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1-4 ある冒険者たちの疲れる一日(その4)

第二部 第4話です。

宜しくお願い致します<(_ _)>




「俺が戦う相手。それは……テメェだっ!」


 ビシィィッ、と擬音がつきそうな勢いで指差したのは先程戦ったばかりのフィア――ではなく、彼女の腕に抱きしめられて迷惑そうにしていたシオンだ。


「え? 僕、ですか……?」

「ちょっと! 貴方はどう見ても前衛役ですわよね!? シオンは後衛役の魔法使いなのは見ただけで分かるでしょう!?」

「そうですよ! なのにシオンを指名するのは卑怯です!」

「そうだそうだ!」

「テメェにゃ冒険者のプライドってもんがねぇのか!?」

「シオンちゃんを傷物にしたらタダじゃおかないよ!?」


 戸惑うシオンを他所にアリエスが真っ先に非難の声を上げ、それをきっかけに一斉にギャラリーからブーイングが噴出する。だが馬面は「聞こえんなぁ~」と耳をほじくりながらニヤニヤと笑うばかりだ。


「別に嫌なら受けなくても良いんだぜ~? けど後衛役っつっても迷宮じゃモンスターと直接戦うことだってあるんだぜ? 仮にもDランク冒険者になったんだろ? なら少しばかりは戦えるんじゃねぇのか~? ん~?」

「でも……」

「あ、そっかそっか!? 悪かった悪かった! そうだよな、所詮さっきコイツらをのした二人に守られておんぶにだっこでここまで来たんだもんなぁ? 自信がねぇのも当然だ。だって自分の実力じゃねぇんだもんなぁ? なぁ?」


 シオンに近寄る顔を覗き込み、馬面はシオンを煽るような言葉を重ねていく。シオンはムッと顔をしかめ、杖を持つ手に知らず知らずに力が込められる。


「まあ俺としても? やる気のない守られるだけの幼気な少年、あ、違った、タマナシのお嬢ちゃんを無理やり引っ張り出す程に鬼じゃあ……」

「……やります」

「シオン!?」


 マシンガンの様に煽り言葉をぶつけながら、体を小刻みに揺らして小馬鹿にした仕草を加えて背を向ける馬面。そこに、小さなシオンの怒りがぶつけられた。

 馬面男はシオンには見えないように一層ニヤリと口元を歪めた。


「おいお~い? 別に無理しなくて良いんだぜ?」

「そうだぜ、シオン! あんな馬野郎の口車に乗ってやる必要なんて無いんだぜ!」


 自分の肩に置かれたフィアの手を外すシオンに、隣に立っていたイーシュも必死で止めようとする。だが、シオンは首を横に振ってニコリと笑顔を浮かべてみせる。


「心配してくれてありがとうございます。でも大丈夫です。

 ……僕が皆のお荷物だって周りから思われてるのも事実ですし、実際に僕一人だとここまで来れてませんから」

「そんな事は無い。誰よりも努力するシオンなら例え私達と一緒じゃなくても立派な冒険者になれていると私は思うよ」

「フィアさんからそう言ってもらえると嬉しいです。でも皆と一緒だったから僕も頑張れてるんです。負けないように強くなろうとって思えるから努力できたんだと思います。だから今、僕がどのくらい強くなったのか、まだ守られるだけの存在なのか……それを確かめてみたいんです」

