17-2 彼と彼女は迷宮で踊る(その2)
第69話です。
宜しくお願いします。
<<主要登場人物>>
キーリ:本作主人公。体を巡る魔力は有り余っている反面、各要素魔法との相性が壊滅的に悪い。教会の聖女を始め、英雄たちに復讐するために冒険者としての栄達を望んでいる。
フィア:赤髪の少女でキーリ達のパーティのリーダー格。自分が考える「正義の味方」を追い求めている。可愛い少年を見ると鼻から情熱を撒き散らす悪癖がある。
シオン:魔法科の生徒で、キーリ達のパーティメンバー。攻撃魔法と運動が苦手だが最近成長が著しい。実家は食堂で、よくキーリ達もお世話になっている。
レイス:フィアに付き従うメイドさん。時々毒を吐く。お嬢様ラヴ。
ユキ:キーリと共にスフォンへやってきた少女。暇さえあれば男をひっかけているビッチ。
アリエス、カレン、イーシュ:キーリとフィアのクラスメート。いずれも中々の個性派揃い。
シン、ギース:探索試験でのアリエスのパーティメンバー。二人はマブダチ。(シン→ギースの一方通行)。
フェル:キーリ達のクラスメイト。実家は地方貴族だが反対を押し切って冒険者を志している。
オットマー:キーリ達の担任教師。筋肉ムキムキで良く服をパーン!させている。
クルエ:キーリ達の副担任教師。魔法薬が専門だが味覚は壊滅している。
総勢十二名という大所帯で迷宮へと入っていった一同であるが、最後まで二パーティ合同で進んでいくわけではない。入り口からしばらくは一本道が続くために共に進むが、最初の分かれ道から別々の道を歩いて行く事になっていた。
入り口からは緩やかな下り坂になっており、五分も歩けば外の光は届かなくなる。だがスフォンの迷宮は多くの冒険者が潜るということもあって、入り口付近の通路には魔道具の灯りが一定間隔で設置されており、また壁自体も自発光しているために特に手持ちの灯りを使用する必要もない。
一行は護衛対象であるオットマーとクルエを中心にして、周囲を囲むようにして静かに進んでいった。
「……そうも引っ付かれると歩きにくいのだが」
「嫌ですわ、オットマー先生。これだけお傍に居ましたら例えどんな場所から攻撃が飛んできても守ることができますもの。我慢くださいな」
だが会話が全く無いわけではなく、オットマーとアリエスの様に周囲への警戒を切らさない程度には雑談を交わしている。もっとも、腕に絡みついてニコニコとしているアリエスはやり過ぎな感はあるが、彼女とて状況は理解している。まだ入り口からさほど離れておらず、また周囲に何の気配も無いため「今のうちに」とオットマーの筋肉を堪能しているだけである。その証拠に彼女の視線は絶え間なく周囲に配られていて、それがオットマーも分かっているため特に引き剥がそうとはしない。ただ周囲からのニヤニヤとした視線だけは如何ともし難かったが。
「こんなでかい迷宮だからどんなもんかと思ってたけどよ、前に潜った迷宮とあんまり変わんないんだな」
オットマー達の横を歩いているフェルが通路の壁や天井を見回しながら、拍子抜けしたようにそう漏らした。
「まだ入り口近くですからね。迷宮の基本的な構造は同じでしょうし、これだけの大きさの迷宮ですから変わり映えしないのも仕方ありませんよ」
「Cランクの迷宮だっていうからさ、中に入ったら結構すぐにモンスターがやってくるのかと思ってた」
「だったら門番は四六時中大変だろうよ」
キーリの冷静な指摘にフェルが「それもそうか」と納得していると、彼の前を歩いていたフィアが振り返って話しかけた。
「もう少し進めば分かれ道がある。その後は低ランクだが少しずつモンスターも出てくるはずだ」
「ふーん」フェルは感心したように呟いた。「ちゃんと予習して頭に情報入れてんだな、やっぱ。まるで潜ったことあるみたいだ」
