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七夕祭の革命  作者: 夏葉夜
二日目
15/48

第14話・激励

 事件の話とは裏腹に、随分と進んだ短冊の括り付けを、惰性でしながらあかりと貴史は話し込む。

 「……ちょっと犯人候補が多すぎて頭がこんがらがりそうね」

 「そこなんだ。宮野刑事も多分、人間関係の洗い出しで相当参っているんじゃないかな」

 「旧知の仲である村の皆とは違って、完全に初見の宮野刑事にとってみれば、私たちが当たり前に知っていることですら、一から確かめるしか無いものね」

 それは人海戦術でも使わなければやってられない作業だろう。

 そんな風に、世間話をしていたところ、神社の方にやってくる複数の人影が見えた。

 「あれは……?」

 いち早く発見したのは春香だったが、一番に正体を当てたのは貴史だろう。

 「さっき星野さんと一緒にいた警官たちだ」

 短冊の括り付けをしている最中にも、何人かの警官たちが神器の捜索のために、裏の蔵の周りや山頂を調べていたのだが、そっちではない。

 寺の殺人事件を担当する班の警官が四人。星野巡査はいないことから察するに、他の捜索班の方に行っているのかもしれない。

 殺人現場は発見できたのだろうかと、彼らの様子を見てみたが、汗水流すその表情には相変わらず疲労の色が濃い。

 どうしても下で発見できないから山の方まで探すことにしたのだろう。

 しかし彼らは貴史たちを見つけると「そっちも祭が出来るように頑張れよ」と、笑顔になって激励してくれた。

 慌ててあかりが返事する。

 「いえいえ、こちらこそ捜査お疲れ様です!」

 その言葉を聞いて、警官たちは元気を取り戻したかのようにガッツポーズをして、山へ入っていった。

 彼らの精力的な活動を見ていると、自然と貴史たちにも元気が沸いてくる。


 そして数分後、またもや神社の階段の方から一人の男性がやってきた。

 「隆太兄さん!」

 隆太兄さんと貴史に呼ばれた森は、大きく手を振って答える。

 「進捗はどうだい貴史!」

 「結構進んだぞ!」

 首からタオルを下げた森は、貴史の報告に嬉しそうな笑顔を作って駆け寄ってきた。

 「隆太兄さん、こんなところまでどうしたの? 忙しいんじゃなかったの?」 

 手に持っていた短冊を脇に置いて、あかりは驚いたように尋ねる。

 「確かに忙しくなってしまったけど、僕は僕に出来ることをするしかないからね。ここに進捗を聞きに来たのも、仕事の一環さ」

 「短冊のことか?」

 貴史が聞くと、縁側に腰を下ろした森は頷いた。

 「そうなるね。君たちが進めてくれている短冊なんだけど、完成したものから順次河川敷に並べていこうと考えていたんだ。その様子だと、十分な量が出来ているみたいで安心したよ」

 森は出来上がった笹を、何本かまとめて手元に寄せてしみじみと語る。

 「寺社長が死んだって聞かされた時には、度肝を抜かれたけど、君たちを見ていると安心したよ」

 それを聞いて、貴史は押し黙ってしまう。

 再び昨日の情景が思い出されたからだ。

 七夕祭の準備は、大部分を森と寺の二人三脚でこなしてきたはずだ。その相棒が、夢半ばで倒れたのだ。 

 そのショックは貴史たちには計り知れない。

 しかし、彼の言動を見る限り、打ちのめされて七夕祭の準備に手がつかないなどということは無さそうだ。

 もしかすると、七夕祭の準備に奔走して、考えないようにしているだけかもしれない。

 貴史は出来るだけ陰鬱とした話題にならないように、気をつけながら言葉を選んだ。

 「まぁな。だが短冊を並べに行くって言っても、これだけの量の笹を持って歩くのは大変だぞ」

 部屋にある積み重なった短冊の笹は、全部持ち出そうと思えば何回か往復しなければならないだろう。それくらいの量がある。

 それに加えて、神社と河川敷の間には、百を超える階段が壁のように伸びていた。

 いくら慣れ親しんだ石段とはいえ、あかりや春香に大荷物を持って何度も往復させるのは気が引ける。

 しかし森はそれも見越していたのだろう。

 膝を打ち、勢いよく立ち上がると、その言葉を待っていたと言わんばかりに饒舌に喋った。

 「僕も、そのことはしっかりと対策済みさ! 元々村長に軽トラを貸してもらえるように頼んでいてね。そこに積んでくれさえすれば、運ぶのは全部僕に任せてくれればいいよ!」

 それを聞いて、あかりも「いいわね!」と親指を立てて笑う。

 「もしかして、もう下に軽トラックは来ているんですか!?」

 春香も驚いているようだった。

 「うん。僕が今しがた乗ってきたところだからね。どう? 河川敷に並べる作業は今から出来そうかい?」

 どうやら森は、貴史たちの想像以上に綿密なスケジュールと現場管理で、七夕祭実行委員長としての役割を全うしているのだと実感させられた。

 なら貴史たちが断る理由はないだろう。それに丁度、一段落ついていたところだ。

 「いつでも行けるぞ!」

 そう言うと、出されていたお茶を飲み干して立ち上がる。

 あかりや春香もそれに続き、数本の笹を持って、いつでも行けると意思表示した。

 「それじゃあ、行きましょうか」

 森は嬉しそうに号令をかけて、笹を目一杯抱えて石段を降りていく。

 神社の下に停めてあった軽トラックの荷台に、四人が運んで来た分の笹を放り込むと、貴史とあかりも荷台に乗り込み出発を待つ。このまま河川敷を進みながら並べ立てていく予定だ。

 運転手は森で、助手席には春香という組み合わせである。

 しかし森が車を出そうとエンジンをかけたと同時に、河川敷沿いに伸びる道を飛ばしてこちらにやってくるパトカーの姿が目に入った。

 何事かと、貴史とあかりがその様子を見ていると、今度は神社の方から一人の警官が駆け下りてくる。

 パトカーが到着し、中から降りてきた宮野刑事に、彼は顔面蒼白で叫ぶようにして伝えた。

 「滝壺で……女性の遺体が派遣されました!」

 それは第二の犠牲者を知らせる凶報であった。



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