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七夕祭の革命  作者: 夏葉夜
二日目
24/48

第23話・短冊探し ~あかりside~


 あかりたちは意気込むが、その程度で事件が解決できるなら警察はいらない。

 ようするに、

 「伝説が真実だって線で調べるにしても、何から調べたらいいのか見当がつかないね」

 お手上げ状態であった。

 取り敢えず七夕祭の準備をしながら考えようと、意見が一致する。

 「なんにしても、早く春香ちゃんのところに戻ったほうがいいわよね」

 神社で新たに笹を回収して、荷台に運び込んだ。これで、全体の過半数は持ち出した計算になる。残りの半分は、神社の境内や石段に飾られる予定なので、まだ括りつけが終わっていないものもあるが「このペースなら大丈夫さ」と森は後回しにした。

 車の中で少々話し合い、認識のすり合わせをする。

 そして早々に春香と十条の待つ神憑川の河原まで戻ってきた二人は、春香に心配をかけないように事件のことは伏せて設置を再開した。

 今度の設置場所は、残すところ河原に少し。

 そしてその作業も、滞りなく終えた一行は、そのままの流れで商店通りへとやって来た。

 「こっちには2週間前から笹を並べているから、おかしなところがないか確認するだけで大丈夫だよ」

 森が言うように、八百屋や魚屋の軒先にはそれぞれ笹が設置されている。笹と一緒に置いてある短冊に、通りかかった人が自由に書いて括り付けを出来るようにしているのだ。

 「神社で作っていた笹以外にも、村の各地にこうして置いているのですね。素晴らしい光景です。こうした非日常な一面が見られるのも、祭の楽しみですね」

 色とりどりの短冊が吊られた笹を見て、十条は感心したように声を上げた。

 森は照れつつ答える。

 「それこそ僕の目指した七夕祭なんだ。それに、神社であかりちゃん達に任せていたのは、神社の境内と神憑川の河川沿いの分で、その他の大半は、こうして村人たちの意思に任せているのさ」

 彼の言うとおり、今いる商店通り以外にも笹を立てて、短冊の飾り付けを村人たちに任せている。主な場所は、商店通りと旅館から村役場の大通り、市民会館のある緑地公園のような人の集まる場所に目立つように設置されている。

 彼らの話を聞きながら、あかりは目に付いた短冊を手に取って感心した。

 「昨晩の大雨で、屋外にあるのは全部やられちゃったんじゃないかって気にしてたけれど、見た感じだと雨には濡れていないみたいね」

 「商店通りの皆さんが、自主的に店の中に避難させてくれたんですよ。ほかの場所にも確認に行きましたが、どこも管理人さんたちがいち早く行動してくれたおかげで助かりました」

 森は嬉しそうに頬を緩める。

 「その様子だと、安心して確認できそうですね」

 春香の笑みを含んだ一言で、一同は作業に取り掛かることにした。

 作業のさなか、春香は十条と打ち解けたようで、先程よりもいくらか自然な笑顔をみせていた。春香のことは、十条に任せておいても良さそうだとあかりは安堵する。

 そして彼女は設置している短冊を手早く確認していた。

 「……これも違う。そんな簡単に見つかるわけないけど、うーん」

 唸るあかりの元に、森が小声で話しかける。春香や十条には聞かせられない話だ。

 「どう? 見つかりそうかい?」

 「ううん。どの短冊も、普通の折り紙だったりコピー用紙だったり……絹の短冊なんて、やっぱりないわ。それに『憎シミヲ受ケサセル』なんて気味の悪い文章も見当たらない」

 彼女が探していたのは、神器に使われている絹の短冊と、それに書かれているであろう願いの原因となった怪文。

 「木を隠すなら森の中、短冊を隠すなら七夕祭に使われる笹の中……僕の推理、かなりいい線いってると思ったんだけどね」

 そもそも、笹に絹の短冊がついているのなら、括りつけの段階で気づくはずだ。

 気づいていない時点でここに無いことは分かりきっていたことだが、探さずにはいられなかった。

あかりは森と話していた推理を回想する。



 「犯行のトリックがオカルトだとしても、短冊にそれを書き込んだ犯人はいるはずなんだ。そして願いを叶えるには、絹の短冊じゃないといけないのさ」

 短冊を載せて春香のもとへ向かう森が、運転しながら言った内容に、あかりは少し驚いた。

 「……隆太兄さんって、とっても詳しく知っているのね。そんなこと、神主さんくらいしか知らないんじゃない?」

 「そうかもしれない。だけど僕が言いたいのはそこじゃなくてね。……犯人は神器を盗んでまで、絹の短冊に『願い事』を書く事にこだわっているように見えないかい?」

 「それじゃあ……犯人は七夕祭の伝説に詳しい人ってこと?」

 「僕はそうだと睨んでいるさ。そうじゃなきゃ、神器を使う意味が無いからね」

 「それで、どうする予定? 何か手がかりはあるのかしら」

 「あるさ。簡単なことだよ、短冊を探すのさ。そして短冊がある場所は決まっている。短冊は竹笹に吊ってあるもの……そうだろう?」



 そして「見つけた」。

 商店通りの笹の葉の、陰に隠れた短冊の、その裏に息を潜める絹の短冊。

 呟くあかりは森を呼んだ。

 しかし、次の瞬間彼女の表情は凍りつく。

 事実を認識しようとしない緩慢な思考を無理やり動かして、震える唇で括りつけられた短冊の文字を読み上げた。

 『旭あかりニ、死ヲモッテ失ッタ者ノ憎シミヲ受ケサセル』

 感情の読めない無機質な文字が並んでいた。

 しかしあかりはその文字に、その悪意に、信じていた伝説に恐怖する。

 犯人を突き止めてやろうなんて甘かった。

 そんなの立場を誤っている。

 あかりは、一転して命を脅かされる窮地に立たされたのだ。



 

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