ギクリ、とフィアは顔を引きつらせた。目が泳ぎ、途端に冷や汗がドバドバと流れ始めてフェルから目を逸す。そんな不自然な彼女の様子に、オットマーが怪訝そうにサングラスの奥の瞳を光らせた。クルエも口元を撫でながら「そうですね」と相づちを打つ。
「確かによく勉強してるようですね。ですが最近の迷宮の内部の構造はあまり外には出回っていないはずですが……」
「へへ、そりゃそうだろ。だってコイツら前にもごっふぉぉっ!?」
イーシュが深く考えずに余計な事を口走り掛ける。が、既の所でシオンが飛びついて口を塞ぎ、アリエスがオットマーに抱きついて意識を逸し、レイスが棒読みの悲鳴を上げてクルエの注意を引いた。そしてギースがトドメとばかりに腹に拳を御見舞する。
「大丈夫ですか、レイス君?」
「問題ありません。足元をねずみが駆け抜けたので少し驚いただけです。お騒がせ致しました」
「そうですか……イーシュ君? どうかしましたか?」
「大丈夫だ。ちょっとカレンのケツを触ろうとして天罰が下っただけだからな」
「そ、そうなんです! 急にお尻触られたので驚いてしまって……」
いけしゃあしゃあと嘘を並べ立てるキーリに、カレンも乾いた愛想笑いを浮かべながら慌てて同意してみせた。
「ダメですよ、イーシュ君。まだ入口近くとは言ってもここは迷宮なんですから、気を抜き過ぎるのは感心しませんね」
「み、身に染みて学びました……」
青い顔でそれだけ応えると、イーシュは息絶えた。最後にシンが倒れたイーシュをひょいと肩に担ぎあげ、何事も無かったかのように進んでいく。フィアの疑惑も今の出来事で飛んでしまったのか、オットマーも担がれたイーシュを見て「減点であるな」とだけ呟いて取り出したメモ帳に書き記したのであった。
フィアの活でイーシュが意識を取り戻したり、アリエスのスキンシップがエスカレートしていったりと、少々賑やかなまましばらく進む。すると、迷宮の奥の方から何かの気配をキーリ達は感じ取った。様子が変わったキーリやギースを見て全員に緊張が走る。
「……どうやら冒険者の方々のようです」
探知した気配を受けて即座に斥候役として飛び出したレイスだったが、すぐに戻ってきてその正体を告げる。
普通であればそこで油断しない程度に気を緩める。実際にモンスターが現れたかと身構えていたフェルは抜いた剣を下ろすが、他のメンバーの誰もが剣の柄に手を掛けたまま気を緩める様子が無い。それを見てフェルもまた再び剣に手を掛けてゆっくりと進んでいく。そんな彼らをオットマーとクルエは黙って見ていた。
程なく暗がりから人魂の様に揺れるランタンの灯が現れた。その後ろから六人ほどの冒険者の一団が姿を見せる。ここまでくればモンスターが出ないことを経験的に知っているからか、特に周囲を警戒する素振りも見せず談笑している。だが斥候役らしい獣人が一度だけ鋭い視線をぶつけてきた事から警戒を全く怠っているわけでもない。ベテランなのだろうとキーリは思った。
お互いがハッキリと視認できる距離にまで近づくと、彼らがそれぞれ不躾な視線をぶつけてくる。明らかな大所帯に少年少女が殆どのパーティだ。そして彼らが守るのはどう見ても熟練の冒険者の雰囲気をまとっている大男と何故か白衣を着た優男。目を惹かないはずがない。だがオットマーの肩から掛けられた「探索試験中」と書かれたタスキを見て、ああ、と納得の声を小さく呟くと同時に相好を崩す。
「今日もヒヨッコ達の付き添いか。教師という職もご苦労なこったな」
「そうでもないのである。出会った時には未熟であった生徒が日々成長していく姿を見守るのは楽しく喜ばしいものである故な」
「そうかい。ま、先達として立派な後輩が出来るのは喜ばしい事だ。頑張れよ、ヒヨッコ共」
もみあげから顎に掛けて立派な髭を蓄えたリーダーらしい大男がオットマーと軽く会話を交わしてすれ違う。そのまま互いのパーティは背を向けて離れていくかに思われたが、すれ違ったパーティの中から「うおっ」と呻きのような声が聞こえた。キーリが振り向けば一人の男が見つめていた。
