9-5 迷宮探索試験にて(その5)
第31話です。
宜しくお願いします。
<<主要登場人物>>
キーリ:本作主人公。スフォン冒険者養成学校一回生。成績も良く、運動系の能力は非常に高い。欠点は魔法の才能が絶望的にないこととイケメンを台無しにする目つきの悪さ。転生前は大学生で、独自の魔法理論を構築している。
フィア:赤い髪が特徴で、キーリのクラスメイト。ショタコンで可愛い男の子に悶える癖がある。キーリに剣の指導を施す程達者だが魔法もそれなりに使いこなす。勉強はできるが机に座っているのが苦手。
シオン:冒険者養成学校一回生で、魔法科所属。実家はスフォンの平民街で食堂を経営しており、日々母親のお手伝いをする頑張りやさん。
レイス:メイド服+眼鏡の無表情少女。フィアに全てを捧げるフィアの為のメイドさん。キーリ達の同級生でもある。
ケビン、カイル:キーリたちの同級生で魔法科所属。シオンを虐めていた。
ユーミル:キーリが幼い時によく遊んでいた鬼人族の女の子。英雄たちの襲撃によって絶命した。
ケビン達を見送ったキーリ達は程なくして最深部手前に到着した。
先ほどの大量発生以降モンスターに遭遇することは無く、しかし警戒だけは緩めない。緩やかな下り坂を慎重に進んでいき、ある一点で三ヶ所の分かれ道が一つに集まっていく。そして、迷宮によって創りだされた自然の階段を前にして一行は立ち止まった。
「――いよいよだな。準備はいいか?」
「別に最深部にモンスターが居るわけじゃねーし、そんな気負わなくてもいいんじゃね?」
事前に教師からもたらされた情報では、最深部には到達を証明するカードのみが置かれているはず。首を鳴らしながらキーリが疑問を呈するが、フィアは「分かっている」としながらも言葉を重ねた。
「万が一を考えてだ。ここまでの道中、事前の話と違うことが多々起こっているからな。この先がモンスターハウスと化していても私は驚かんよ。警戒してもし過ぎる事はあるまい」
「それもそうか」
「では私が先行して様子を――」
「いや、ここは全員で行こう」フィアがレイスを制した。「この先が最深部であるならそう距離は無いはずだ。無論罠が仕掛けられている可能性もあるからレイスが先頭であることは変わらないが、不測の事態に備えてすぐ後ろにキーリが付いて行く。殿は私が務めるからシオンは少し魔素を多めに使って風の結界を展開してくれ」
「分かりました。それじゃあ……」
シオンが詠唱を口ずさみ、結界が展開される。風精霊の加護に包まれた事を確認し、フィアの合図と共に階段を降りていった。
薄暗い階段を慎重に一歩一歩進む。罠の有無をレイスが確認し、キーリも耳を澄ますが特に何かある様子は無い。モンスターの息遣いもなく、やがて何事も無く階段を降りきった。
その先に有るのは、人一人が何とか立って通れる程度の入り口らしき場所。レイスが振り向いてフィアの判断を仰ぎ、それにフィアは頷いて応えた。
脚を踏み入れる。
四人が入り口をくぐると、その先には広い空間が広がっていた。
二階層分ありそうな高い天井に、養成学校の教室くらいはありそうなスペース。これまでの通路よりも遥かに強く壁が発光しており、天井を見上げればまるで満天の星が広がる夜空のようだ。
「――すごい」
シオンの口から感嘆が漏れる。フィアもキーリも、そしてレイスさえも初めて見る景色に眼を奪われ、ここが迷宮の最深部である事を一時忘れるほどだった。
「ふふっ、喜んでもらえたかしら?」
心ここに在らずなまましばし時が流れていると、その広間に楽しそうな声が反響した。
自分達の他に誰か居る。瞬時にそれに思い至り、緊張とともに慌てて四人は振り返った。そこには――
「……シェニア?」
「はぁい。怪我もなくて元気そうで良かったわ」
校長であるはずのシェニアが何故か笑顔で手を振っていた。
