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6-11. 眠りしは北の地(その11)

初稿:19/10/12


<<<登場人物紹介>>>


キーリ:闇神の力を操る剣士。影の中は夏でも涼しいからそこで寝てる。

フィア:レディストリニア王国女王。暑いので寝る時は基本裸。

アリエス:筋肉ラヴァーな貴族。筋肉もやはり若い方が好み。

シオン:パーティのマスコット。ムキムキの肉体にちょっと憧れあり。

レイス:フィアを愛してやまないメイド頭。主人に近づく者は……

ギース:ガラの悪いヤンキー。さっさとスラム街でのんびり生活したい。

カレン:食毒を意図せず作るスペシャリスト。弟分に早く幸せになってほしい。

イーシュ:鳥頭。彼に幸せはやってくるのか。



 シオンの体がイーシュとゴーレムとの間に滑り込み、青白く光るシオンの手のひらに触れた部分からゴーレムの体が崩れていく。濃い蒸気が辺りに立ち込め、水を失った腕がサラサラとした砂へと変化していく。やがて首元まで水分が蒸発して崩れて、濃い紫にほのかに光る核が顕になった。


「イーシュさんっ!!」

「分かってるっ!!」


 それを見たイーシュが跳び込む。両腕の剣を振り下ろし、核を素早く斬り刻む。

 核がいくつもの破片へと砕けた瞬間、ゴーレムの体が動きを止め、一瞬で砂の塊となった。

 イーシュが眼を離した途端にもう一体の方が攻撃を仕掛けてくる。だがこちらもシオンによって受け止められた。シオンの手のひらにゴーレムの腕が届くことはなく分解されていき、同じ様に剥き出しになった核をイーシュが叩き壊した。

 長く苦しかった戦いが終わる。二体のゴーレムは砂の塊となったまま戻ることはない。イーシュは着地して剣を地面に突き刺して大きく息を吐いた。疲労感がにじむ額の汗を拭い去り、シオンと向き合う。そしてニッと笑うと右手を突き出した。

 シオンの手のひらとぶつかり合い、パンッと小気味よい音が響いた。


「スゲーじゃん、シオン!」この野郎、とイーシュはシオンの頭を乱暴に撫で回した。「何やったか分かんね―けど助かったぜ」

「あはは。ありがとうございます。ですけど――」

「ああ。まだ油断できねーよな」


 休息は一時。イーシュは再び剣を握り、二人は並んで砂となったゴーレムたちの方を注視した。

 砂の山の奥が揺れる。そして今度は三体のゴーレムたちが地面から迫り上がってきた。

 巨体が二人を見下ろす。だが数が増えた敵を見ても臆する様子はない。

 何度だって倒し続けてやる。強い決意が輝く瞳でシオンは見上げ、魔法を構築して両手のひらを輝かせ始めた。

 しかし――ゆったりした動作で近づいてきていたゴーレムたちが立ち止まった。

 何事か、とシオンとイーシュは警戒を強める。ジッと睨みつけ、いつゴーレムたちがどんな行動を始めようとも対処できるよう集中を深めていく。

 だが、ゴーレムたちが動き出すことはなかった。三体の巨人たちは、シオンたちが何も動いていないにもかかわらず乾いた砂へと戻っていく。

 サラサラと崩れ落ち、三つの砂山が出来上がる。かと思えば、二人を取り巻く世界が色彩を変え始めた。

 迷宮内にいるようだった土壁が音を立てて崩れていく。代わってパステルカラーがマーブル状に溶け合ったかと思うと、ガラスが砕ける音と共に天井も壁も床も全てが弾け飛んだ。


「え――?」

「シオンくん……とイーシュくん……?」

「カレンさんにギースさん? それにアリエスさんたちも……!」

「良かった……! みんな無事でしたのね!」


 全てが崩れ落ちた先にいたのは仲間たちの姿だった。全員がシオンたちと同様にあちこちに傷を負い、血や土に汚れてしまっていることからそれぞれが似たような状況にいたことをシオンは悟り、そして互いに無事であったことを喜び合う。


