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6-3. 眠りしは北の地(その3)

初稿:19/09/14


<<<登場人物紹介>>>


キーリ:闇神の力を操る剣士。影の中は夏でも涼しいからそこで寝てる。

フィア:レディストリニア王国女王。暑いので寝る時は基本裸。

アリエス:筋肉ラヴァーな貴族。筋肉もやはり若い方が好み。

エドヴィカネル:帝国の皇帝。この人に睨まれたら絶対泣く。





「なぜ!? 時間が無いと言ったのは君だろう!?」

「確かに急いだ方が良いのは確かだ。けど、軍人とはいえ普通の人間が教皇国に行ったって役に立たねぇどころか脚を引っ張ることになるぜ」

「どういうことだ?」

「ひょっとして……魔素濃度ですの?」


 自身の頭に浮かんだ考えをアリエスが口にし、キーリは大きく頷いた。


「教皇が本性表しやがったおかげで教皇国、特に皇都の魔素濃度がヤベェ事になってる。冒険者の様に迷宮みたいな魔素の濃い場所に慣れてたり、魔素の扱いに熟練してるならともかく、軍があの場所に行ったって魔素に侵食されて――」

「軍そのものがモンスターと化しかねないってことですね?」


 シオンが手を挙げて確認し、キーリはそれを首肯する。


「軍を送ればその分敵に利する。かと言って魔法を使える部隊だけでは数も足りんし、前線での制圧力に欠ける……厄介な状況だな」

「たぶんだが、もうおそらく皇都中の人間が敵だと思った方がいい。下手すりゃ、単純な戦力だけでもこっちの兵力を上回ってるかもしんねぇ」

「であれば精鋭たちを集めての中央突破、という事も考えねばならんか……」

「ああ。俺もそれしか無いんじゃないかって思ってる」

「なあなあ、キーリ。本当にそんなヤバイ状況なのかよ? 実はそうでもなかったなんて事は……」

「うーん、さすがに甘い考えすぎるんじゃない?」


 学生がそうするようにイーシュが真っ直ぐに挙手して、教師に尋ねる様にして質問する。カレンやシオンは首を捻るも、確かに実際はどうなのだろうと答えを求めてキーリを見た。


「確かに俺が直で確認してきたわけじゃあねぇ。けど相当に信用できる情報だと思ってるよ」

「ふむ、理由は?」

「ユキが教えてくれたからな」

「ユキが、ですの?」

「ユキの居場所が見つかったのか?」

「ああ」キーリは呆れたように肩を竦めた。「全く、どこほっつき歩いてんのかと思ったらとんでもねぇとこにいやがったよ、アイツは」

「それで彼女はどこに?」

「大神殿だとよ」


 まさかの居場所に、その場にいる全員が言葉を失ったのだった。


「大神殿、だと……!」

「それは本当なのかっ!?」

 まさか教皇国の中でも秘中の秘である大神殿、その場所に潜入しているとは。もたらされた情報ににわかに場が活気ついていく。一人、イーシュだけは「……どこ、それ?」などと首を捻っていたのだが誰も敢えて触れない。


「そっかぁ……無事だったんだね」

「ちっ、まさかンな場所にいるたぁな。ただのクソアマかと思ってたけどやるじゃねぇか」

「まあ光神に捕まって牢屋にぶち込まれてるらしいんだけどな」

「ダメじゃねぇか」

「キーリよ」エドヴィカネルが訝しげにしながら尋ねた。「そのユキとやらが何者かは分からぬが、お主の仲間なのだろう? 彼奴に捕まっていると言ったが、どうやって連絡を取ったのだ? すでに脱出済みということか?」

「んにゃ。なんかアイツ専用の魔法陣が編まれてるらしくてな。力のほとんどを封じられて脱出できないんだと。暇つぶしにその魔法陣の解読して、俺とだけ交信できるようになったから色々とぼやかれてんだよ」

