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18-1 誇りを胸に、花びらに武器を捧げよ(その1)

 第85話です。

 宜しくお願い致します。


<<主要登場人物>>

 キーリ:本作主人公。幼い頃に故郷を「英雄」達に滅ぼされ、冒険者として成り上がり、英雄たちに復讐を望んでいる。最近は仲間と一緒に成長することを望み始めた。

 フィア:キーリ達のパーティのリーダー格。真面目な性格で「正義の味方」を希求している。ショタっ気があり、可愛い少年を見ると鼻から情熱を撒き散らす悪癖がある。

 シオン:魔法科の生徒で、キーリ達のパーティメンバー。実家は食堂で、よくキーリ達もお世話になっている。攻撃魔法は苦手だが防御や索敵魔法、魔法陣の作成に関しては非常に優秀。

 アリエス:オースフィリア帝国出身の金髪縦ロール少女。知識・剣術・魔法・指揮の全てにおいて優秀。貴族らしく厳しく振る舞う性格のため友達がおらずぼっちをこじらせかけていたが、キーリ達と仲良くなり性格も丸くなってきた。

 レイス:フィアに付き従うメイドであり、優秀な探索科の生徒。フィアに全てを捧げているつもりで、ヤンデレ気質あり。フィアをからかうのが実は密かな趣味。

 イーシュ:キーリのクラスメートで実家は剣術道場。三歩進むと色々と忘れる鳥頭。

 カレン:キーリのクラスメート。アリエスを慕っており、妹の様に思っている。

 シン:魔法科の生徒でアリエスのパーティメンバーで貴族。一見細身だが脱ぐと凄い。攻撃魔法の代わりにメイスによる打撃がダメージ源。

 ギース:探索科の生徒でアリエスのパーティメンバー。スラム出身で貴族に良い感情を持っていないが、シンとは何だかんだで仲が良い。

 フェル:キーリのクラスメート。地方の貴族だが実家に反発して冒険者となった。イーシュと仲が良い。

 クルエ:キーリ達の副担任教師。魔法薬が専門だが味覚は壊滅している。かつての英雄の一人。

 オットマー:キーリ達の担任教師。筋肉もりもりで筋肉があれば全て解決。よく筋肉で自分の服を破いて、自室でちまちまと縫製しているのは内緒。

 シェニア:スフォンの養成学校の校長であり、ギルド・スフォン支部長。元はAランク冒険者で魔法の研究が趣味。

 ユキ:キーリと共にスフォンへやってきた自由気ままな少女。底知れない実力を持つ。幼い容姿ながら不思議な魅力をまとい、街中の男女を問わず体を重ねている。







――スフォン冒険者養成学校・講堂




 お揃いの制服に身を包んだ多くの生徒達が一堂に会していた。

 決して狭くは無い講堂内にぎっしりと椅子が並べられ、既に殆どの席が埋まっている。生徒達はこの一年半、共に苦楽を過ごしてきた友人との会話に勤しむ。その表情は晴れやかで、しかし胸の奥に仕舞いこんだ、平素と違う感情が溢れているのを堪えている者も多い。中には互いの手を握りしめ、既に感情の(たが)が外れてしまったのか涙を流して抱き合っている生徒も居た。

 キーリは、そんな彼女らを横目で見ながら少し微笑んだ。

 一度は大学まで進学したキーリだ。彼自身は既に何度かこうしたイベントを経験しており、その時も彼女らのような級友が居た。だが当時のキーリはそんな彼女らの気持ちをまるで理解できなかった。

 ずっと一人で過ごしてきて、感慨深いものなど無かった。別れの日を迎え、それを惜しむ気持ちなど懐きようはないし、作り物――まるでそうあるべしとプログラムされたロボットのように行動し、彼女たちみたいに感情を顕わにする人達を冷めた眼差しで傍観してきただけだった。

 しかし、今はそんな感情も理解できるような気がする。キーリは椅子に座って卒業式の開会を待ちながらそう思った。それだけ今の人生を全力で生きているということなのだろうか。今の自分は、前よりも少しでも人間らしく行きられているのだろうか。答えの出ない問いかけをし、寂寥感が湧き上がるのを覚えてキーリは眼を閉じた。


