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8-3. 英雄は地の底で命を削る(その3)

初稿:19/11/09


<<<登場人物紹介>>>


キーリ:主人公。英雄殺しに人生を賭ける。

フィア:レディストリニア王国女王。翻弄される人生を乗り越えた。

アリエス:帝国貴族。パーティの万能剣士。

シオン:パーティのリーダーを拝命。後方から仲間を支援する。

レイス:フィアに仕えるメイド。いつだって冷静沈着。

ギース:パーティの斥候役。口は悪いが根は仲間思い。

カレン:矢のスペシャリスト。キーリと同じ転生者。

イーシュ:パーティの盾役。その防御を突破するのは英雄でも困難。

クルエ:元英雄。キーリたちを優しく導く。

フラン:元英雄で教皇の下で色々動いている。自分本位で他人を精神的にいたぶるのが好き。

エレン:元英雄。フランの双子の妹で、元々養成学校時代にはキーリたちの同級生だった。





 クルエの提案にキーリたちは目を剥いて振り返る。だがクルエの瞳が本気だと告げていた。


「ふざけんな。アンタ一人で英雄二人を相手にするってのかよ?」

「そうですよ! 無茶ですって!」

「大丈夫ですよ」


 眉尻を下げて異を唱えるカレンに、クルエは軽く微笑んでみせた。


「忘れてませんか? 僕だってかつて英雄と呼ばれた人間ですよ? 足止めくらいはしてみせます」

「……」


 クルエが軽く肩を竦めておどけてみせるが、彼を見つめるキーリたちの表情は厳しいままだ。それでも彼は心配をかけまいと笑顔を崩さない。


「安心してください。あくまで君たちを目的地へ届けるための足止めです。無茶はしませんから」


 それは嘘だ。誰もがそう思った。いくら足止めだけとはいえ、フランとエレンを相手にして無茶をせずに済むはずがない。

 それでもフィアは頷いた。


「分かりました」

「フィアさんっ!?」

「その代わり、絶対に後から追いかけてきてください。それが条件です」


 そこだけは譲りません。そう言い添えたフィアを見て、クルエは頬を掻いた。


「分かってますよ。キリが良いところでさっさとお暇して追いかけます。英雄の中でも逃げるのが一番得意でしたから」

「それは自慢なんですの?」

「生き残ること。それが一番大切なことですから」

「ねーねー。作戦会議は終わった?」


 待ちくたびれた、とばかりにフランが急かしてくる。カレンやシオンはまだ納得が行っていなさそうだが長々と言い争えるような状況ではなかった。


「ああ。ご丁寧に待って頂けて光栄だよ」

「ふふん。ボクは寛容だから。弱っちい君らが一生懸命なのを邪魔するのも悪いじゃない?」

「だったらさっさとその仮面も脱いでくんねぇか?」

「えー……ま、面白い反応も見れたし、もう満足かな?」


 やれやれ、と肩を竦めると再び変装を解き、いつかも見た二人が現れる。

 オーフェルスの城で見たメイド服の女性と、養成学校時代に共に過ごした同級生――ティスラの姿だ。キーリとフィアの脳裏に、当時のステファンが変貌していく記憶が蘇り、その不快な感情に舌打ちした。


「さぁて、かかってきなよ?」


 挑発の声が響き、キーリが再び床を蹴る。同じくしてフィアたち仲間もまたそれぞれの武器を手にフランたち目掛けて走り出した。


「結局力づくで押し通ろうってわけだね。あー、やだやだ、これだから冒険者ってのは。スマートじゃないなぁ」


 接近戦を挑もうとするメンバーに先行して、後方からクルエの魔法やカレンの風の矢が飛んでくる。それをフランたちはひらりとかわし、お返しとばかりに無詠唱で光神魔法を放った。

 無数の光弾が降り注いでいく。キーリは広く闇神魔法を展開し、壁を作ってそれらを吸収させていく。吸収しきれなかったものが貫いてくるが、フィアたちもまた加護をまとわせた剣などで切り払ったり地神魔法で防いだりして光神魔法の雨を切り抜けていく。


「てりゃああああっ!!」


 イーシュがエレンと、キーリがフランとぶつかり合う。剣と杖、大剣とナイフが重なり鍔迫合う。だがそれも一瞬で、トリッキーな動きでエレンたちが背後に回り込む。


「おわっ!?」


 背後からの攻撃を反射的に避け、イーシュの口から声が漏れる。転がるようにして距離を置くが、エレンはその隙を逃さない。すぐに距離を詰めるが、イーシュも体勢を崩したままながら持ち前の防御力を発揮して即座に均衡に持ち込んだ。

