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7-3. ロンバルディウム(その3)

初稿:19/10/23

ちょい短めです<(_ _)>


<<<登場人物紹介>>>


キーリ:闇神ユキの加護を持つ細腕豪腕剣士。英雄絶対殺すマン。

フィア:レディストリニア王国女王。仕事中の癒やしはシオンに似せたぬいぐるみ抱っこ。

アリエス:筋肉イズジャスティスな貴族。マッチョマン大好き。

シオン:パーティのリーダー兼マスコット。頭の中は百科事典

レイス:フィアに長年仕えるメイド。キーリからフィアのコラ抱き枕の存在を教わり毎晩満たされてる。

ギース:口悪ヤンキー。戦いの後の商売のタネを考え中。

カレン:矢のスペシャリスト。料理を教えてくれる人募集中。

イーシュ:魔法の才能があっても知識がなくて持ち腐れ。防御力はピカイチ。




教皇国

皇都・ロンバルディウム



 世界は、濁っていた。

 一見誰しもが普通の生活を営んでいるように見える。しかし人々の瞳に光はなく、まるで操り人形のように活気を演出し、役割が終われば汚れた人形のように光の当たらない場所で崩れるように座り込む。それでも街は役者をとっかえひっかえしながら回り続け、当たり前の日常を彩り続けていた。

 仮初の、街。しかしそれが崩れ去る時が来た。

 街の門が開く。普段であれば交易の商人たちが列を為しているのだが、今この時ばかりは違った。

 開いた門の向こう側にいたのは――武装した冒険者たちだった。


「共和国オーリン支部、ヤン・ダニエル・シュミットラント、先陣を頂く。わが祖国を守るために――突貫っ!!」


 先頭にいた若い冒険者が(とき)の声を上げる。磨き上げられた剣を皇都の人々に向け、歯と怒りを剥き出しにして走り出した。


「うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっっっっっっ!!」


 彼の後に、一団となった冒険者たちも雄叫びと共に続く。目指すは街の中心にある大神殿。そこまで、後続を導くのだ。

 強い思いを抱き突撃する彼らを、街の人たちはただ眺めていた。

 その姿が豹変した。

 カタリ、と首が傾く。笑顔が脱落。否、表情というものが消え失せ、代わって瞳に赤い光が宿った。戦う者ではなく、日々の何気ない時間を過ごすためだけの手足。それらが急速に盛り上がり、変形していく。体の構造が切り替わり、人型をした別のものへと文字通り変わっていった。


「おいおい、話には聞いてたけどマジかよっ……!!」

「怯むなっ! 死にたくなければなっ!」


 冒険者たちの一団から魔法が飛来する。それはモンスターと化した街の人々の中心に着弾。激しい爆発や破砕音が轟き、それでもその攻撃を乗り越えた人々が冒険者たちへと殺到した。

 剣を握り、人間だった人たちを斬り殺す。槍が貫き、魔法が街を破壊する。その屍を乗り越えて、意思を失った人だった者たちが本能の赴くままに冒険者たちを喰らおうと、次々に襲いかかっていく。


「くそっ……! やっぱりいつもより体が重い……!」

「これが魔素ってやつか……!」


 普段とは違う感覚の体に苦しみながら必死で武器を振るう。くわえて、先程まで人だった――あるいはもうずっと前から人ではなかったのかもしれないが――モンスターたちを攻撃することも精神的な疲労を凄まじい勢いで積み重ねていく。幸いなのは、モンスターの見た目がすでにあらゆる種類の人間からかけ離れたものになっていることだろうか。

 それでも足を止めることはない。少しずつ、しかし着実に彼らは大神殿へと歩みを進めていた。

 だが。


「おい、アレをっ!」


 前線で敵とぶつかっていた一人が声を上げた。

 彼が指差した先。そこからは次々に緩慢な動きのモンスターたちが姿を見せていた。

 薄暗い街に列を成す百鬼夜行。怪しく光る無数の赤、赤、赤。何処までも続く行列は終わりを見せない。


「ああもうっ! こんなんじゃキリがないわよっ!!」

「……しかたない、このまま一気に大神殿への道を切り拓くぞっ! 敵には構うなっ!!」


 目的は殲滅ではなく、あくまで大神殿への到達。一団を指揮する年嵩の冒険者が声を張り上げた。

 それに呼応して進行速度が増していく。あくまで接敵した相手だけをなぎ倒し、ほとんどの敵に対しては攻撃を受け流していくだけ。後方からの魔法で予め道を塞ぐ敵を蹴散らして、残った者を集団の圧力でなぎ倒していく。


