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6-7. 眠りしは北の地(その7)

初稿:19/09/28


<<<登場人物紹介>>>


キーリ:闇神の力を操る剣士。影の中は夏でも涼しいからそこで寝てる。

フィア:レディストリニア王国女王。暑いので寝る時は基本裸。

アリエス:筋肉ラヴァーな貴族。筋肉もやはり若い方が好み。

シオン:パーティのマスコット。ムキムキの肉体にちょっと憧れあり。

レイス:フィアを愛してやまないメイド頭。主人に近づく者は……

ギース:ガラの悪いヤンキー。さっさとスラム街でのんびり生活したい。

カレン:食毒を意図せず作るスペシャリスト。弟分に早く幸せになってほしい。

イーシュ:鳥頭。彼に幸せはやってくるのか。




 カレンの目の前でシルフェニアの腕が黒い剣に斬り払われた。ウンディーネの胸にももう一本の剣が突き刺さり、そこから体が黒く濁っていっている。


「どうだ、これで満足か?」

「キーリ!」


 キーリは吐き捨てるように言った。突然の暴挙にフィアはキーリに詰め寄り肩を掴むが、キーリの目は呆然とするシルフェニアとウンディーネを睨んだままであった。


「……どういうつもりですか?」

「はっきり言ってやる。俺はな――鬼人族を見捨てたアンタらを許せてねぇんだよ」


 その言葉にフィアはハッとした。ここはかつての鬼人族の村。であれば、村が滅んだあの時、シルフェニアたちもまたその様を知っていたはずだ。


「テメェら神や精霊どもにとっちゃ、人間がどうこうなろうがどうだっていい事なんだろうな。ただ世界のシステムを維持できればそれでいい。この場所をずっと守ってきた鬼人族が滅ぼうが関係なくて、だからあの日も何もしなかった。違うか?」

「……ええ、そうですね。私たちは世界の一部であり、しょせん人間もその一部でしかない。だからキーリ、貴方が言うとおり、人間が勝手に滅ぼうが繁栄しようが私たちの関与するところではありません」

「そんな……」


 シオンはうめいた。五大神教を筆頭として人間は、程度の差こそあれ神や精霊を畏れ敬い、称えてきた。教会の人間ほどではないにしろ、真面目に誠実に生き、神に祈っていればいつか報われるという意識は誰しもの根幹にある。

 しかしシルフェニアの言葉はそれを根本から覆すものだ。


「世界に必要不可欠なものであれば人間を守るために動くこともありましょう。世界を守るために結果的に人間を助けることもあったでしょう。気まぐれに気に入ったとある一人に力を貸すこともあります。が、種としての人間に関心はございません」

「そんなテメェらの欲を満たすために、自分の感情に蓋をして愛想笑いできるほど俺は人間ができちゃいねぇんだ。だからその薄汚ねぇ手で触ろうとすんな」


 キーリの心情を、フィアは痛いほどに理解できた。しかし一方で世界は今、危機に瀕していて抗うために精霊の力は絶対に必要なのだ。

 正面から喧嘩を売っていくキーリとシルフェニアのやり取りを全員が固唾を飲んで見守る中、だがシルフェニアは少し残念そうに微笑んだだけだった。


「私たちは人間の心情に共感はできません。が、長く人と共に在りました。人がどう思うかについては多少ながら理解はできます。まして、貴方はユキ様と共にある方。貴方の考えを尊重して諦めることと致しましょう」

「あーあ。せっかく久しぶりにユキ様の匂いを堪能できるかと思ったのにね。でも、まあそういうことなら仕方ないわ。これで我慢しよっと」


 斬り払われたシルフェニアの腕が元に戻っていき、ウンディーネの胸の黒い澱も吸収されてまた元の色へと薄くなっていく。それでもウンディーネはやや興奮したように「ふふふ……ユキ様の折檻を思い出したわぁ」とつぶやいたのだった。なお、レイスだけはポツリと「そのお気持ち、理解致します」と漏らしたのは全員が聞かなかったことにした。