「悪い、ちょっと待っててくれ」
男は仲間たちにそう声を掛けると気まずそうに頭を掻きながらキーリ達の方へ近づいてくる。フィアやアリエス達は警戒を一層強めるが、敵意が無いことをすぐに感じ取って剣から手を離した。そんな中でフェルだけは「どっかで見たことあるんだよな……」と呟きながら首を捻っていた。
そしてキーリは近づいてくる男に見覚えがあった。だが何処で出会ったかイマイチ思い出せない。記憶を探っている内に、キーリよりもやや背丈の大きいガッチリした体格の男はすぐ目の前に来ていた。
キーリが見上げて向かい合う。だが男はどうにも落ち着かない様子だ。しかし気合を入れるように顔を軽く叩くと――
「その、すまんかった!」
――男は勢い良く頭を下げた。
ポカン、とキーリはもちろん、その場に居た全員が口を開けて固まった。
「ちょ、ちょっとガルディリス! 見習い相手になに頭なんて下げてんだいっ!?」
男と一緒に居た、軽鎧に弓を携えた女性がツバを飛ばしそうな勢いで男を咎めるが、ガルディリスと呼ばれた彼はキーリに向かって頭を下げたままだ。
「あっ! そうだ、思い出した! 『鉄壁のガルディリス』だ!」
名前を聞いた途端、フェルが叫んだ。
「有名な御方なのか?」
「有名もなにも、今スフォンで最も有望な若手冒険者の一人だっつうの! ここ一年で一気に実力を伸ばしてCランクに昇格したってこないだ話題になってたぜ!」
「確かにあの二の腕なんかは素晴らしいですわね……」
スターを間近で見てフェルがはしゃぎ、アリエスが鍛えられた筋肉を見て微かに頬を紅潮させた。
そうした彼らを他所に呆気に取られていたキーリだが、名前を聞いて目の前の男が誰かを思い出した。
「ああ……アンタ、確か前にギルドで」
「思い出してくれたか。その、前は侮辱するような事を言って申し訳なかった。酒に酔ってたとはいってもギルドの一員として許されないことだった」
一年以上前にキーリとユキがスフォンにやってきた初日に、ギルドでキーリに絡んできたのがガルディリスだった。鬼人族を侮辱したことでシェニアから直々にランクの降格と謹慎を言い渡されていたはずだ。余り悪いことは引きずらない性質のキーリはすっかり忘れていたが、こうして見上げると確かにあの日の男である。
キーリは頭を掻いた。
「あん時は俺もカッとなって悪かったよ。もう気にしちゃいねぇからアンタも気にしないでくれよ」
「……そう言ってくれるとありがたい。酔いが覚めて冷静になると自分が情けなくてな、せめて一言謝りたいと思ってたんだが、あの日以来ギルドで見かける事が無かったからとっくにスフォンを出ちまったのかと思ってたがそうか、養成学校に入るみたいなことを言ってたな」
「ああ、もうすぐアンタらの後輩になるぜ」
「養成学校入ったならもう俺らの後輩だろうが。俺をあっさりとのしたんだ。期待してるぜ」
ガルディリスを倒した、と言ったところで彼のパーティがざわついた。だがガルディリスが一睨みして黙らせる。そこにキーリが拳を差し出し、ガルディリスもキーリの意図を察して自分の拳を軽く合わせた。
「やっと謝れて気が楽になったぜ。
罪滅ぼしじゃねぇが、卒業した後に何か困った事があったら俺を頼れ。先輩として手助けくらいはしてやる」
「助かる。せいぜい世話を焼かせてやるから覚悟しといてくれ」
互いに口元を歪ませた男臭い笑みを浮かべ、話は済んだとそれぞれ自分のパーティに戻ろうとした。だがその途中でその時迷宮が小さく震える様に揺れ、ガルディリスがキーリ達全員に声を掛けた。
「今日は注意しとけ。今みたいな振動がいつもより多くなってる。通路がこれまでと変わってるかもしれねぇぞ」
「もしかして迷宮が成長しているのですか?」
フィアが以前の探索試験の時を思い出して尋ねる。しかしガルディリスは「いや」と首を横に振った。
