17-6 彼と彼女は迷宮で踊る(その6)
第73話です。
宜しくお願い致します<(_ _)>
<<主要登場人物>>
キーリ:本作主人公。体を巡る魔力は有り余っている反面、各要素魔法との相性が壊滅的に悪い。教会の聖女を始め、英雄たちに復讐するために冒険者としての栄達を望んでいる。
フィア:赤髪の少女でキーリ達のパーティのリーダー格。自分が考える「正義の味方」を追い求めている。可愛い少年を見ると鼻から情熱を撒き散らす悪癖がある。
シオン:魔法科の生徒で、キーリ達のパーティメンバー。攻撃魔法と運動が苦手だが最近成長が著しい。実家は食堂で、よくキーリ達もお世話になっている。
レイス:フィアに付き従うメイドさん。時々毒を吐く。お嬢様ラヴ。
ユキ:キーリと共にスフォンへやってきた少女。暇さえあれば男をひっかけているビッチ。
アリエス、カレン、イーシュ:キーリとフィアのクラスメート。いずれも中々の個性派揃い。
シン、ギース:探索試験でのアリエスのパーティメンバー。二人はマブダチ。(シン→ギースの一方通行)。
フェル:キーリ達のクラスメイト。実家は地方貴族だが反対を押し切って冒険者を志している。
オットマー:キーリ達の担任教師。筋肉ムキムキで良く服をパーン!させている。
クルエ:キーリ達の副担任教師。魔法薬が専門だが味覚は壊滅している。
期せずしてキーリとクルエは同時に目を閉じた。両者の瞼の裏に浮かぶのは赤く燃え盛る火炎。耳に残るのは鬼人族達の苦痛と悲鳴の叫び。そして混ざる英雄たちの楽しそうな声。鼻孔には血と肉が焦げる臭いがこびりつき、地獄絵図とも言える光景がまざまざと現実味を持って今でも蘇ってくる。
「……それで、その襲撃にクルエ先生も加わったという理解で宜しいでしょうか?」
レイスが確認するように尋ね、クルエは一瞬のためらいを見せた後で「はい」と頷いた。
「何でだよっ! 何でそんな――」
「嘘、ですね?」
いきり立ったイーシュが前のめりになるが、レイスの静かな声が確かな鋭さを以て遮った。
全員の視線がレイスへと集中する。注視されている中で、彼女は行儀よくフィアの隣に座ったままクルエの顔を見据えた。
「嘘、とは? 僕は――」
「クルエ先生は冒頭に申されました。隠し事は無しで話す、と。私の聞き間違いでしょうか?」
「……」
押し黙るクルエ。その様子に、キーリは彼が必ずしも真実を語っていない事に気づいた。
「自責に駆られるのも結構ですが、どのような事実にしても正確に語られるのがキーリ様への筋かと存じ上げます」
「……敵いませんね」
クルエは小さく息を吐き出す。微かに顔が泣き出しそうに歪み、だがクルエは頭を振ってもう一度気持ちを落ち着けるように息を吐いた。
「すみません、また大きな過ちを犯すところでした。本当に申し訳ありません」
「いや……」キーリは左手で額を押さえつつ頭を横に振る。「それより、続きを聞かせてくれ」
「はい、分かりました……
村が見つかる直前の事です。フリッツの姿が見当たらない事に気づきました。方向感覚が狂っていると僕は思っていましたし、疲労も溜まっていました。ですから僕は、いつのまにかフリッツがはぐれてしまったのだと考えました。僕らは進むのを止めて、彼を探す相談をしていました。ちょうどその時、離れた場所で巨大な雷鎚が轟音を響かせたんです」
「それは、そのフリッツ殿が?」
「はい。フリッツは剣の腕も優れていましたが、光神魔法についても並々ならぬ才能を持っていました。道中に何度も彼の魔法を目にしていましたし、すぐに彼の魔法だと気づきました。そんな魔法が一度だけでなく何度も使われていましたから、だから彼がモンスターに襲われてると思って、僕とアルバートはすぐに飛び出していきました。当然、他の方々も遅れてやってくるものと思ってましたよ」
「という事は、やはり……」
フィアが見つめる中、クルエは頷く。
