて お邪魔虫は退散しましょうか…」
王妃様は少女のようにわざとらしく声をあげるとベットから立ち上がり、扉へと向かう。
「そうそう 本当に愛していたのか知りたいなら彼の執務室を調べるといいわ 13年間渡せなかったあなた達への誕生日プレゼントが隠されているはずだから」
サッと振り向いた王妃様はお茶目にウインクして爆弾発言を投下していく。
「なっ なぜ それをッ!?」
驚愕するお父様は無理もない。きっと誰にも伝えていない事柄だったに違いない。
「ウフフッ 王妃様は何でも知っているのよ」
可愛らしく笑う王妃様はそのまま部屋を出ていった。
こえぇ~ 王族の情報網 こえぇ~~~。
ボクは出て行った王妃様の視線をそのまま横にずらすと気配を消して壁に立つステラと目があった。サッと彼女の視線が逸れる。
あぁ、情報源はあそこだったか…。
「フフフフッ」
ロザリアの笑う声が聞こえてくる。ボクは振り向くと固まっているお父様に向かって声をかけた。
「お父様 今からでもいいのでその13年分のプレゼントをいただけませんか」
「えぇぇッ! 今からかッ?」
「はいっ これは13年も待たされた私達からの罰です お父様」
「わっ わかった…」
これぐらいのわがままはあった方がいいよね。それに、また後日にすると何と言っていいか気まずい。やっぱりこういうモノは勢いだよね。
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ロザリアが泊まっている応接間に所狭しと綺麗に包装された箱が積み上げられていく。それはもう13年分のプレゼントの量はハンパなかった。しかも二人分である。王都にあるルナフィンク家の別邸からメイドさん総動員でプレゼントを運び入れる結果となった。こんなに溜める前に渡そうよプレゼント。しかも、毎年毎年違うモノを選んでいるから種類も多い。中には子供用だとわかるサイズのドレスまで出てきた。ほんと、渡そうよプレゼント。
父のアレな性格にちょっと溜息をついていたが、自分もやらかしていたことに後で気づいた。そう、ここは王城なのである。プレゼント運び入れてもまた持って帰らなければならないことを失念していました。
ノリと勢いって怖いね。
ロザリアとお父様と二人。プレゼントの中身を改めながら楽しそうにそして恥ずかしそうに話している姿を見ると、なんだか居たたまれない感じがしていた。
この光景をレイチェルは見たかったに違いない。それを、赤の他人のボクがいることに彼女に対しても、ロザリアやお父様に対しても罪悪感を感じずにはいられなかった。
本当にごめんなさい。その笑顔も愛情も全てレイチェルに向けてのモノなのに…。本当に騙していてごめんなさい。でも、これで少しはこの家庭も明るくなるかもしれない。ロザリアもお姉ちゃんっ子を卒業できるかもしれない。そんなことを考えながら心なしにボクは二人から距離をとっていた。そんなボクの姿を心配そうにジッと見つめている視線に気づくことはなかった。
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