11-2 さまーばけーしょん(その2)
第41話です。
宜しくお願いします。
<<主要登場人物>>
キーリ:本作主人公。体を巡る魔力は有り余っている反面、各要素魔法との相性が壊滅的に悪い。魔力の制御を磨くことでかろうじて第五級魔法程度は使えるが攻撃としては使えないため、主に人間離れした膂力で戦闘する。
フィア:赤髪の少女でキーリ達のパーティのリーダー格。炎神魔法が得意で剣の腕も学内でトップクラス。欠点は、可愛くて小柄な男の子を見ると鼻から情熱を吹き出すこと。
レイス:フィアに付き従うメイドさん。フィアは友達だと考えているが、レイス自身は一線を引いている。フィアの鼻から情熱能力を植えつけた疑惑あり。
シオン:魔法科の生徒で、キーリ達のパーティメンバー。攻撃魔法と運動が苦手だが頑張り屋さん。
ユキ:キーリと共にスフォンへやってきた少女。キーリとの付き合いは長いらしい。変態。
アリエス、カレン、イーシュ:キーリとフィアのクラスメート。いずれも中々の個性派揃い。
シン、ギース:探索試験でのアリエスのパーティメンバー。二人はマブダチ。
燦々と輝く太陽が雲に遮られる事無く直射日光をキーリ達に向けて降り注いでくる。ジリジリと身を焦がすような熱がキーリの真っ白な肌を焼いてくる。
まさに快晴。絶好の行楽日和。直ぐ側の海からは涼し気な波打の音が響き、清涼感を与えてくれる。だがそれ以上に背中からはチンチンに焼けた砂が肉体を焦がさんばかりに熱を伝えていた。
キーリは砂浜に仰向けに倒れていた。キーリだけではない。イーシュ、シン、ギースの三人もまた同じように仰向けに寝そべり、動けなくなっていた。
頬に大きな紅葉を貼り付けた状態で。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
「ああ……」
男連中の内、唯一被害を免れたシオンが、顔を引きつらせながら尋ねてくる。だが返ってくる返事は生返事だ。未だ脳が揺れている。キーリとギースの、半分死んだ頭の中では「どうしてこうなった?」と疑問がグルグルと回っているが、残りの二人はきっと夢の中で瞳に焼き付けた先ほどの光景を楽しんでいるだろう。その証拠に、意識を失いながらもだらしなくよだれを垂らして笑っていた。
――どうしてこうなった?
もう一度疑問を抱きながら、キーリはここに至るまでの経緯を改めて振り返った。
キーリが提案した「合宿」。部活動も何もないこちらの世界ではその概念が通じなかったのだが、具体的な内容をキーリが説明すると一同には両手を挙げて賛成された。
「聞いたこと無かったですけれども、面白そうじゃありませんの」
「皆とお泊りしながら遊びと勉強両方できるなんていいですね」
さすがは成績優秀者たちである。長いこと鍛錬もせずに過ごす事にはやはり些かの抵抗があったようで、また自己鍛錬だけでは限界があると知っていたのだろう。
その中で唯一イーシュだけは絶望で死んだ魚の眼をしていたが、そこは誰もがスルーである。
そうして合宿を行うことはその場で決まったが、いざ何処へ行こうかという段になったところでシンがちょうど普通科へと顔を出しに来た。
「それならば僕の実家の近くはどうでしょうか?」
「ヘレネム、だったかしら? でも確かそちらは山間の領地では無くて?」
「うへぇ。山かよぉ……」
「はい。ですが南西で隣合う領主とはユルフォーニ家と懇意にさせて頂いていて、これまでにも何度か避暑に窺わせてもらってるんです。そこだと海もありますし、海岸で取れる海の幸も中々美味しいですよ。人も少ないですし、ゆっくり過ごすには悪く無い場所かと」
メガネの奥でにこやかに笑うシンの提案は、今度こそイーシュも含めた全会一致で可決された。
その後はシオンやレイス、ユキも呼び出しての企画会議である。ヘレネムまでは馬車でおよそ二日。目的地であるパルティルにはユルフォーニ家が所有する小さな別宅があるらしく、合宿期間中はそちらを利用させてもらうこととなった。なお、長期の合宿ともなれば、馬車代含めてそれなりの費用が掛かるが、そこは財力にかなりの余裕のあるアリエスが大部分を負担する事で決まった。
