7-1. ロンバルディウム(その1)
初稿:19/10/16
<<<登場人物紹介>>>
キーリ:闇神の加護を持つ細腕豪腕剣士。英雄絶対殺すマン。
フィア:レディストリニア王国女王。仕事中の癒やしはシオンに似せたぬいぐるみ抱っこ。
アリエス:筋肉イズジャスティスな貴族。マッチョマン大好き。
シオン:パーティのリーダー兼マスコット。頭の中は百科事典
レイス:フィアに長年仕えるメイド。キーリからフィアのコラ抱き枕の存在を教わり毎晩満たされてる。
ギース:口悪ヤンキー。戦いの後の商売のタネを考え中。
カレン:矢のスペシャリスト。料理を教えてくれる人募集中。
イーシュ:魔法の才能があっても知識がなくて持ち腐れ。防御力はピカイチ。
「――そろそろレディシアに到着するが……どうだ、みんな? 感覚には慣れてきたか?」
丘の上から王都・レディシアを望みながらフィアは仲間たちに尋ねた。
魔の森を脱して数日。フィアたちは急ぎ王都へと戻っていきながら、与えられた神々および精霊王たちの加護を自分たちへ馴染ませる作業を道すがら進めていた。
加護を得る前と後で見た目に違いは無い。だが体が感じる感覚は全く異なるものになっていた。
水神の加護を得たアリエスは、気をつけなければ触る物全てを凍らせてしまいそうになっていたし、風神の力のカレンは何処にでもいる風の流れを無意識に理解してしまい、その情報過多による頭痛に悩まされていた。地神のみならず多少なりとも水神の加護も受け取ったシオンも同様。上手く制御できずに魔法を撒き散らしたり、寝ている間に一人地面が盛り上がって祭壇を構築してしまったりと、まるで魔法を習いたての学生の様な散々っぷりに肩を落としていた。
程度の差こそあれ、それはギースたち他のメンバーも同様で、持て余し気味の力を如何に思い通りにするか。そのためにここ数日もの間神経を使い続けていた。
「……何とかなってる……と思いたいですわね」
それでも努力の甲斐あってか、少なくとも暴走させる程の失敗は起きなくなっていた。アリエスが気疲れでぐったりした顔で返事をするが、すぐに気を取り直して頬をぱちんと叩き気合を入れる。
「こんな顔じゃダメですわね。もっとシャキッとしないと、陛下たちに合わせる顔がありませんわ」
「無理はしなくていいさ。私だって最初はイグニスの力を持て余していたから気持ちは分かる」
「でもこんな状況でそんな事は言ってられませんわ」
「心配要らねぇよ。どーせ軍を編成するのにまだ数日は掛かるだろうからな」
「キーリの言う通りだ。作戦の詳細も練らねばならないし、みんなもその間に馴染ませていけばいい」
「うう……そう言ってくれると助かります」
カレンが耳をヘニョとさせるが他の全員も同じらしく、どこかホッとした様子を見せた。
そんな話をしつつ、フィアたちは王都の門をくぐり城へと向かっていく。現在の世界情勢は王国の国民にも伝えられており、表面上はいつもとそう変わらない様相ではあるが、どこか雰囲気が固く重苦しい。が、それを何とか打ち払おうとしているのか活気だけはいつも以上であるような気がした。
(パニックにはならなかったが……皮肉だな)
フィアが王位に就く前の混乱は完全に収まっていて、世界的な情勢とは裏腹に国内情勢は落ち着いていた。内輪で争っている場合ではないと理解したか、貴族派と国王派の争いも鳴りを潜め、表面上とはいえ手を取り合っている。それ自体は当然喜ばしいことだが、強大な敵を前にしなければ団結できないところは種族を問わず人間の業なのだろう。
そんな思いをため息と共に吐き出しつつ、彼女たちは王城へと入っていった。
「おかえりなさいませ、スフィリアース陛下。よくぞご無事でお戻りになられました」
そこで出迎えたのはコーヴェルだった。彼は禿頭を軽く一撫ですると、好々爺然とした笑みを浮かべて頭を下げた。
「ありがとう、コーヴェル。早速だが状況を教えてくれ」
「承知しました」
