表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
280/327

6-2. 眠りしは北の地(その2)

初稿:19/09/11


<<<登場人物紹介>>>


キーリ:闇神の力を操る剣士。影の中は夏でも涼しいからそこで寝てる。

フィア:レディストリニア王国女王。暑いので寝る時は基本裸。

アリエス:筋肉ラヴァーな貴族。筋肉もやはり若い方が好み。

エドヴィカネル:帝国の皇帝。この人に睨まれたら絶対泣く。





「帝国には、貴国のために戦う義務など無いのだぞ?」


 その言葉に、小国たちの代表たちの誰もがハッとした。参加せずともただ堪えていれば、ただ時が経つのを待てば王国や帝国の力を借りて事態は解決すると思っていたが、そうではない。


「口を開けて待っていれば助かるなどという妄言を吐くような国など百害あって一理なし。そんな国を守るために割く戦力などない。むしろ協力どころか何の情報も得られぬならば、そんな国は滅ぼしてしまった方が教皇国に取り込まれることもない。よっぽど教皇国対策となる」

「皇帝陛下、それは言い過ぎでは……」

「女王陛下よ。貴国が勝手に優しさを持ち出すのは結構だが、敵を引き入れるような真似をして王国の歴史を続けることができるというのならば、ぜひお見せして頂きたいものだな」

「それは……」

「さて、どうするかね、諸君? いがみ合ったまま我が国に滅ぼされるか、それとも協力して生き延びるための一手を打つか。代表なのだろう? この場で今、決めたまえ」


 冷徹な口調でエドヴィカネルは迫る。小国の代表たちは脂汗を流しながらエドヴィカネルの本意を覗き込もうとし、しかし決して心を読ませぬ彼は無言の視線でなおも決断を促す。


「どうかね?」


 本気さを伺わせる声色。それが代表たちの心臓を掴んで離さない。

 果たして、小国たちは折れた。


「……委細承知致しました。ぜひ協力させて頂きたく存じます」

「結構。アリエスよ」

「はい」

「侯爵に伝えよ。アルフォリーニに駐留している軍を共和国と小国連邦などに速やかに派遣し市民の保護に当たれ、とな」

「承知しました」

「時間が惜しいため正式手続きを省いて王国を通過させて頂くが、女王陛下、構わぬな」

「もちろんです。命には変えられませんから」


 フィアの同意を得るとエドヴィカネルは矢継ぎ早に指示を飛ばし、待機していた官僚や貴族たちを動かしていく。フィアもまた宰相やコーヴェルを呼び出すと決まった内容の布告準備を進めさせる。

 その様子をキーリは部屋の隅に腰掛けて伺っていた。これだけの危機になってようやく世界が一つの方向を向き始める。その事に思うところがないわけではない。もし、なおも仲違いを続ければ、それこそ悪意を世界に撒き散らそうという教皇の思うツボであるため、キーリが強制的に介入することも考えたがエドヴィカネルが上手くやってくれた。

