15-8 イエスタディをうたえるように(その8)
第61話です。
宜しくお願いします。
<<主要登場人物>>
キーリ:本作主人公。体を巡る魔力は有り余っている反面、各要素魔法との相性が壊滅的に悪い。教会の聖女を始め、英雄たちに激しい憎悪を抱いている。
フィア:赤髪の少女でキーリ達のパーティのリーダー格。自分が考える「正義の味方」を追い求めている。
アリエス:帝国出身の貴族のお嬢様。金髪縦ロール。実はかなりムキムキマッチョウーメン。
ユキ:キーリと共にスフォンへやってきた少女。キーリとの付き合いは長いらしく、事情に詳しいが語ることを禁じられているらしい。
分かれ道を進んでいった二人はその後も幾度と無く戦闘を重ねていく。
Dランクモンスターを圧倒したことで二人の自信は確かなものになっていた。現れるEランクモンスターなどは少数なら当然、例え数が多くとも相手ではない。
キーリと違って二人は攻撃魔法の技術も高い。加えて何十、何百というモンスターを前に立ちまわった経験もある。十を超えるEランクモンスターであっても魔法を中心にして蹴散らしていく。
一方でDランクモンスターがEランクの様に大きな群れをなして現れる事は滅多にない。出て来るとしても先程のオーク同様数匹程度。そちらも先ほどと同じように少々のダメージこそ受けるが、問題なく各個撃破していった。
そうして順調に進んでいき、また一つ迷宮内の階段を降りた二人だったがその脚が不意に止まった。
「なんですの、この強烈な臭いは……」
降りていくにつれて強くなっていく悪臭。空気自体が粘り気を帯びたように鼻孔にまとわりつき、アリエスの不快さを増していく。漏れた呟きは疑問の形をしていたが、その臭いが何であるかはすぐに気づいていた。
「血の、臭い……」
「……進みますわよ、フィア。キーリがいるかもしれませんわ」
どちらともなく二人は走りだした。鞘に仕舞っていた剣を抜き出し、いつでも戦闘ができる状態で濃い血の臭いの中を駆けていく。
(怪我をしていなければいいのだが……)
臭いの元がモンスターのものであって欲しい。フィアはそう願いながら、キーリのいる場所へ近づくのを感じ取っていた。
緩やかなカーブに差し掛かると戦闘音が大きくなる。今まさに戦いが行われている。それはきっとキーリのものだ。そう確信し、走る脚に力が込められる。
そして現れた光景。二人は言葉を失った。
そこにはおびただしい数のモンスターの死骸が転がっていた。あちこちから魔素の粒子が湧き出し、斬り裂かれたり無理やり引き裂いたような肉体が散らばっている。壁にも血の跡がこびりつき、付近一帯が濃い死の臭いに満ちていた。
「オーガにゴーレム……こいつら全部Cランクモンスターですわ!」
「これを全部キーリが倒したというのか……」
何体ものCランクモンスターを打ち倒す事ができるキーリの本気の実力。それを感じ取れる惨状だが、二人が衝撃を受けたのはそこでは無かった。
倒されたモンスターの死骸の切断面や肉体の端々。それらは異常だ。感じ取れるのは強い狂気。必要以上の攻撃が加えられ、引き裂かれている。徹底的に叩き潰さんとばかりの強い執念が伝わってくるようだ。
同時に、近くに居るであろうキーリから漠然とした怒りにも似た感情が流れ込んできているような気がして、フィアは頭がクラクラと揺れる様な感覚を覚えた。それを強く奥歯を噛み締めて耐える。
「行こう……」
「ええ……」
アリエスもフィアと似た印象を抱いたようで少しその顔を青ざめさせており、だが短く息を吐き出して手に持ったエストックを強く握った。
これまでよりも一層強い慎重さで進む。聞こえるモンスターの雄叫び。まだ戦いは行われている。より緊張が高まり、口の中が乾いていく。
そして広間に彼女たちは辿り着いた。血と魔素と腐臭が立ち込める中、迷宮の壁が放つ仄かな明かりで照らされて戦うキーリの姿がついに現れた。
「ぐるぅぅああああああああぁぁぁぁぁっ!!」
獣のような叫び声。モンスターのものとも思えるそれがキーリの喉から発せられていた。
