15-10 イエスタディをうたえるように(その10)
第63話です。
宜しくお願いします。
<<主要登場人物>>
キーリ:本作主人公。体を巡る魔力は有り余っている反面、各要素魔法との相性が壊滅的に悪い。教会の聖女を始め、英雄たちに激しい憎悪を抱いている。
フィア:赤髪の少女でキーリ達のパーティのリーダー格。自分が考える「正義の味方」を追い求めている。
アリエス:帝国出身の貴族のお嬢様。金髪縦ロール。実はかなりムキムキマッチョウーメン。
ユキ:キーリと共にスフォンへやってきた少女。キーリとの付き合いは長いらしく、事情に詳しいが語ることを禁じられているらしい。
キーリの話は、魔の森に居たあの日から始まった。
時系列に沿って思いつくままに語られる話はまとまりがないものであったが、二人は黙って耳を傾けていた。
そしてやってくる運命の日。ユーミルと村に戻ってきた時のあの光景。ルディとエルを見殺しにして生き残り、ユーミルも救えなかった無念。村に戻って目に焼き付けた惨状。淡々と感情を押し殺してキーリは語る。
話はスフォンにやってきたところに飛ぶ。最初は仲間なんて作るつもりは無かったこと。適当にクラスメートと話を合わせる程度でいるつもりであったこと。だが、フィア達と過ごす時間が思いの外居心地が良くて、毎日が楽しかったことを告げていく。
フィア達と過ごす日々は居心地が良すぎて、復讐心が鈍っていた。ルディ達の事を忘れかけていた。このまま、のんびりと彼女達と共にただの冒険者として生きるのも悪くないと思いかけていた。仲間を傷つけずに復讐を、凶刃を胸の中で鞘に仕舞って、穏やかに生きる生活も有り得る未来なのだろうと感じていた。
だが、それではダメなのだ。それをムエニ村の一件で思い知った。
思い出にはできないのだ。ルディやエル達がそんな事を望んでいない。それでも過ぎ去った日にするには、キーリには重く苦しすぎた。何故彼らがあのような凶行に及んだのか聞き出し、そして自らの手で苦しませながら殺さなければ過去は清算できない。
『強く、生きて』
最期に残したエルの言葉。清算しないまま時を過ごし、復讐心を鈍らせてしまうといつか不完全な感情の昇華はキーリを食いつぶす。やがて刹那的で破滅的な人生を過ごして彼女の最後の願いさえ叶えてやれない。理屈ではなく直感でキーリは自らの未来を悟ってしまっていた。
だからキーリはフィアやアリエス達から離れようと思った。業火のように熱く滾り、キーリを焦がしている思いを手放す訳にはいかない。しかし仲間と復讐の両方共保持しようとすればきっと、キーリは仲間を傷つけてしまう。
復讐を果たそうとすれば彼ら彼女らは止めようとするだろう。そうなった時、キーリは間違いなく彼らを斬り伏せてでも進もうとする。それはキーリにとっての確信であった。
だがそんな真似をしたくない。関係が深くなり、フィア達に対する繋がりが太くなるほどに苦しくなる。離れるのも、傷つけるのも身を焦がされるような苦痛を伴ってくるだろう。だから今のうちに離れて関係を清算する。
数年も顔を合わせずに過ごせば、例え自分がヘマをして捕まっても彼女らに累が及ぶ事はなく、自分も心置きなく復讐にのみ専念できる。そして、それが一番なのだ。キーリは固くそう信じたのだった。
一息にそこまで独り語りをし、話は終わったとキーリは虚ろな目をしたまま息を吐き出して、迷宮の壁に背中を預ける。彼が纏うその空虚な空気は、全てに疲れた老人の様にアリエスは思えた。
「……」
感情無き声で、まるで他人事の様なその話をフィアは目を閉じて聞き続けていた。話が終わっても眠りについた様に目を閉じていたが、やがて徐ろに起き上がる。
体勢を変えて項垂れたままのキーリと向き直り、そして――彼の頭をそっと抱きしめた。
「――っ!」
「動くな。逃げなくていい」