「ええ、それこそが罠でした。恐らくは五大神教の信者ではない僕とアルバートを引き剥がしたかったんでしょう。
幸いにしてちょうどそこは木々の茂りは浅くて、空に飛ぶ事ができましたのでフリッツの居場所はすぐに分かりました。距離は少し有りましたが、全力で僕は彼の元に向かいました。そしてフリッツが襲われている姿を発見できたのです。
確かにフリッツはモンスターに襲われていまして、敵も強いモンスター――たぶん、Bランク相当だったと思います――でした。彼も万全なら問題ないでしょうが、疲労と感覚が狂わされた状況です。モンスターたちに囲まれた彼は既に傷を負ってましたし、だから彼を助けた後はしばらくその場で治療と休息を取っていました。
――村から火の手が上がったのはそんな時でした」
「……何だ、クルエ先生は別に何もやってねーんじゃんか」
イーシュが何処かホッとしたように言った。彼とてクルエを慕っている。そんな恩師から、かつて非道に手を貸したと告げられて平静では居られなかったのかもしれない。それは他の全員も同じだったようで、少しだけ顔の強張りが解けていた。
だがクルエは首を横に振った。
「彼らの非道を止められなかったという点で僕も同罪です。死ぬ必要のない人が大勢亡くなった……ただそこで暮らしていた人たちが……
彼らの狙いに気づかなかった僕が愚かだったんです」
「……それで俺に裁いて貰おうと思って嘘を言ったってか?」
「はい……」
「そうかよ」
心苦しそうに頷くクルエを見てキーリは大きく息を吸い込んで、そして吐き出した。眉間に皺を寄せて目を閉じて何事かを考え込む。しばしの沈黙の後、やがて徐ろに立ち上がってクルエの前に腰を下ろす。気まずさを覚えたクルエはキーリから目を逸し、そんな彼に向かって「クルエ」と呼びかけて顔を自分の方へ向けさせた。
そして拳をクルエ目掛けて振り抜いた。
「っ……!」
「おい、キーリっ!!」
「今ので全部チャラだ」
短くそれだけを告げると、キーリはクルエを一瞥だにせず三度腰を下ろした。フィアは突然のキーリの行動を咎めようとしたが、座って顔を伏せたキーリの拳が震えているのを見て言葉を飲み込んだ。
八つ当たりだ。キーリはそう自覚していた。村が滅んだのはクルエのせいではない。話を聞いてそれを理解し、そして彼がやはり手を下しておらず、また深く深く悔恨の念を抱いている事を知り安心もした。
だが、それでも何もせずに許すことなど出来なかった。
どうして止めてくれなかったのか。どうして滅びを回避できなかったのか。もしもクルエが上手くやっていればルディもエルも、ユーミルも皆まだ生きていて自分と一緒に楽しく暖かい生活を送れていたのではないか。クルエのせいではないと頭では分かっていても、クルエならばどうにかできたのではないか。そんな思いはどうしても消えてくれなかった。
だからキーリにとって、本当に本当の妥協点が彼を殴りつけることだった。殴ることで幾分気持ちがスッとしたような気がしたが、それが勘違いであるかのように未だ消えない澱みがキーリの中で漂って、こみ上げて口から吐き出してしまいそうだ。それを押さえ込むため、キーリは立てた膝に額を強く押し付けた。
そんなキーリの様子を少し呆然と見ていたクルエだったが、飛んでいった眼鏡を拾い上げて掛け直すと小さく「……ありがとうございます」と呟いた。その声もまた震えていた。
クルエの様子にシオンは疑問を口にするか逡巡を見せるも、おずおずとしながら質問をした。
「その後は……フリッツさんを助けた後はどうなったんですか?」
「……火の手が上がってすぐに村へ向かいました。辿り着いた時にはすでにかなりが焼かれていましたが……
元々熱くて情に厚い性格だったアルバートは村を見て激しく怒りました。他のメンバーの凶行を止めようと、少しでも被害を食い止めようと彼らの前に割って入って――そしてステファンに刺し殺されました」
