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4-6. ただ願いを叶えたくて(その6)

初稿:19/08/14


<<<登場人物紹介>>>


キーリ:女顔の闇神魔法使い+アホみたいなパワーを持つ剣士。パーティではアタッカー役。

フィア:レディストリニア王国女王として即位したキーリたちの仲間。早くシオンにhshsしたい。

アリエス:言わずとしれた筋肉ラヴァー。だが祖父の筋肉にはあまり惹かれない。

カレン:凄腕の弓使い。矢と同様に料理でも凄まじい力で食った人間の胃袋を破壊する。

ギース:パーティ斥候役。とりあえず舌打ちしないと落ち着かない。

シオン:めでたく新パーティリーダーとなった。パーティのみならずギルドを含めた愛されマスコット。

イーシュ:パーティの盾役。性格は良いが、恐ろしく女運がない。





 一度はそれぞれに別れた一同だったが、日が完全に暮れる前には全員が揃っていた。

 真っ先に現れたのはアリエスで、会食に相応しい鮮やかなドレス姿で食堂にやってきて、王二人に恭しく一礼して席につく。その姿はさすが歴史ある貴族の子女と言えるだろう。

 次いで現れたのはカレンとシオン。本当ならばキチッと身だしなみを整えたかったところだが、数時間前に言われてまともな準備などできようはずもなく、とにかく持っている中で一番ふさわしそうな服を着てきた、というのが実情である。だが、根っからの平民である二人がどれだけ立派な服を着てこようが王家の設えた内装に合致するはずもない。ここまでの通路から一方的に二人が感じ取った場違い感は如何ともしようがなく、恐縮した様子で入ってくる。それでもフィアが気を使ったのだろうか、見慣れた冒険者時代の服を着ているのを認めてそろって胸を撫で下ろしたのだった。

 普段の性格に似合わずに時間を守るギースは、やはりいつもどおりのラフなシャツとパンツ姿だった。ポケットに手を突っ込んで食堂へ入ってきて、軽く会釈をするだけでドシッと座る。その胆力をシオンは心底羨ましいと思った。

 ギースからやや遅れて来たのはイーシュとマリファータのカップルだった。しかし入ってきた二人を見てカレンとアリエスは思わず噴き出した。


「……どしたの、その格好?」


 彼の事だからてっきり楽な格好でやってくるだろうと思っていたが、どういうわけか明らかに真新しいタキシードを着込み、ボサボサの頭も今はピシッと整髪料でなめつけられていた。


「くっそ似合わねぇな」

「服に着られてる感じが凄いですわね」

「うっせ!」べぇ、とイーシュは舌を突き出した。「俺だって似合わねぇって分かってんだよ。けどマリファータが着てけっていうから……」

「私的なお招きとは言え、皇帝陛下と国王陛下とお食事を共にするんですよ? 身だしなみを整えるのは当然です」


 慣れないためか居心地悪そうに身を捩るイーシュをたしなめながら、マリファータは白いドレス姿で深々と一礼した。


「マリファータと申します。本日は女王陛下にお招き頂き、誠に光栄です。無作法が多々あるかと存じますが、ご容赦ください」

「気にしなくて構わないさ。見ての通り私も皇帝陛下も楽な格好だからな」

「堅苦しい場は俺も好まん。普段と変わらず好きにするとよい」


 二人に揃ってそう言われ、マリファータはもう一度深くお辞儀して席に着くと、普段は使わないナプキンや並んだカトラリー類を睨んでしかめっ面をするイーシュに使い方を教え始めた。


「……こうやってるとお似合いの二人だね」

「ですね」


 その様子を眺めながらカレンとシオンは小声で話し合う。二人して優しく笑い合い、その奥で澱む感情を押し留めていると閉じた扉が再び開いた。

 シェニアをエスコートする形でキーリが入ってくる。彼もまたいつもどおりのラフな服装で、一方のシェニアは艶やかなドレス姿だが、彼女もまた普段から似たようなドレスを好んで着ているため特別感はない。

 部屋に入ってきたシェニアは何処か浮かない表情をしていたが、キーリから肘で突かれるとハッとして笑みを浮かべた。


「遅れてごめんなさい。もう始めちゃってたかしら?」

「いや、これからだ。むしろ揃うのが思っていたより早くて驚いてる」

「そりゃ、王様二人を待たせるわけにゃいかねーからな」


 笑いながらキーリがフィアに向かって目配せをする。それを受けて彼女はお膳立てが整ったことを察すると、小さくうなずき返してグラスを掲げた。


「それでは始めよう。

 久々の全員集合とイーシュとマリファータさんの良縁を、そして陛下とシェニアの邂逅を祝って――」

「そこは祝わなくていいわよ!」

「うむ。我々の事は不要である」

「――ということなので、前二つのめでたいことを祝して……乾杯!」

「乾杯!!」


 フィアの掛け声と共に始まった、何年ぶりかの仲間が全員揃った会は瞬く間に賑やかなものとなっていった。

 乾杯と共に、レイスとミュレースによって運ばれてくる料理の数々と高価な酒類。始めはカレンやシオンは、慣れない形態の宴席におっかなびっくりであったが、選りすぐりの食材に手間ひまをかけて作られた丁寧な料理の味に舌鼓を打っていく内に緊張も次第に解けていく。


