表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
317/327

12-2. 転生先にカミサマはいない(その2)

初稿:20/01/02


<<<登場人物紹介>>>


キーリ:主人公。英雄殺しに人生を賭ける。

フィア:レディストリニア王国女王。翻弄される人生を乗り越えた。

アリエス:帝国貴族。パーティの万能剣士。

シオン:パーティのリーダーを拝命。後方から仲間を支援する。

レイス:フィアに仕えるメイド。いつだって冷静沈着。

ギース:パーティの斥候役。口は悪いが根は仲間思い。

カレン:矢のスペシャリスト。キーリと同じ転生者。

イーシュ:パーティの盾役。その防御を突破するのは英雄でも困難。

クルエ:元英雄。キーリたちを優しく導く。





「ならば――私が闇神になるしかないだろう?」


 光神にして闇神。世界に光をもたらす存在にして、世界から悪意と絶望を吸い上げる存在。そして――世界を滅ぼす存在。


「そんな……二つの神の力を持つなんて……!」

「ふざけやがって……! ンなことができるわけ――」

「そうできるわけがない。だがそれを私は成し遂げなければならず、そして成し遂げたんだよ。

 ――試してみるかな?」


 黒い線の走る目元を細め、光神は両手を広げた。そうしてキーリたちを挑発するように指先をクイクイ、と曲げてみせる。

 キーリたちは睨みつけた。光神がただいるだけで感じる圧力と白黒の光で動くこともままならない。だが、だからといって動かないわけにはいかない。


「なめやがっ――てっ!!」


 キーリが先陣を切って走り出す。両手に黒き剣を握り神に迫る。

 自身の前に影を作り出してその中に姿を隠した。出口は光神の背面側の頭上。そこに出現し、巨大で黒い剣が振り下ろされた。

 全力の一撃。だが光神は振り返ることさえなく、手を挙げると素手で容易く受け止めてみせた。


「くっ!」

「無駄だよ。今の私は君以上に魔素を操り、流れを読むことができる。影の中を通ろうと動きは筒抜けであり、闇神魔法で剣を作ったところで有効な一撃にはなり得ない。そして――」


 光神はキーリの黒き剣を掴んだ。すると黒い剣が先端から白く変色していく。


「……――っ!」


 キーリの手元まで白い光に変わり、彼は慌てて剣を手放した。光神から距離を取って体勢を整えようとするが、顔を上げたすぐそこに、光の壁が迫ってきていた。


「がぁ……!」

「キーリっ!!」


 キーリを光が包み込んでいく。それは、光神が教皇の身に宿っていた時のそれとは比べ物にならないほどの強さだった。闇神の力を身に宿すキーリにとっては業火に焼かれるに等しい。光が通過した後には皮膚がただれ、全身から煙を上げて膝をつくが、キーリは全身に影をまとわりつかせて何とか耐えきった。

 が、終わりではない。壁が通過した空間に無数の光の剣が出現し、キーリめがけて襲いかかっていった。キーリは光に焼かれ霞む視界ながらも何とかそれを視認し、激痛が苛む体にムチを打ってその場を飛び退いた。

 キーリがいた場所に次々に突き刺さっていく光の剣。その一本が脚をかすめ、苦痛に顔が歪む。その最中、徐々に視力が戻っていったキーリの瞳が光神の動きを捉えた。


「これはお返ししよう」


 光神が腕を振るう。手に持っていたキーリの剣が消えた、と思った瞬間、胸から焼けるような激痛が襲った。

 光神によって白く染められた剣。それがキーリの体を貫いていた。貫いた剣はそのままキーリを体ごと吹き飛ばし、壁に縫い止めていく。


「ごふっ……!」


 視界が明滅する。熱いものが胃の奥から迫り上がって、たまらずキーリは吐き出した。

 ベシャリ、と赤黒い血が足元に広がる。意識が遠のき始め、キーリは必死に繋ぎ止めようとするが、直後にさらなる苦痛が彼に襲いかかった。

 光がキーリという存在を侵食していく。傷口から煙が立ち上っていき、キーリを焼き尽くそうとしていく。光がキーリという闇を塗りつぶそうとしていった。

 根源的な恐怖が胸を締め付ける。キーリ・アルカナという存在が、暗がりの中にこそ存在していられたそれが、強い光に押しつぶされていく。

 記憶も、想いも、何もかもが白くなっていく。父と母(ルディとエル)を失ったことも、仲間と共に笑いあった毎日も、無垢な白さに押しつぶされていく。物理的な痛みよりも何よりも、キーリはそれに恐怖した。