「っ! マジかよ……」
「ユーレリア辺境伯に、ですか……」
「仲間なのに……酷いです」
「優しくて、モンスターといえども無闇な殺生を嫌っていたルル……彼女も同じように止めようとしたんでしょう。彼女も……」クルエは重く息を吐き出した。「彼女もまた、首を跳ね飛ばされて殺されていました。
彼らにとって……僕たちは仲間でも何でも無かったんです。そこまでの道中はそれなりに言葉も交わしましたし、小さな諍いを起こしながらも上手くやってこれていた。そう思ってましたが、彼らにとって僕やアルバート、ルルは単なる盾や便利な人間でしかなかったということでしょう」
当時の、殺された彼らの事を思い出したのか、クルエは眼鏡を外して指先で目元を押さえ、溢れる何かを拭うような仕草をした。
「そんな彼と彼女の姿と、それを無感情に見下ろす他の連中。アルバートを殺した彼と眼が合いました。そして僕は……臆病にも怖気づいてしまいました。何をするでもなく、ただ呆然と人々の悲鳴を聞いていたんです。アルバートやルルの仇を討つでもなく、人々を逃がすでもなく、そこに立っているだけ。
冒険者という職業である以上いつ命を落としてもおかしくなくて、僕自身もいつ死んでも構わない、それは自分の実力不足の結果だから仕方のない事だって思ってたんです。ですが、あの瞬間はそんな考えは全て飛んでいって……ただ自分の命が惜しくなっていたんです。だから……僕だけは信者で無かったにもかかわらず生き残ることができたんです」
「クルエ先生……」
嗚咽が僅かに漏れる。だがクルエは歯を食い縛り涙が溢れそうになるのを堪える。泣く資格などない。泣いて良いはずがない。そう思い、クルエは腹にぐっと力を込めて気を鎮めて、はぁ、と乾いた息を吐き出した。
「失礼……見苦しいところをお見せしましたね」
「いえ……」
呼吸を整え、気を落ち着けるとクルエは謝罪を口する。フィアは掛けるべき言葉が上手く見つからず、ただ頭を振った。
「その後は、彼らに付いていって何とか魔の門と呼ばれる魔素の吹き出し口を封印することに成功しました。帰路では特に何の問題も起こらずに、無事に出発の地である皇都まで戻る事が出来まして、各国の王が集う大聖堂で報告を行ったのです。そこで彼らの告発も考えましたが……結局それを口にする勇気はありませんでした」
「どうしてッスか? いや、他の連中が怖かったってのは分かるんスけど、王様とか色んな連中が居るんだったらチャンスだったんじゃねーかなって思うスけど……すいません、俺バカだから単純にそう思っただけなんで」
「いえ、イーシュ君の疑問はもっともです。話が彼らだけで収まるのであれば告発したかもしれません。ですが……世界は求めていたんです」
「何をッスか?」
「『英雄』を、です」クルエは軽く眼を伏せた。「不安を振り払い、救ってくれた英雄の存在……これでもう安心なんだ、何があってもまた英雄が自分たちを守ってくれる……民を安心させる存在をしばらくは維持する必要がある、と言われたのです」
「誰にですか?」
「コーヴェル侯爵に、です」
思わぬ人物の名に、フィアは目を見開いた。名前を聞いてキーリも顔を上げて少しだけ顔をしかめた。
「ずいぶんと大物だが、英雄の帰還って事を考えりゃ当たり前か……」
「はい。帰還の式典が行われる、その少し前に話しかけられたのです。恐らくその時の私は酷い顔色をしていたからでしょう。気さくな方でして、恐れ多くも他愛もない話を二、三交わした後でそう仰られました。流石に具体的に何があったかはご存じないようでしたが、侯爵もまた教皇国の人選には何か思うところがあったようでしたので、私に声を掛けて下さったのだと思います」
「……確かにコーヴェル卿であればそう仰るかもしれないな」
フィアが小さく呟く。その独り言は膝の上に居るシオンの耳に届いたが、特に何も口にしなかった。