ボロボロになった剣に風をまとわせて振るい、オーガを斬り裂く。血を撒き散らすオーガの腕を掴むと、片腕で持ち上げてそのまま地面に叩きつけるようにして投げ飛ばす。倒れたところで馬乗りになると拳を振り下ろして頭部を粉砕した。
脳漿が飛び散り、丸い眼球が零れ落ちる。凄惨な死体を創り上げるとキーリは即座にその場を飛び退いた。
死んだオーガの体に、マジックオークから放たれた石の槍が突き刺さっていく。広範囲に放たれたそれがキーリの体にも突き刺さろうとしていた。だが、キーリの体に纏わりつく黒い靄のようなものが石の槍との間に割って入り、吸い込まれていく。
「フギィィィィィィィィッ!?」
そして靄に消えた石の槍はマジックオークの背後に突如として出現し貫いた。自らの魔法で地面に縫い止められ、戸惑いを含んだ苦痛の叫びを上げる。キーリはそんなマジックオークには目もくれず、残ったオーガやゴーレムの方へと向かっていった。
「……」
フィア達は広間の入り口で立ち尽くした。そしてキーリの戦いに意識を奪われていた。顔が不安気に歪む。
ここに至るまで何体の敵と戦ってきたのだろうか。既に疲労は相当なものになっているのだろう。獣じみた動きでキーリはモンスターたちと戦っているが、フィアとアリエスから見てその動きはかなり悪い。瞬間的な速度は出ているが、オーガやゴーレムの攻撃を避けるのもギリギリだ。訓練で見ているような動きではなく全てが雑になっている。
オーガの手にしていた、かつて冒険者が手にしていたのであろう錆びた剣が振るわれる。キーリは当たる直前までそれを避けようともせず、オーガに迫る。ギリギリのタイミングで避けて、かわしきれなかった剣戟で腕の皮膚と肉が僅かに抉られ、キーリの腕から血が飛び散った。だがそれによりキーリはオーガの懐に潜り込み、下からその膂力を活かした強烈な打撃を加えてオーガを吹き飛ばしていった。
しかし直後、キーリの背後を冷気が覆った。先にアリエスが使ったブリーズ・バレットを傷ついたマジックオークが行使し、多くの弾丸がキーリに飛来する。
「キーリっ!!」
キーリもそれに気づいた。だが彼は弾丸を避けず、逆に向かっていった。雨の様に飛んでくるそれらのど真ん中に突っ込んでいき、怯む様子はない。
弾丸に貫かれた肩、手足から血を迸らせながら一直線に駆け抜けた。痛みを、まるで楽しむように口を開けて笑い、怪我など些細なことであるとばかりにマジックオークに接近。そのまま血の流れる腕で大剣を振り下ろして頭部を叩き潰した。
「なんて戦い方をしてるんですの……!」
戦慄を覚え、思わずアリエスは震えながら言葉を吐き出した。
見ていて感じるのはキーリの異常な戦い方だ。致命傷こそ避けているが、傷つくことそのものを一切恐れていない。それどころか許容し、傷を負うことを選んでいるようにさえ思える。全身から血を流し、動く度に赤い飛沫が飛び散るその様は恐怖感さえ想起させた。
二人が唖然している前でゴーレムの豪腕がキーリの体を捉えた。
自らノックバックしてダメージを減らすが殺しきれなかった衝撃でキーリは壁に叩きつけられる。口からは刹那に苦悶が漏れるがすぐに横に飛び退き、壁をえぐる程のゴーレムの打撃を避けて致命傷を免れる。
そして腕に影のような何かをキーリはまとわせた。壁に突き刺さった腕を抜くためにがら空きになったゴーレムの横っ腹を、その腕から伸びた影が抉り取っていった。ゴーレムは声無き悲鳴を上げるように天井を仰ぐがすぐに腕を振り下ろす。しかしキーリはヒラリとかわし、影で石の体を次々と削り取っていく。
「……」
フィアは言葉が無かった。
駄目だ、まだ実力が違いすぎる。それがフィアが抱いてしまった偽らざる思いだ。キーリを助けようと思っていたが、自分よりもずっと強いCランクモンスターの実力と、それらを相手にして一人で互角以上に立ちまわるキーリの姿を目の当たりにしてフィアは萎縮してしまった。DランクとCランクではこれほどまで差があるのか。介入など出来そうにない。フィアは戦闘を離れた場所から眺めているしか出来なかった。
それでも――
(本当に……それでいいのか?)
