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10-3. 教皇(その3)

初稿:19/12/28


<<<登場人物紹介>>>


キーリ:主人公。英雄殺しに人生を賭ける。

フィア:レディストリニア王国女王。翻弄される人生を乗り越えた。

アリエス:帝国貴族。パーティの万能剣士。

シオン:パーティのリーダーを拝命。後方から仲間を支援する。

レイス:フィアに仕えるメイド。いつだって冷静沈着。

ギース:パーティの斥候役。口は悪いが根は仲間思い。

カレン:矢のスペシャリスト。キーリと同じ転生者。

イーシュ:パーティの盾役。その防御を突破するのは英雄でも困難。

クルエ:元英雄。キーリたちを優しく導く。





「さあ、君らの方から来たまえ。この世界を救うつもりがあるのならね」

「言われずとも行ってやる――よっ!!」


 キーリと、並んでレイスが先行する。数歩遅れてフィアとアリエス、最後尾にシオンといういつもの陣形で挑む。


(まずは一撃。それで様子を見る……!)


 光神がいかなる行動を取るのか。キーリのみならずシオンたちも全く予想がつかない。故に初手のみ全力。

 レイスとキーリが左右に別れ、レイスから攻撃を仕掛けた。ナイフを一閃するが、教皇は素手のまま刃を受け流すした。


「――怒れる炎神の鉄槌ブレス・オブ・イフリル

荒れ狂う氷弾アイスロック・スタンピード!!」


 そこにアリエスとフィアが正面から魔法を放ちながら迫る。フィアが作り出した火炎の竜がアギトを開いて教皇を飲み込まんとし、アリエスの作り出した、人よりも大きな尖った氷岩が次々と押し寄せる。

 だが教皇の手のひらが左から右へと空間を撫でる。すると不可視の壁が出来上がったように炎の竜はぶつかって霧散し、氷岩が砕けて白い霧を一帯に作り上げた。


「――ほう」


 霧の中を斬り裂いてフィアが頭上へと舞い上がった。赤白く輝く剣を振り下ろし、足元からはアリエスがエストックを心臓目掛けて突き上げていく。

 それもやはり教皇は容易い様子で受け流していく。魔素をまとわせた両腕を振るい、どこか優雅な仕草で二人の剣を払いとばした。


「くっ……!」

「こう見えて近接戦も嫌いではなくてね」


 教皇の手から伸びた光がまるでムチの様に二人の剣を絡め取る。そして細身の体にもかかわらず二人の体を持ち上げると軽々と放り飛ばした。

 投げ飛ばされた二人は慌てずクルリと体勢を整えて着地。まだまだこれからだ、とばかりに再び地面を蹴ろうとした。

 その時、たおやかに微笑んでいた教皇の表情がキリとしたものに変わる。細められていたまぶたを一度大きく見開くと鋭く「ふっ!」と息を吐き出した。

 すると、まばゆいばかりの光が教皇から放たれた。暗かった室内が瞬間的に白一色に染まり、それ以外の色彩の存在を許さない。


「ぐぁっ……!」

「キーリ!」


 それにより影が消され、中からキーリが弾き出された。炎に炙られたように全身から煙を上げ、膝をついて教皇をにらみつける。


「影を利用して死角に回り込むのは君の十八番だろうけど、対策を練る時間は十分だったからね」

「ちっ……クソが」

「負けん気が強いのは嫌いじゃないよ」


 キーリを見下ろし教皇が微笑んだ直後、背後で影が突如飛び出した。ハッとして振り向いた教皇を影が飲み込んでいく。発せられていた光が影に覆い尽くされて教皇を完全に覆い尽くし、しかしすぐに影が破裂したように飛び散った。その中からまばゆい光を発する教皇が姿を現した。

 金にも似た色で全身を輝かせる教皇だが、その頬や手足からは黒い煙が立ち上っている。教皇は自身の頬に手をやって指先でその痕を拭うと小さくフフッと笑い声を上げた。


「中々の能力だ。ただの人間が扱うには破格だね。今のは少しだけ痛かったよ」

「痛みを知ったのなら世界から手を引いてくれねぇか?」

「残念ながらそれは無理な相談だ。もう壊すと決めてしまったからね。

 さて、ならば私からも少々面白いものを見せてあげようか」


 そう言うと教皇の全身から発せられていた光が急速に収まっていく。室内に黒の帳が降りてきて、しかしそれだけだ。

 一体何を、とフィアたちは身構えた。光神がただ単にその象徴ともいえる光を身の内に収めただけとは思えない。

 こちらから動くか、それとも待つか。相反する選択肢が頭を過ぎったその時、教皇の正面に立っていたキーリが何かを感じ取って叫んだ。


「跳べっ!!」


 その声に全員が反応した。特にシオンの反応が早かったのは、彼がキーリに次いで魔素の扱いに長けているからだろうか。

 全員が後方に飛び退いたとほぼ同時に、何もなかった地面から黒い影が前触れもなく突き出していた。鋭かった先端が今度は急に形を変え、細く長く弾力を持った形状でアリエスの脚を絡みとる。


