4-2. ただ願いを叶えたくて(その2)
初稿:19/07/31
<<<登場人物紹介>>>
キーリ:女顔の闇神魔法使い+アホみたいなパワーを持つ剣士。パーティではアタッカー役。
フィア:レディストリニア王国女王として即位したキーリたちの仲間。早くシオンにhshsしたい。
エドヴィカネル:帝国皇帝。厳しい人間だが根は案外おちゃめ。
コーヴェル:王国の侯爵で、宰相の前に王国の実務一切を取り仕切っていた。自身のハゲネタが十八番。
アリエス:言わずとしれた筋肉ラヴァー。だが祖父の筋肉にはあまり惹かれない。
アルフォリーニ侯爵:アリエスの祖父で、軍事の名人。筋肉は嘘をつかないと信じている。
「あまりスフィリアース女王をいじめないで頂けませんか、陛下?」
「コーヴェルか。お主も久しいな。風の噂では体を崩しておったと聞いているが、その分だとだいぶ持ち直したようだな」
「ええ、おかげさまで。ようやくスフィリアース陛下が即位なされたのですから、のんびりベッドで横になっているような体たらくでは先王に叱られてしまいますからね」
ミュレースに支えられながら近寄ってきたコーヴェルを気遣いながら、皇帝は「さて」とフィアを見遣り、彼女は頷くとこの場にいる全員を見回した。
帝国側からはエドヴィカネル、アルフォリーニ侯爵とアリエス、そしてエドヴィカネルが信頼できる者として連れてきた近衛隊長。対する王国側からはフィアにコーヴェル、宰相。それとレイス、ミュレース、そしてキーリ。予定していた全員が揃っていることを確認すると息を吸ってフィアは会議の開催を告げた。
「本日はお集まり頂きありがとうございます。
わざわざ帝国から皇帝陛下、およびアルフォリーニ侯爵たちにお越し頂いたのは、昨今、王国、帝国両国を初め、恐らくは各国の平和を脅かすモンスターの驚異について話し合いたいと考え、先日、皇帝陛下とその点が一致したからです」
再び全員を見渡す。集まった面々は大きな円形のテーブルを囲み、フィアの話に耳を傾けている。それを確認すると再び話を再開する。
「今日集まって頂いた皆様は、皇帝陛下と、僭越ながら私、スフィリアース・フォン・ドゥ・レディストリニアが口が固く信頼できると判断した方たちです。この部屋の外には声は漏れませんし、非公式な場ですのでぜひ忌憚のない意見を頂戴したいと考えています」
「陛下が仰ったように遠慮はいらん。立場の上下も気にする必要はない。良いな?」
エドヴィカネルの宣言に全員がうなずく。エドヴィカネルもまたうなずき返し、話を進める。
「ではまず現状確認から始めよう。近衛隊隊長、帝国内での情報収集結果から頼む」
「分かりました。それでは報告させていただきます。帝国内のギルド各支部、並びに各所の方面軍から聞き取り調査を行った結果ですが――」
エドヴィカネルから指示を受けた近衛隊長が淡々とした口調で調査結果を報告していく。
その内容は半ば予想されていたものでもあった。
迷宮内のモンスターのレベルが上がった、これまでよりもずっと浅い階層で強力なモンスターが現れるようになった。また人里近くにも頻繁にモンスターが出現するようになった、など状況は王国とそう大きく違いはなかった。
加えて、特に辺境の小さな町や村ほどモンスターの被害に遭っており死傷者が多数出ていること、幾つかの里では村が滅んでしまった事などが報告された。
続いて王国側からも同様の報告が為される。だが、宰相によって読み上げられた最新の数字はフィアが把握していたものよりもずっと大きいものだった。
「むぅ……まさかこれほどとは」
アルフォリーニ侯爵が渋面を浮かべて唸る。それはフィアも同じで、王位についてなおみすみす被害を増やし、また現状を把握しきれていなかった不甲斐なさにほぞを噛んだ。
そんな彼女の手にキーリの固い手が重なった。
「気にしすぎんな」
「キーリ……しかし」
「王様だってできる事ぁたかが知れてんだ。なんでも一人で背負い込むな。そのために俺らはここに集まったんだろ?」
「……ああ、そうだな」
キーリの気遣いにフィアは小さく頭を振って気持ちを整えると、宰相に続きを促した。
宰相の報告によれば、特に南方にて被害が大きくなっているとのことで、その原因の一端に心当たりのあるフィアとアリエスはため息をついた。
「南方……オーフェルスの街がある地域ですわね」