「……奴らが何か目的を持って俺らを襲ったのは分かった。その目的については?」
キーリが尋ね、だがクルエは申し訳なさそうに首を横に振った。
「帰還の途中にそれとなく尋ねてみたのですが……彼らは皆声を揃えて『光神様のご意思である』としか教えてくれませんでした。ただ……」
「ただ?」
「アルバートが問い詰めた時にステファンが『異教徒を殲滅して何が悪い』と口走ってました。
五大神教は必ずしも他宗教を認めていないわけではないのですが……鬼人族の住んでいた場所は俗世からは切り離された様な場所ですし、もしかしたら彼らは五大神教が認めていない他の神々を信仰していて、彼らの逆鱗に触れたのかもしれません。キーリ君、こういった事を尋ねるのは気がひけるのですが……何かご存知ありませんか?」
問われてキーリは言葉に詰まる。一瞬の間を置いてキーリは、それがクルエの疑問を肯定している事に気づき溜息を吐き、頷いた。
「ああ、そうだ。ルディ――鬼人族達は光神を信仰していなかったよ。特別信仰心が厚いわけじゃなかったが、少なくとも他の神を奉ってたな」
「やはりそうでしたか……」
「邪教徒って奴か?」
「そういう訳じゃねぇ。風習として幾つか宗教的な事はやってたけど、それだけだしな。年配のばーさんが偶に供え物をしてるくらいで、イベントがねぇと赴きもしてなかった」
「そっか。で、キーリもその訳のわからねぇ神だかを今でも信仰してんのか?」
「別に。俺には信仰する神なんかいねぇよ。
……イーシュ、さっきからテメェ何が言いてぇんだ?」
先程から棘のある言い方をしている様にキーリには聞こえた。目を細めてイーシュを睨みつけると空気が途端に張りつめたものに変わる。
イーシュの口調に引っかかったのは他のメンバーも同様だが、ここで争うべきでないとフィアが割って入った。
「落ち着け、キーリ。
イーシュもだ。王国の法でも信教の自由は認められているし、たとえキーリが異なる宗教を信仰していたとしても問題はないはずだ」
「どうしたんですか、イーシュさん? その、今の言い方イーシュさんらしくないですよ……?」
フィアから咎められ、シオンからも心配そうな視線を向けられてイーシュはハッとした表情を浮かべる。そしてバツが悪そうに短髪の頭を掻いて、「悪い」と謝罪を口にした。
「何だろうな……ちょっとどうかしてたわ」
「イーシュ君は信仰に熱心なんですね。だとしたら、配慮に掛けた話でした」
「いや、そういう訳でも無いんスけどね……まあ、ちょっと知り合いが変な邪教にハマっちまったのを聞いたんで、ちょっと心配になっただけッス。
キーリも悪かったな」
どうして過剰な反応をしたのか自分でも分からないらしいイーシュだが、首を捻りながらも再度謝罪を口にすると、パンっと柏手を鳴らし「悪い! 話の邪魔したな!」と声を張り上げて居心地悪くなった空気を取り除こうとおどけてみせた。
「はぁ……いい。もう気にしてねぇから頭上げろよ」
「そうか!? なら遠慮なく」
申し訳無さは何処へやら。イーシュは許しが出るとカラカラと笑い声を上げた。毒気を抜かれたキーリは怒る気も完全に失せて、こういった軽さを美徳と取るか悪徳と取るか一瞬悩むも栓のない話だと意識をクルエへと戻す。
「じゃあつまりはあれか? 連中は宗教的情熱で襲いかかってきたのかよ」
「光神を信仰する彼ら宗教家にとって、キーリのご両親達は悪だったということか……悪とはなんだろうな」
「お嬢様……」
「知るかよ、ンな事っ」
思わず口から零れ落ちたフィアの疑問。キーリはやるせなさに顔を歪めて舌打ちと共に吐き捨てた。
善とは、正義とは誰かを救うこと。悪とは意思を以て誰かを傷つける、傷つけようとする事。フィアの中で明確になっているわけではないが漠然とした感覚としてそうあった。