違うだろう、自分。まだ届かないからって、こうして安全な場所から見ているだけじゃダメだろう。泣いて縋って、キーリを連れ戻すような人間じゃないだろう。そんなもの、自分には似合わない。キーリに背中を本気で預けてもらえる、そんな人間になるんじゃなかったのか。
フィアは一度俯き、腹に力を込め、歯を食い縛ってキーリとモンスターを睨みつけた。
湧き上がる恐怖を押さえつけ、彼女が一歩を踏み出したその時――
「な、なんだっ!?」
地面が揺れる。周期的に足元が振動し、ゴリゴリという何かを削り取るような音が低く響いてきた。
思い出されるのは探索試験での記憶。
「また迷宮が成長するのかっ!?」
「いえ、違いますわっ! これは……まさかっ!?」
アリエスが振動の正体に思い至ると同時に、キーリ達の直ぐ側の地面が割れた。
そこから飛び出してきたのは、直径一メートルを超えようかという程の太さを持つ一本の白い棒だった。
蛇腹のように波打った胴体に十メートル近い全長。先端部には醜悪でおぞましい触手のようなものがうねっている。飛び出したそれは体をくねらせたかと思うと、遥か頭上からキーリやオーガ達を見下ろした。
Cランクモンスターでも最も討伐困難なカテゴリーに分類される巨大モンスター――ダンジョンワームのその顔は、笑っているように見えた。
「ちっ、ダンジョンワームか……」
厄介な敵が現れたとばかりにキーリは舌打ちをした。
このモンスターの厄介なのは、巨体さも然ることながらその肉体の柔らかさ。ぶよぶよの気持ちの悪い感触は打撃の衝撃を吸収するし、なまくらな剣では傷つけるのも難しい。前衛役が引きつけて、後衛役が魔法で攻撃して倒すのがセオリーだが、表皮上の粘膜が熱を吸収するため半端な火力では有効なダメージを与えることができない。
だがこの場にはキーリ一人。炎神魔法も水神魔法もダメージを与えられる程の火力は無い。
加えて、既に自身の体力が尽きかけているのを自覚している。というよりも、そこまで望んで追い込んだのだ。生きるか死ぬかのギリギリの戦いを乗り越えてこそ実力が付くというもの。むしろ今の状況は望むところだ。キーリは無理やりに笑みを浮かべてみせた。
「――、――っ!」
仲間が増えたと思っているのだろうか。ゴーレムが無機質な音を発する。重い巨体に似合わない敏捷な動きでキーリに攻撃を開始した。だが、先ほどキーリに体の一部を抉り取られたためか動きのバランスが悪い。
一方で、残っていたオーガは動こうとしなかった。キーリを視界に入れつつもダンジョンワームの方に注意を払っているようだ。そして、それはキーリから見ても正解だった。
ゴーレムが動くと同時にダンジョンワームは一気にその口の部分を地上目掛けて振り下ろした。巨大な体が鞭の様にしなり、キーリ達目掛けて迫ってくる。
「んなろっ!」
キーリは力を振り絞り、ゴーレムの石腕を避ける。鼓膜を風圧がビリビリと刺激し、掠めた腕が耳の一部を斬り裂いて鋭い痛みが刹那だけ走る。無駄な動きをする余裕はなく、チャンスを逃すわけにはいかない。黒い影を生み出した左腕を突き出し、ゴーレムの心臓――コアを抉り取った。そしてすぐにその場から飛び退く。