「いいじゃねぇか。やらせてやれよ」


 心配そうにシオンを見るカレンやアリエスだが、ギースが彼女達の肩に手を置き割って入る。


「シオンがそれで納得するんならそれでいいじゃねぇか。テメェら外野がどうこう言ったってシオンは退()かねぇよ」

「ギース……

 そう、ですわね。本人がそこまでやりたいというのであれば、ワタクシ達が止める権利はありませんわね」

「頑張って、シオンくん。あんな奴なんか、早く勝ってしまって気持ちよくお祝い会をしましょう!」

「昇格のお祝い会に加えて祝勝会か。よし、ならばもう準備を進めてしまうとしようか。

 レイス、悪いのだがシオンのご母堂に、今晩お店を貸し切ってしまいたい旨を伝えてきてくれないか?」

「畏まりました」

「とびきり上手い料理をお願いするってのも付け加えといてくれよ」


 キーリの付け足しに頷くと、レイスはその場からすぅっと消える。彼女が静かに走り去ったのを見届けたところで、シェニアから声がかかる。


「それじゃシオン君が戦うということで問題ないわね?」

「はい」

「それじゃ両者前へ」

「シオン」戦いの場に向かって歩き始めたシオンをキーリが呼び止める。「シオンなら言わなくても大丈夫だろうが、お前はお前の戦い方をすれば問題ねぇ。無理に向こうのペースに合わせる必要はねぇから」


 黙ってシオンは頷くと馬面の方へ向かっていく。

 シェニアの前で向き合うシオンと馬面。両者の体格差は顕著。同年代の同種族と比べても小柄なシオンに対し、馬面は頭二つ分は大きく、横幅も広い。馬面男も冒険者であるだけあって、見た目にはしっかりと鍛えられている。そして男の両手には二本の剣が握られていた。


「二刀流……」

「おうよ。二本使いのセイヌといやぁ辺境では知られた存在だぜ。逃げずに来た事だけは褒めてやるが、どうするよ? 今ならまだ怪我する前に負けを認める事もできるんだぜ?」


 二本の木剣を構えてつつも、口ではシオンを口撃し、嘲笑を浮かべる。シオンは自分が少し緊張しているのを自覚し、軽く深呼吸すると柔らかく笑ってみせる。


「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫ですから」

「おいおい、人の気遣いを無碍にするもんじゃねぇぜ? とっとと負けを認めろっつってんだよ」

「いえ――僕は負ける気はありませんから」


 その言葉に馬面は眼を剥き、自分よりもずっと小さいシオンを見下ろして睨みつける。だがシオンも負けずにじっとその眼を見つめ返した。一向に臆する様子もなく自分を見上げてくるシオンに馬面――セイヌはチッと舌打ちをしてシオンから眼を逸した。


「それでは最終戦――始めっ!」


 シェニアから開始の号令が発せられる。近接戦闘は不利だとシオンは即座にセイヌから距離を取る。だがセイヌもわざわざ勝つために後衛職のシオンを指名したのだ。距離を取られれば不利なのは分かっている。


「おらぁっ!」


 馬人族の特徴である脚力を活かし、セイヌは一気にシオンとの距離を詰める。その速度に、彼の実力を侮っていたギャラリーから感嘆の声が上がった。それを耳にしながらセイヌはテンションを上げ、鋭く長剣を振り下ろした。


「……っ!」


 シオンは一瞬面食らうも、素早く杖を掲げて打ち払う。だがセイヌは、もう片方の短剣を巧みに操り、小回りの良さを活かした突きを連続で繰り出していく。


「おいおいっ! どうしたどうした~っ! 守ってばっかじゃ勝てねぇぞ!」

「……」


 攻撃を繰り出すのはセイヌばかり。対するシオンは杖を操ってそれらを全て防いでいくが、傍から見れば防戦一方だ。挑発を口にするセイヌに応じる事もなく集中して対応を続ける。その様子を、訓練場の端でカレンはハラハラしながら見守っていた。


「シオンくん……」

「心配いらねーよ」


 カレンが見上げると、横に並んだキーリは彼女とは対象的に安心した様子でシオンの戦いぶりを見ていた。


「あの程度の相手に負ける程、シオンは弱くねーよ」

「だけど……」

「だいたいシオンが普段、誰と戦ってると思ってんだ? 俺やフィア、アリエスだろ? なのにあの馬野郎に負けると思うか?」

「確かに……」


 言われてみればそうだ。シオンはいつもキーリ達三人と模擬戦をしているのだ。カレンとしてはいつも一方的にやられている姿しか見ておらず、終わった後のシオンは疲労困憊なのだが、目立って大怪我をする事もない。