 そこにカレンとクルエの攻撃が届く。エレンは無言のままイーシュから離れ、今度はイーシュの方からエレンに接近。攻守が交代した。

 一方でキーリもまたフランと攻防を繰り広げていく。大剣ではなく小回りの効くショートソードを影で作り出し、光神の加護をまとわせたフランのナイフとぶつけ合う。フランのトリッキーな動きにも、影を巧みに操って主導権を奪わせない。


「あはっ! ホントそいつ厄介だよねぇっ!!」


 笑いながらも思い通りにいかないのが気分を害するのか、フランの表情と対象的に声色に苛立ちが混じっていく。


「邪魔くさい邪魔くさいっ! 目障りだねっ!」

「――テメェの方が目障りなんだよ」


 気配を消していたギースがフランの背後に現れ、その背にナイフを突き立てる。フランは身軽なその体を活かして回避するも、続くギースの蹴りに弾き飛ばされていく。ブロックされたためにダメージは入っていないが、距離ができた両者の間に幾重にも氷や石の壁が作り上げられていった。


「今ですっ!!」


 クルエが、叫ぶと同時にエレンへ風の刃を飛ばしていく。避けたエレンに滑るような動きで接近し、ナイフでの近接戦へと移行する。

 ナイフがぶつかり合い、仄かな火花を散らす。

 クルエが足止めしているその隙に、計画通りフィアたちが彼らの間を走り抜けた。エレン、フランと正面切って対峙していたイーシュとキーリも離脱し、奥に向かって駆けていく。

 しかし。


「ギース!? カレン!?」

「俺は残る」

「私も」


 ギースとカレンが突然脚を止めて反転し、キーリたちに背を向けた。クルエと挟み込むような形でフランたちと対峙してキーリたちに対する壁となる。


「みんなは早く行ってっ!」

「しかし……!」

「ちっ。クソみてぇな親でも親は親だ。それをああも馬鹿にされたんじゃあ――俺だって腹の一つだって立つ」

「私だって同じ。キーリくんじゃないけど、お母さんやユーフェちゃんを侮辱されて黙ってられるほど人間できてないから」


 二人はテコでも動かない、とばかりにそれぞれ武器を構えてフランたちを牽制する。脚を止めたフィアたちだったが、しっし、とギースから手を払われ、それに押される様にして彼らに背を向けた。


「そんなの許さないよ!」


 フランがキーリたちに魔法を放とうとし、しかしそれをカレンの矢が押し止める。フランは対象を矢に変えて魔法で撃ち落としながら、それ以上の火力を以て反撃してくる。

 飛び交う魔法の煌めきの中、その間隙を縫ってギースがフランに襲いかかる。エレンの相手をクルエ一人に任せ、カレンと協力してフィアたちの後を追うことを許さない。


「ああ、もう。邪魔しないでほしいなぁ!」


 ギースと同じ様にフランは悪態をついた。だが言葉とは違って何処か余裕のようなものを正面から対峙していたギースは感じとった。


(……何企んでやがる?)


 高速で互いのナイフを奮いながら、しかし思考を巡らすも答えは出るはずもなく、警戒だけを強めるという消極的な結論しか見いだせない。それでも時間さえ稼げればいい。このクソ女の顔面さえ一発殴れればさらに上等だ。ギースはナイフを握る両拳に力を込めた。

 そんな彼らの姿を刹那だけ足を止めて見入っていたキーリたちだったが、すぐに気持ちを切り替えて奥へと向かって走り出した。


「……」

「心配ですの、シオン?」

「ええ、まあ……」


 クルエを含め、残ったメンバーの実力は疑っていない。英雄を相手にしてさえ、うまく切り抜けてくれる。シオンはそう信じているし、けれども背後から聞こえる戦いの音だけを聞いていると不安がどうしてもこみ上げてくる。


