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2-2. 帝国にて(その2)

初稿:19/07/06


<<<登場人物紹介>>>


フィア:レディストリニア王国女王として即位したキーリたちの仲間。王位についてシオンにhshsできなくて寂しい。

宰相:ユーフィリニア王の時代から王国を切り盛りする敏腕宰相。そろそろ休みをあげたいとみんなが思ってる。

レイス:フィアをこよなく愛するメイド。フィアの化粧をしながら鼻血を漏らすのを必死に我慢してた。





「宰相……?」

「恐れながら……少し検討させて頂いても宜しいでしょうか?」

「自分たちに都合が良すぎて落とし穴がないか不安、というわけか」


 宰相は普段と変わらない疲労感の残る顔で皇帝を見つめるも、否定はしない。

 ともすれば非礼だと怒りそうな状況だが、皇帝は苦笑を浮かべてみせるだけだった。


「足元を見るばかりが能ではないということだ」


 フィアに分からぬよう外相に視線を送ると、彼は萎縮してエドヴィカネルから眼を逸した。


「都合が良い条件を並べたのは、我が帝国が王国との関係を修復したいと考えている証左と理解してほしい。聡明で、そしてつい最近まで市井の中に身を置いていらしたスフィリアース女王陛下であれば昨今の人類を取り巻く情勢は理解していると思う。であれば、敵は少しでも少なくしたいと考えるのはおかしいことかね?」

「いえ、私も同意見です」フィアは首肯した。「人里近くに現れるモンスター、迷宮の活性化、それに――怪しげな面々が動き回っているとの情報もあります。王国・帝国双方にとって信頼できるパートナーを得ることは国内を安心させる意味でも、他国に対する意味でも重要なことでしょう」


 フィアが目配せし、宰相が「出過ぎた事を申しました」と謝意を伝えて大人しく引き下がる。


「謝る必要はない。王国の実務を預かる者として当然の懸念だ」

「もったいないお言葉です」

「後は、そうだな……譲歩したのは、新たな若くて美しい女王誕生のお祝いと思ってくれれば幸いだ。めでたい事にもかかわらず、帝国から祝いの言葉一つも贈れていなかったからな」

「皇帝陛下のお気遣いに感謝致します」


 深々と頭を下げて感謝を告げたフィア。彼女が頭を上げて顕わになった瞳がエドヴィカネルの翡翠色の、やや濁った瞳と交差する。

 エドヴィカネルは眼を細めてしばし彼女を見つめた。中々視線を外さない皇帝に、フィアが怪訝そうに首を少し傾けると彼は小さく鼻を鳴らした。しかしそこに侮蔑などはなく、むしろ自らに対する皮肉めいた色が滲んでいた。


「……真っ直ぐな、良い眼をしている。さすがはアイツの娘だな。自慢するだけの事はある」

「……父とは交流が? ああ、いえ、もちろん今回のような外交の場での交流があった事は存じておりますが……」


 不意に皇帝の口をついて出た言葉にフィアは思わず問い返していた。小声ではあったが「アイツ」と言う表現と口調に、単なる隣国の首長という以上の関係があったような気がしたのだ。


「ああ。そなたの父、ユスティニアヌスとは随分と長い付き合いだった」


 多少の変化はありながらも、表情の変化に乏しかった皇帝の顔が柔らかく緩んだ。淋しげな、それでいて懐かしそうなものになる。フィアはもっと突っ込んだ話をしたいと思ったが、あくまでここは外交の場。そういった話を切り出してよいものか分からず、想いを喉の奥へと飲み込んだ。

 だがエドヴィカネルは口元を軽く撫でると外相に「議題は以上だな?」と尋ねた。


「はい。本日両陛下にご協議頂く内容は以上になります」

「であれば公式の場はここらでお開きとしよう。せっかくお越し頂いたのだ。後は女王陛下とざっくばらんな話をしたい。無論、非公式でだ。女王陛下、構わないかな?」

「え、ええ……皇帝陛下が構わないのであれば」

「遠方からお越し頂きお疲れだろう。我が国の銘菓でもつまみながら新たな交友を深めようではないか。

 その間、外相には会談の公式文書作成を頼みたい」

「承知いたしました」

「では私も」宰相も頷き、フィアに目配せしながら立ち上がる。「外相閣下と顔を突き合わせながら作成した方が相互に確認する手間も省けて効率的でしょう」

「……分かった。ではすまないが、宰相も宜しく頼みます」


 承知しました、と一礼し、宰相と帝国外相は二人して部屋から退出した。

 代わって、前もって準備していたのだろう、メイドの女性が数人入ってきて皇帝の前に菓子とコーヒーを並べていく。フィアの側にも、宰相と入れ替わりで入ってきたレイスが手際よく同様に飲み物類を注いでいった。