では英雄たちは正義か、それとも悪か。魔の門を閉じてモンスターを倒していき、被害を受けた市井の民を救った。紛れもない正義だ。しかしキーリの故郷を襲い、滅ぼした。鬼人族が何か害意を持っていたとも思えないし、だとすればその行動は、悪。彼らはそれを悪行と認識していたのか。はたまた、鬼人族を滅ぼすことで誰かを救う「正義」の行動だったのだろうか。彼らのせいでこんなにも苦しんでいる人が居るというのに。フィアは膝の上に置いた拳を知らず強く握りしめてキーリとクルエを微かに滲んだ瞳で見つめた。
「世界に明確な悪はあれど正義は無し……いつだったか、そんな言葉を聞いた事があります。それが真理を表しているのかは分かりませんが、深く考え無い方がいいですよ」
「そう、ですか……」
「話を戻しますが、宗教的理由でキーリ君達を襲ったというのも間違いないかと思います。ですが、村を焼き払った後に彼らは何かを探していました。というよりもそちらが本来の目的だったような気がします。あくまで勘、でしかありませんが……」
「聞いてみても……ダメだったんですよね?」
「ええ……やはり答えてもらえませんでした。彼らも結局は見つけ出すことが出来なかったようですが……」
「……そうかよ。
クルエが知ってる事はそんだけか?」
「え、ええ……細かいところは話しきれていない部分もあるかと思いますが、概ね以上です」
そうクルエが回答すると、キーリはこれ以上聞くことはないとばかりに顔を伏せて黙り込んだ。クルエも役割を終えたと感じたのか、眼鏡を外して目元を揉み解し暗い天井を仰ぎ見た。
しばしそうした後、クルエは気持ちを切り替えていつもの柔和な笑みを浮かべてフィアに水を向けた。
「僕が話が下手なばかりに長い休憩になってしまいましたね。この後はどうしましょうか?」
「そうですね……」フィアは膝上のシオンを抱きしめながらグルリと全員を見回した。「今日は進むのはここまでにしておきましょう。この先、ここみたいな休める場所があるか分かりませんし、今日はここで早めに休んでまた明日早めに出発する事にしましょうか」
体力的には問題ないだろうが、色々と精神面で不安が残る。キーリもクルエも、二人共少々心を乱した程度で敵に遅れを取ることはないと思う。だが心を乱されるというのは肉体とは違った疲労感が残るものだ。それに二人共心の中を整理する時間が必要だろう。
フィアは重いものが残る胸の内のものを吐息と共に吐き出し、「それで構わないか」と尋ねた。
「一応交代で見張りはした方が良いと思うんですけど……」
「そうだな」シオンの声にフィアは頷く。「一鐘(≒一時間)程度の時間ずつ交代で見張ろう。まずは私から見張るから皆は休んでくれ」
「お。いーぜ。ンなら俺は先に休ませてもらうぜ」
言うや否や、イーシュがさっそく持っていた背嚢を枕にして横になる。そして目を閉じたかと思えば、すぐに規則正しい寝息が聞こえてきた。
「はは、もう寝付きましたね」
「まだ二回目の迷宮ですからね。緊張もしていたでしょうし、元気そうに見えてイーシュ君も思ったより疲れていたのでしょう」
「この男はたぶん普段からこうだと思いますが……」
呆れた視線をイーシュに送りつつも荷物入れから一鐘用の砂時計を置き、フィアは他のメンバーに就寝を促す。
「レイス。お前も早く休め」
「ですが……」
「これはリーダーとしての命令だ。私の次はお前の番だから、休める時にしっかりと休め。いいな?」
そう言われ、レイスもまた渋々といった感じながら体を横にする。目を閉じているが、顔つきはやや険しい。しかしそれでも数分もすれば表情から力が抜けて、彼女もまた年相応のあどけなさを残した寝顔となった。
他のメンバーも全員横になっていることを確認すると、フィアは端正な顔の頬を叩いて気合を入れ、抜身の剣を握ったまま入り口の方へと体を向けたのだった。
2017/6/25 改稿
お読みいただきありがとうございます。
ご感想・ポイント評価等頂けますと励みになりますので宜しければぜひお願い致します。