「……つまり魔法で意思を通じ合うようにしたということか?」

「魔法とは違うな。あくまで闇神としてのアイツ固有の能力だからな」

「ちょ、ちょっと待つのですわ、キーリ!」


 さらりと答えたキーリだが、アリエスが慌てて待ったをかけた。


「えっと……誰が闇神とおっしゃいまして?」

「あ? ユキだけど……ひょっとしてまだ言ってなかったっけ?」

「言ってませんわよっ!!」


 叫んでからアリエスは頭を押さえた。シオンやカレンは眼を丸くし、ギースは「はぁ?」とでも言いたげだ。


「冗談……だよね?」

「大概にしとけよ、キーリ。あのアバズレが神とかありえねぇだろ」

「そう言いたい気持ちは分かるけどな」キーリはため息を漏らした。「マジなんだよ、これが」

「……ちっ、世も末だな」

「まあ、まさに今、世が末を迎えようとしてんだけどな」

「クソが。笑えねぇ冗談だ」

「……フィアはご存知でしたの?」

「うん、しばらくキーリと生活してたからその時に聞いていた。私も聞いた時はとても信じられなかったが」


 暇さえあれば男を求めて遊び回り、いつだって自分勝手で誰かのためとかいう概念が抜け落ちている彼女である。一般的な神のイメージからすれば神であると言われて納得できようはずもない。

 だが心当たりが無いわけでもない。黙って立っていれば神秘的な雰囲気をまとい、オーフェルスでも暴走する迷宮を一人で食い止めてみせた。そしてキーリは闇神の加護を受けており、魔素の流れが見えると言い、それを裏付ける言動をこれまで迷宮内でも示してきている。


(いえ、確かに一般的な闇神のイメージからすると納得しやすいのですけれど……)


 何にせよ、信じざるを得ないか、と半ば諦めに似た境地に、アリエスたちは共通して至った。

 が、イーシュだけは一人、どこ吹く風といった感じで、逆にみなの反応を不思議そうに眺めていた。


「イーシュくんは驚かないの?」

「ん? んー、まあ別にユキが何者(なにもん)だって構わねぇかなって」

「ホント、イーシュはお気楽ですわ……」

「だってアイツが俺らの仲間なのは変わんねぇだろ? それよか捕まってんなら早く助けに行ってやらねぇとな」


 手のひらに拳を打ち付け、「どうすりゃいい?」とばかりにイーシュはキーリを見上げる。

 変わらない。何があってもイーシュだけはこれまでと同じ目でユキを見ていた。そんな彼の姿にアリエスたちは、彼女を見る眼が変わってしまっていた事に気づき、気恥ずかしさから苦笑いを禁じ得なかった。


「確かにそうですわね。ユキが何者であろうともユキはユキですもの」

「そうですね。僕たちの大切な仲間ですし、イーシュさんの言うとおり助けてあげましょう」

「……ま、そういうわけだ」


 思いの外、あっさりと彼女の正体が受け入れられた事にキーリは頬を掻いた。戸惑いと、何故だか妙に嬉しさが入り混じった自身の感情に首を捻りつつ、「ま、いっか」と再び各国代表たちの方へ向き直った。


「神が神に捕まるとかとんでもねぇアンポンタンだが、少なくとも魔素についてはユキの右に出る奴はいねぇ。だから皇都がとんでもなく魔素濃度が高くなってるってのは十分に信じられるぜ」

「……お主の仲間たちの反応を見るに、信じて良いのか甚だ疑問ではあるがここは信じることとしよう」


 エドヴィカネルがため息を漏らし、そこに先程の若い代表が難しい顔をして尋ねる。


「キーリ殿が闇神の加護を受けているという話は伺っております。先日もその御力で助けて頂いた身でもありますので私も信じようとは思いますが……貴殿の話が本当であれば闇神をも抗えぬ力を教皇は手にしている事になります。もはや万策尽きたように思えるのですが……」