いつもの通りのゆったりとしたパーティドレスを纏い、しかし動き易さを考慮してか幾分スカート部の裾は短い。迷宮という場所には余りにも不似合いな格好であることには変わりないが。
「え? シリルフェニア校長? え? 何で校長が?」
「こんなとこで何やってんだよ、シェニア」
「おい、キーリ! 相手は校長だぞ! もうちょっと言葉をだな……」
「あー、いいのいいの。キーリとはそれなりに付き合いがある仲だから」
相手がシェニアだと分かると途端にキーリから緊張感が抜け、いつも通りラフな口調で話しかける。それを聞いたフィアが小声で咎めるが、シェニアがヒラヒラと手を揺らしながらフィアを宥めた。
「はぁ、校長先生がそう仰るなら……
キーリも、いつの間に校長先生と仲良くなったんだ?」
「んー、まあ入学前に色々とな。
で? 忙しいはずの校長先生様がこんなとこに居るんだ?」
「……生徒たちの一大イベントに校長が居ないのはおかしいと思うのよ」
「サボりか?」
「う!」
シェニアはうめき声を上げ、冷や汗を掻きながら眼を逸らした。キーリは全てを察して大げさに溜息を吐いた。
「はぁ、またかよ……」
「し、失礼ね! ……ちょっと休憩してるだけよ!」
「それをサボりっつ―んだよ。ミーシアさんが今頃鬼の形相で学校中を探しまわってるぞ?」
「……大丈夫よ。一応書き置きしてきたし」
「余計に性質悪いわ」
シェニアの机に突っ伏して呪詛を紡ぐミーシアの姿が見えた気がした。
「……シリルフェニア校長はこういう方だったのか」
「そ。こんなテキトーが色っぽい服着てるだけの人間だからお前らもテキトーに扱って大丈夫だと思うぞ?」
「いや、流石にそれは……元ランクA冒険者ですよ? 超がつく程の一流の魔法使いですしそんな畏れ多いこと出来るのキーリさんくらいですよ……」
「そーそー。シオン君だっけ? もっと言ってあげてよ。最近私に対する敬意が足りないんじゃないかって」
「自分の日頃の行いを胸に手を当てて聞いてみろよ。ま、別にどーでもいいけどよ。
それで、仕事サボるために朝っぱらからこの迷宮にこもってたってか?」
肩を竦めて呆れた風にそう言ったキーリだったが、今度はシェニアが「そんな訳ないじゃない」と逆に呆れてみせる。
「幾らなんでもそこまで仕事放棄したらミーシアから絞め殺されるわ。部屋を抜け出してきたのはそうね……まだ鐘一つ(≒一時間)くらい前かしら?」
「え?」
「おいおい、冗談きついぜ。学校からここまでそれなりに距離があるし、幾らEランク迷宮だからってたったそんだけの時間で着けるかよ」
「嘘じゃないわよ」ふふん、とシェニアは見た目にそぐわない子供っぽい仕草で笑った。「街からだって風神魔法で一直線に飛べば半刻も掛からないわよ?」
「では、迷宮の入り口からここまではどのようにして来られたのでしょうか? 別に校長をお疑いしてるわけではなくて率直な疑問なのですが……ここまでの道のりを考えると、幾ら魔法を駆使してもとても半刻で辿り着けるとは思えないのですが……」
「そりゃ丁寧に通路を通ってきたら流石に私でも無理よ」
フィアの疑問にシェニアは天井を指差した。釣られて全員見上げるが、当然そこにはただ星空のようにきらめく天井があるだけである。
「天井がどうしたんだよ?」
「上からここまで掘ってきただけよ。そうすればホラ、一瞬で辿り着けるわよ?」
「は?」
ポカンと全員が口を開けた。
「ほ、掘った?」
「ええ、そうよ。地神魔法でちょちょっと必要な穴を開ければすぐだったわ」
何でもないことのようにシェニアは言ってのけるが、それがとんでもない熟達の技である事は魔法科のシオンや制御に覚えがあるキーリはもちろん、そうではないフィアやレイスでも察することができた。