 そう思ってキーリが彼に視線を向けると視線があった。彼はキーリにだけ分かるように皮肉げに口端を吊り上げてみせ、すぐに目線を参加者たちの方へと戻していった。


「エドヴィカネル皇帝、よろしいかな?」

「なにかな、大統領閣下?」

「今しがた合意したように協力することはやぶさかでない。しかし……具体的にどのようにして教皇の行いを止めようと言うのだね?」

「教皇――いや、もう光神と呼ぶことにしようか」


 吐き捨てるように光神を呼び捨てにし、エドヴィカネルは姿勢をやや机に乗り出すようにして問いの回答を口にした。


「光神を殺す。もはやそれしかあるまい」

「神を殺す!」


 わざとらしく大統領は驚いてみせた。他の国々も想像こそしていたが、いざ皇帝からそう聞かされると険しい表情を一層険しくして眼を伏せた。


「なるほど、それは面白い話だ。きっと我々は神を恐れぬ悪名高い暗愚として歴史書に長く名を残すことになるでしょうな!」

「大統領閣下。私も同意見です。この状況を打破するには光神を打ち倒すしかないかと考えています」

「そんな事は分かっている!」


 大統領は机を強かに叩き吠えた。エドヴィカネルを睨み、だが徐々にその顔が溢れ出る感情を堪えるのに精一杯になっていく。


「分かっている……私とてそうせねばならんと分かっているのだ、皇帝陛下。

 だが……相手は神なのだぞ! 神が我々を滅ぼそうと言っているのだ! それに抗えると思っているのか!? そんな事は不可能だ!」


 やつれ、落ち窪んだ眼を見開き、大統領は鬼気迫る顔で叫ぶ。机に両拳を叩きつけ、筋張った指で真っ白な髪をかきむしった。


「不可能だ……! 相手は光神なんだぞ……敵いっこない……」


 うなだれ、疲れた吐息だけが掠れた音を立てる。突如として吐き出された迫力に誰もが言葉を失い、しかもそれに反論する言葉を持たなかった。

 誰もが疑っていた。大統領だけでなくフィアも、エドヴィカネルも、誰もが信じきれずにいたのだ。


 ――本当に、人類は神の思惑を打ち破れるのだろうか


 打ち破らねば未来はない。それは理解している。それしか道はないのだ。

 だが、自信がなかった。未来が見えなかった。人間は先へと進めるのか、強大な敵を前にその期待を抱くことなどできようはずもなかった。

 何か、言葉を発しなければ。フィアはうつむきながら言葉を探し、しかしすぐに見つけ出せずにいた。


「――ならアンタはここで喚いときゃいい」


 それを打ち破ったのは、嘲るようなキーリの声だった。ぐる、と絶望をにじませる顔を一通り眺めると、鼻を鳴らして笑う。


「できねぇできねぇってガキみたいに駄々こねときゃいいさ」

「何だと……!」

「可能性は低くたって構わねぇ。俺は、可能性がある限りアイツの横っ面を張っ倒してくるだけさ」


 敢えて煽るような言い方をしたキーリだが、どうやら多少なりとも彼らに反発する力は残っていたようだった。みな顔を上げてキーリを苛立ちや気まずさを覗かせるが、少なくとも絶望からは脱出できたようである。

 だがエドヴィカネルだけは違うところに食いついた。


「待て、キーリ。低いとはいえ、お主には勝つ道筋が見えているのか?」

「当然。それどころか、十分高いって考えてるぜ」


 キーリは当たり前のように頷き、彼を見つめるその顔色が変わった。それを確認したフィアが間を置かずその考えを促す。


「聞かせてくれ、キーリ」

「まず、光神を倒すならなるべく早くが良いってことだ。奴の力は――まだ完全じゃない」

「そうなのか?」

「ああ。

 あのスカした野郎は昔、その力の大半を使って他の神々――闇神を始めとして水神、炎神、風神、地神を封印した。その時に失った力はまだ完全には戻ってねぇ。が、今は魔素はどんどんと教皇国に流れていってることは全員知ってると思ってるが――」

「つまり、光神は集めた魔素で力の回復を図っているということ、か……」

「ちっ、てこたぁ時間が経てば経つほどぶっ倒すのは難しくなるって事か」


 壁際で座っていたギースが舌打ちしながらぼやく。彼らを知らぬ国からは訝しげな視線が向けられ、シオンとカレンが慌てるがギースは腕を組んで不遜な態度で逆にジロリと睨み返す。


「彼らは私が共に行動していた冒険者仲間です。今回、訳あって参加してもらっています」

「我も許可している。

 そなたらも立場など気にせず、遠慮なく発言するが良い」


 皇帝の許可にギースは「へいへい」とばかりに手をひらひらと振って応じ、普段と変わらない彼の態度にフィアは苦笑した。


「今ギース――そこの無愛想な野郎が言ったように、時間が経てば経つほど光神は魔素を吸収して力を取り戻すことになる。さすがに一週間やそこらで劇的に変わるってことはねぇだろうが、時間は奴に味方するってことは確かだ」

「しかも今の情勢だ。何とかモンスターの被害を食い止められればいいが……万が一それができなければ、加速度的に光神に力を取り戻させることに繋がりかねないな」

「ならばすぐに軍を集めて教皇国に攻め入りましょう! 我が国も微力ではありますが協力は惜しみません!」


 小国の一つの若い代表がテーブルを叩き、血気盛んに叫んで主張する。

 しかし。


「いや、軍を送るのは止めといた方がいい」


 キーリがそれを押し止めた。



お読み頂きありがとうございました。

引き続きお付き合いくださいませ<(_ _)><(_ _)>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