「迷宮が成長するなんて事は早々無ぇ。話には聞くが、実際にお目にかかった事は無ぇしな。
それにこの迷宮だとこれくらいの振動はよくあることだ。ただ、こうも頻発してるって事は幾つか道が変わってる可能性が高い。もしかしたらとんでもない場所でDとかCランクのモンスターが出るかもしれねぇから十分気をつけな」
「サンキュ。恩に着る」
「こんな情報で借りを返せるなら幾らでもやるさ」
それじゃあな、とガルディリスは最後にキーリの頭を乱暴に撫で回し、オットマー達に軽く手を上げて辞して行った。
「……子供扱いしてんじゃねーよ」
ムスッとして頭を掻きながらキーリはぼやいた。
だがガルディリスのゴツゴツとした大きな手は、昔撫でてもらったルディのそれの様で懐かしくもある。いつの間にかキーリは口元に笑みを浮かべていて、それに気づかないままキーリもまた他のメンバーの元に戻っていった。
「それではここからはしばらくお別れですわね。ワタクシ達はこちらに向かいますわ」
「ならば私達はこのまま真っ直ぐ進むか」
三つに別れた道のうち右側をアリエスは指差し、フィアはこれまで進んできた道から真っ直ぐ伸びた方を選んだ。残った一つはDランク以上のみが許されたエリアに続いているため、予め生徒たちの侵入は禁じられている。
「おし、いよいよ本番だな」
「へへ、勢い余って一人で突っ込むなよ、フェル」
「テメェが言うなっつうの、イーシュ」
「それじゃシオン君も頑張ってください」
「はい、シンさんもお気をつけて」
それぞれが励ましたり軽口を叩いたりして、そして最後に腕をぶつけ合って互いの健闘と無事を祈って銘々の道を進んでいく。
アリエス達の姿が見えなくなるまで見送ると、スッとスイッチが入った様にフィアやキーリの空気が変わった。
「さて、ここからは慎重にな」
これまでよりも通路はずっと薄暗く、道幅は六人が広がって歩いても問題ない程にはまだ広いが入口付近よりも幾分狭くなっている。フィアが声を掛けて腰の小型のランタンを灯し、キーリ達もまた点けるとそれなりに見通せる程には明るくなった。
「大丈夫だとは思うんだが……皆、何が起きるか分からねぇ。注意しろよ?」
「はい、分かってます。大丈夫です」
「うぇ? 普通にモンスターと罠に気をつけりゃいいんだろ?」
キーリの言いたい事を理解したシオンはしっかりと返事をするが、イーシュは不思議そうに首を傾げた。
ガゴン、とキーリの拳がイーシュの頭を景気良く打ち鳴らした。
「お・ま・えって奴はぁ……! こないだシオンの店で言っただろうが……!」
「がががががががっ! お、思い出した思い出したっ! だだだだだからその手ををををぉぉぉっ!?」
むんずとイーシュの頭を鷲掴みにしてギリギリと締め上げ、洞窟内に悲鳴が木霊した。ブクブクと泡を吹きながらキーリの腕をタップするイーシュを見かねたか、呆れながらもフィアが割って入って止める。
「イーシュの鳥頭は処置なしだがキーリもそこまでにしておけ。これ以上じゃれてるとクルエ先生から減点されそうだ」
「迷宮内でも何時も通りなのは立派ですが、あんまり緊張感が無いと教師という立場上採点を辛くしないといけませんので。今回は見なかった事にしますから気を付けてくださいね?」
「ったく、しっかりしてくれよ」
「いつつつつ……分かったって。悪かったよ」
「ふむ、それでは進むぞ。配置は打ち合わせ通り。先頭にレイスでその後ろをキーリ。私とシオンでクルエ先生を挟んで、殿はイーシュだ」
「畏まりました」
「おう、任せとけって」
「頼りにしてるからな」
「前みたいに突っ走らねぇから泥舟に乗った気持ちで居ろよ」
「……頼りにしてるからな?」
胸をドンと自信満々に叩きながら不安な間違いを口走るイーシュ。キーリだけでなくレイスやシオンも口元を引きつらせ、フィアは心の中だけで後ろも注意していようと誓った。