「貧乏な平民に負担させるなど、貴族としてのプライドが許しませんわ。安心なさい。キーリの分もワタクシがしっかりと支払ってあげますわ」
そのような言い方をされても腹が立たないのは彼女の人となり故か。養成学校の支払いと日々の酒代で常にカツカツな生活のキーリは喜んで平伏した。
唯一心配だったのはシオンの実家の手伝いだったが、
「この時期は皆さんスフォンから出て居なくなりますから。だから大丈夫ですよ」
とのこと。
こうして、全員の参加が無事決定したのだった。
それからおよそ一週間。全部で十名という大所帯でヘレネム近くの沿岸の町、パルティルにやってきたのだった。潮騒の音が心地よく響くこの地で、この半年間の疲れをゆっくりと癒すつもりだった。きっと、誰もがそのつもりだった。
それがどうして砂浜で全身根性焼きを実施する羽目になっているのか。
それは到着するや否やシンがしてきた提案が発端であった。
「せっかくまだ日も高いですから、海に泳ぎに行きませんか?」
「海で泳ぐ? 海とは泳ぐものなのか?」
この世界では海水浴という概念は一般的ではない。南方の国の一部ではそういった文化もあるが、少なくともレディトリニアやオースフィリア帝国にそのような文化は無い。海とは漁や採集を行って糧を得るためのものに過ぎず、そもそも娯楽のために海に潜る事は無い。それ故のフィアの質問だったがシンは朗らかに頷いてみせた。
「ええ。この国では珍しいのですが、その昔、この地に流れ着いた南方からの異邦人が『ビーチ』というものを開きましてね。砂浜の一部を泳いだりするために綺麗に整備したらしいのです。以来、この季節限定ですがパルティルの観光資源として活用されているのです。ああ、もちろんこの先のビーチは特別に予めパルティル家の方にお伺いを立てて貸し切りにさせてもらってますので、他の利用客も居ませんからのんびりできますよ」
「確かにこちらはスフォンや帝国に比べて随分と暑いですものね。水の中に浸かるだけでもヒンヤリとして気持ちよさそうですわね」
「ううむ……私は早速訓練をしたかったのだが」
難色を示したフィアに、一瞬だけシンの表情が強張った。他の誰もそれに気づかなかったが、イーシュだけは目ざとくそれに気づき、そして「直感」にてその裏にある何かに気づいた。
「いやいやいや! ここまで長時間馬車に揺られてきたんだからまずは溜まった疲れを取るのが重要だって!」
「そ、そうですよ! それに水の中というのは体への負担が少なく体を鍛えられるという話も聞きます! ここはぜひ海へ向かいましょう!」
「そ、そうか?」
二人の息の合った説得に気圧されるフィア。アリエスとカレンは余りの必死さに何か裏があるのではと怪訝そうな顔を浮かべた。
キーリは、というと、前世の記憶があるため何となく二人の頭の中が想像できてしまい、呆れて溜息を吐いた。
しゃーないか。キーリは二人からの視線を受けて助け舟を出した。
「まぁ、まずは骨休みから入っても良いんじゃねぇか? こんだけ天気いいんだし、逆にこの暑さの中で本気で訓練するとたぶんぶっ倒れるぞ?」
「キーリはともかくとしてそちらのお二人は怪しいですけれども、いいですわ。訓練は夜に涼しくなってからでも遅くないですし」
「二人がそう言うのなら従おう。確かに水の抵抗中で体を動かすのは良い鍛錬になりそうだ」
「うっし! んじゃさっさと海へ行ってみようぜ!」
かくして海へと一行は繰り出す事となったのだ。
さて、海で泳ぐ流れとなったのだが、泳ぐならば当然それなりの「衣装」が必要となる。早い話が水着なのだが、何処でどういう伝手で手を入れたのか、誰もいない浜辺に着くとシンは女性用の水着を女性陣に渡し、「あそこで着替えてきてくださいね」とさも紳士然とした態度で脱衣所へ促す。
「……はよ出てこねーかな」
「いえいえ、イーシュ君。女性というものはですね、着替えるにしてもそれ相応の時間が掛かるというものですよ」