「そんな顔すんなってっ!」イーシュがシオンの背をバン、と強く叩いた。「アイツらが簡単にやられるタマかっての!」

「そうですね……」

「しばらくすればシェニアやオットマー先生も合流するだろう。であればすぐに追いかけてくる――」

「止まれっ!!」


 シオンの頭を撫で回し、いっそのことこの場で抱きしめてしまおうかという場違いな衝動に襲われつつあったフィアだったが、その妄想をキーリの鋭い声が斬り裂いた。

 頭上から振ってくる影。高速で幾つもの白い煌めきがキーリたちがいた場所を貫いた。

 後ろに飛び退き回避したと同時に、さらなる光神魔法の嵐が彼らに襲いかかる。シオンは即座に地神魔法で壁を作り出して防ぐも、おびただしい数の暴力が壁を破壊していった。


「っ……! 今度はなんですのっ!?」

「知るかっ! けど、パッと見た感じだと――」


 人の様なシルエットだった。キーリがアルエスに怒鳴り返す声が反響する中、漂っていた白煙や砕けた壁の砂煙が徐々に晴れていく。

 そこにいた姿は、キーリが話したとおり人であった。背丈・格好ともに人のカテゴリから外れておらず、引き締まった肉体と白に近い金色の髪色をしていた。

 同じ様な装備をした人間が、一人。さらに魔法が振ってきた天井側を見上げれば、高いところにもいてキーリたちを見下ろしている。

 金色の髪に白銀の鎧。揃いも揃って同じ鎧を着込み、腰や手に持った剣に刻まれた十字架の紋章。決して見慣れない連中である。だがシオンはすぐに正体に思い至った。


精霊の騎士団(シルバー・ナイツ)……っ!!」


 教会が誇る、実力者たちが集う騎士たち。冒険者ランクでいうC以上の者のみが入団が許され、さらにそのうちの一握りだけが教皇や要人の護衛としての任務に当たるという。

 鎧の意匠などから察するに彼らはその選りすぐりたち。そんな彼らが眼を赤く輝かせ、感情というものを全て削ぎ落とした状態でキーリたちの前に立ち塞がっていた。


「あははっ、残念っ! もうちょっとだったのに」

「フランっ!」

「ボクがそう簡単に行かせると思ってたのかな?」


 フランは、ギースたちと戦いながらもキーリたちの方を見てニタリと笑う。そんな余裕を見せられ、ナイフを叩きつけながらギースは顔を歪ませた。悔しいが、加護を受けて底上げできたとはいえ、やはり英雄とギースたちの力の差は厳然としてある。


「へっ! シルバーなんちゃらだかなんだか知らねぇけど、大したことはないっての! たかが二人で止められると思ってんなら――」

「それで全員だって、誰が言ったかな?」


 増援の数に少し安堵して余裕をみせたイーシュだったが、フランの声が通路に反響する。すると正面にいる騎士の後ろにさらに七人、高所にもさらに三人の姿が露わになる。

 総計十二名の精霊の騎士団が足並みを揃え、モンスターのように赤く眼を光らせてキーリたちに迫ってきていた。


「シルバー・ナイツも操っているのか……!」

「あははっ! さすがにコイツらまでお人形さんにするのは苦労したんだよ? 暴走させず、かつ戦闘能力は向上させる絶妙な調整をしたからね。これもステファンが実験に協力してくれたからだねっ」


 そう言いながら傷跡が疼くのか、フランは当時ステファンに噛み千切られた腕を押さえ擦った。自分で口にしながらやられた時のことを思い出したらしく、フランは苛立ちに舌打ちをしながらギースの攻撃を半身を引いてかわすと、力任せに蹴り飛ばした。


「ぐっ……ちっ!」

「ギース!」

「グダグダしてねぇでさっさと行けってんだよっ!!」


 口元から垂れた血を指先で拭いながらキーリたちに叫ぶと、再びギースはフランに向かっていく。カレンと連携しながら押し込んでいき、だが攻め続けてもフランの優位は変わらない。

 クルエもまたエレンと一対一で互角の戦いを続けている。伯仲した実力はさすがだが、ギースたちの援護に駆けつけるには難しそうだった。

 であれば、彼らに負担を駆けない意味でも早くここを離れなければ。シオンは近づいてくる騎士団の連中を睨んだ。


「……この数は厄介だな」

「だが押し通るしかあるまい。また一点突破で食い破るか?」

「では私が先陣で敵をかき乱します。陣形が乱れた隙にお嬢様方は奥へ」

「お願いします、レイスさん。――レイスさんはちゃんと追いかけてきてくださいね?」

「お嬢様と離れるわけには参りませんのでその点はご安心ください」


 レイスのブレない態度にシオンは苦笑いを浮かべると、防御と回避の補助魔法を、魔法との相性が悪いキーリを除き全員に掛けていく。


「それでは――参りますっ!!」


 ナイフを両手で握ったレイスが、腰を落として強かに地面を蹴った。

 そこに。


「――……っ!?」


 膨大な光量の閃光が着弾した。




お読み頂きありがとうございました。

引き続きお付き合いくださいませ<(_ _)><(_ _)>

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