そうして一行はゆっくりとした足取りで進んでいく。一歩一歩、壁や天井、または足元に罠の類が無いかを確かめながら石橋を叩くように歩く。当然、先日のティスラの件が全員の頭の中にあるが故だが、今回は前回の試験の様に時間制限もないため殊更に慎重だ。
「皆様、お止まり下さい。この先に罠があるようです」
「分かった。レイス、シオン頼む」
「分かりました。レイスさん、場所を教えてください」
「イーシュ。クルエを」
「へいへい。んじゃ先生、こっちに」
そんな彼らの様子に首をひねるのは事情を知らないクルエだ。イーシュとフィアに挟まれる形で前線から引き離されるが、迷宮内のD-ランク以下のエリアでは即死級も広範囲に及ぶような罠は存在していないはず。授業でもそういった点は教えているし、成績優秀な彼らがそれを知らないとは考えづらい。もちろん万が一ということもあるがクルエから見ても必要以上に距離を取っているように思える。
「……大丈夫です、この辺りの魔素を消費してしまうくらいの魔法陣です。大したことはありません」
シオンが解析して効果を告げると少しだけ空気が緩む。だがすぐにまた張り詰めたものになり、その空気を感じながらレイスが罠を解除する。
隊列を組み直し、安全になった道への進行を再開した。無言で誰も口を開こうとしない。お調子者のイーシュでさえ空気に当てられているのか喋ろうとしない。足音と剣や鎧が擦れる音だけ静かに響く。
「少し慎重に過ぎてはいませんか? 慎重なのは結構ですが、食料は二日分しかないのは覚えておいてくださいね?」
「……そうですね。少し速度を――!」
慎重過ぎるとの思いはフィアも持っていたのか、クルエがアドバイスを口にし、彼女も同意しかけたその時、彼女は前方のキーリの纏う気配の変化を感じ取って脚を止めた。
直後にキーリが手を挙げて後列を制止し、キーリ同様に周囲の気配に敏感なレイスがすぐさま闇に溶け込んでいく。足音を殺し、迷宮の奥へとレイスは疾走した。
「……流石ですね。まだそれなりに距離はあるのに気づきましたか」
「レイスとキーリの探知能力は私達の中でも優れていますから」
「モンスターなんだろ? おしっ、やっと出番が来たぜ」
クルエが感嘆し、胸を張ったフィアの横でイーシュが気合と共に剣を一振りして気持ちを高めていると、程なくしてレイスが戻ってくる。
「レイス、報告を頼む」
「はい。グリーズベアが四匹、こちらに向かっています。どうやら腹を空かせているようで、かなり気が立っています」
「グリーズベア? それは本当ですか?」
「はい。間違いありません」
モンスターの名を聞き、クルエは小さく唸った。
グリーズベアは熊を彷彿とさせるモンスターだ。大柄な肉体を持ち、通常の熊に比べて遥かに皮膚は硬く、動物の熊よりも素早く力もずっと強い。特に鋭い爪の攻撃は並の冒険者にとって脅威の一言だ。爪の先端には毒があり、致死性こそ無いものの動きを鈍らせる。そしてDランクのモンスターであり、まだEランクエリアであるここらで本来ならば現れるはずのないモンスターでもある。
「……道を戻りましょう」
すぐにクルエは、教師として決断した。D-までのモンスターで、かつ一匹程度であれば十分試験範囲であり、生徒たちに判断を任せるところだが、更に格上のモンスターでかつ四匹の群れともなれば到底養成学校の生徒たちの手に負えるレベルではない。一人前の冒険者であっても苦戦は免れない相手だ。
「いや、無理みたいだぜ、クルエ」だがキーリが首を横に振った。「こっちに気づいたみたいだ。ここ目掛けて走ってきてる」
「……それでも君たちの脚なら逃げ切れるでしょう。僕が足止めしますから――」
「いや、心配には及びません」
落ち着いた様子であるフィアの凛とした声がクルエを遮った。
2017/6/25 改稿
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