「何か案があるのか?」

「ああ。ユキ――闇神が捕まったっつってもそれは予め入念に準備してた結果だ。奴の力が本来のものなら、魔法陣なんか使わずに拘束できてるはずだよ」

「ならつけ入る隙はあるということだな?」


 キーリはフィアにしっかりとうなずいてみせた。


「カミサマだって死ぬときゃ死ぬ。それは神が代変わりしてきたことからも明らかだ。人間と何も変わんねぇ」

「人間相手ならば心臓を貫けば死にはしますけれど、光神の弱点はありますの?」

「受肉した状態ならそれこそ人間と一緒だ。ただ――膨大な魔素ですぐ復活しちまうけどな」

「そんな……! それじゃあ……――」


 事実上の不死身ではないか。三度重苦しい空気が場を覆い隠していく。

 だが。


「つまり――魔素が無くなるまで敵を倒し続ければ良いんだよね?」


 決意のこもった声に、全員の視線がそちらへ向かった。


「おい、カレン。テメェ、状況分かってんだろうな?」

「もちろん。だってそれしか無いならやるしかないじゃない」

「そう、ですね。やらなければならないなら、やるだけですよ」

「シオン……」


 まさかシオンまでがそう言うとは思わなかった。フィアが眼を丸くして彼を見ると、シオンは照れくさそうに笑った。


「教えてくれたのはフィアさんたちですよ? 諦めなければ、なんだってできるんだって」


 養成学校に入って最初の試験の前。落ちこぼれの自分を選んでくれた。練習にも付き合ってくれて、くじけそうな自分を支え続けてくれた。

 だから頑張れた。諦めずに、自分の特性を活かすために考えることを止めず、冒険者としてここまできた。あの時、一人ぼっちで感じてた絶望感。それに比べれば、こうしてみんなで立ち向かえることがどれだけ心強いか。


「諦めなければ道はできます。一度目でダメでも二度目で。二度目でダメなら三度目。生きている限り、僕らにはチャンスはきっとあります」

「……へっ、シオンも言うようになったじゃねぇか。さっすが我らがリーダーだな」

「ホント。あーあ、私が最初に言い出したのに、いいところ持っていかれちゃった」

「あ……いや、えっと……」

「良いんですわ。確かにやる前から諦めてたら、開ける道も閉ざされてしまいますもの」


 イーシュとカレンがからかい、顔を赤らめたシオンの肩や頭をアリエスとギースが叩いたり撫で回したりしていく。


(不思議なものだな……)


 その様子に、エドヴィカネルの厳しい顔がふっと和らいだ。状況は変わらず絶望的であるのに、どうしてだろうか、彼らなら何とかなるのではないかと思えてしまう。


「実に良き仲間を得たな、女王……いや、フィアよ」

「ええ。分かってはいましたが、本当にもったいないメンバーです」

「しかし……彼らだけを行かせるのですか?」とある国の代表が尋ねた。「彼らが女王陛下の信頼できる冒険者だというのはわかりますが……こう言っては失礼ですが、存命の英雄たちや高ランクのベテランに任せておいた方が良いと思うのですが……」

「……確かにそうですな」


 彼が主張するように、実力としてはあれどもシオンたちはまだCランクの冒険者であり、もっとランクが上の実力者は多い。彼らにも参加してもらう必要があるだろう。

 だがそれだけでは不足である、とキーリは主張した。


「まだ弱ってるとは言ったって光神は光神だ。英雄レベルの実力ならともかく、上位とは言ってもそこらの冒険者じゃまともにダメージは与えられねぇだろうさ」

「ですが、それは彼らも同じなのでは?」

「もちろん。現状でダメージソースになり得るのは俺とフィアぐれぇだろうな」


 キーリはうなずき、フィアと顔を見合わせる。

 そして二人は揃って仲間たちの顔を眺めた。イーシュやカレンはキョトンとし、ギースは何か予感めいたものを覚えたのか、嫌そうに眉間にシワを寄せた。


「でしたらどうするのです?」

「決まってる。足りねぇなら借りりゃあいいのさ」

「借りる、だと?」

「ああ、そうだ」


 意図をつかめない、といった様子のエドヴィカネルに対して、キーリはいたずらっぽくと笑ってみせた。


「ネボスケのカミサマ連中の力を、これから借りに行ってくるのさ。魔の森へ――」






お読み頂きありがとうございました。

引き続きお付き合いくださいませ<(_ _)><(_ _)>

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