「そうなんか? 女って面倒くせーんだな」
「そういうことは思っても黙って平然としているのがモテる男なんですよ」
当然男性陣はただ単に下を履き替えるだけであるので着替えは一瞬だ。同じくシンによって用意された短パンタイプの水着に着替えたキーリ達はそのまま砂浜で女性陣を待っていた。
「しっかし、なんで泳ぐだけなのにこんな『水着』なんてもんが必要なんだ?」
「ただの服だと水を吸ってしまいますからね。体に張り付いて泳ぎづらいし、水の重さで溺れてしまう事もあるそうなんです。なのでこの水着も水を弾く特性のあるダンジョンスパイダーの糸から作られてるらしいですよ」
「はー、僕達が潜るモンスターの素材からそういう風に物が作られていくんですね。勉強になりました」
シオンが感心する横でギースが別の疑問を口にする。
「でもよ、俺らが普段着る服にゃ何でダンジョンスパイダーの素材が使われねぇんだ?」
「……恐ろしく通気性が悪いんです。ダンジョンで汗塗れになったのに乾きも吸い取りもしてくれないなんて最悪でしょう? なのでダンジョンスパイダーの糸の需要があるのもこの領地だけなんですよ」
「なるほどな。ま、それはそれとしてだ」ギースはしかめっ面をしてシンの格好に眼を遣った。「――なんでテメェだけそんなちっちぇ水着なんだよ」
そう。キーリやシオン達四人が短パンタイプの水着の中で唯一人、シンだけは違った。
彼の着るその水着の名前は――ブーメランパンツ。
男の非常に大切な部分だけを隠すだけのシンプルかつ機能的なデザイン。それ以外は何も隠すものなど無いとばかりにひたすらに裸体を晒すだけ。
「それはだって、僕の筋肉を見て頂きたいじゃないですか」
そしてそれは取りも直さずシンの肉体美を惜しげも無く晒しだしていた。シオンの胴体ほどもありそうな太ももの筋肉は盛り上がり、これみよがしにポージングをしてくる。とても魔法使いの肉体ではない。おまけに優男風な顔立ちとのミスマッチ感が凄すぎる。
「やっぱり筋肉繋がりだったか……」
アリエスが彼をパーティに誘った理由がハッキリした瞬間である。
「テメェの汚ねぇ筋肉なんか見たくねぇんだよ」
「分からないかなぁ、ギースには筋肉の魅力が。大概のことは筋肉で解決するんだよ? 何より鍛えられた時に浮き出るラインの美しさ! 動物の肉体を動かすために最適化された機能美とデザイン的な流麗さ! 筋肉以上に美しいものなんてこの世にありませんよ」
「そ、そうなんですね」
何処かで聞いたようなシンの主張に同意しながらもシオンは筋肉を見せつけてくるシンから距離を取る。流石のシオンもその暑苦しさには近寄りたくないらしい。
そんなシオンに、芯は少し傷ついた顔をしながらも最後の砦とばかりにキーリへと振り向いた。
「キーリくんなら分かってくれるよね?」
「いや、俺もノーサンキューで。つかキモい」
あっさりバッサリ斬られてシンは崩れ落ちた。
そんな茶番をして待っていると、更衣室の方から声が掛けられた。
「お待たせしましたわ」
出てきたのはアリエスだ。
キーリの前世の記憶によればバンドゥと呼ばれるタイプのビキニだ。白色に染色された胸元に掛かる彼女の金色の髪がよくマッチしている。同じく白いパンツからはスラリとした、しかしよく鍛えられた脚が伸びていて、引き締まったそれが健康的である。
「おぉう……」
「これは……懸命に選んだ甲斐がありました」
鼻の下をだらしなく伸ばすイーシュとシン。ギースは眼の遣り場に困ったように顔を逸らし、シオンは顔を赤くしたまま彼女の肢体に眼を吸い付けられていた。
砂浜へと足を踏み出したアリエスだが、予想外に熱くなっていたのか、足元に気を取られてそんな邪な視線には気づかない。ヒョコヒョコと飛び跳ねながら男連中の元へ駆け寄ってきた。
――事件はそこで起きた。
貴族とはいえアリエスも水着を着るのは初めてである。正しい着衣の仕方が分からず何となくで着たのだが、そもそもが外れやすいバンドゥビキニである。そこでピョンピョンと飛び跳ねたのである。