上階へ登りながらコーヴェルがハキハキと説明を始める。傍らではミュレースが控えているが、彼女の支えなく登っていることから体調は相当に回復したようだった。
「まず軍の編成についてですが、最低限を残して概ねオーフェルスへの移動を開始しています。各地の貴族たちが抱えていた私兵たちも徴兵することで合意もできました」
「さすがだな。よく貴族派たちが賛同してくれたな」
「はっは。これでも貴族たちの扱いには慣れていますからね。とは言っても、さすがに彼らも状況の深刻さに気づいたのでしょう」
さらりとコーヴェルが言ってのけるが、貴族派、特に大貴族たちを動かすのは、たとえ世界的な危機だと言ってもそう簡単ではない。自らの利益のためならどんな小さな孔でも見つけ出すし、大小様々な貴族たちを動かし根回しをして自らの主張を貫き通す。反面、彼らの顔を立ててやれば妥協もできる、極めてバランス感覚に優れたものが多く、コーヴェルもまたそうである。彼だからこそ上手く折り合いをつけることができたのだろう。
「帝国軍もまたモンスターどもに占領された土地奪還のための軍編成が完了し、現在進軍中とのことでした。おそらくはもう共和国やその周辺諸国の近くにまで進んでいることでしょう」
「これもさすがは皇帝陛下と言うべきだな。動きが早い。
陛下は帝国にいるのか?」
「いえ、すでにこちらにいらして、女王陛下のお戻りをお待ちになられておりますよ。各国の精鋭たちもすでに集合しております」
「もうお揃いですの?」
アリエスが思わず口を挟んだ。方針が決まってまだ一週間である。にもかかわらず遠方の共和国や帝国の精鋭たちが揃っていることに驚きを隠せなかった。
「それだけみんな本気だということか」
「でしょう。今回は各国のギルドも全面的に協力してくれていますから、なおさら居場所の把握も容易だったのかと存じますよ」
「ギルドにゃ独自のネットワークがあるからな。でかい支部には遠隔通信できる道具もそろってるし、シェニアがうまいことやってくれたんだろうさ」
「したがいまして、皆様もお疲れかとは思いますがぜひこの機会にお顔通しをしてはいかがでしょう?」
コーヴェルの提案を受けてフィアが振り返り、シオンたちに眼で尋ねると彼らもうなずいた。
「はい、ぜひお願いしますわ」
「ではこちらへ。今は宰相閣下にご対応頂いて、皆様にご挨拶をしているところでしょうからご案内致します」
階段を最上階まで登り切り、コーヴェルが部屋へと先導する。
先日も使用した広い会議室にたどり着き、王城に相応しい重厚な扉を見上げてイーシュが身震いした。
「なんか緊張してきたな……
変な奴に絡まれたりなんかしないよな?」
「うーん、どうだろ? さすがにそんな人はいないと思うけど……」
「試そうとしてくる御方はいるかもしれませんわね。ランク上では格下のワタクシたちの露払いをすることになるのを面白く思わないでしょうし」
「けっ、そん時はそいつをぶちのめせば良いだけの話だろうが。ウダウダ言ってねぇでさっさと入んぞ」
ギースが物騒なことを言い始めるが、冒険者相手ならば言葉よりも戦いの方が伝わることも多い。最悪の場合はそうせざるを得ないか、とアリエスが軽く嘆息したところでコーヴェルが「はっは!」と笑いながら禿頭をペシッと叩いた。
「年若い皆様ですからそう心配するのも無理ないでしょうが、なに、ご心配には及ばないでしょうよ」
「だと良いんですけど……」
「すぐに分かりますよ。さあ、どうぞお入りください」
コーヴェルに促され、イーシュは扉を押し開けた。
会議室の中では多くの冒険者たちが待ち受けていた。立派な装備を身に着け、堂々とした態度で他の冒険者たちと談笑し、交流を深めている。
シオンたちは緊張した面持ちで視点を下から上へとあげていき、そして「あっ」と驚きの声を上げた。