地神魔法で穴を掘るだけであれば難しい事ではない。しかし掘った穴が崩れないよう固めて通り抜けた穴を再び元のように復元する。しかも落下する自分の体勢を制御するよう風神魔法も行使しているはずで、衣服に汚れが無いことからそちらも何らかの魔法で保護していたに違いない。
複数要素の魔法を正確に同時に行使する。シオンは感嘆と共に尊敬の眼差しをシェニアに向け、キーリも流石に見直さざるを得なかった。
「どう? ちょっとは見直したかしら?」
「……悔しいけどな。やっぱり元Aランクっていうのはとんでもない連中ばかりなんだってのがよく分かったよ」
素直に賞賛してみせるとシェニアは一瞬眼を見張るがすぐに誇らしげに笑みを浮かべた。
そんな話をしていたが、シェニアが「そうそう」と話を切り替えた。
「雑談が過ぎたわね。私だって単にサボ……休憩するためだけにわざわざここに来たわけじゃないわ」
そう言って四人を招くと一人ずつにカードを手渡していった。キーリは視線を落として観察した。
銅らしき金属で出来た掌大のそのカードは、右上にギルドの紋章が刻まれているだけのシンプルな意匠で、中央にはキーリの名前が刻まれている。鈍い輝きを放つそれの、名前の横に刻まれているのは「F」の文字。
「これは……!」
「おめでとう。正式にはまだだけど、ここに辿り着いた事で貴方達はランクF冒険者として活動できる資格を得たわ。そのカードはその証明となる本物のギルドカードよ」
正式にギルドにFランク冒険者と認められるのは一月後。冒険者証授与式を経てからになる。その時にカードとは別にギルドの紋章を象った徽章を与えられて初めて冒険者としての活動が可能になる。また、今回の試験でここまで辿りつけなかったとしても、半年に渡る一期間での成績がそれなりであれば最終的にFランクの冒険者にはなれる。
だが、だとしても今これを授けられたという事は冒険者としての第一歩を確かに踏み出したという証明だ。鈍色のカードに微かに映るキーリの顔が徐々に綻んでいった。
Fランク冒険者になれないということはキーリも端っから考えることすらしていなかった。そんな選択肢などありはしない。それでも、それでも自分が確かに前に進んでいっているという傍証を得られて、キーリは昂ぶってくる感情に突き動かされて思わず拳を歓喜に震わせた。
フィアやシオン、そして感情を露わにすることの少ないレイスも同じように瞳を輝かせて自身のカードを見つめていた。
「ふふ、これまでに辿り着いた子たちもそうだけど、それだけ喜んでくれたらここに来た甲斐があったわ」
「これを渡すためにここに来て下さったのですか?」
「そうよ。元々の予定だと全員が迷宮から脱出した後に渡すはずだったんだけど、こうして最深部で渡される方が感慨深いものがあるでしょ?」
「はいっ! ありがとうございますっ!」
シオンが一際眼を輝かせて、珍しく大きな声で礼を言った。魔法使いとしてシェニアに憧れている節もあり、また少し前まで在学を続けることに悩んでいたシオンだ。自分達より喜びは強いのかもしれない、とキーリは思った。
「はい、それじゃあんまりここで長居もしてられないでしょ? 迷宮から脱出するまでが冒険者よ。貴方達なら余計な心配でしょうけど、帰りも十分気をつけて行きなさい。帰り道でしくじったらそのカードは没収するからそのつもりで」
「分かってるよ。どんな時だって油断が一番の敵だからな。せっかく貰ったカードを取り上げられたくはねーし、せいぜい気をつけるさ」
「よろしい。それじゃ行ってらっしゃい」
「ありがとうございます。
そうだ……それとシリルフェニア校長先生、お耳に入れたい事があるのですが」
シェニアの言葉に礼を述べてキーリ達は部屋から出ようとしたが、伝えるべきことを思い出したフィアがシェニアに声を掛けた。だがフィアの言葉に先んじてシェニアが「分かってるわ」と頷いた。
