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七夕祭の革命  作者: 夏葉夜
二日目
12/48

第11話・事情聴取

 「天野貴史くん。ちょっといいかしら?」 

 宮野刑事の呼ぶ声で、事件現場にいることを思い出した。そして思考を切り替える。

 事情聴取が始まるまでに、なんとか事件のことに意識を向けるのに成功した。

 しかし、没頭してしまうほど好きだった推理を、どうして綺麗さっぱり放棄していたのかまでは、思考が追いつかなかったが……。


 気づいた頃には森や村長も、別々に事情聴取は受けて終わっており、貴史が最後であった。

 「どうしてまとめて聞かなかったのか」と尋ねると、宮野刑事はこういった。

 「今回の事件……七夕祭の関係者に犯人がいると考えているの」

 「なるほど、犯人に口裏合わせられないようにするためか」

 「察しがよくて助かるわ。その意味で私たち警察は、森さんや村長さんだけでなく、貴方や松塚議員も一緒に来てくれたのは僥倖だったわね」

 宮野刑事はにっこりと笑って答えてくれた。

 そして、本題に入る。

 「昨日一日の行動を、教えてくれるかしら」

 最初に聞かれたのは、貴史の昨日の行動だった。

 「昨日の? 犯行が行われたのは今日だろう?」

 「あぁ、貴方にはまだ言ってなかったわね。犯行推定時刻は四日の十一時から、五日の三時の間。川に流されていたから、多少の前後はするかもしれないけど、大体この辺ね」

 宮野刑事は一から貴史に説明してくれた。丁寧にノートに図まで書いてくれている。

 しかしそれでは、昨日の話を聞く理由にはならない。夜からでいいはずだ。

 貴史の疑問をわかっているのだろう。彼女はその時間軸をボールペンの腹でなぞりながら続ける。

 「だけど、今回の事件は寺さんが殺害された以外にもある。貴方が教えてくれた、神器の盗難事件も考えなきゃいけない」

 なるほどと、貴史は思う。

 神器が盗まれたのは、神主が蔵にしまった四日の夕方から、五日の午前中だった。神器盗難の犯人と、寺殺害の犯人が同じなら、そこから聞かなければならない。

 「じゃあ、夕方くらいから話せばいいのか」

 そう考えた貴史。

 だが、話を始めようとすると宮野刑事に止められた。彼女のボールペンは、ノートに書かれた四日の朝に置かれている。

 「もう一つ。これは、今朝に星野巡査から聞いて情報を集めている途中なんだけど……四日の朝から幾野恵美さんが行方不明のようね」

 「ここで、恵美ちゃんが関係してくるのか!?」

 驚いて貴史は声のトーンが上がる。宮野刑事は核心を告げる。

 「えぇ、私は幾野さんが事件の犯人……若しくは被害者と考えているわ」

 貴史は鳥肌が立った。一瞬で、バラバラだった事件が繋がったのだ。

 だが肝心の彼女は勝手に感動する貴史に構わず、ノートに幾野恵美が行方不明と記入。それが四日の朝である。

 これなら昨日一日の予定を聞いたのにも納得がいく。

 幾野が被害者だった場合、彼女の失踪に関与した人物がいるかもしれないのだ。

 一日のアリバイが無ければ、犯人候補として名が上がる。だが逆に、三つの事件のどれかにアリバイがあれば、犯人の可能性はぐっと減るだろう。

 「わかった。できる限り話しましょう」

 大したことはしていない。しかし話しておかなければならないだろうと、貴史は記憶を遡る。

 「朝起きてから、寮を出て大学に行って……。あの」

 意気込んだものの、何処から話していいのか分からないことに、そこまで話してから気づいた。宮野刑事は「そのまま続けて」と、貴史を促す。

 咳払い一つして誤魔化してから、続ける。

 「大学で講義を聞いて、それから帰って荷物の整理をしたあと……高速を使って、村に帰って来た」

 ここからは、先に事情聴取を受けている森と、ほとんど変わらない。

 だが話の中で、宮野刑事が食いついた部分があった。

 「神社に行って、短冊の括りつけの作業をしている最中に、あかりから七夕祭の伝説と神器を見せてもらったんだ」

 「そして神主さんが蔵に直したのが、神器を見た最後なのね」

 「そうなるな」

 彼女は、ボールペンを唇に押し当てながら、少し考える素振りを見せたあと尋ねる。

 「そのあかりさん……だっけ? 村長さんからも話は聞いたけど、随分と神器に詳しいようね」

 彼女の口調には、真実を見極めようとする鋭い印象を受けた。

 「恵美ちゃんだけでなく、あかりのことまで疑っているのか?」

 貴史は呆れて首を振る。

 宮野刑事は、当たり前だと語気を強めた。

 「最初に言ったでしょう。私は七夕祭の関係者の中に、犯人がいると考えているの。人間関係も全部、捜査に必要な情報なのよ」

 七夕祭の準備をしていた寺が、七夕祭に使われる神器を使って殺されているのだ。

 七夕祭が関わっているのは間違いないだろうと、貴史も思う。

 あかりが疑われるのは癪に障るが、仕方のないことだろうと割り切って、彼は最初の疑問に答える。

 「あかりは、小さい頃から村の昔話とか伝説とかが好きなんだ。それこそ、神主さんや村長に匹敵するくらいの知識は持っているかもしれない」

 「……そして、その伝説に詳しいあかりさんが、神主を除けば最後に神器に触れた人ということになるわね」

 「それがイコール、神器を盗んだ人間になるとは限らないだろう?」

 これ以上は、新たな証拠が出ないと進まない押し問答だ。

 貴史も宮野刑事もそう判断して、「ふぅ」とため息をつく。

 この後も貴史の記憶を元に、怪しい人物をピックアップしていく宮野刑事だったが、いずれも大した収穫は得られなかった。

 最後に、神器が無くなったあとに貴史たちが磐舟山を探したことを伝える。

 「ありがとう。そちらも手分けして調べてみるわ」

 宮野刑事は笑顔で礼をいうと、それを区切りにして事情聴取は一旦終了した。




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