「まあ、シオンを信じて安心して見とけって。もうすぐ終わるだろうから」


 予言めいた事を口にするキーリ。その眼にはシオンが勝つことを微塵も疑っていない。なら自分も信じよう。カレンは思った。シオンの頑張りを、努力が実を結ぶことを。


「クソがっ! いい加減寝転んでろよ!」


 試合開始当初から終始優勢に見える形で進めていたセイヌだが、その心中には焦りが見え始めていた。

 自分の二刀流にはそれなりに自信があった。最近は訓練もサボりがちだったが速度にも打ち込みの鋭さにも鈍りが見え始めたとも思えない。なのに、どれだけ攻撃を繰り出しても眼下のチビにまともに一撃も加える事ができていない。

 対するシオンは、時間が経過するにつれて冷静に相手の動きを見定める事ができるようになっていた。緊張が解れたというのもあれば、セイヌの動きに目が慣れたというのもあるだろう。何よりも――


(僕は、この人よりずっと強い人を知ってるんだ……!)


 剣の振りも、足捌きも、気迫も彼らに比べればセイヌは取るに足らない。セイヌよりもずっと強い相手と毎日の様に戦っていたシオンが負ける道理は無い。

 シオンは、自分に近接戦闘の才能が無いことを知っている。卒業してからのこの三年で自分とキーリ達の差は開いていっている。けれども、努力を続ければ、例え彼らに置いて行かれてるとしても信じられる。


(僕だって前に進んでるんだっ!)


 その時、セイヌの動きが乱れた。長剣を振り切った体が横に流れ、防御用の短剣を繰り出すタイミングが遅れる。そして、三年前ならばいざしらず、今となってはその隙を見逃すようなシオンではない。

 一瞬の隙間を縫ってセイヌの懐に潜り込む。返し刀の短剣が髪を掠め、だがシオンは臆する事無く鋭く一歩を踏み込むと右手の杖を鋭く突き出した。


「ぐぅっ……!」


 だが魔力による自己制御を使用しているとはいえ、シオンは非力だ。杖による一撃でセイヌの口から苦悶の声が漏れるが、それだけ。すぐさまに剣を振り払われ、シオンも大きくバックステップをして距離を取った。


「はっ……そんなひょろっちい一撃じゃ痛くも痒くもねぇなぁ?」


 セイヌは痛む腹を抑えつつも強がってみせる。彼としても千日手に陥りそうな状況だったため、仕切り直すにはちょうど良いと思っているのか。魔法使い相手に距離を取られるのは不利だが決定的ではない。自慢の脚力を活かして再び距離を詰めれば良いのだ。セイヌは地面を蹴るために脚に力を込めた。

 しかし、シオンと距離を取ること。それが何を意味するか、そこにセイヌは思い至らない。


氷の盾(アイシクル・シールド)


 シオンの声が響いたと同時に氷の壁がセイヌの眼前に展開される。うざったいと思いながらもセイヌは剣を振る。薄い氷は呆気なく砕かれ、壁全体(・・・)が細かな欠片となって宙に舞い、それらが顔や手足にまとわり付いていく。


「馬鹿にしてんのか? この程度で俺が……!?」


 氷の礫を振り払いながら、血迷ったかとほくそ笑むセイヌ。だが顔を上げて彼は言葉を失った。

 目の前には再び氷の壁。右にも、左にも、そして彼の背後にも。

 気づけば、セイヌの四方全てが幾重もの氷の壁に囲まれていた。




いつもお読み頂きましてありがとうございました<(_ _)>


気が向いたらご感想やポイント評価等頂けると幸甚でございます<(_ _)>

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