「それで、では貴方たちはどうしてここへ? まさか光神様と一緒で私たちを排除しようというのかしら?」

「んなことするかよ」キーリは頭をガリガリと掻いて気持ちを落ち着けた。「アンタらに、取引を申し込みたい」

「取引、ですか?」

「ああ、そうだ。俺らは寝てる連中の力を借りたい。くだらねぇことを企ててる光神をぶっ飛ばすためにな。一方でアンタら精霊たちは、早いとこ眠りっぱなしの自分たちのカミサマに起きてほしい。違うか?」

「なるほど……そういうことですか」シルフェニアとウンディーネは得心したと頷いた。「それでユキ様の力を宿す貴方が来たというわけですね?」

「そういうことだ。闇神の気配と」キーリはフィアを見た。「炎神の力を宿したコイツがいれば目覚めさせるきっかけとしちゃ十分だってユキが言ってたからな」

「確かに……私たちの神々のユキ様に対する溺愛ぶりはそれはもう、こちらが呆れるくらいでしたからね」

「いつだってベッタリだったものね」


 ため息まじりにそうシルフェニアは漏らし、ウンディーネもそれに同意する。


「この二人以上の溺愛ぶり、ですの……?」

「マジかよ……」

「神様っていったい……」


 これまでの雰囲気から一転、神々のユキに対する執着ぶりに違った意味で慄いた。果たしてどれだけ執着しているのだろうか。

 が。


「……なんですか?」

「私の顔に何か?」


 ふと横にいるシオンとレイス、それとフィアを見て、なんとなくこんな感じなんだろうな、とアリエスたちは妙に納得した。


「――分かりました」


 キーリの提案にしばし考え込んでいたシルフェニアだったが、徐に顔を上げてうなずいた。


「無事に風神様方がお目覚めになりましたら、皆様にお力添え頂くよう私どもからも取り計らいましょう。私たちからもできる限りお力を授けます。これで取引になりますか?」

「……ありがとうございます」


 フィアは頭を下げた。キーリも軽くうなずき謝意を示した。


「助かる」

「構いません。神々がお目覚めになるのでしたらお安い御用です。それに――光神様のやり方には腹に据えかねるものがあるのも事実ですので」


 神々が力を使い果たし永い眠りについたきっかけ。精霊王たちとて感情はあるし、思うところは十分にある。そう伝えてシルフェニアとウンディーネは目配せをすると、キーリたちに向かって「こちらへ」と誘導した。

 キーリとフィアを先頭に、シルフェニアたちの後ろへ付いていく。

 だがその時。


「うわぁっ!!」

「みんなっ!?」


 突如として突風が吹き荒れ、キーリとフィアを除いた六人が後ろへ吹き飛ばされた。振り返った直後にシルフェニアの隣にいたウンディーネが水となって消え、キーリたちの目の前では氷の杭が何もない空間から次々に降り注ぎ、壁となって両者を隔てる。その壁は横に広がって瞬く間にキーリたちを取り囲み、三人だけの場所を作り上げた。

 フィアは壁へ駆け寄っていく。が、分厚い氷の板となったそれは真っ白で何も見えず、フィアの焦りに満ちた表情を反射させるだけであった。


「……どういうつもりだ?」


 壁を叩くフィアの耳に、キーリの低い声が響いた。キーリはその鋭い目つきをさらに剣呑なものに変え、全身から黒いものを漂わせていく。


「ご安心ください。まだ(・・)お連れの方々はご無事ですので」

「まだ、とはどういう意味でしょうか……?」

「お連れの方々については、これから試させて頂きます」

「試す、だと?」

「はい」


 シルフェニアは薄い笑みを浮かべ、眼を細めた。


「ユキ様の気配があの方々からもしましたのでこの場所へとお連れは致しました。ですが、私たちがお会いするべき人間は貴方たちお二人です」

「だから余計な人間は排除するってか? 値踏みするのが相変わらず好きな連中だな、おい」

「排除するわけではありません。お二人が望むのは、あの方々に私たちの力を貸し与えてほしいということでしょう?」

「はい。ぜひそうして頂きたいと思っています」

「であれば、私たちは確かめなければなりません」


 終始上がっていたシルフェニアの口角が下がる。真一文字に口が結ばれ、切れ長の整った双眸が大きく開かれた。


「あの者たちが――私どもの力を貸し与えるに耐えうる存在であるかを」





お読み頂きありがとうございました。

引き続きお付き合いくださいませ<(_ _)><(_ _)>

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