なによりもこれが一番重要なことなのだが――彼女の胸は非常に慎ましい。
するとどうなるか。
パサリ。
何かが落ちる音がした。アリエスはそれが何の音であるか分からなかった。だが――やけに胸がスースーと涼しい。何より、イーシュとシンの視線が最大級にいやらしい。
視線を横にずらせば、シオンは顔を真赤にし、ギースは「げっ」とばかりに細い目を見開き、キーリはポカンと口を開けて固まっていた。
灼熱の地で凍りついた時間。彼らの視線の先をアリエスは辿っていく。その終着点が何処であるか、すぐに理解した。
可愛らしい胸が惜しげも無く晒されていることに。
血が首から瞬く間に上がっていき、彼女の顔がフィアの髪色をも超える程に真っ赤に染まっていく。
――そして時は動き出す。
「ぎっ……」
アリエスの右腕が振り上げられ――
「ぎゃあああああああああああああああああああああ!!!!!」
――こうして四発の花火が決して可愛くない悲鳴とともに打ち上がったのである。
「くっそ、なんで俺までこんな目に合わなきゃなんねぇんだよ」
顎をさすって悪態を吐きながらギースが起き上がり、続いてキーリも何とか立ち上がった。未だに頭がクラクラするが、さすがは筋肉が趣味のアリエスの一撃である。ゴーレムに殴られても飛ばなかった意識が飛ぶとはキーリも予想していなかった。
「ちっ、こいつらはこいつらで幸せそうな顔しやがって」
鼻の下を伸ばしてガン見してしまったシンとイーシュの二人は紅葉マークの他にもデンプシー・ロールを食らってボコボコである。モザイク無しでは見せられない状態になっているのだが、それでも眼福だとばかりに笑顔を浮かべているあたり業が深い。
「起きろよテメェら」
「ぐぇふぉっ!?」
憂さ晴らしとばかりにギースが二人の腹を全力で踏抜いて覚醒させる。衝撃に眼を覚ました二人は何が起きたのか理解できていないようだったが、やがて記憶が現在に追いついたのか、再びだらしなく顔を歪ませた。
「いやぁ……いいモノを見せてもらいました。さすがはユルフォーニ氏。アレを狙っていたとは」
「いえいえカーリオ氏。まさかあそこまでは狙ってはいませんよ。そこまで最低ではありませんとも。まあ、遊んでいる最中に何らかしらのハプニングは期待してましたがね」
「ぬふふ、お主も悪よのぅ」
「いえいえ、お代官様こそ」
お代官なんて役職がこの世界にあるのだろうか。突っ込みたくあったが、最低な会話を続ける二人に関わったら負けな気がしてキーリは何も言わない。
暑いだろうと準備してきた水筒を木陰から取り出して喉を潤していると、更衣室から再び影が現れた。
「おお……!」
最初に現れたのは以外にもレイスだった。
一六〇センチ超の比較的長身の体を黒いワンピースが包み込み、水着とは対照的な白く長い手足がスラリと伸びる。髪色と同色ということもあってともすれば重い印象になりがちだが、日に焼けていない手足の白さと腹部で縦に裂けた水着そ隙間から覗くおへそがチャーミングである。
頭の上にはメイドカチューシャが鎮座しているが、普段掛けているメガネをそちらに引っ掛けており、滅多に見ることが出来ない彼女の姿はまるで別人の様だ。いつもと変わらず平然とした様子だが、流石に水着姿は恥ずかしいのか少し頬が赤く染まっている。その非日常間が彼女をより魅力的にしていた。
「むふぉぉ……」
そしてそんな彼女の背に隠れるようにして現れたのは、先ほど大失態を犯してしまったアリエスだ。今度はきちんと首紐を結んで彼女の慎ましい胸部を守っている。
筋肉好きな彼女らしく、伸びる手足はかなり筋肉質だ。腹筋もシックスパックに深く割れ、その手足はまるでカモシカ。だが少ない布地によって活発な印象を見るものに与え、にもかかわらず恥ずかしそうに身を縮めている姿は、普段の彼女を知る者に魅惑的で背徳的なギャップを与えるだろう。
「ふおぉぉ……」
そんなアリエスを慰めながら出てきたのはカレンである。前二人よりも背が小さい彼女は、幼気な顔立ちもあって未だ発展途上の将来性を感じさせる。