「ふ、ざけん、なっ……!!」


 口からおびただしい血を垂らしながらキーリは光神を強く睨みつけた。決して白い暴力に屈しまいと歯を食いしばる。睨みつける両目が黒くなり、瞳の部分が赤く染まっていった。


「キーリさんっ!!」

「このぉっ!!」


 キーリが傷ついたのを見て、シオンたちはようやく光神の呪縛から解放された。

 光神の発する、闇神としての部分が彼らの心胆を押し潰さんとしてくる。立っているだけで苦しく、気を抜けば呼吸さえ覚束なくなりそうだ。だがそれよりも仲間を助けたいという思いが勝った。

 シオンがキーリの元へ向かい、残った三人が光神へと駆けていく。レイスが両手のナイフを高速で振り抜き、無数の風の刃を飛ばして先制。そして光神の前後を挟み込むようにして炎の竜と氷の竜が神をも飲み込もうと迫る。

 光神は動かない。稚児の戯れを眺めているかのように穏やかな笑みを浮かべ、それが魔法の嵐に飲み込まれていく。その様に見えた。しかし次の瞬間、それら全てがまるで何もなかったかのようにかき消されて、無傷の光神が姿を現した。


「炎神どもの魔法だろうと、魔素を介している以上、私には通じんよ」

「だろうな」


 闇神としての力を手に入れているということは魔素を自在に制御できるということ。着弾まで多少であれ時間が掛かる魔法が通じないだろうことは彼女たちも織り込み済みだ。

 なら、近接攻撃ならばどうか。


(ダメージさえ通れば……!)


 可能性は生まれる。たとえそれがほんのかすり傷程度であろうとも、打ち倒す糸口にはなり得る。

 レイスがアクロバティックな動きで光神の周囲を走り抜ける。背後から蹴りを繰り出して止められたかと思えば、風に乗って舞い上がって牽制として風刃を撒き散らす。

 おびただしい風刃を隠れ蓑として急降下。本命である自身のナイフを光神めがけて鋭く振り下ろした。

 光神はただ指先だけでナイフを受け止め、逆に幾つもの光の剣をレイス目掛けて降り注がせる。レイスはそれを、まるで体重が存在しないかの様に光神を足場にして回避していく。

 そこに再びフィアの炎神魔法、そしてアリエスの風水神魔法が光神を包み込んだ。すぐに当たり前のようにそれら魔法が吹き払われるが、更に追撃として各々魔法を武器にまとわせて三人が斬り掛かっていった。


「喰らいなさいっ!!」


 残像を残し、アリエスの一撃が周囲の魔素を貫いた。レイスのナイフが光神の首筋に振り下ろされ、白炎と共にフィアの鋭い斬撃が袈裟に斬り裂いていく。

 ――しかし。


「……っ!」


 三人の攻撃が光神にダメージを与えることは無かった。レイスの攻撃は光神の首に傷さえつけられず、光神の両腕はアリエスとフィアの剣を掴みとっていた。

 フィアとアリエスが懸命に剣を引き抜こうとするも、軽く指先でつまんでいる様であるのに刃が抜ける気配がない。顔を目掛けて魔法をぶつけてみるも、その後には涼しい顔をして笑っているばかりだ。


「このっ……離しなさいっ!!」

「離してほしい?」


 ならばご要望に応えよう。そう言って光神は不敵に笑って振り返った。

 その先では、再び攻撃を仕掛けようとレイスが向かってきていた。跳びかかったレイスと光神の楽しげな視線が交差した。

 燃え盛る刃を掴んだまま、光神が腕を振るう。剣を握っていたフィアの体もまた高速で弧を描き、そのままレイスへと叩きつけられた。


「ご、ほ……!」

「お嬢さ、ま……!!」


 フィアとレイスが強かにぶつかり合う。通常ありえないような衝突音を立て、即座に襲ってきた激痛に二人は苦悶の悲鳴を上げながら激しく床を転がっていった。


「――もうひとつ」


 そしてアリエスも同じく投げ飛ばされていった。弾丸となった彼女の体は背中から壁へと叩きつけられ、けたたましい音を奏でる。


「アリエスさんっ!!」


 硬い石造りの壁が破壊され、土煙がもうもうと立ち込める。程なくしてその煙が収まると、深く壁にめり込んだ状態でうなだれるアリエスの姿が露わになった。


「う……」


 その体が崩れ落ちる。アリエスは飛びそうな意識を何とか繋ぎ止めて着地するも、すぐに膝を突き、ゲホ、と激しく咳き込んだ。

 吐き出した飛沫に赤いものが混じる。どうやら内臓にダメージが入ったらしい。握っていたエストックを見れば剣先が無くなっていた。投げ飛ばされる際にへし折られたようだった。