突然のフィアの行動。頬に感じる女性らしい柔らかで暖かい膨らみ。キーリは湧き上がる戸惑いと理由の分からない恐怖に駆られて彼女を突き放そうとするが、フィアはしっかりと抱きしめて離さない。
「話してくれて感謝する。大変だっただろうとは思うが、辛かったな、と安易に同情してもいいものかは私には分からない」
「同情なんて……」
「そうだな。お前の気持ちを理解できるなどと烏滸がましいことを言うつもりはない。お前の感情は抱いたお前にしか分からないからな。お前も同情など望んでいないだろうし、同情する事はお前の抱いた感情に対して失礼なのだろう」
「なら離せよ……」
「断る。
キーリ。それでも一つだけ私にでも言える事がある」
「なんだよ……」
「泣いて、いいんだ」
胸に掻き抱かれたままキーリは目を見開いた。
「悲しかったら泣いていいんだ。辛かったら涙を流していいんだ。心に正直になっていいんだ。一人で抱え込まなくて、たまには誰かに喚き散らしたっていいんだ。苦しさを吐き出して、泣きじゃくったって構わない。我慢なんてしまくていい。私だってそうだった」
母を、兄を亡くした時、全てがぼんやりとして見えて、まるで何もかもがすぐに壊れてしまいそうに思えた。フィアはキーリを抱きながらかつての己を回顧する。何にも心を震わせる事ができなくて、生きていることさえ曖昧で、けれどその思いは形にすることもできず胸に仕舞い込んだままであった。
そんな時にレイスが居てくれた。少しだけ年長の彼女に抱かれ、彼女を抱きしめて、声を上げて泣いた。一緒に彼女も泣いてくれた。静かに、何も言わずにしっかりとフィアの体を、心を抱きしめてくれた。だから自分は立ち直れた。
あの日のレイスの様に、キーリの悲しみの受け皿になりたい。
「涙は全てを洗い流してくれると私は思うんだ。綺麗さっぱり、とまではいかないが心に溜まった重く濁ったものを少しずつ薄めていってくれる。そうすることで私達は少しずつ前に進む活力を得られる。辛さを、悲しみを無理なく思い出にしていってくれる。だから……お前も泣いていいんだ。泣くのを、怖がらないでくれ」
穏やかにそう諭すように耳元で囁き、キーリの頭を一層強く胸に押し当てる。
フィアの鼓動がキーリの耳に届く。ドクン、ドクン、と力強い脈動だ。それでいて優しい鼓動だ。その音を聞いているだけで心が落ち着き、だが乱れ、訳も分からず昂ぶってくる。
声が聞こえた。それは嗚咽だ。泣きじゃくる声だ。一体誰の、と思い、そしてそれが他ならぬ自分の口から漏れているのだと気づいた。
気づけばもう止まらない。涙が次々に零れ落ち抱きしめる彼女のズボンを濡らしていく。
フィアも、アリエスも目を閉じた。ただ彼の声だけを聞いていた。
「おれ、は……親父と、お袋が居なく、なって、一人になって……でもルディ、とエルは本当の、子供みたいに愛してくれた……そん、な二人がおれ、も大好きだった。愛して、たんだ……本当に……愛、してた」
「ああ……」
「だけどあいつ、ら……が全、部奪った。おれか、ら、おれの大事な人を全部奪った、んだ……だから許せなかった。ぜったい、ぜっ、たい殺してやるって思った……」
「……」
「許せ、なくて……でも俺、は子供で、弱っちく、て……強くならなく、ちゃって思った。何もかもを捨ててでも……強くならなくちゃって誓った、んだ……だけどフィア達と出会って、楽しくて、一緒に居たいって……」
「お前も、私達を大切に思ってくれてたんだな。嬉しいよ、ありがとう……」
「でも……怖かった。傷つけるのが怖かったんだ。それ以上に……嫌われるのが本当は怖かったんだっ……!」
キーリの語気が強くなる。堪えきれなかった感情が堰を切ったように溢れ出し、全身を震わせる。指が、フィアの肩に強く食い込んだ。
「こんな……汚い感情を持ってて、皆みたいにキレイな人間になりたくって……! でも、でも忘れられないんだっ! ずっと、ずっと……寝てるとルディやエルが俺を責めるんだ……毎晩夢の中で俺の不甲斐なさを責めるんだっ……