「おいしー! ひょっとしてこれ、レイスさんとミュレースちゃんで作ったの?」

「ふひっひー! そうっスよ! めちゃくちゃ美味いのは保証するんでバシバシ食ってって良いっスよ! と言っても私は先輩の指示に従って下ごしらえを手伝っただけっスけどね!」

「こういった食材を扱うのはずいぶん久しぶりなのですが、お口に合いましたら光栄です」


 酒も進み、被っていたなけなしの猫の皮も酔いが回るにつれて剥がれていく。いつもと同じ様に食事を賭けたフォークとナイフによる戦いが繰り広げられ、もはやマナーもへったくれもない。椅子に座ったままキーリとフィア、アリエスにイーシュが攻防を繰り広げ、防衛に徹したイーシュが勝利するもマリファータに叱られてシュンとなり、そんな様子をギースは気にもとめずマイペースで酒を一人静かに傾け、シオンやカレンは観戦モードで食事と酒を楽しむ。

 シェニアもまた呆れながらも止めはせず、いつの間にか大量に転がった酒瓶で手遊びをしながらエドヴィカネルとの時間を楽しんでいた。


「こうも賑やかな食事というのも久しぶりだな」

「懐かしい?」

「若さが羨ましい、というべきかな? 願わくば、彼らがこうして楽しめる時代が続いて欲しいものだ」

「……続くわよ、きっと。だってアンタとフィアさんが王様なんだもの」


 途中で、料理を運んできたミュレースができたて熱々の料理をキーリの顔面にぶちまける、ワインをシオンの頭にぶっかけるといった持ち前のドジっ娘ぶりが発揮されて、しびれを切らしたレイスにローリングソバットを食らわせられるなどのアクシデントがありつつも、普段は楽しめない会食は終焉へと向かっていく。

 料理を出し終えたレイスとミュレースも、全員の誘いによって途中から会に参加し、養成学校時代からの懐かしい思い出話に花を咲かせた。

 思い出を語りだせばキリがない。十年にも満たない時間だが、それだけ濃密な時間を彼らは過ごしてきた。

 それでも楽しい時間はやがて終わりを迎える。迷宮から帰ってきたばかりの疲れとアルコールのせいか、イーシュやシオンがウトウトとし始め、それを認めたフィアが頃合いとばかりに数度手を叩いた。


「せっかくの楽しい時間だが、今日はこのへんでお開きとしよう。それぞれに部屋を用意してあるからゆっくりと休んでくれ」

「ご案内します。どうぞこちらへ」

「ほらほら~。寝るならベッドで寝るっすよー」

「あ、私が連れて行きます」

「そッスか? んじゃお任せするッス。旦那さんも最愛の奥様の柔らかいお胸の方がぐっすり眠れるに違いないッスからねー」


 キシシ、とミュレースがマリファータの豊かな胸を見ながら笑うと、マリファータは赤面してうつむいたのだった。

 レイスがシオンを抱え、マリファータがイーシュを支えながら用意された部屋へ向かう。シオンに関してはフィアが抱きかかえたがっていたがそこはレイスが「国王様にそのようなことをさせるわけには参りません」と固く辞した。

 連れ去られていくその姿をフィアは、指をくわえてこの世の終わりの様な顔をしていたが、それをエドヴィカネルを始め、残った面々は腹を抱えて笑うのだった。

 シオンとイーシュが寝室へ運ばれるのを見届け、扉がバタンと閉じる。その瞬間、全員の表情から笑顔が消えた。


「さて、ここからが本番だ。

 まさかここに及んで酒に飲まれた者はおるまいな?」


 エドヴィカネルの言葉に全員がうなずく。


「当たり前だ。こんなところでしくじるわけにゃいかねーよ」

「でも……本当に、本当にそうなの? だって二人はあんなに――」

「言わないでくれ、カレン。私だって――」フィアは一度天を仰いだ。「私だって信じたくはない。間違いだったと信じたいし、今だって心の何処かで信じている」

「ちっ、うだうだここで話したって仕方ねぇだろうが」

「そうですわ。もう賽は投げられた。だから……これから確かめるんですわ。真実を」


 キーリとフィアは閉じた扉を見つめた。閉じた扉のその向こう側。その先に何が待っているのか。

 できれば、明るい未来だけが待っていてほしい。全てが過ちだったと笑い合いたい。

 けれど、それが儚い願望であると誰もが感じ取っていたのだった。






お読み頂きありがとうございました。

引き続きお付き合いくださいませませ<(_ _)><(_ _)>



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