表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七夕祭の革命  作者: 夏葉夜
二日目
13/48

第12話・決意

 「恵美ちゃんが?」 

 「あぁ、宮野っていう刑事さんが、彼女が犯人かもしれないって言っていた」

 事情聴取を終え、旅館に帰ってきた貴史は、あかりと春香に顛末を伝えた。

 今いるのは、貴史の泊まっている一〇六号室。机を囲んで話し合う。

 宮野刑事の話によると、幾野が失踪してから神器の盗難も、寺の殺害も発生しており、何か関連性があるのではないかと言う。

 あかりも疑われていることは、あえて伝えなかった。

 「でも、恵美ちゃんが犯罪に巻き込まれている可能性だってあるでしょう?」

 「宮野さんは、ちゃんとその可能性もあるって言っていた。どちらにしても、恵美ちゃんが事件に関係しているって……」

 「その予想が外れて、恵美ちゃんがそもそも事件に巻き込まれていないことを祈るばかりね」

 「恵美先生、大丈夫でしょうか」

 あかりと春香が一緒にため息をついた。

 貴史も全く同じ気持ちだった。幾野の行方不明なんて、日付が変わればひょっこり解決するものだと気楽に考えていた。

 それだけに「犯人候補」なんて単語を聞かされたら、嫌な想像が頭をよぎる。

 「どうする?」

 彼女は尋ねた。

 「どうするって?」

 「短冊よ。大きな事件があったんだもの、貴史なら捜査の協力とかいって、趣味の推理に没頭するものかと思ったけど……まだ、短冊の括りつけが残っているでしょう?」

 「そう言えば、今日はまだ一つも手を付けられていないな」

 短冊は、七夕祭までに完成させないと意味がない。可能なら今日、遅くても明日には村に飾れるのが理想である。

 やりたいことと、やらなければならないこと、それが多すぎる。

 貴史は二つを天秤にかけるが、結果は決まっていた。

 「事件のことも大事だが、七夕祭も事件と同じくらいに大切だ。短冊の方を手伝うよ。ただ考えるだけなら、手を動かしながらでも出来るだろう」

 七夕祭の設営を、一手に引き受けていた寺は殺害されたが、それで七夕祭が中止になってしまうことは彼も望んでないだろうと、貴史は推測する。

 そして、余計に七夕祭の準備は忙しくなる。

 祭の委員会である村長や森は、今まで以上に過酷なスケジュールで祭の準備に取り掛かるはずだ。

 「隆太兄さんが少しでも楽出来るように、私たちに出来ることはドンドン手伝っていきましょう」

 貴史の意図を汲み取って、春香が笑う。

 「えぇ、そうね。今年の七夕祭は、何としても開いてもらわなくちゃならないのよ」

 あかりは真剣な表情で、拳を握り締めて意気込んだ。

 「……やけに張り切っているな」

 「張り切る……か。そうかもしれない。今年の七夕祭には、どうしても叶えたい願いがあるのよ」

 貴史に指摘されて、あかりは笑って握り拳を解く。

 「一体何を叶えたいんだ?」

 貴史は素直に疑問に思った。

 しかし、彼女は「今は内緒よ」と、ウインクした。やっぱり可愛い。

 「さぁ、事件のことは警察に任せて、私たちは七夕祭の手伝いでも進めましょ」

 話しはここまでと、あかりが手をパンと叩いて席を立つ。

 いろいろと、考えることは増えてしまったが、貴史たちのやるべき仕事は短冊の括りつけだ。

 「そうですね」

 春香もやる気に満ちた表情で頷いた。


 ***

 「で……?」

 「で……とは?」

 「どうして真っ直ぐ神社に迎えないわけ?」

 あかりに半目で睨まれた貴史は、現在神憑川の川原にいる。

 簡潔に言うと、彼は道草を食っていた。

 磐舟山の麓にある神社を指差して、あかりは憤る。

 「神社まで目と鼻の先じゃない!」

 貴史も慌てて弁解するしかなかった。

 「仕方ないだろう。寺社長の遺体発見現場から、随分と離れたこんな場所まで警察が捜査しているんだ! 何があったのか気になるだろう?」

 「貴史ってやつは、舌の根も乾かぬうちに……」

 額に手を当てて、首を左右に振るあかり。それには、貴史も苦笑いするしかなかった。

 「まぁまぁ、あーちゃんも落ち着いてください」

 春香が困った顔で、あかりをなだめる。どうやら貴史の肩を持ってくれたようだ。

 春香に言われて、あかりもこれ以上追求する気も失せたのか、大きくため息を吐いて言う。

 「わかったわよ、付き合うわ。私も気にならないって言ったら嘘になるしね」

 なんとか意見も纏まった(?)一同は、捜索隊に参加している星野巡査に声をかけた。

 「星野さんーん」

 四人の警官と川原を練り歩いていた星野巡査は、貴史の声に反応して振り返る。

 「おぉ、みんな揃ってどうされました?」

 星野巡査は貴史たちを見つけると、パッと笑顔になって顔を上げた。

 貴史は気になっていることを直球で尋ねる。

 「なんでこんな場所を調べているんですか?」

 寺の遺体発見現場から数キロ離れたこの場所に、一体何があるのだろうか。

 あかりや春香も周囲を見渡してみるが、特筆するような物事は見当たらない。

 星野巡査は、困ったように頭を掻いて同行している警察官たちの方を盗み見る。

 警察官たちは、川原に茂った雑草を払いのけながら捜査を続行しており、こちらの声までは聞こえていなさそうだった。それをいいことに、星野巡査は口の隣に手を添えて、声量を抑えて前置きをした。