「ああ。ギルドにも確認したが、あの地域を拠点とする冒険者の数がこの三年で激減しているらしい。まあ、迷宮規模が小さくなってしまった以上、あの街で上位冒険者業を続ける意義も薄いのは確かなんだが……」
かつて「万能」の英雄であるステファン・ユーレリアが治めていた街。だがモンスターの大暴走を防ぐため、既存の核を破棄して新たな核を作り上げた。それによって迷宮自体は残ったものの、若い迷宮核になってしまったため高位のモンスターは消え、熟練には割に合わない迷宮へとランクダウンしてしまったのだった。
「いや、それだけが原因じゃねぇよ」
「キーリ?」
「他に要因があるのか?」
「あそこのすぐ南にゃ何がある?」
「南?」
テーブルいっぱいに広げられた周辺諸国の地図を見下ろし、オーフェルスから南へと下っていく。そこにあるのは、五大神教の聖地でもあり信徒を束ねる、未だ謎の多き宗教国家、ワグナード教皇国。
「そうか! 南東方辺境伯領は教皇国と国境を接している……!」
「だからモンスター増大の影響も他の地域よりも大きい。そういうことですのね?」
フィアとアリエスは教皇国の存在に、得心が行ったとばかりにうなずいた。だが予備知識のない他の面々は理解が及ばない。
「待て、三人共。確かに教皇国は厄介な国ではあるが、どうしてモンスターの増加と教皇国の存在が結びつくのだ?」
「おっと、失礼。そっか、その説明が必要だったな」
「陛下は、三年前に起きた王国の南東方辺境伯領事件を覚えておられますか?」
「うむ。アリエス、先程そなたが言っていたようにオーフェルスの街で起きたモンスターの大暴走のことであろう?」
「ええ、そうですわ。あれの原因は迷宮核の暴走なのですけれども、その現場にワタクシたちも居合わせておりましたの。そしてそれを引き起こしたのは――教皇国の英雄である『幼き天才』フランですわ」
アリエスがもたらした情報に皇帝は眼を剥き、一気に場がざわつく。そこに更にフィアも当時の事を告げた。
「当時の辺境伯・ユーレリア卿は以前から教皇国、ひいては教会と強い繋がりがあったようでした。謀反を企んでいたようなのですが、両者をつないでいたのがフランでした。
ですが、彼女の本当の目的ははっきりしていませんが、彼女は入手した迷宮核の欠片を使い、その膨大な魔素を利用して辺境伯・ユーレリア卿を魔人化させたのです」
「なんと、そうであったか……ユーレリア卿は乱心の末、居合わせた冒険者によって討伐された、と報告を受けていたのだが……」
「その冒険者というのがキーリと……私です、アルフォリーニ侯爵。辺境伯の暴走は多くの人間に目撃されていますし、ごまかしようがありません。私が倒したとなると都合が悪いと考えた兄がおそらくは情報を改竄したのでしょう」
むう、とアルフォリーニ侯爵が唸り、腕を組んで難しい顔を浮かべた。
「英雄のうち、特にエレンとフランの双子については帰還後も表に出ることが少なかったが……そのような役割を担っているとすれば確かに人目につくのは不都合であろうな。
しかしそうか……かの事件も教皇国が一枚も二枚も噛んでいたか」
「我々が事象と教皇国を結びつけた背景をご理解頂けましたでしょうか?」
「そのように考えることは理解できた。だがそれだけでは不十分だろう。教皇国と双子は無関係であるとシラを切られて終いだろうな」
「だろうな。けど、それだけじゃねぇよ」
「他に何か繋がりを示す証拠があるのか?」
エドヴィカネルに問われ、キーリはうなずくと姿勢を正した。そしてフィアの眼を見る。それが、彼が持つ秘密を明らかにする合図だと気づいて彼女もうなずき返した。
「証拠は、魔素だ。魔素の流れを見ていきゃ自然とそれが分かってくる」
「キーリ。そなたが魔素に詳しい、ということは聞き及んでいる。しかし俺たちはその筋には正直疎い。説明を願おう」
「ああ。けど説明の前に信じてもらわなきゃならねぇことがある。
俺は――闇神の加護を受けている」
「闇神、だと……!」
キーリの告げた事実に、アルフォリーニ侯爵と近衛隊長がかばうようにエドヴィカネルとキーリの間に割って入る。近衛隊長は、まるで敵のようにキーリを睨みつけて魔法を放つ準備をするが、エドヴィカネルはそれを押しのけて再びキーリと相対する。
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