 たった一度の攻撃でこの体たらく。闇神として作り出したこの場の空気が動きや防御力を悪化させているというのもあろうが、情けない。アリエスは思わず自嘲した。


「アリエスさんっ! そちらに行きますから――」

「結構ですわ」


 シオンがキーリとアリエスたちを見比べ、彼女たちの方へと向かおうとした。だがそれをアリエスは制した。


「ワタクシ、は……大丈夫ですわ。こっちよりも――そこの磔刑になってる男を優先しなさいな」


 口元から流れる血を拭い、アリエスは立ち上がった。どうやら骨も何本かやられているようであったが、折れたエストックを杖にして立ち上がると自分で回復魔法を掛けていく。

 彼女はチラリとシオンたちの方に視線を向けた。壁に縫い付けられているキーリの姿が瞳に映ると、自らの体を苛む痛みを忘れて心の方がはちきれそうだった。

 キーリと目が合った。苦痛に塗れ、刺された場所から傷が拡大していき、同時に自身の力によって修復もされている。破壊と再生が並行し、終わることのない苦行にさらされて声は出せないが、それでもなおアリエスを見るキーリの瞳には、光神への憎しみだけでなく彼女らを気遣う様子も見て取れた。


(きっと……ワタクシやレイスだからそんな目で見てくれるのでしょうけれど……)


 本来ならば特別扱いを喜ぶべきなのだろう、きっと。けれど、彼が一番に大切にしている相手にはそんな気遣いさえ不要なのだ。気遣いの必要が無いほど、彼は彼女を理解しているということだから。それを知っているからこそ、切なく、寂しい。


「……アリエスの言う通り、だ。シオンは、キーリを早く助けてやってほしい」


 それを肯定するようにフィアからも声が上がる。レイスを支えながら立ち上がった彼女は、アリエス同様に各部に怪我を負っているものの、アリエスと比べれば遥かに軽傷。

 理由は分かっている。アリエスより強い炎神の加護を生まれつき得ていることに加え、努力を惜しまない勤勉な性格がフィアをより高みに上げた。そして何より、キーリと繋がったことで闇神属性に対しての耐性も強い。そのことはこの場では重要な意味を持つが、それはすなわち、アリエスが彼に選ばれなかったことの証左でもあった。


(ですけれど、ですけれど……)


 相手がフィアで良かった。今となれば、本気でそう思えた。もちろんキーリをずっと側で支えたいという思いは今もまだあるけれど、フィアに対しても思うところはないし、キーリに対しては一人の仲間として共にあろうと決めたのだ。


「なんて顔をしてるんですのよ、キーリ……」


 ワタクシは、大丈夫。だから、アリエスはキーリに笑い返してみせた。


「……分かりました。こちらも急ぎます」

「助けるのが遅いほど、ワタクシたちも痛い目に見るんですのよ。だから、手早くお願いします――わっ!!」


 そう言ってアリエスはまた走り出した。光神との差は歴然でも、諦めはしない。キーリとフィアさえ元気なら、勝てるはず。


「愚かだ。だが、そうした諦めの悪さこそが人間をここまで成長させ――世界を滅ぼそうとしている」

「世界を滅ぼそうとしてるのは人間ではありません」

「光神――貴方こそが世界を死に至らしめる元凶ですわっ!!」


 レイスとアリエスが光神とぶつかり、しかし跳ね返される。二人の背後からフィアが躍りかかり、高温で陽炎を揺らめせながら剣を振り下ろす。光神はそれをやはり軽々と受け止めるとフィアを殴り飛ばし、再び向かって来ようとしていたアリエスと彼女が激突した。


「お嬢様っ!!」

「だい、じょうぶ、だっ!」


 フィアはアリエスに手を貸して立ち上がらせると、再び炎をまとわせ光神に立ち向かっていく。アリエス、レイスも何とか活路を見出そうと攻撃の手を変えながら、何度も何度もぶつかっていく。

 いつか、絶対に状況が好転する。そう信じて、今できることに彼女らは全力を注いでいくのだった。





お読み頂きありがとうございました<(_ _)><(_ _)>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