そうしてる、と、自分で感情が荒んでいく、のが、分かるん、だ……お前らみたい、にキレイに生きられなくって、俺とは生きる世界が違う、んだって、村から帰りながら思った……
こんな気持ちを持ってる、のがバレたら……皆を傷つけ始めたら嫌われると、思ったんだっ……! そしたら俺はまた一人だ。また俺の傍から大切な人が、居なくなるのが、一人になるのが……怖かった。だったら……最初から一人で居れば、良いって思ったんだ……
そんなの、良くないって、ダメな解決法だって、分かってても他にいい方法が思いつかなかったんだ……」
たどたどしく、荒々しく。必死に言葉を紡いで心を吐き出したキーリを、フィアは抱きしめたまま、優しく背中を叩いてあげる。
「馬鹿だな……」
「本当に、お馬鹿さんですわね……」
アリエスはキーリの傷んだ白銀の髪を手櫛で梳いてやりながら、そう呟く。だが言葉通りではなく、その手つきも、彼を見守る目も優しい。
「どんな感情を、どんな想いを抱いていようとキーリはキーリだ。嫌うわけなかろう」
「これでもワタクシもキーリの事をと、とも、友達と思ってますのよ?」
「そこでどもらなければ決まったのにな」
「う、うるさいですわ! 仕方ありませんこと! 自分から口にするのは恥ずかしいんですの!」
フィアが茶化し、アリエスが顔を赤くしてそっぽを向く。いつもの、キーリが知る、キーリの好きな空気感がそこにあった。それが堪らなく嬉しくて、その中に居てもいいのか不安で。だけど――
フィアはキーリから体を離し、両手で優しく顔を包む。そして優しく微笑んだ。
「だから――これからも私達と一緒にいてもいいんだぞ?」
その言葉でキーリの感情の堰が完全に開いた。顔をクシャクシャに歪め、並んで微笑む二人に縋り付くと大粒の涙を零していった。
「うあぁぁぁぁぁぁっ……!!」
迷宮に響く慟哭の声。幼い子供のように泣き叫ぶ彼の頭を、二人は互いに顔を見合わせて揃って優しく撫で続けた。
これまでに溜まったものを全て吐き出すようにしてキーリは泣いた。その激しい感情の奔流は次第に治まっていき、やがて静かに鼻をすするだけになる。
はぁ、と乾いた吐息が最後に二人の腕に掛かる。ゆっくり顔を上げ、一度二人からは見えないように天井をキーリは仰ぎ見た。そしてゴシゴシと乱暴に目元を拭って、だがまだ何処か涙を堪えているように不格好に口元を歪めてフィア達を見た。目元を真っ赤に腫らしたその顔は、憑き物が落ちたように何処かスッキリしているように見えた。
「もういいのか?」
「ああ……これ以上弱ってる姿は見せたくねぇからな」
「今更ではなくて?」
「男ん子のちゃちなプライドって奴なんだよ。ついでに言えば、今の事は記憶から抹殺しといてくれりゃなおありがてぇ」
「それはお断り致しますわ」
「せっかくキーリの弱みを握ったんだからな。しっかり今後も利用させてもらうさ」
「だよなぁ……ったく、可愛い顔して女ってのは強かだよな」
「あら? ご存知ありませんでしたの? 弱かったら女なんてやってられませんのよ?」
別に恥ずべき事とは思っていないが女に縋り付いて泣いた、というのは男のプライド的な話として中々に恥ずかしい。無駄だと思いつつも無かった事にできないだろうか、と一縷の望みを託しての懇願だったが、息の合った二人の反撃に撃沈した。もちろん二人としても吹聴するつもりもなければ、今回の事でキーリに何かしてもらおうなどとも思っていない。
「さ、キーリも捕まえた事ですし、いつまでもこんな殺風景な場所に居たくありませんわ」
「そうだな。夜が明ける前に少しくらいはベッドで眠りたいな……授業、サボるか?」
「珍しいな、フィアからそんな事を言い出すなんて。いつもは机に頬杖突いて舟を漕いでんのに」
