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7-5. ロンバルディウム(その5)

初稿:19/10/30


<<<登場人物紹介>>>


キーリ:闇神ユキの加護を持つ細腕豪腕剣士。英雄絶対殺すマン。

フィア:レディストリニア王国女王。仕事中の癒やしはシオンに似せたぬいぐるみ抱っこ。

アリエス:筋肉イズジャスティスな貴族。マッチョマン大好き。

シオン:パーティのリーダー兼マスコット。頭の中は百科事典

レイス:フィアに長年仕えるメイド。キーリからフィアのコラ抱き枕の存在を教わり毎晩満たされてる。

ギース:口悪ヤンキー。戦いの後の商売のタネを考え中。

カレン:矢のスペシャリスト。料理を教えてくれる人募集中。

イーシュ:魔法の才能があっても知識がなくて持ち腐れ。防御力はピカイチ。




 キーリたちは進んでいく。目的地までの距離は短いのだが、すでに三度モンスターから襲われていた。

 見たこともないモンスターであったが、戦った限りだとランクはBランク程度。それが群れとなって襲ってくるので苦戦は必至だ。

 本来の実力であれば。

 しかしながら今はほぼ全員が神や精霊の加護を受けている。まして一度に遭遇する敵もさほど多くなかったため、問題なく退けることができていた。


「ここです」


 クルエの声がひんやりした通路に反響した。

 到着したのは目的地だった大礼拝堂。厳かな意匠が施され、キーリたち何人分もありそうな高く幅広い扉が閉ざされていた。

 クルエとオットマーが取っ手に手を掛けて振り返る。全員が警戒を強め、何が飛び出しても良いように武器を構えた。

 ギギギ、と床と擦れる音がする。一歩、また一歩とクルエとオットマーが下がっていき、礼拝堂の中の様子が少しずつ顕になった。

 その中は予想通りの内装だ。街にある教会とそう変わらない。違うのはそのサイズ感と綺羅びやかさ。会衆席は仄暗い中でも輝きを失わない程に水晶や宝石類で彩られ、正面の主祭壇は一際高く設えられている。空間は巨大。扉から主祭壇へ伸びる通路も、今まで彼らが見てきたどの教会よりも広々としていた。

