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12-5. 転生先にカミサマはいない(その5)

初稿:20/01/04

本日2話目の投稿になります。お読み飛ばしにご注意ください。



<<<登場人物紹介>>>


キーリ:主人公。英雄殺しに人生を賭ける。

フィア:レディストリニア王国女王。翻弄される人生を乗り越えた。

アリエス:帝国貴族。パーティの万能剣士。

シオン:パーティのリーダーを拝命。後方から仲間を支援する。

レイス:フィアに仕えるメイド。いつだって冷静沈着。

ギース:パーティの斥候役。口は悪いが根は仲間思い。

カレン:矢のスペシャリスト。キーリと同じ転生者。

イーシュ:パーティの盾役。その防御を突破するのは英雄でも困難。

クルエ:元英雄。キーリたちを優しく導く。






 シオンが影の中で奮闘する最中も、キーリたちもまた奮戦を続けていた。

 四対一の攻防。力を解放したキーリが加わったことで圧倒的な戦力差こそ無くなったものの、依然として力の差は確かにあった。


「ちっ……、フィアっ!!」

「分かってるっ!!」


 キーリがフィアに向けられた光神の攻撃を歯を食いしばって受け止め、その隙にフィアが、そしてアリエス、レイスが攻撃を仕掛ける。

 四人の連携によって一撃こそ光神に入っていた。光神が身にまとう光のベールをキーリが多少なりとも緩和しているため、当初に比べれば幾ばくかのダメージも入る。しかし光神に刻まれた傷は一瞬で回復し、堂々巡りの状態が続いていた。


「……何と言いますか、掘った孔をその場で埋め戻されてる気分ですわね」

「気が合うな。俺も同じこと思ってたよ」

「だが続けるしかあるまい」


 額から流れ落ちる汗を乱暴に拭い、フィアは剣を構え直す。だが息をつく暇もなく光神が放った光が彼女らのいた場所を穿った。

 四人は即座に銘々に飛び退くも、更に追撃の一撃がアリエスとレイス目掛けて飛来。舌打ちしたキーリが「闇」を二人の前に展開し、光神の光を吸収する。が十分に受け止めきれず、漏れ溢れた光が彼女らを傷つけていった。


「クソッタレ……! やっぱ厳しいかっ!!」

「……打開の一手を打ってある。そう理解してよろしいでしょうか、キーリ様?」

「ああ、シオンにちょっちばかり重い頼みをな」

「そうでしたか。でしたら今しばらく私たちも踏ん張らねばなりませんね」


 そう言ってレイスが再び光神へ向かっていく。

 キーリもまた戦いながら影の中の様子をちょくちょく探る。だが、まだ明確な変化は見られない。


(シオン……マジでテメェが頼りなんだよ……!)


 存在をより闇神に近づけた今であっても、本音では全く光神に敵う気がしなかった。薄氷の上に成り立っている均衡でしかなく、虚勢を張っても光神の一撃の度に倒れてしまいそうだった。

 早く、早く頼む、シオン。キーリは祈るような心地で戦い続けた。

 そして、その時がやってきた。


「……む?」


 容易くキーリたちの攻撃をさばいていた光神の表情が変わった。フィアたちに向けられていた闇神としての圧力が弱まり、彼女らに襲いかかっていた魔法が突然霧散した。

 その好機をフィアたちが逃すはずもない。これまでより更に軽くなった体は、次いで放たれた光神魔法を容易く見切り、或いは剣で弾き返し、一気に光神へと肉薄した。


「そこぉっ!!」


 アリエスの刺突が脇を貫く。レイスが背後に回り込み、切っ先が光神の頬を裂く。そしてフィアの炎剣が左肩から右脇にかけて袈裟に大きく斬り裂いた。


「ぬぉ……!?」

「アリエスっ、レイス!!」


 これまでとは明らかに違う手応え。明確にダメージが入ったと確信。フィアの呼びかけに即座に応じ、彼女らは一気にそれぞれの魔法で畳み掛けた。

 光神の体へと魔法が着弾。光神の発する光を飲み込むばかりの勢いで上がる爆炎。炎神の朱と水神の蒼が爆発に入り混じり、凄まじい地響きと爆風を辺りに撒き散らした。


「どうだっ……!?」


 立ち込めていた爆煙が徐々に収まっていく。そうして現れたのは明らかにダメージを負った状態の光神だった。魔法による火傷や切り傷などがあちこちに残り、その前の斬撃に痕からはダラダラと血が流れ落ち続けている。

 何より大きな違いはその見た目の姿だった。肌には幾つもの黒い線が走っていたが、その線は消えて透き通るような白い肌のみになっている。周囲に発せられていた、闇神の象徴ともいえる黒い靄は全く見られない。少なくとも見かけ上は禍々しさは無くなり、ただ光神らしい神々しさばかりが発せられていた。


「どういうことだ……?」

「恐らくはキーリ様の策が成功したものと考えられますが……」


 話している間に光神の体から傷は見る見る間に消えていく。だが先程までと比べれば明らかに回復は遅く、冷静さを装っている光神の表情からも幾分忌々しげな気色が滲んでいた。