心臓部を奪われたゴーレムの目の部分から光が消え、動かなくなったゴーレムの体をダンジョンワームの肉体が叩き潰していった。元々もろくなっていた肉体が衝撃で砕かれ、ゆっくりと地面から再び持ち上げると潰れた石の欠片たちを食らっていく。
ダンジョンワームは恐ろしいまでに悪食だ。巨体を維持するのに大量の食料が必要なためか、冒険者達は当たり前のこと、同じモンスターや挙句土や石でさえ彼らにとっては食料なのだ。迷宮の通路は、全てワームが喰らった通り道だという都市伝説さえあるくらいに。
強靭な顎で砕かれ、かつてゴーレムだったものがワームの胃の中に飲み込まれていく。知能が高くないため、こうして食事中は食事にのみ集中しておりキーリの事は意識から離れている。キーリは残ったオーガに向かって走った。
対するオーガは知性は、ゴーレムと違ってそこそこに高い。ワームの意識が逸れた事でオーガもまた同様にキーリに集中させたのだろう。剣を振り上げ、キーリを迎え撃つ。
古びた剣が風を斬り裂いた。暴風を伴ってキーリを両断しようとし、だがキーリの体はそこにはない。ただ強かに地面を叩いた。頑丈なだけの剣が地面にクレーターを作り、礫が飛び散る。キーリは高く舞い上がってそれらを避けると、オーガの真後ろに着地した。しかしオーガもそれを読んでおり、即座に横に剣を薙いだ。
驚異的な反射神経を駆使し、仰け反ることでそれをかわしたキーリはそのままオーガの腕を蹴り上げる。ボキリと骨が折れる音がした。
「グガアアアアァァァァッ!!」
「うるせえんだよ」
耳をつんざく悲鳴に悪態を残し、キーリは自分の大剣をオーガの土手っ腹に叩きつける。半ばから剣は折れ、それでもキーリの腕力で弾き飛ばされて転がったオーガは起き上がろうとし、しかしその前にキーリの折れた剣が喉に突き立てられた。
体から魔素の粒子が溢れ出し、それは最後のオーガが絶命した事を示していた。それを見届けたキーリの表情には疲労が色濃く現れている。
ここしばらくずっと、まともな睡眠さえ取れていないのだ。体の頑丈さには自信があるキーリだったが、無理は確実に体を、そして意識を蝕んでいた。
無意識の内に漏れる溜息。オーガを倒したことで安心したせいか思考にポッカリと空白が出来た。すぐ先程に現れたばかりであるというのに、ワームがまだ残っている事を忘れてしまっていた。
それでも背後から迫る殺意を感じるだけの意識が残っていたのは幸いか。ゾクリと悪寒が背筋に走ったことでキーリの意識は現実へと引き戻され、その場から横に転がった。すぐ脇の地面をワームの不格好な口が食らいつき、一息に飲み込まれるのだけは辛うじて避けた。
しかし狙った獲物が食べられなかったワームはすぐにその巨体をくねらせ、横のキーリを頭部で弾き飛ばした。巨大な質量に体当たりを喰らい、人として標準的な体重しか持たないキーリの体は衝撃に意識を半分飛ばしながら転がった。
「ガハッ!!」
思考が一瞬で吹き飛ぶ。だが真っ白になったそこを埋めるように急速に本能が思考を促す。生きろと叫ぶ。
(まだ、死ねねぇ……!)
濃い憎しみが散り散りになりそうな意識を掻き集め始める。虚ろな瞳に光が戻っていき、脱力していた体に力がこもり始める。だが、まだ足りない。
(動け、動け……俺に力を寄越せ……!)