 その中をキーリたちは進んでいく。慎重に少しずつ。しかし物音は何一つせず、静寂がうるさいほどに支配している。


「何もない……か?」

「その様ですね」


 しばらく様子を探っても何も感じられない。一端警戒を解いて部屋の様子を伺っていく。


「っ、ずいぶんと立派な建物だなぁ、おい。信者から巻き上げた金で大層なモン作ってんな」

「五大神教の聖地でもありますからね。見栄を張るのは王様も宗教も同じ……と、スミマセン、フィアさん」

「いや、構わないですよ。私だってどれだけの意味があるのか分からなくなる時もありますから」


 謝罪してきたクルエに小さく頭を振り、フィアは「それで、階段はどこでしょうか」と尋ねた。


「僕の記憶が確かであればこっちです。あの祭壇の裏手側から――」


 クルエが祭壇の奥を指差して、全員の視線がそちらに向いたその時、轟音を立てて扉が勢いよく閉じた。


「扉がっ!?」

「しまったっ!!」


 途端に室内に溢れかえる気配。ホンの数秒前までは誰もいなかったはずなのに、今は濃密な気配で満ちていた。

 やがて壁際から人型をしたものがヌルリと滑り出る。壁から、祭壇の裏手側から、そして床から。無人だったあらゆる場所から次々と人間と似た姿のモンスターが現れてくる。


「罠だったか……」

「さっきまで確かに誰もいなかったはずなのに……!」

「そりゃそうだろうさ。たった今、この場所に現れたんだろうからな」


 見る見る間に数を増していく。青白い、表面が崩れたような風貌のモンスター。よく見れば、そのどれもがカソックや使用人の服など日常彼らもよく目にする服を着ていた。


「この場所で働いていた人たちでしょうか……?」

「さあ、どうだろうな」

「そういうことは考えない方が良いですよ」


 モンスターと化した元人間たちの姿に、シオンは彼らのそれまでの日常を重ねた。沈痛に顔を歪め、しかしそれをクルエが見咎めた。


「クルエ先生?」

「この人たち……いえ、コイツらはもう敵です。私たちが情けをかける余地なんて、どこにもありませんし、かけて良い事なんてありません」

「そうですね……」

「しっかしさぁ、どこまで増えるんだよ、コイツら」

「完全に囲まれましたわね」


 アリエスの言うとおり、彼らの周りを何重にもモンスターたちが取り囲んでいた。怨嗟にも聞こえるうめき声が響き、聞きようによっては助けを求める様にも聞こえる。しかしながらその瞳は赤く攻撃の意を示しているのだから、それはきっと自分の勘違いなのだ。救えない彼らを見つめ、アリエスは静かにエストックを強く握りしめる。


「時間は掛けたくないところです」

「ならとっとと倒しちまおう――ぜっ!!」


 鋭く息を吐き出し、イーシュが駆け出した。目まぐるしく脚が地面を蹴り、加速していく。両手に持った剣が赤白く輝き、膨大な熱を帯びる。

 イーシュが跳ね、モンスターたちの一団の真っ只中へと降下していく。その直前にカレンの放った風の矢が彼の着地点にいる敵を弾き飛ばし、台風の目と化したそこに降り立つと、イーシュの剣が猛威を奮った。


「おおおぉぉぉぉらぁぁぁぁぁっっっ!!」


 フィアも眼を見張るほどに高温の炎をまとった剣が敵を焼き切っていく。切られた箇所から炎が舞い上がり、モンスターを等しく火葬する。またたく間に灰となっていき、しかしその屍を踏みしめて敵が殺到してきた。


「――させません」


 レイスがスカートをはためかせ、ナイフで切り刻む。モンスターたちの狭い隙間を縫って走り抜け、白閃を残して過ぎ去った後には風の残滓が揺らめき、バラバラになったモンスターの肉体が崩れ落ちていく。

 アリエスも、ギースも彼らに続き攻撃を繰り出して屠っていく。決してモンスターたちも弱いわけではないが、神々の加護を得た彼らの力を前にして差は歴然。

 しかし。


「ちっ、数が多い……!」


 敵の数。それもまた暴力の一つだ。倒した端からどんどんと湧き出してきて襲いかかってくる。決して負ける気はしないが、時間だけがいたずらに過ぎて焦りが滲み始めた。


「面倒くせぇなぁっ!」

「時間が惜しいっ! こうなったら――」


 フィアが身に秘める炎神の力を解放しようとしたその時、光の雨が降り注いだ。

 鋭いそれがモンスターの肉体を貫いていく。敵を薙ぎ払った光の雨が主祭壇へと続く道を作り出し、魔法が飛来した方向を振り向けばシェニアが微笑んでいた。


「ほらほらっ! 力は無駄遣いしないで本命に取っておく。

 ここはこっちに任せて、貴方たちは先に向かってきなさい」

「でもこの数をシェニアさん一人でなんて……」

「心配には及ばないのである」


 「ふんっ!」という掛け声と同時にモンスターがシオンたちの目の前を吹っ飛んでいく。それによって道を塞ぎ始めた敵をなぎ倒していき、再び道が拓けた。


「オットマー先生!?」

「支部長一人では万が一の時に困ろうが、我輩もここに残る故、お主らは目的を果たしにいくのが良い。

 クルエ先生、彼らをお願い致します」

「承知しました」

「クルエ先生!」

「お二人の言うとおり、ここでいたずらに時間を消費するのは得策ではありません。こうしている間にも世界中で危機が押し寄せているのですから。

 シェニアさんたちなら大丈夫です。ここを片付けたらすぐに追いついてきますよ。

 ですよね?」

「ええ、もちろん。教え子たちの晴れ舞台、特等席で見届けなきゃ損ってものよ」


 シェニアは次々と魔法を繰り出して敵を倒しながらウインクしてみせ、「ほらほら、さっさと行った行った」とキーリたちを促す。


「分かりました。それでは先に行って待ってますから。

 行こう、みんな」

「シェニアたちが撃ち漏らした奴は俺が蹴散らしていく。一気に突破するぞ」


 キーリを先頭にして陣形を組んでいく。それを見てシェニアは大きく息を吸い込み、叫んだ。


「それじゃ一発、でかいのいくわよっ!!」


 彼女の周囲で励起していく魔素。風が渦巻き、パキパキと空気が擦過音を奏でていく。

 そして、凄まじい突風が吹き荒れた。激しく渦を巻く風がモンスターたちを吹き飛ばし、切り刻んでいく。内包した氷の弾丸が四方に散らばり、敵の体を穿っていく。最早原型を留めないほどに損傷した肉体から魔素の粒子が散らばり、室内を明るく照らしていった。