「う……これ、は……!」


 力が抜けていくと共に、胸に去来する空虚感。大事なものが吸い取られ、逆にドロリと粘着質な感情が注ぎ込まれていく。

 それはまるで、キーリの作る影の中に潜り込んだ時のようで。


「はあっ!!」


 アリエスは戦慄を覚えて愕然とした。彼女の表情が苦痛に歪み、しかしそれもフィアが影を斬り裂いたことで解放され、レイスが崩れ落ちる体を支える間に押し寄せた胸の内の澱みが一気に晴れていく。


「大丈夫かっ!?」

「え、ええ……問題ないですわ。それよりも今のは――」

「お気に召して頂けたかな?」


 教皇の楽しげな声に、アリエスがキッと睨めつける。だが彼女の視線の先で、教皇の体が瞬く間に足元の影の中に沈んでいくのを捉えた。

 そして。


「シオンっ!!」

「っ! ぐ、あ、ぁぁ……」


 シオンの背後に出来た影。そこから教皇がぬっと現れ、シオンの首元を掴みあげた。


「君らの眼から見てどうかな? それなりにいわゆる闇神魔法の扱いにも自負はあるんだがね」

「どう、して……」

「ふふ、さあどうしてだろうね?」

「シオンを離しやがれ!」


 キーリが剣を握り教皇目掛けて切っ先を突き立てる。教皇がひらりとかわしたところで横薙ぎに大剣を切り払う。その一撃は確かに教皇を捉えたのだが、キーリの膂力をもってしても教皇の体が多少傾いだだけであった。


「ガリガリ野郎のくせになんてパワーだよ!!」

「私としてはそっくりそのセリフをお返ししたいね。まあ、それはそれとして――」


 キーリがさらに斬りかかり、フィアとレイスもまたそれに加わろうとするが、教皇は軽々と持ち上げていたシオンを何もせずに解放した。空中に放り出されたシオンをフィアが受け止める。ゲホッと数度シオンが咳き込むが、それ以外の異変は見られなかった。


「てめぇ……何をしやがった?」

「そんな顔で見ないでくれないかな? 別に彼には何もしてやいないよ。君らの中で彼が一番厄介そうだったから先に殺してしまおうとも思ったんだけど、ここまでせっかくやって来てくれたからね。途中退場させてしまうのもかわいそうかと思って」


 言葉通りのはずがない。キーリはシオンの前に立ってかばいながら、苛立った様に舌を鳴らした。

 何かを仕込んだのか? 背後の様子をチラと伺うが、未だ苦しげではあるもののシオンを巡る魔素の流れに異常は見られない。教皇の表情を見ても、変わらぬ微笑みを見せるばかりで考えが読めなかった。

 動くか、様子見か。キーリのみならずフィアやアリエスまで判断を迷わせているのは、先程、教皇が放った攻撃だ。

 影を操り、こことは異なる次元を介して移動したのは間違いなく闇神魔法。それをどうして光神が使えるのか。キーリが光神魔法を欠片も使えないように、光神と闇神は真逆の属性。いかに神といえど――むしろ神だからこそ他の神の魔法を使えるはずがない。

 常識が考えを邪魔し、行動を妨げる。動けないまま睨み合うだけのキーリたちに向かって、教皇は両腕を改めて広げた。


「どうしたんだい? 世界を守りたいんだろう? さあ、ぜひその意思を私に見せてほしいね」


 挑発か本心か。何もかもが読めない。初手の攻撃は全て有効打にならず。その事が、教皇に攻撃が通らないのではないかと不安にさせてくる。


(それでも……)


 やらねばならない。ここに来て退く選択肢はない。

 キーリは復讐を成し遂げるため、フィアたちは世界を守るため。

 不気味なプレッシャーに震えそうになる体。それに各々喝を入れて武器を強く握りしめる。

 最後の敵を打ち倒す。決意新たに、キーリたちは教皇目掛けて走り出したのであった。





お読み頂きありがとうございました。

引き続きお付き合い宜しくお願い致します<(_ _)><(_ _)>


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