心の中で復讐心が燃え上がっていく。ルディ、エル、ユーミルの血まみれの姿がキーリに力を与える。復讐を果たすまで、決して屈するなと責め立ててくる。
あと、少し。動けるようになるまであと少し。もっと、もっと俺に――
「キーリィィィィッッッ!!」
声が聞こえた。途端、キーリの意識が一瞬で蘇った。
キーリの体はまだ転がっていて、意識が飛んでいたのがホンの一瞬だったのを理解する。
両手両足を必死で動かし、地面を滑る体の姿勢をすぐに立て直す。
だがキーリが顔を上げると、そこにはダンジョンワームの巨大な口が広げられていた。
しかし――
「水精霊の遊芸!」
キーリを飲み込もうとしていたワームの口が突如として氷で覆われ、戸惑ったのかワームはキーリの横をすり抜けていった。壁に衝突し、覆われた氷を衝撃で砕く。
そして仕切り直しとばかりに一度大きく頭部を持ち上げ、再びキーリ目掛けて下降し始めた。
だが。
「はあああぁぁぁぁっっっっ!!」
「ギギギィィィィィィィッッッ!!」
聞き覚えのある気合の声が響いたかと思うと、耳障りな悲鳴を上げてワームは身をくねらせた。
一体何が。いや、声を聞いただけで分かっている。それでも信じたくなくてキーリは声の主を探した。
「はっ!!」
フィアが居た。剣に赤熱する炎をまとわせ、巨大なダンジョンワームの胴体を斬りつけていく。致命傷には成り得ていないが痛みは感じるらしく、斬りつけられる度にワームは悲鳴を上げて体をくねらせる。
彼女は炎神魔法。ならばさっきの水神魔法は、とキーリはアリエスを探した。
彼女はキーリ達が居る広い空間の入口のところで手のひらをかざした姿勢のままだったが、自分の方を見るキーリの姿を認めると怒ったような安堵したような、色んな感情が綯い交ぜになった表情を浮かべ、しかし最後には嬉しそうな笑みを微かに覗かせて剣を握りワーム目掛けて地面を掛けた。
呆けている場合ではない。キーリは握ったままだったボロボロの大剣をいっそう強く握った。そして悶えているワームの体目掛けて剣を振り下ろした。
「■■■、■■■――ッッ!」
切れない剣では打撃ダメージしか与えられない。到底倒せるようなダメージでは無かったがワームからしてみればそれなりに痛かったらしい。人間の言語では表現できない音を発し、一際大きく身をくねらせるとワームは頭部を地面へと突っ込んでいき、轟音を響かせてその姿を消した。
「……逃げたのか?」
まるでそうなるのが自然であり在るべき姿であるかのように、フィアとキーリは互いに背を預けあった。そこに遅れてアリエスもやってきて、三人が互いの後ろを任せる形になる。触れ合ってもいないのに、キーリは背中が少し暖かくなったように思えた。
「いえ、教科書によればダンジョンワームは頭が悪い反面、非常に執念深いと書いてありましたわ。恐らくは地面の下からタイミングを伺ってるのでしょうね」
「頭が悪いのにタイミングを伺う知性はあるのか。面白い生態だな」
「この状態で面白いと評せるフィアの頭の中の方がよっぽど面白そうですわ」
「お前ら」
だがその温もりを心地良いと認めてしまう訳にはいかない。キーリは不機嫌そうな声で二人を咎めた。
「なんでここに居やがる? ここはお前らが居ていい場所じゃねぇ。さっさと帰れ」
「キーリに言われたくありませんわ」
「同意だ。それに帰るとしたらお前も一緒じゃなければ帰らない」
「ふざけんな。だいたい入り口には門番が居ただろうが。いったいどうやって――ああ、くそ、くそったれ。ユキの奴の差金か」
普通なら間違いなく止められるはずの入り口を突破してきた方法を問い詰めようとするが、すぐにその犯人を思いついてキーリは苛立ったように舌打ちし血のついた頭を掻きむしった。
「ともかく、今からでも遅くねぇ。ワームの相手は俺がするからお前らは死ぬ前にさっさと帰れ」
「ついさっき、ワタクシ達が来なかったら死にかけてた方が仰っても説得力がありませんわよ?」
「さっきのはちょっち油断しただけだ。それにお前らに心配してもらう筋合いはもう無ぇ。邪魔だから失せろ」
「断る」
「拒否権を行使致しますわ」
「テメェら――」
聞き分けのない二人――彼女らから見ればキーリの方が聞き分けがないのだが――を怒鳴りつけようとしたキーリだが、それよりも早く再び地面が鳴動を始めた。
「ちっ! 問答は後だ! 勝手に死んだらただじゃおかねーからなっ!!」
「そっくりその言葉お返ししますわ!」
「心配するな。お前より先に死ぬつもりはない」
地面が割れ、再びダンジョンワームが高く舞い上がる。そして三人が固まっている場所目掛け、醜悪な口を大きく広げて襲いかかってきた。
2017/6/4 改稿
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