「――どうやら試練を乗り越えられたご様子ですね」


 抱き合ったり手を打ち合わせたりしていたシオンたち。そこに頭上から声が降ってきて、見上げればシルフェニアがたおやかな仕草で彼らを見下ろし、微笑んでいた。

 その下にはキーリ、そして座に座るフィアの姿があった。いつの間にかシオンたちもキーリたちと同じ部屋へと辿り着いていて、四方を異なる色の光柱で囲まれていた。

 否応でも感じる存在感。それぞれの光の中に眼を凝らせば、薄っすらと何かしら人型をした姿が目に入る。それが、今回の旅の目的――すなわち神々の姿であると直感で悟った。


「ご無事にお戻りになられて安心致しました」

「やはり貴女の差し金でしたのね?」

「ええ。貴女がたが力を授けるに相応しい人間であるか、どうしても見極める必要があったのです」


 申し訳ございません。そう謝罪を口にして深々とシルフェニアは頭を下げた。

 勝手に一方的に試されたのは正直、業腹である。アリエスやギースは不満そうに顔を歪めた。それでもこちらは協力してもらう立場である。こみ上げる文句を腹の底に押し止め、代わりにため息を吐き出した。


「あんまりシルフェニアの言うことを真に受けない方がいいわよ」


 凛とした声が彼らの耳に届き、シルフェニアの足元から水が湧き上がる。水がウンディーネを形作ると、彼女はため息交じりにシルフェニアをジロと睨んだ。


「シルフェニアは平気で嘘を付くから、信用しすぎると痛い目見るわ」

「……どういうことです?」

「見極めるどうのこうのっていうのは所詮方便に過ぎないってことよ」

「つまり……僕らは別に戦う必要がなかったということですか?」

「必要性は薄いわね」


 ウンディーネの暴露に全員がシルフェニアを見上げた。彼女はウンディーネの言葉を肯定も否定もせずうす気味悪い笑みを浮かべているだけだった。


「どこまで力が耐えられるかっていうのを調べるだけなら戦わせなくても分かんのよ。ただ単にシルフェニア(性悪)は、水神様たちが眼を覚ますまでの時間つぶし程度のためにアンタたちを戦わせたってだけ」

「それを知りながら……貴女も協力したのですの?」

「私のは憂さ晴らしよ」

「……でしょうね」

「グノーメあたりは真面目だから、本気でアンタたちを鍛えるつもりだったみたいだけど」

「騙して……ゴメ……ン」

「い、いえ! こちらこそ鍛えて頂いてありがとうございました」


 足元から声が響き、申し訳そうなグノーメの様子が伝わってくる。ウンディーネの話から中々頭を切り替えられないが、彼女の言うとおりグノーメだけは本気だったのだろう。シオンが膝を突いてグノーメに礼を述べると、なんとなくホッとしたような雰囲気が地面から伝わってきた。


「幸いにして生き残りましたが、私たちが負けてしまってた場合はどうなっていたのでしょうか?」

「死んだら死んだでそれまでってことじゃない? その分の力を使って水神様たちの復活の足しにするくらいのつもりだったと思うわよ」

「テメェ……!」

「ギースくん!」


 ギースがシルフェニアめがけて飛びかかろうとするが、その腕をカレンが何とか掴んで押し止める。ギースは歯を剥き出しにしてカレンを睨むが、彼女が無言で首を横に振ると大きな舌打ちをさせて彼女の腕を振り払いながらも堪えた。


「……それで」キーリが口を開いた。「結局どうなんだ? テメェの本当の意図はともかく、こいつらはお眼鏡に適ったってことでいいのか?」

「もちろん。風神様方ともお話しました。光神様を止めるため、ユキ様を助け出すため、私たちも最大限の協力をさせて頂きます」


 そう言ってシルフェニアがキーリのいる部屋の中心付近へ全員を招く。また何か企みがあるのではないかと警戒心が先立つが、進まなければ始まらない。武器に手を掛けつつも指定された場所へ立つ。