「どうなんですの、キーリ――?」


 策は上手く行ったということか。その真偽を尋ねようとアリエスはキーリの方を振り向き、しかしその言葉が止まった。


「キーリ……?」


 数歩離れた場所で立つキーリに再度呼びかける。だが返事はない。

 彼は両腕で自身の胸を掻きむしり、うつむいて体を震わせていた。

 喉からは唸るような声。おびただしい汗がキーリの全身から吹き出し、顎を伝って滴る。

 ポタポタと垂れ落ちるその内の一滴が新たな溜まりを床に作った時、世界が変化した。

 泥が、溢れ出した。

 床全体に影が広がり、そこからひどく粘り気のある泥が泡立って、まるで生物の触手の様に不規則に動き出す。

 泥は瞬く間に壁を這い上がっていく。立ち上った触手たちから泥が垂れ落ち、やがてフィアたちを赤黒く薄い膜が取り囲んでいった。


「な、なんですのっ!?」

「これは……」


 ゾクリ、とアリエスの背を怖気が走る。足元を見れば泥が脚に絡みつき、彼女らを飲み込もうとしていた。天井からもボタボタと赤黒い、血を連想させる泥が滴り落ち、レイスがそれに触れた瞬間、凄まじい喪失感が全身を駆け巡り、思わず悲鳴が上がる。


「あの時と同じ現象……」


 フィアは思い出す。昔、訪れたカレンの田舎。その村が盗賊に襲われた時にも同じ様に世界が不気味な帳で遮断され、目の前の様な光景が広がっていた。

 その時の発生源は、キーリ。つまりは今回も――


「暴走、か……」

「暴走だと?」


 傷が回復した光神が光を身にまとい、迫ってくる泥の触手を払いながら忌々しそうにつぶやいた。


「そうだ。どうやら私から魔素の海との接続を奪ったらしいが、愚かな……

 いくら彼女の見込んだ人間とはいえ、ただの人間に闇神と同じことができるはずがないだろうに」


 闇神としての力を失ったらしい光神にとってもこの泥の海は厄介のようで、迫りくる触手を切り払いながらもキーリに中々近づけないでいた。


「予定とは違うが、これでも良しとするか」

「どういうことだ……!?」

「私でなくとも彼が人類を滅ぼすということだよ、女王。いずれ世界が泥に包まれ、人どころかモンスターでさえ生きてはいけぬだろうが、世界をリセットするという意味ではちょうどよい」

「なっ……!」光神の言葉にギリ、と奥歯を噛み締めた。「そんなこと……させてたまるかっ……!」

「う……あ……!」


 キーリと繋がりがあるためか、フィアはこの中でも少々寂寥感を感じる程度で動くのに支障はない。だが、アリエスとレイスの二人から苦しげなうめき声が聞こえてきた。


「アリエス、カレン!?」


 息をするだけで侵食される。泥に触れるだけで感情に孔が開く。神々の加護を得ても襲い来る悪意と喪失感に耐えきれず、アリエスとカレンの二人は膝を突いて涙を流した。


「二人共下がれっ! キーリは私が何とか――」


 動けなくなった二人の元に駆け寄って手を引き立ち上がらせる。そうして泥の沼から外に出そうとした時、一角で泥がブクブクと泡立った。

 そこから、何かが吐き出された。


「……シオンっ!?」


 ぐったりとした状態で宙を舞うシオンを認め、フィアは飛び上がって彼を受け止めた。腕の中のシオンは意識がなく両手足はダラリと脱力していたために一瞬慌てたが、胸が規則的に上下動しているのを見て胸を撫で下ろした。


「あ……れ……? フィアさん……?」

「大丈夫か、シオン?」

「え、ええ」


 意識を取り戻したシオンはフィアの腕から降りて頭を振り、そして目に入ってくる一変した景色に言葉を失った。


「いったい何が……?」

「分からない。が……キーリが引き起こしていることには間違いないようだ」フィアは自身の周囲に靄をまとわせて震えるキーリを見て下唇を噛んだ。「キーリから影の中で何かを頼まれてたんだろう、シオン? 成功したのか?」


 フィアに言われ、シオンはハッとした。途中で意識が飛んだためか記憶はうろ覚えではあるが、光神への魔素の流れ込みを引き剥がそうと魔法でパイプを作った。そして強度がもたずに壊れかけたところまでは比較的ハッキリ覚えているのだが、その後に――


「そ、そうだっ! 確か最後に――」

「■■■■■■■■■っっっっ――」


 急速に戻っていく記憶。シオンが影の中での出来事をフィアに伝えようとした時、猛獣が上げるような叫びが轟いた。

 空気が斬り裂かれる。それはキーリが発したものだ。彼との繋がりがあるフィアにはそれが雄叫びというよりも悲痛な叫びにしか聞こえなかった。心胆が冷える。耐えきれない苦痛と悲痛がフィアにも流れ込み、彼女の目からもまた勝手に涙が流れ落ちた。

 世界が崩壊を始める。彼女らを覆っていた、繭を想起させる泥の壁が広がっていく。黒がより赤みを増していき、大神殿の壁へめり込み、破壊し、天井が崩れ落ちる。繭の中では魔素が異常に励起し、フィアでさえ息苦しさを感じるほどになった。






お読み頂きありがとうございました<(_ _)><(_ _)>

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