「いつもと言うな。偶にそういう日もあるのは認めるが……このままではまたオットマー先生の部屋に連行されるのが目に見えているからな。偶にはそういった不良行為も悪くないと思ってしまうくらいには私だって眠いんだ」
「血をだいぶ失いましたものね。とりあえずは出ますわよ。少なくとも夜が明ける前にはここを脱出したいものですわね」
「だな。フィア、立てるか」
「ああ……っと」
ずっと座っていたからか、それとも体力を思った以上に失っていたのか。立ち上がったところでフィアの体がよろけ、キーリは彼女の肩を掴んで支えた。
「ほら、無理すんな」
「すまない」
「そこは『ありがとう』だろうが」
「ふふ、そうだな。ありがとう。感謝する」
「あらあら。随分と仲睦まじいことですわね」
「茶化すな」
アリエスにからかわれフィアは少し頬を赤らめ、キーリはジト目を彼女に向ける。
三人は迷宮の外に向かった。三人共特別おしゃべりというわけではないため会話は散発的だ。だが居心地が悪いわけではなく、互いに気を遣う必要がないだけ自然体でいられる。
「なぁ……」
迷宮の出口まであと少し、というところでキーリが言いにくそうに口を開いた。フィアは振り向かず、アリエスはキーリの顔を一瞥だけして「何?」とどちらともなく尋ねる。
「俺、やっぱ復讐するの諦めきれそうにねーわ」俯き気味にキーリは話す。「別にルディとエル……親父とお袋もそんな事望んじゃねーだろうけど、俺が許せねぇ。俺の気持ちが治まらねぇ。俺の大切なモンを奪っといて、そのくせに何の罰も後悔も無くのうのうと生きてんのが……俺は我慢ならねぇ」
「……別に良いんじゃないか」
心情を吐露するキーリにフィアは同意を示した。まさか肯定の返事が来るとは思っていなかったキーリは思わず顔を上げた。
「良い、のか……?」
「キーリの身に起きた事を考えれば、当然の感情だと思う。そこを否定するつもりはないさ。それに……正直に言えば、英雄たちには私も良い感情は元々持っていなかったしな」
「褒められた事じゃありませんけれど……確かにキーリにしてみれば現状は納得は出来ませんわよね。ただ、向こうにも事情はあったのかもしれませんし、ワタクシは一概には肯定できませんけれど」
「そっか……」
自分の気持ちを否定されない。それだけでキーリは十分だった。嫌わないと言ってくれていたが、実際にこうして態度でも示してもらえると嬉しい。少し強張っていた表情が和らいだ。
「だが……先日みたいに向こう見ずに突っ込んでいくのは認められないな」
「聖女に襲いかかろうとした時は流石に肝が冷えましたわ」
「あれは……悪かったよ。ゴメン」
「特にお咎めも無かったですし、その謝罪だけで十分ですわ」
「しかし、どうしたものかな……シオンの言っていた通り、私はお前にはお尋ね者にはなってほしくない。あのような所業をした英雄たちは罰せられるべきだと思うが、かと言って私刑のような真似はパーティのリーダー役としても認めるわけにはいかないしな」
「ああ、それは分かってる。俺だって、お前らに迷惑が掛かる形で復讐しようとは思ってないからな」
「それを聞いて安心しましたわ。と、友達が世界中で指名手配とか、想像しただけでゾッとしますわ」
「……いい加減『友達』って言葉に慣れろよ」
相変わらず「友達」のフレーズのところだけどもるアリエスにキーリは呆れた視線を向ける。
唇を尖らせてそっぽを向くアリエスを見て笑うフィアの隣で、キーリは前を向いた。
「だから俺は――強くなる。お前らと一緒に」
強くなって強くなって、あの聖女を倒せるような強さになれた時。
「あの女はたぶんAランク……それも上位の実力はあるだろうと思ってる。なら倒せるくらいになったその時には俺もAランクの冒険者になれてるはずだ。そうなったら、誰も俺を無視できなくなる」