「ぬおおおおおおおおっっっっっっ!!」


 その魔法に呼応する様にオットマーの雄叫びが木霊した。膨れ上がった筋肉が衣服を弾き飛ばし、見事な肉体美が顕になる。その豪腕が床に打ち付けられると、砕けた石の破片が無数に散らばった。

 オットマーはそれを風神魔法で制御。宙に浮いたそれらを目掛けて鍛え抜かれた拳が撃ち抜いていく。風神魔法のコーティングをされた石の弾丸が、まるで散弾銃の様に広範な敵を屠っていく。


「ふんふんふんふんふんっっっっっ!!」

「ちっ、なんつーデタラメだよ!」

「アリエス嬢!」


 次々と敵を撃ち抜きながらオットマーがアリエスを呼んだ。いつでも走り出せるよう腰を沈めたまま、アリエスが振り向けば、オットマーがサングラスの奥から彼女を見つめていた。


「――無事に帰ってくるのだぞ」

「……ええ、もちろんですわ!!」

「キーリ!!」

「ああ!! 遅れんなよっ!!」


 フィアの命令と同時に、シェニアとオットマーが作り出した道をキーリが走り出す。密度が圧倒的に減ったその道に、新たに立ち塞がろうと敵が群がるが――


「邪魔すんじゃねぇっ!!」


 キーリの大剣が横に薙ぎ、打ち払っていく。さらに後方からもフィアの炎神魔法が燃やし尽くし、シオンの地神魔法によって盛り上がった石が敵の襲来を阻害して道を切り拓く。


「階段はどこですのっ!?」

「こちらです!」


 クルエが案内したのは主祭壇の奥のさらに奥。巨大な十字架が掲げられているその裏手へと走り込んでいったが、そこには何もなかった。


「どういうことっ!?」

「ここです――よっ!!」


 クルエが巨大な氷塊を作り出し、何もない床を叩き壊す。床石が飛び散り、その一角に隠し階段が現れた。


「まったく、何処の魔王の城だよっ!!」

「何の話かさっぱりだがとにかく飛び込めっ!!」


 落とし穴に飛び込むかのような勢いでキーリたちは階段を駆け下りていく。その後ろからモンスターたちも押し寄せてくるが、それより早く分厚い氷の壁を作り出し出来た入り口を塞いだ。


「……無事に行けたみたいね」

「ですな。では後は我々で――」

「ええ。この場をゆっくりと切り抜けるとしましょう」


 キーリたちが立ち去ったことで、彼らに向いていた注意が全てシェニアとオットマーの二人に注がれる。赤い瞳を輝かせながら徐々に包囲を狭めていった。


「さて、と……どんだけ湧き出してくるのかしらね?」

「迷宮以上の魔素となると、教会の信徒だった者たちを退けても際限なく湧いてきそうですな」

「なら私たちも適当なところで切り上げて、あの子たちの後を追いかけるって方針の方が良さそうね」


 言いながらシェニアの頭上に炎が渦巻いていく。回転させることで周囲から魔素と酸素を取り込み、その色が赤から青へと変わっていった。

 シェニアと背中合わせになりながらオットマーも拳を握り構える。両手の拳には氷と炎がまとわりつき、濃縮された威力が解放される時を今か今かと待っていた。


「では、支部長」

「それじゃ――派手に一花咲かせるわよっ!!」


 シェニアの叫びと共に力が解き放たれた。膨大な魔素を内包した炎がモンスターたち目掛けて着弾。爆音と激しい振動を引き起こし、白く世界を染め上げていった。

 彼女たちの戦いが、ここで幕を開けた。





お読み頂きありがとうございました。

引き続きお付き合いくださいませ<(_ _)><(_ _)>

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