「いよいよ今日で終わり、か……」


 キーリの隣に座るフィアも感慨深げに溜息を漏らした。キーリが眼を開けて左を振り向けば、壇の上に掲げられているギルドの紋章をフィアは見上げていた。その瞳には様々な感情が満ちているようだった。


「終わりではありませんわ。区切りであることは間違いないですけれども、今日からまた新しい一歩が始まるんですもの。湿っぽい表情は似合いませんでしてよ?」

「そう……そうだな。新しい一歩、か……」


 彼女の隣のアリエスが肩を竦めてみせる。だが、彼女もまた何処か溢れるものを堪えているようだ。眉間に僅かに皺を寄せ、フィアの様子に呆れた風を装ってみせるものの、細められた瞼の奥の瞳にはいつも以上に光が反射しているようにキーリは見えた。


「それに、ワタクシ達は明日からも一緒ですわ。立場こそ変われど、共に在り、共に鍛え続けていく事に変わりありませんもの」

「またまた、そんな事言いつつも」

「アリエスの眼だって潤んでるぜ?」


 前に座っていたイーシュとフェルの二人が振り向き、ニタニタしながらアリエスを茶化した。その拍子に、一雫だけ涙が零れた。


「おいおい、湿っぽいのは似合わないんだろ? ほら、オットマー先生も見てるぜ?」

「んなっ!?」


 イーシュのその一言にアリエスは舞台脇のオットマーをもの凄い勢いで振り向いた。開会前の準備を進めていたオットマーだが、彼女の視線に気づくと「分かっている、分かっている」と言わんばかりに徐ろに頷いてみせる。サングラスで目元は確認できないが、口元の様子から判断するに、暖かい眼差しを向けているのは間違いない。

 アリエスは顔を真っ赤にして目元をゴシゴシと擦った。


「ち、違うんですのよ! これは、そ、そうですわ! 明かりが眼に入って眩しくて……」

「別に良いじゃねぇか」キーリが薄く笑ってみせた。「寂しいって思えるのは、それだけお前がこの学校と仲間を大切に思ってるって事だ。皆と学校で一緒に騒ぐのが楽しかったんだろ? 泣いたって恥ずかしい事はねぇよ」

「そうだな。アリエスが居てくれたお陰で私も毎日が楽しいと感じていたんだと思う。私も正直に言えば、明日からここでアリエスと勉強することが無くなると思うと寂しいな。

 ありがとう、アリエス。お前が私の大切な友人で居てくれて、本当に良かったよ」

「そ、そんな事言われたら……」


 フィアの感謝の言葉にアリエスの涙腺が決壊した。ポロポロと彼女の両瞳から涙が零れ落ちて、顔をくしゃりと歪めて堪らえようとする。だが一度溢れた涙は止まらず、何度も何度も彼女は眼を拭っていく。


「あ、アリエス?」

「ちょ、おい! ガチ泣きじゃねーか!?」

「茶化して、わ、悪かったよ! だからそんな泣くなって!」


 気位の高い彼女の突然の号泣に、茶化したイーシュやフェルが慌てふためく。アリエスの隣に居たカレンが優しく微笑みながらハンカチを取り出して手渡した。


「わ、ワタクシだって、ふぃ、フィアの事大切な友達、で……他の皆様も、こんなわ、ワタクシの傍に居てくださって、ずっとず、ずっと友達なん、てできないと思って、思っていたのに……」


 拭いきれない程に涙が零れ落ち、両目を押さえてしゃくりあげる。その中で口から溢れてきたのは感謝の気持ち。


「こんなにも、こんなにもす、素晴らしい友達がで、できてワタクシ、は果報、者ですわ……うれしくって、フィアにキ、キーリにカレンに、他の皆様にも、ずっと、ありがとうって言いたく、て、でも、まさかワタクシがそん、な事言われるなん、て……」