そこにいたのは見知った顔ばかりだった。冒険者として活動してから迷宮探索以外にも護衛任務などで色々な場所を訪れたし、そういった折に様々な冒険者とも知り合った。部屋にいたのは、多くが活動の中で知り合った人物たちだった。
「ん? おっ! 女王陛下と仲間たちがご帰還したみたいだぜっ!!」
そういった内の一人がフィアたちの存在に気づいて呼びかけると、彼らは会話を止めて彼女たちの方へと近寄ってきた。
何人もの冒険者たちがシオンたちを取り囲み、しかし懸念されていたような態度ではなく好意的な態度で迎えてくれていた。そして彼らの奥から一人の男性冒険者が割って入ると、彼は気安い様子で「よぅ!」と手を挙げた。
「坊主たち、久しぶりだな。元気にしてたか?」
「ゼオニスさんっ!」
声を掛けてきたのは、かつてオーフェルスでの大暴走の時に共に闘った冒険者、ゼオニスだった。当時と変わらぬ銀色の全身鎧をまとい、オールバックにブロンドの髪をなでつけている。
「そう、ゼオニスたちも呼ばれたんですのね」
「ああ。国からの命令なんざ、いつもだったら鼻で笑って無視するところなんだがな、さすがに世界の危機とまで言われちまっちゃあ放っておくことはできないからよ。
教皇国の中枢も中枢に突っ込んでいくバカがどんな奴とは思ってたんだが、それがアンタらだって聞いて安心してたんだ。しっかり露払いしてやるから安心しな」
「宜しくお願いしますわ」
「おっと、アタシたちもいるよ」
そう言いながらゼオニスを押しのけて現れたのは鳥人族の女性だった。
浅黒い肌に真っ白なショートヘアの彼女は濃紺のマントの裾から手を出すと、笑顔でアリエスの肩に手をおいた。
「オルフィーヌ様も!」
「久しぶりね。元気にしてた……とは言えないか」
オルフィーヌもまた、大暴走時に共に闘った仲間だ。彼女は理知的な瞳をアリエスたちに向けると、何処か安心したように頬を緩めた。
「アンタたちも女王様もあの後大変なことになってたから心配してたんだ。
一応、無事だって話は風のうわさで聞いてたし、女王様も即位なさったから何とかうまいこと収まるところに収まったんだってのは知ってたけどね。こうして実際に会えてホッとしたよ」
「ご心配をお掛け致しましたわ」
「元気な姿が見れただけで十分よ。
これからが大変だけど、一緒に頑張りましょう。けど、アンタたちが一番危険な役割なのは忘れちゃダメだよ? 負けてもいいから絶対に生きて帰ってきなさいね。冒険者は生きて帰ってこそナンボ、なんだからさ」
そう伝えると「それじゃね」とオルフィーヌは彼女の仲間たちの方へ戻っていった。オルフィーヌやゼニオスたちのパーティメンバーも今回の編成に選ばれていたようで、彼らもまたシオンたちに手を振ってくれた。
シオンたちが戸惑いながら彼らを見送っていると、背後から肩が叩かれる。
「こんにちは、皆さん。ご無沙汰してます。ケガも無く戻られて何よりです」
「うむ。危険な魔の森からよくぞ戻ったな」
「クルエ先生! それにオットマー先生も!」
二人の恩師の姿にカレンとアリエスは破顔した。オットマーとは先日も共に闘ったが、クルエとは本当に久々である。
養成学校の時と変わらないヨレヨレの白衣に穏やかな理知的な瞳。何年経ってもクルエは昔のままのクルエだった。
「お二人もご一緒に戦ってくれるんですか?」
「ええ。これでも元は『英雄』と称えられた身ですからね。もう昔ほどの力はないですけれど、貴女たちを守るくらいはできると信じてます。だから微力ながらもお手伝いさせて頂きますよ」
「まして教え子たちが死地に赴こうとしているのである。ならば我々も立ち上がらなくてどうするというのかね?」
二人からそう告げられ、彼女たちの胸にも熱いものが過る。これほどまでに頼りになる戦力はない。カレンとアリエスは互いに顔を見合わせると「これはワタクシたちも負けてられませんわ」と揃ってうなずいた。
「キーリくん」
「クルエ」
「今回こそ……僕は貴方たちを守ります。絶対にもうあの悲劇は繰り返させない」