 すると四柱の光が輝きを増した。光の揺らめきが増し、その根本に各々の精霊王たちが立ってシオンたちに手をかざした。


「――困難な道を突き進まんとする彼らに我らが加護を」


 シルフェニアの声が朗々と響くとキーリたちの体が輝き始めた。シオンたちは自らの体の変化を感じ取っていた。

 熱く、体の内部が沸き立っていく。力が徐々に馴染んでいく。感じていた疲労感が消え去り、代わって次々と内側から力が湧いてくるようであった。


「彼らが膝を突いた時、その支えにならんことを。そして我らが使徒に仇為すものへと鉄槌を――」


 恙無く儀式は終わる。アリエスには水神の、シオンには地神をメインに多少の水神の、そしてカレンには風神の力と、それぞれの特に際立った適性に合った力が授けられた。残りの三人に対しても、アリエスたちには及ばないが、代わりにそれぞれの神々からの力が授けられる。またフィアに対しても炎神の力が加わり、湧き出す力がさらに力強いものになったのを感じ取っていた。


「……本来の力には及ばないけど、今の私たちだとそれが精一杯。水神様たちも申し訳ないって言ってるわ」

「いえ、とんでもありませんわ。この力――しばしお借り致します」

「いいこと? 私たちはまだここから動くわけにいかないからアンタたちに力貸してやるの。力を借りたからにはちゃんとユキ様を助け出しなさいよ? じゃないと世界中を水中に沈めてやるんだから」

「さらっと恐ろしいこと言ってんじゃねぇよ」


 ウンディーネの脅しが冗談に聞こえない。だがユキを助けたいという気持ちは同じである。アリエスはウンディーネに軽く微笑んでみせた。


「それでは私たちは戻ります。必ず光神の暴挙を止めて力をお返しに参りますので、それまで炎神様を始めとした神々の方たちをお願い致します」


 フィアが謝辞を申し上げ、再び地上へと戻るためにキーリの元へ集まる。やってきた時と同じ様にキーリの足元から影が広がっていき、彼らを包み込んでいく。そして完全に包まれるその直前、たおやかな様子で見送っていたシルフェニアに向かってキーリが声を掛けた。


「なんでしょう?」

「ユキからの伝言だ――しばらくテメェとは会いたくない、だそうだ」


 瞬間、シルフェニアが膝から崩れ落ちた。

 精霊とはそういうものだと予め知っていたが、好き勝手されて笑って許せるほどに人間はできていない。その腹いせに適当に騙ってみたが、どうやら予想以上の効果があったらしいとキーリたちは多少ながらも溜飲を下げたのだった。

 キーリたちの姿が完全に消え、それでもなお落胆したままのシルフェニアに対し、ウンディーネは「いい気味」とばかりに鼻を鳴らした。


「……あーあ、嫌われちゃったわね。ま、昔からユキ様には鬱陶しがられてたんだし、今更じゃない?」

「……うるさいわね。それは貴女だって同じでしょう?」

「私はいいの。なんだかんだ言いつつ、ユキ様は私を頼ってくれるから」


 拗ねた様子で恨みがましくシルフェニアは見上げるが、ウンディーネに堪えた風はない。


「いいわ。どうせもうすぐユキ様もお役目から解放されそうだし、その後でゆっくりユキ様を堪能するんだから」

「……待った。ユキ様がお役目を終える? どういうことよ?」


 シルフェニアが言及した言葉に引っかかりを覚えたウンディーネが尋ねる。が、シルフェニアは応えずに小さくフフッと笑うと口端を吊り上げて背を向けた。


「ちょっと! 教えなさいよ!」

「イヤよ。悔しかったら自分で気づいてみなさいな」


 喚くウンディーネを置いてシルフェニアは、トン、と飛び上がって風神の座へと向かう。瞳には緑の光が映っているが、彼女の意識にはキーリの事が思い描かれていた。


「……光神様との戦いが終わる頃には『器』が出来上がっていそう。ならそれに備えて迎え入れる準備をしなきゃいけないわね」


 そうなった場合にユキがどうなるのか。消えてしまうのか、それとも元の(・・)生活に戻るのか。ひょっとしたら自分たちの側に留まり続けるかもしれない。果たして、前の(・・)闇神様はどうだっただろうか。


「そうなってしまった場合は残念だけど……キーリと言ったかしら? あの子も中々悪くないし、その時はその時で楽しみましょう」


 想像して口元が歪む。そのままシルフェニアは光の中に溶け込んでいき、追いかけてきたウンディーネやグノームも同様に神の待つ座の中へと消えていった。

 そのまま光も消えていき、時が止まったかの様に静寂だけが流れていくのだった。





お読み頂きありがとうございました。

引き続きお付き合いくださいませ<(_ _)><(_ _)>

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