「なるほど……Aランク冒険者ともなれば国にとっても最重要人物の扱いになりますわ。過去に受けた人は殆ど居ないですけれども、帝国だと望めば名誉貴族として伯爵に準じる扱いにもなりますわね」
「ああ。別に貴族になりてーとは思わねぇけど、それくらいになれば、奴らの事を糾弾しても黙殺される事はねぇはずだ」
実際に事はそう簡単では無いだろう、とアリエスは思う。だがそれは敏いキーリなのだから、それを理解した上で単純にそう言葉にしたのだろう。
頷くアリエスの隣でフィアは口元に手を当てて何事かを思案していた。
「そうだな……少なくとも発言力は無視できないだろう」
「そうだ。だから俺は全力を尽くす。誰もが認める形で復讐を果たせるように」
そう言うとキーリは二人の間からするりと抜け出て、二人の前に立って手を差し出した。
「キーリ?」
「これは俺の我儘だ。迷惑かけねぇって言ってもたぶん、実際にはいっぱい迷惑かけるだろうと思う。
それでも……俺と一緒に居てくれるか?」
それは最後の確認だった。落ち着いた、冷静な判断が出来る状況でキーリはもう一度確認したかった。
そして、そんな質問の返答など分かりきっている。
「ふっ、当たり前だ」
「ワタクシたちだけじゃなくて、シオンもカレンもレイスも、他も皆同じだと思いますわ」
二人はしっかりとキーリの手を握り返した。それが全ての答えだった。
キーリに重ねられた手は、とても暖かかった。
迷宮の出口が見えてくる。
夜は明け始めていていた。出口から真っ直ぐ伸びる大通りには遮るものが無く門も開け放たれたままのため、顔を覗かせ始めた太陽の光が迷うこと無く迷宮へと飛び込んでくる。
その眩さに三人は目を細めた。入り口に居るはずの兵士の姿は何故かおらず、不審に思うも居ないなら好都合と堂々と外へ出ていく。
中と外の明るさの違いに目が眩む。刹那にも満たない白に視界が染まった後に、陽光を遮る影が門の奥に見えた。
「あ……」
そこには皆が居た。
シオンとカレンが心配そうな顔で待ち、レイスがいつも通りドレスのエプロン部分に手を重ねて立っている。
ギースは腕を組んで待ち遠しいとばかりに小刻みに足を踏み鳴らしていた。そんなギースを両脇からイーシュとシンがからかい、宥めていた。
「ほら、皆お前の事を待ってる」
「早く行って、安心させてあげなさいな」
声を上げて呆けたキーリの肩を二人が軽く叩き、背中をそっと押した。
脚は自然と走り出した。自分が、本当はこんなにも仲間と居たいと思っていたのだと今更ながらに気づく。
シオン達も迷宮から出てきた三人に気づいて、誰からともなくキーリに向かって走った。
話をしようとキーリは思った。こんなにも自分を待っていてくれる人に、もっともっと自分の事を知ってほしくて、彼らの事を知りたいと思った。
まだ、ルディやエルの話をするのは辛い。思い出すだけでも喉が詰まって呼吸が難しくなる。けれど、今はそれで良いのだ。まだそれで構わない。彼らと共に楽しくて、苦しくて、でも笑い合える時間を過ごせれば。
そうすればいつかきっと、辛い記憶も笑って話せるようになる。そんな予感がした。
キーリは立ち止まる。シオン達も立ち止まる。互いに向き合い、キーリは申し訳無さと気恥ずかしさで頭を掻いて誤魔化す。何と言っていいのか、前世も含め三十年以上生きているのに未だに分からないのは情けないな、と思いながらも上手い言葉が見つからない。
「キーリさん」
シオンが一歩前に出た。頭一つ分くらい下からキーリを見上げ、そして、言った。
「おかえりなさい」
ニコリと幼い顔が笑みを形作り、髪から覗く耳がピコピコと喜びを露わにしている。
キーリは、言うべき言葉を見つけた。
「ああ――」
顔が自然と綻んだ。
「ただいま」
2017/6/4 改稿
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