レンズの奥でキーリを見つめながら、クルエは自身に言い聞かせるようにキーリに宣言した。
彼の言う悲劇。それが、キーリの親である鬼人族の村の件であることはすぐに分かった。だがキーリは緩々と首を横に振った。
「……あの事は俺はもう水に流したつもりだぜ?」
「分かっています。ですが僕自身が許せないままなんです。キーリくんに許してもらえたとしても、僕はまだ……何の償いもできていない。こんな事が償いになるとは思いませんが、せめてもの償いとして、全力で貴方たちと共に戦わせてもらいます」
犯した過ちは永い時を経ても苛む。彼自身も十分に苦しんでいると知っているキーリはすっかり黒くなった髪を掻き上げながらそっぽを向いた。
「……勝手にしろよ」
「ええ、そうですね。これは僕の自己満足ですから、勝手にやらせて頂きますね」
「けどな」キーリはキッとクルエを睨んだ。「守ってくれる分には構わねぇけどな、自己満で勝手におっ死ぬことだけは止めろよ。もし死んだらテメェの魂を永久に暗闇の中で彷徨わせてやっからな」
「……それは怖いですね」
厳しかったクルエの表情がフッと緩む。目元を軽く擦ると「分かりましたよ」と口元で弧を描いた。
「皆さんを守って、そして僕も一緒に生きて帰る。これで良いですか?」
「ああ。頼りにしてるからな。しっかり頼むぜ、クルエ」
どちらともなく拳を掲げてぶつけ合う。軽い振動が伝わってキーリもまた、真一文字に結んでいた口を微かに緩めた。
と。
「まぁったく、なんつー縁起でもねぇ会話してんだよ、アンタらは」
そこに呆れた声が割って入った。
聞き覚えのある声だ。振り返れば、そこにいたのはやはり見知った顔だった。
「ほれ、せっかくの主役がなんて顔してんだ」
「ジェナスさんっ!?」
「それにガルディリスまで!」
ややタレ気味の眼で、幾つになっても変わらない軽そうな笑い顔を見せるジェナス。その隣には、大柄な体躯と強面が特徴なガルディリスが立っていた。ジェナスはヘラヘラしつつも入市審査官の制服である帽子のつばを押し上げてニヤッとし、ガルディリスは強面を崩してシオンの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「なんでテメーらまでいんだよ?」
「いくらジェナスだからって、王城に忍び込むのは感心しませんわ」
「おいおい、いきなりご挨拶だな、テメーら。つか、俺をどんな眼で見てんだよ?」
「ジェナスはどうだか知らんが、俺はきちんと要請を受けた上でここにきている」
「ンなもん俺だってそうだよ! つーか、お前と俺で一緒に要請受け取ったじゃねぇか!」
「冗談だ」
憤慨してみせるジェナスと強面の口端を上げて笑うガルディリス。相変わらずこの二人は仲が良い。
「しかし、ガルディリスはともかくジェナスまで呼ばれているとは、な」
フィアは意外だとばかりに赤髪の先を撫でた。
ガルディリスがいることは理解できる。彼は現役の冒険者であり、もうまもなくBランクに手が届こうかという実力者だ。「鉄壁」の異名を持ち、アリエスたちを守る壁として考えればあり得る選択だ。
しかしジェナスは単なる役人だ。元々はガルディリスと組んで冒険者として活躍していたらしいが、今はスフォンの街に入る人たちを管理する審査官でしかない。
なんのかんのと事あるごとにガルディリスとは仲の良い喧嘩をしているが、ガルディリスの口ぶりからも彼の実力は認めているフシはあるし、一度だけスフォンの迷宮で刺突を見たが、なるほど、その実力は実際に確かだ。だが冒険者としての現役を離れて久しいし、冒険者として名を上げる前に引退してしまったためその実績も乏しい。
「そうなんだよなぁ……お前らくらい、ってまではいかなくてもそれなりにゃ腕に自信があるけど、俺もそれが不思議なんだよ」
「貴様のその過剰な自信はともかく、正式な書類で届いたからな。名前も確認したし、間違いではないはずなんだが――」