だが彼女の胸は既に著しい成長を遂げていたようだ。ピンクと白の水玉模様のホルターネックビキニの布地を押し上げ、これでもかと主張する大きな乳房。着痩せするタイプなのか普段は気づかなかったが、見事なバストに男ども(キーリ除く)の視線が思わず釘付けになる。だが当の本人は鈍いのか、そんな視線に気づくこと無く恥ずかしがる事もなく堂々とアリエスの隣を歩いていた。
「こちらもスバラスィ……」
そのカレンの後ろで、何処か落ち着かない様子なのはフィアだ。
髪色に合わせた真紅のビキニに、短いレイヤードスカートタイプの水着の裾を指先で弄りながら身を縮こまらせている。普段はハキハキとして姉御肌な部分があるだけに、今のオドオドした態度は何処か庇護欲をくすぐってくる。
普段から外で運動しているためか少し日焼けした肌が四人の中で一番健康的な印象を与えてくる。長身でありかつアリエス程では無いにしろ鍛えられたスレンダーな肉体に無駄な部分はなく、女神を象った彫刻のような超然的な美が内包されている。ビキニの胸元に何かの模様のような痣があって、それがなんともエロい。
彼女らの姿を、イーシュやシンは感涙にむせび、彼ら程ではないにしろキーリもまた目の保養とばかりに眺めていた。
そして――
「ぶっふぅぅぅっ!?」
ユキが姿を現した瞬間、キーリは口に含んでいた水を思い切り噴き出した。
衝撃を受けたのはキーリだけでは無い。次々現れる女性陣を食い入る様に凝視していたイーシュ・シン組はもちろん、ギースも衝撃的な光景にアングリと口を開け、シオンに至っては赤かった顔を更に赤くして今にも倒れてしまいそうだ。
紺色のワンピースに収まりきらず今にもはちきれそうな程に盛り上がった胸。キュッとくびれた腰部に程よいサイズの臀部。手足は細くスラリとしているのに、肉体は蠱惑的にして肉感的。だというのにこのメンツの中では一番の小柄。顔立ちは幼さの残る美少女的な童顔にして、何処か小悪魔的な魅力を振りまく大人の美女という相反する要素が同居する、まさに神的な美の完成形。
「デカイデカイとは常々思ってたけどよ……」
「ええ……まさかここまで反則級とは思いませんでしたよ……」
「す、スゴイですね……」
その魅力は男性だけでなくフィア達女性陣も魅了しているようで、
「な、なんですのあの体は……」
「はわわ……! スゴイキレイですにゃぁ……」
「くっ、本当に同じ人間なのか……それに比べて私は……」
「お、お嬢様はお嬢様で素晴らしく魅力的です。ですが……ユキ様と比べるのは……」
余りにも暴力的な戦力差にカレンは戦慄し、アリエスとフィアは膝から崩れ落ちる。慰めるレイスの声にも力が無い。
全てを混沌の中へと突き落とした張本人であるユキはといえば、得意げに豊満な胸を張って見るもの全てを魅了する笑みを撒き散らしている。調子に乗って投げキッスを振りまき、男どもの体がどんどん前かがみに倒れていく。いよいよ収集がつかなくなってきた。
そんな中で唯一の希望とも言えるキーリだが、彼だけは違う意味で崩れ落ちていた。
(なんつー物を……)
ユキの着る濃紺一色のワンピース。ただただ機能性だけを追求した結果、元の世界で多くの大きいお兄さんの視線を集めてやまない、ある意味究極の水着。
紛うことなき――スクール水着である。
(流れ着いた異邦人って奴は……ぜってぇ日本人だろ……!)
明らかにサイズが合っていない胸部のせいで激しく歪んでいるが、胸の部分にはハッキリと「1年2組」と書かれている。作り上げた「異邦人」が一体どの学齢をイメージして作ったのか激しく問い詰めたい。
「ちょっと来いや」
「およ?」
キーリは素早く立ち上がると、挑発するように男子どもの前で悩殺ポーズをとっているユキの首根っこを掴み上げる。そして猫の様にユキをプラプラとさせながら運び、更衣室の中に放り込む。
そこでようやく混沌とした空間は霧散したのであった。
2017/6/4 改稿
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