「……バカだな」


 フィアはアリエスの頭を強くしっかりと撫でてやる。彼女の眼にもうっすらと光るものがあった。


「ば、バカじゃ、あ、ありませんわ……」

「いいや、バカだよ、なあ?」

「おう! まったくだぜ」

「何を今更だよな」

「でも、そういうところがアリエス様らしいですよね」


 口々にバカだ、と口にしながら皆が笑い合い、カレンがアリエスの頭をそっと抱き寄せた。心臓の音を聞かせるように彼女の頭を胸に押し付け、優しく語りかける。


「私も他の人達も、みんなみーんな、アリエス様が友達で良かったって思ってます。ありがとうって思ってますよ。ですよね?」

「まあ……俺は、その、色々と大分世話になったしな」


 キーリが照れくさそうに頬を掻き、


「俺も感謝してる。他の皆よりは付き合い短いけど、アリエスと居ると刺激受けるし」


 フェルが明後日の方を向きながら少しぶっきらぼうに言い、


「そもそも俺はアリエスが居なきゃ卒業なんてできねかっただろうしな」


 ニヒヒ、とイーシュが悪戯な笑い顔を浮かべ、


「繰り返しになるが、私もアリエスのお陰で楽しい毎日が送れたよ」


 フィアがアリエスの頭を優しく撫でる。

 そして――


「アリエス様が居てくれたから、私もここまで来れました。優しくて面倒見が良くって、そして気高くって。貴族で、貴族の方らしいのに貴族らしくなくって。頼りになるのに時々ほっとけなくって。そんなアリエス様だからみんな感謝して――アリエス様の事を大好きなんです。

 だから、これからも宜しくお願いします、アリエス様」


 アリエスはギュッとカレンに抱きついた。顔を彼女の胸に強く押し付け、くぐもった嗚咽が漏れていった。その声はゆっくりと周囲に伝わっていき、優しい雰囲気が彼女の周りを包み込む。カレンは妹を昔あやした様に彼女の背を優しくポンポンと叩いてあげた。

 オットマーは一度眼を閉じて天井を見上げ、何かを堪えた。そしてクルエやシェニアといった他の教師の顔色を伺うと、マイクのスイッチを一度切った。

 そのままアリエスが落ち着くまで生徒達に背を向けてオットマーはサングラスを外した。目元に手を遣り、そして、彼女の小さな泣き声を聞いていた。





「さて、それじゃあ卒業式を始めるわね」


 しばしの間を置いて、いつもよりも控えめなオットマーの開会の言葉で始まった式。挨拶の為に壇上に登ったシェニアは柔らかい笑みを浮かべながら講堂全体を見渡した。

 壇上の彼女は、約半年前の冒険者証授与式と同じく、場には不釣り合いな程に扇情的なドレス姿。ジャケットを羽織っているものの、マイク前まで歩く時に見えるスラリとした脚線美は未だに多くの男子生徒のみならず女子生徒も惹きつける。

 一見して若々しさを保っている彼女だが、すでに彼女も第一線を退いた者だ。種族柄、高齢まで見た目の若さを保ち続ける事ができるが、すでに成長の余地はなく、良くて現状維持か年々少しずつ衰えていくばかりである。

 だが今彼女の眼の前で座っている生徒達の多くは、今がまさに成長の時だ。背が伸びた生徒や女性的な魅力が増した子。大人っぽい雰囲気をまとい始めた生徒も居て、目に見えた成長は著しい。そうでなくても、彼らの精神面は半年前よりも確実に成熟し、なにより懸命に努力した結果、冒険者としての実力も以前とは比べるべくも無いだろう。

 校長故に彼らと直接触れ合える機会は多くなかったが、そうした子供たちの成長の場に居合わせる事が出来たのはとても嬉しかった。最初は嫌々引き受けた仕事であったが、今となっては正解だったと心から思えた。


(もっとも……)


 彼女をこの職に推薦してくれた人物――エルゲン伯爵に感謝の意を告げることは永久に叶わなくなってしまった。

 エルゲン伯爵の、彼の息子たちを巻き込んだ自死。その報は当然スフォンの街の住人にとって少なくない衝撃を与えたが、シェニアにも多大な悲しみと疑念を与えた。

 彼女とエルゲン伯爵は、決して浅くはない関係だった。伯爵がまだ爵位を継ぐ前には、一時的にではあるがパーティを組んだこともある。何年も繋がりは無かったが、校長を依頼されたのもその時の縁もあって彼から直接依頼されたのだ。