「事前の下調べには無かったモンスターの異常発生の件ね? さっきカイエン先生がやってきて教えてくれたわ。だから帰りの通路を幾つかに限定させて、生徒たちの安全を最優先するよう指示したから少しは安心していいわ」
「それもなんですが……」
フィアはキーリの方を振り返り目配せをした。それを受けてフィアの意図を察したキーリはシェニアの傍に近づいて、シオンやレイスから見えないようにして手に入れた糸を見せた。
キーリが取り出した蜘蛛の糸の束。それを眼にしたシェニアは眼を見開くと、端麗な柳眉を寄せた。
「ジャイアントスパイダーの糸……何処でそれを……?」
「地下二階、いや三階だったか? ここから半刻くらい手前の場所でトラップの落とし穴があってな。隠し通路みたいな感じだったけど、そこで遭遇したんだ。せっかくの相手だからな。できるだけ回収してきたんだよ」
「そう、よく無事だったわね……」
「別に。将来を考えりゃこの程度の相手に苦戦してる場合じゃねぇしな」
「……そうだったわね。でもよくやってくれたわ。遭遇したのはその時だけかしら?」
シェニアの質問に頷くキーリ。それを見たシェニアは顎に手を当てて俯き、何かを思案する素振りをする。
しかしそれも束の間。シェニアは大きく開いた胸元から紙を取り出すと、何処からともなく取り出したペンでサラサラと何かを書き記していく。そのただならぬ様子を察したシオンとレイスもフィア達の方へ近寄ってきた。
「何かあったんですか?」
「まあ……ちょっとな?」
シオンが尋ねるもフィアとキーリは揃って言葉を濁す。冒険者カードを貰って喜んでいるシオンの気分に水を差すのは憚られたし、ジャイアントスパイダーの様な本来ならば想定外のモンスターと遭遇する可能性はあれども実際に遭遇するとは限らない。余計な不安を煽るような真似はしたくないし、遭遇したらしたでその時はキーリとフィアで対処すれば問題ないだけだ。
シオンは首を傾げるも無理に聞き出そうとはしない。彼は彼でフィアとキーリを信頼しているし、言いたくない事を言わせる程の強引さを持ちあわせてはいない。察しのよいレイスは何か感づいたようだが、彼女もフィアが言わないのならば聞かなくても良いことであるとばかりに静かに控えていた。
そうして一分程待っているとシェニアの手が止まる。そして厳しい表情をして四人に告げた。
「現時刻を持って試験は中止。現在迷宮内に居る生徒たちはすぐに外に出る事とします。貴方達もすぐにここから脱出しなさい。戦闘は最小限にして何を置いてでも脱出することを最優先で。いいわね?」
「――分かりました」
突然とも言えるシェニアの宣言。何らかの対処は打たれるだろうとはフィアとキーリも思っていたがまさか中止を宣言するとは思っておらず、一瞬面食らって言葉を失った。
だがすぐにフィアは気を取り直し、シェニアの指示に力強く頷いた。
「何が……あったんですか……?」
再びシオンが尋ねてくる。不安に眉尻を下げつつもキーリの顔を見上げる。
ここに至ってまだ黙っている意味はないだろう。キーリは何でもない事だ、と言外に込めたつもりで気楽な様子で伝えた。
「別に大したことじゃねーよ。この迷宮でDランクモンスターが確認されたってだけだ」
「それって大事じゃないですかっ!」
思わずシオンは大声をあげ、だがキーリは泰然としてシオンの頭を撫でた。
「おうよ。だからこうしてシェニアが試験の中止まで宣言したんじゃねーか」
「心配しなくていい。たとえ遭遇したとしても私とキーリで何とかしてみせるからな」
「それはそうかもしれないですけれど……」
語尾を濁しながらシオンは下唇を噛み締めた。その仕草は不満そうで、しかしつい、 と視線を逸らすと口を噤む。フィアはそんなシオンの様子を見て一瞬申し訳無さそうに眉尻を下げるも頭を振って気持ちを切り替える。
「ともかく、校長先生のお言葉通り一刻も早く脱出しよう。
――それでは行くぞ」