「――見えたぞっ!」


 緩やかな下り坂のカーブを曲がり切ると目に入る巨大な尖塔。広場の奥で華やかで繊細な装飾に彩られた建物が佇んで、彼らの到着を待ち受けていた。

 そして待ち受けていたのは建物だけではない。広場を埋め尽くすのはモンスターの群れ。大暴走もかくや、とばかりの密度で無数の赤い瞳が駆けてくる冒険者達を睨んでいた。


「ここまでか……陛下っ!!」


 振り返って速度を落とし、冒険者たちの塊後方へと男性冒険者が下がっていく。フィアは被っていたフードを脱ぎ彼に向かって大きく頷いてみせた。


「ああ、十分だっ! そうだな、キーリっ!?」

「当然っ! 後はテメェらの気合次第ってとこだっ!」

「上等よ!」

「気にせずやってしまって良いのであるっ!」


 キーリの返答に、そばを走っていたシェニアやオットマーたちがニヤッと笑って軽く肩を叩いた。


「ならその返事を信じさせてもらうっ!

 いくぞっ!!」


 キーリの足元から影が広がっていく。集団の一角を占める彼らを弾力感のある黒い壁がそれ上がっていき、包み込んでいく。


「陛下っ! それにみんなっ!」


 完全に包み込まれる前に、冒険者たちを率いていた男性が叫んだ。


「どうか……ご無事でっ!」

「……感謝する。みんなも……死ぬなよ?」

「当然だっ!」

「誰に言ってんだいっ!」

「生きて帰ったら報酬たっぷり頂けるんだよなっ!?」


 ゼニオスにオルフィーヌそれにジェナスやガルディリス。周囲の冒険者たちも含め、みなが思い思いにおどけてみせる。

 それはさらなる死地に赴こうとするフィアたちへの激励だ。同時に、眼前に敵が迫る自らへの鼓舞も含んでいた。

 誰もがそれを察していた。もちろん、フィアたちも。だから彼女は敢えて歯を見せて笑い、彼らの思惑に乗ってやる。


「もちろんだっ! ただし報酬は私からの手渡しだからなっ!」

「そりゃ生きて帰んなきゃな! じゃなきゃ無駄死にだっ!」

「誰の葬式もやるつもりはないからそれだけは覚えておけっ! では行ってくるっ!」


 そう言い残して完全にフィアたちが影に包まれ、地面の中へと消えていく。

 突撃する集団の一角が消え去ったのを見届けた指揮官役の男性冒険者は、ともすればこみ上げてくる恐怖感を笑顔で一蹴し、全員に響き渡るよう怒鳴り声を張り上げた。


「全員進軍停止っ!!」


 号令と同時に全員が一斉に立ち止まる。

 正面の広場にはおびただしく広がる敵。さらに左右両方からもモンスター化した住人たちがじわじわと迫ってきており、後方も道中蹴散らした連中が起き上がり集まってきていた。

 まさに四面楚歌。頼れるものは鍛え上げられた己の技量と、共にこの地に立った、出会って日の浅い冒険者仲間たちのみ。しかし彼らにとってはそれで十分であった。

 外向きの円陣を組み、武器を構える。油断なくモンスターたちと背後左右の仲間たちの様子を伺う。歴戦の彼らに気負いはなく、ただこの場にて為すべきことを為すという確固たる意思だけがあった。


「これより撤退戦に移行するぞっ! 雑魚どもを引きつけて、少しでも陛下たちの手助けをする! お前らが勝手に突っ込んでいくのは構わんが、連中に飲み込まれても助けるつもりは毛頭ないからなっ! いいなっ!」

「おうっ!!」

「では各人――戦闘開始っ!」


 気合の乗った雄叫びが皇都に轟き渡っていく。

 終わりの見えない撤退戦が、今、始まったのだった。





お読み頂きありがとうございました。

引き続きお付き合いくださいませ<(_ _)><(_ _)>

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