 表向きはギルドの思想に沿った、在るべき冒険者を多く輩出してほしいとの事だったが、そこには可愛いゲリー(三男)を信頼できる人物に預けたいという親心と、歪みを見せ始めていたゲリーを鍛え直してほしいという願いがあったのかもしれない、と今更ながらにシェニアは思った。

 しかし全ては終わってしまい、彼の願いを果たせなかった、最悪の結果に終わらせてしまった悔恨は今後もずっと彼女を責め続けるだろう。だがそれは、彼ら親子を守れなかった自分が受けるべき当然の報いだと思った。

 何かが蠢いている。伯爵家の死に奇妙さをシェニアは感じていた。ゲリーのしでかした責任を取って、と遺書には書かれておりその理由自体におかしな箇所は無い。既にゲリーが二度の迷宮探索試験で起こした事件は醜聞として人々の間に広まっていたし、屋敷の使用人たちの自由意志を無くした異常な状態も明らかになった。あまりにも不自然な(・・・・・・・・・)速度で白日のもとにさらされる事になったのだ。

 加えて、シェニアの知る伯爵は責任感の強い人物だ。相当に彼が追いつめられた状況は容易に想像ができ、少なくとも王政府の要職を辞任することは避けられなかっただろうが、彼であれば職を辞して、そして被害を受けた人々に謝罪や補償等を行い、可能な限りの片をつけて自死したのではないか。それが何のアクションも起こさず突然の自死。まるで全てが、誰かの書いたシナリオの上の出来事なのではないか。シェニアの中でそういった疑念が膨れ上がっていく。


「校長?」

「あ……」


 壇上に上がったまま、俯いて黙ってしまったシェニアに、舞台脇からクルエの声が掛けられてハッと彼女は我に返った。顔を上げれば、生徒達が訝しげさと心配が綯い交ぜになった視線を向けていた。

 いけない。シェニアは小さく首を振って自分を戒めると一度大きく息を吸った。


「ごめんなさい、ここから皆さんの顔を眺めていたら少し感慨深くなっちゃって」


 彼女らしく崩した言葉遣いで茶目っ気を見せて話し出すと、生徒達から小さな笑い声が小波の様に広がった。


「せっかくの卒業式だし、本当はどうやってしんみりした雰囲気を作り出そうかと心配していたのだけれど」シェニアは前の方に座っているアリエス達にチェシャ猫みたいな笑みを向けた。「そこの彼女のお陰で助かっちゃったわ」

「う、うるさいですわ!」


 顔と目元を真っ赤にしたアリエスが席上から大声で抗議すると、全体から一斉に笑い声が上がった。先程までの神妙な雰囲気は一掃され、変わって緊張の解れた和やかな空気が柔らかく覆っていく。チラリとシェニアが教師陣の居る列を見遣れば、昔から居る頭の固い、事あるごとにシェニアに嫌味を言ってくる連中は苦虫を噛み潰した顔をしていたが、そんな連中の事は知った事か、と子供っぽい思考で一蹴した。


「でも、そうね。何度も引き合いに出して申し訳ないのだけれど、彼女たちが話していた通り貴方達は明日から新しい一歩――学校の生徒では無く一人の冒険者として明るい未来が待ってるわ。門出っていうそんなお目出度い日に湿っぽい雰囲気は似合わないわ。明るくいきましょう。

 あ、それと堅苦しい話も無しね? 私から皆さんに伝えたい事は以前の冒険者証授与式の時に話したし、それで良いわよね?」

「異議なーし!」

「そうだそうだ! しんみりも堅苦しいのも無しで明るく行こーぜ!」


 答えの分かりきった質問を投げかけると、主に普通科と探索科の生徒達の中から元気の良い答えが返される。魔法科の方では貴族が特に多いためか、渋い反応が多いが彼らも長々と話を聞かされるのは好まないのだろう。特に異論は出てこなかった。