 「うーん。あまり捜査情報を外部の方に言うのは良くないのですが、貴史くんたちになら大丈夫でしょうか。一応……私から聞いたというのは、内緒にしておいてください」

 もちろん貴史たちの反応は、黙って首を縦に振るだけだ。

 「寺さんの遺体が濁流に流されて発見されたというのは、先ほど宮野さんから聞いたでしょう? その流されたそもそもの場所を探しているんですよ」

 「あぁ、なるほど通りで。でも今も探している最中ってことは、ここより更に上ってことになるよな……」

 星野巡査の話をきいて納得した貴史は、ふと上流を見る。

 ここは既に磐舟山の麓に位置しており、その入口として構える神社が左右に森に囲まれている。その神社の横を流れる神憑川を登っていくと、山に入ってしまうのだが、その川幅は神社の手前あたりで途端に狭くなる。

 「寺さんって結構大柄だったよな。いくら雨で増水して流れが早くたって、あそこより上から流されるとは思えないが……」

 顎に手を当て思案顔になる貴史。

 彼の言うことに困ったように頷く星野巡査も、既に同じ推理に至っているのだろう。

 「だから、私たちはこの辺を重点的に探しているんですけどねぇ。とはいっても、私たちが先入観に囚われていてはいけないので、収穫が無ければ山に入ってでも捜索しますが」

 彼はため息をついた。

 普段の磐舟村は、星野巡査がサイクリングをしていても何一つ不自由のない平和な村なので、昨日今日のような大事件は年単位で見てもトップクラスの大騒動。

 星野巡査の心労は、既にかなり蓄積されてしまっているだろう。

 「私たちにも出来ることがあればいいのですが……」

 汗を拭う星野巡査や、川原の捜索を続ける警官たちを見渡して春香は無力感を醸して呟く。

 「いえいえ、これはそもそも私たちの仕事ですので、春香さんが気に病むことはありません」

 星野巡査は慌ててフォローして、背筋を伸ばし直す。

 それを聞いたあかりは尋ねる。

 「そうは言っても、星野巡査は元々恵美ちゃんを探していたでしょう? そっちはどうするのかしら?」

 彼女が尋ねるのは、貴史も気になった。

 しかし彼には、ある程度予測が立っていた。

 「恵美ちゃんも事件に関わっているかもしれないっていう話だったし、手分けして捜査は進んでいるんだろう?」

 「貴史くんの言うとおり、幾野さんの捜索も時期に始められるはずです。現在は、寺さん殺害の犯人を捜索する班と、神器や幾野さんを捜索する班の二つに分かれて作業しているんですよ。私と宮野刑事は例外で、両方掛け持ちですがね」

 なるほどそれは心強いと貴史は感心する。

 宮野という女刑事も、星野巡査の口ぶりからかなり優秀な人物と思われた。

 「それなら私たちは警察に任せて、七夕祭をしっかり開催出来るように頑張った方が良さそうですね」

 春香は、頼りがいのある星野巡査の発言を聞いて気合を入れ直す。

 それにあかりも頷いた。

 「えぇ、ようするに適材適所よね。事件は捜査のプロに任せて、私たちはしっかり準備するわよ!!」

 気合の入ったあかりは、拳を掲げた。

 そしてその手を真っ直ぐ星野巡査に向けて続ける。

 「叶えたい願い事があるの。だから神器での儀式がちゃんと出来るように、事件の解決は頼んだわよ!」

 ビシッと決まった宣言に星野巡査は驚きつつも、任されたことを誇りに思う様にして力強い笑顔を作ると、敬礼して返答する。

 「任されました。必ずや事件の犯人を捕まえてみせましょう」

 あかりに激励されて、星野巡査にも再度気合が入ったのだろう。貴史たちに背を向けて、警官たちに合流すると、すぐさま真剣な表情で捜索に加わった。

 「よし、わざわざ付き合ってくれてありがとう。遅れた分を全部取り戻す勢いで作業に掛かるか!」

 それぞれが、気合を入れ直してやるべき事を進めようと努力している。

 それが貴史にとっても、良い原動力となった。

 それだけじゃない。

 気恥ずかしくて口にはださなかったが、あかりが叶えたい願い事に、貴史も力を貸してやりたかったのだ。

 心にも体にもやる気をみなぎらせたところで、ようやく貴史たちは神社に到着した。




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