「あ、ちょっと待ってちょうだい」シェニアが呼び止め、先ほど作成した二通の用紙をフィアに手渡す。「お遣いさせて申し訳ないんだけど、途中で他の生徒や先生たちを見つけたら今言ったことを伝えてくれないかしら? ぐずるようならその紙を見せなさい」
「承知しました」
「それと――」
シェニアは続いて何かを言おうとしたが逡巡した。言うべきか言わざるべきか。判断に迷い、しかしすぐに彼女は懸念を口にした。
「こんな事を言うのは子供を導く立場の人間としてどうかとは思うけれど――ゲリー・エルゲン君が何かしら妙な動きを試験前に見せていたわ」
「――」
「具体的に何を企んでいたのかまでは分からなかったのだけれど、何か嫌な予感がするのよね。もしかすると色々と因縁深いキーリも巻き込まれるかもしれないわ。もし彼のパーティを見つけたら、関わらないように距離を取りなさい」
「……あいよ。ご忠告、感謝するぜ。アイツらとはいい加減うんざりだからな。せいぜい妙な事に巻き込まれないよう注意するよ」
「感謝されるようなことじゃないわ。本来なら前もってこちら側が何とかしなければならないことだもの」
小さく自嘲気味に笑い、シェニアは頭を振った。
「引き止めて悪かったわ。さ、もう行きなさい」
促され、キーリ達は今度こそシェニアに背を向けて部屋を出て行く。
階段を昇っていき、その途中でキーリはシオンが不安気に俯いているのに気づいて頭を乱暴に撫でた。
「心配すんなって。フィアも言ったけどどんなモンスターが出たって何とかしてやるからよ」
「いえ……そちらについては心配してないです。さっき言ってたDランクモンスターってあの落とし穴の先で見つけたんですよね? たぶんその時に見せた蜘蛛の糸――それがDランクモンスターのものだとするとキーリさんが見つけたのはジャイアントスパイダーじゃないですか?」
「正解。よく分かったな」
「少し考えれば分かることですよ」キーリが褒め、シオンは少しだけ恥ずかしそうに表情を緩めた。「その糸を持って帰ったって事は一人でDランクモンスターを倒したって事ですよね? フィアさんとキーリさんがいれば、きっとCランクモンスターだって倒せると思うんです。だからモンスターについては余り心配してないです」
それよりもゲリーの事の方が心配だ、とシオンは口にした。
「ゲリーさんって余り知らないんですけど、あのエルゲン伯爵のご子息ですよね? ここスフォンを治めている……そんな人に眼を付けられてて大丈夫なのかなって。もちろんゲリーさんがすごく強い人でもキーリさんが負けるとは思いませんけど、貴族の方を敵に回すと色々と厄介な気が……」
「そんな大層な人間じゃねーけどな。脂肪まみれでブヨブヨの体つきの、まさに貴族の坊っちゃんって感じだし」
「確かにエルゲン伯爵そのものに睨まれると冒険者として活動するにも不利益が出るかもしれないが、名代とはいえ、ギルドが公正・平等を謳っている以上彼に露骨な妨害は出来ないだろう。精々学内で嫌がらせをしてくるくらいか。考えられるのは」
「でも、この迷宮内で何かしてくるかもしれないんですよね?」
「何を企んでいるかシェニアも分かってなかったし、俺とは全く無関係かもしれねーけどな。あくまで可能性だよ、可能性」
シオンの不安を和らげるように軽い調子で言うが、キーリは自身の言葉を微塵も信じてはいなかった。根拠は無い。だが、シェニアの言葉ではないが、妙な胸騒ぎがずっと止まらない。
しかし、何が起ころうともキーリの心は決まっている。
立ち塞がる如何なる障害も蹴散らす。そして――
「万一、何かやってきたってシオンには指一本触れさせねーよ」
仲間への危害は、絶対に許さない。
2017/5/7 改稿
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