「ちなみに、ちゃんと授与式の時の私の話はちゃんと覚えてるわよね?」

「あ、当ったり前じゃないですか!」


 慌てて声のどもった返事が戻ってくる。全体を見回しても、何故かシェニアから目をそらす生徒が多かった。


「はいはい。分かりました。後で教室で担任の先生方から更新された冒険者証と一緒に、冒険者の心得が渡されるからそれを読んできちんとおさらいしときなさいね?」

「は~い……」


 覇気の無くなった返事に苦笑する。もっともそんな、まだ未熟な彼らだからこそ先達としてシェニアも彼らを可愛いと思えるのだが。


「とは言っても、今日が皆さんと話す最後の機会なので少しだけお話させてもらうわね。思えば――」


 そう言ってシェニアは語り出した。

 一年半前の入学式の日の思い出から始まり、筆記試験の結果や探索試験でのトラブル。毎日時間があれば授業の風景を隠れて見学していて、日毎に実力を上げていっているのが目に見えて分かった事。中々成長を実感していない人も、外から見ればきちんと成長している事を語りかけていった。

 途中――


「そう言えば、気軽に校長室にも遊びにいらっしゃいって言ったのだけれど、結局極一部の生徒を除いて殆ど来てくれなかったから私も寂しかったわよ?」

「すんませーん! オットマー先生の部屋に連行されてましたー!」

「あら、なら仕方ないわね。楽しかったかしら?」

「絶望が広がってました……」


 ――などというやり取りがあって会場が爆笑に包まれ、年配の教師陣はますます眉をひそめる一幕もあった。なお、オットマーは彼らとは違った意味で表情を険しくし、隣のクルエに笑われていた。


「――最後に、これは前にも伝えたのだけれど、大事な事だからもう一度繰り返すわね?」

 シェニアは姿勢を正した。それを見て生徒達もまた背筋を伸ばす。


「貴方達の持つ剣、ナイフ、弓、杖……これらは貴方達を守る武器であると同時に、貴方達が今後、それらを使って多くの戦う力を持たない人々を守らなければなりません。その武器がその守るべき人々に向けられた時、私達の価値は失われてしまうでしょう。

 そして公正・平等。冒険者には平民も貴族も、人族も獣人もそれ以外の種族も、区別こそあれ如何なる差別もあってはなりません。生まれ持った性質によって如何なる理不尽な不利益を被る事も、存在としての優劣も付けられるべきではありません。その瞬間、私達の存在意義は失われてしまうでしょう。残念ながら一部にはまだそういった行動をする方々も世の中にはいらっしゃいますが――」


 ちらり、とシェニアは壁際の教師陣の一部を横目で睨めつけた。彼らは不機嫌そうに鼻を鳴らしてシェニアから視線を外した。


「――貴方達なら、まっすぐ、ギルドの、冒険者としてのあるべき道を進み続けてくれるものと信じています。

 ……最後と言いながら、だけれどもう一つ追加するわね? 既に冒険者となった貴方がたならば理解していると思うけれど、冒険者として多くのルールがあります。それを破った時には貴方がたと、悲しいことですが敵対しなければならない事もあるでしょう。

 しかし、ルールを守っている限り、私達ギルドは貴方達の味方です。そして、今日で卒業してしまいますが、卒業後もここは貴方達冒険者の『ホーム』です。

 今後多くの悩みをきっと抱くことでしょう。仲間や依頼人とのトラブル、自分の適正など……一人で悩んでも答えが出ない時、辛い時、苦しい時、そんな時はギルドでもこの学校でも構いません。気軽に相談しに来なさい。実力とは関係なく、貴方達が善良な冒険者としてギルドの思想を体現し続ける限り私達は決して貴方がたを見捨てたりはしません。それを忘れないでほしいの。

 以上が私がこの場で伝えたいことです」


 シェニアはマイクをずらし、台に手を突いてはち切れんばかりの笑顔を生徒達全員に向けて叫んだ。


「それじゃ皆っ! 卒業おめでとうっ! これから輝かしい冒険者人生を期待しているわっ!!」

「はいっ!!」


 生徒達から元気いっぱいの返事と共に割れんばかりの拍手が鳴り響いた。



 2017/6/25 改稿


 お読みいただきありがとうございます。

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