「私が二人を選んだのよ」
「シェニア?」
選ばれた本人さえ首を捻っていたが、そこに編成メンバーを選んだ本人が現れた。
彼女もまた戦いに参加する一人。普段と似たような華やかなドレス姿だが両腕には篭手をはめ、胸にも立派な胸当てが装備されていた。
「今は一人でも優秀な人間が欲しいところだしね。貴方の上司にも無理言って引き抜かせてもらったのよ」
「さっすがはシェニアさん。お目が高ぇ……って言いたいトコなんだけどさ、ホントに俺なんかで良いのか?」
「ええ。むしろ貴方じゃなきゃダメなのよ」
歳を取っても変わらない美しさを保つシェニアからの指名である。ジェナスとしても戦地に赴くのはやぶさかではないのだが、果たして、彼女からそんなに言われる程の理由が自分にあっただろうか、とピンと来ない。
すると、そこに喉を鳴らしながらキーリがジェナスとガルディリス二人の肩を叩いた。
「二人とも、これから突っ込んでく場所がどんな場所かは知ってんな?」
「あ? そりゃ依頼を受けた時に説明は聞いたぜ? 魔素っつぅ、普通の人間にとっちゃ毒みてぇなんが蔓延してる場所だろ?」
「ああ。そのためにも魔素を制御して体を保護できる冒険者や、魔素そのものに耐性がある者が選ばれたと聞いている」
「だいたいそんな認識でオッケーだ。んで、ユキの話は?」
「それも聞いてるぜ。いや、マジでビビったって。まさかユキちゃんが闇神だとは思わなかったな」
「しかし何故ここで彼女の話が出てくる? 闇神であるなしにかかわらず彼女を助けるのは確かに必要だが、俺たちが選ばれた理由となんの関係が――」
話しながらガルディリスが固まった。そして口端を引きつらせながらマジマジとジェナスを見つめた。
そんな旧友の態度にジェナスは怪訝に首を傾げるが、キーリがポンポンと肩を叩き、後ろ手で手を振りながら説明を付け加えた。
「魔素の扱いは闇神の十八番。耐性があるってことは、アイツに気に入られたってことだ。
良かったな、兄弟」
つまりは――ユキに「喰われた」からである。もちろん、男女的な意味で。
「くっ……! まさかこうなるとは……!」
「そういう……事かよ……!」
「期待してるわよ、二人と・も・!」
シェニアもまた最高にいい笑顔でウインクをし、肩を叩いて去っていき、取り残された二人はそのまま崩れ落ちたのだった。
そんな彼らに、なんと声を掛けるべきか。フィアたちはみんな顔を引きつらせながらも、掛ける言葉はないとばかりに何も見なかった事にしたのだった。
「ともかく――」
ゼニオスたち、オルフィーヌたちのパーティ、元英雄のクルエにオットマー。ガルディリスやジェナス、それに他の多くの冒険者たち。頼れる人たちが数多くこの場に集ってくれた。フィアは彼らの顔を一望し、胸に過る熱いものを感じながら息を吸い目を閉じた。
「みんな」
会話でざわついていた会場にフィアの凛とした声がよく響いた。
全員の視線が彼女に向けられ、幾十もの瞳が彼女を捉えた。その一つ一つを順に受け止めていき、もう一度息を吸い込んだ。
「もう事情については十分に聞かされていると思う。私から多くは語らない。
だからこの場では一つだけ言わせてほしい」
そう言うと彼女は腰から剣を抜いた。握った拳を胸の前に掲げ、それを見たキーリたちや冒険者たちも各々の武器を手に取り掲げた。
シン、と静まり返る。直後、フィアがニヤッと好戦的に笑った。
「絶対に――世界を取り戻すぞっっっ!!」
「おうっっっっっっ!!」
フィアの掛け声に手に持った武器を掲げた。そうして腹の底から雄叫びを上げ、これから襲い来る艱難を打ち払おうと力の限り何度も何度も叫び続ける。
「待っていろ、教皇――いや、光神」
絶対に、お前の思うとおりにはさせない。自身の手のひらを見下ろし、フィアは強く握りしめたのだった。
お読み頂きありがとうございました。
引き続きお付き合いくださいませ<(_ _)><(_ _)>