「ありがとう、レイス」


 フィアが感謝を告げるとレイスは恭しく一礼して去ろうとする。が、彼女をフィアが呼び止めた。


「あの、皇帝陛下」

「なにかな?」

「もし……父のお話をしてくださるおつもりでしたら、彼女も同席させて頂けないでしょうか? レイスも……私の家族のようなものですので」

「お嬢様……」


 レイスにしては珍しく驚いた表情をしてフィアを見つめ、しかしすぐに頭を振った。


「お嬢さ……いえ、陛下。お心遣い頂きまして誠にありがとうございます。ですが非公式とはいえこの場は皇帝陛下とのご歓談の場でございます。失礼ではありますが謹んでご辞退――」

「構わぬぞ」


 だが思わぬ援護が皇帝自らから入り、レイスは困惑を深めた。

 そうしている内に、いつの間にかフィアの隣にも飲み物が並べられていく。


「どうした? 席に着くが良い。それとも私の準備した物は飲めぬと言うかね?」

「……では僭越ながら失礼させて頂きます」


 厳しい顔の奥で皇帝の瞳がいたずらっぽく笑い、レイスは観念して席に座った。それを見て皇帝は満足そうに頷き、メイドたちが全員退室したのを見計らってカップに口をつけた。


「さて、アイツ――そなたの父、ユスティニアヌスと最初に出会ったのはもう四十年も前になるか……」


 懐かしそうに眼を細めながら、エドヴィカネルはフィアの亡き父との思い出を語り始めた。

 彼らが出会ったのは、共にまだ王子・皇太子の頃。当時はまだ帝国と王国は比較的良好な関係を保っており、当時の皇帝が息子であるエドヴィカネルを連れて国王即位の表敬訪問に訪れた時だった。

 年の頃も近く、立場も同じである二人が仲良くなるのにそう時間は掛からなかった。王同士が議論している間に庭園へ遊びにでかけたり、こっそりと城を抜け出して付き人を慌てさせたりもした。

 何度か互いの国を行き来した折にも、こっそりと酒を飲んで二人して酔いつぶれたり、また時には殴り合いのケンカをしたこともあった。


「そんなことが……」

「私もアイツも若かった……というには幼かったからな。今となっては良き思い出よ」


 時は流れ、二人は大人になる。ユスティニアヌスは結婚をし、子を成して良き友であるエドヴィカネルに見せに行ったこともあった。


「女王陛下。君がまだ赤子だった頃に私が抱きあやしたことだってあったのだぞ?」

「それは……光栄です」


 恥ずかしそうにフィアは頭を掻き、エドヴィカネルは親戚の子を見るように優しい眼を向けた。

 だがそんな時代も終わる。次第に両国の関係は悪化し、国交が途絶える。野心を隠さない国王が帝国へ侵攻し、しかし国力に勝り、かつ才に溢れる若き皇帝エドヴィカネル率いる帝国軍に押され、劣勢となる。その最中に国王も崩御し、かつての友が敵国の王同士となって再会した。

 旧友ではあるが、互いに国を守るために一歩も引かないやり取りが続く。停戦のためのギリギリの会談が何日も続き、両国の好戦派を抑え長きに渡る両国の不和に終止符を打った。

 その後も、仮想敵国として緊張した状態が続くが、両王の尽力によってここまで衝突もなく安定した関係を二十年近く保ってきた。そしてその関係は、二人が王である限り続くであろうと信じていた。

 そう、信じていたのだ。


「まさかアイツがあのような死を遂げるとはな……」


 エドヴィカネルが眼を閉じ、無言で天井を仰ぐ。天に昇った父を悼んでいるのか、在りし日の思い出に浸っているのか。

 やがて彼は一度深い息を吐くと何事も無かったようにまたやや仏頂面にも見える普段の顔を覗かせた。


「失礼したな」

「いえ……父も皇帝陛下と過ごされた日々を大切にしていたと思います」

「ならいいのだがな……アイツの墓は王都にあるのか?」

「はい。郊外の、代々の国王たちが眠る霊廟にて父も安らかな時を過ごしています」

「そうか……ではいずれ、女王陛下のお父上の元へ参らせてもらおう」

「感謝致します。きっと父も喜んでくれるでしょう」


 改めてフィアは頭を下げて感謝を示した。

 病床で息子に殺されるという非業の死を遂げた父だが、これで少しは慰められるだろうか。亡き父と皇帝の、敵国同士とは思えない良き関係を思って滲んだ涙をフィアはそっと拭った。


「さて、しんみりとした話はここまでにしよう。

 ここからは再び政治的な話をしたいのだが構わないかね?」

「もちろんです。私の方からも話したい事があります。レイス、すまないが……」

「承知しております。皇帝陛下、ご同席を許して頂き、誠にありがとうございました」


 レイスが立ち上がって深々と一礼して去っていく。二人はその後姿を見つめていたが、エドヴィカネルが「さて」と言いながらフィアの方に顔を向けた。





お読み頂きありがとうございました<(_ _)>

引き続き宜しくお願い致します<(_ _)><(_ _)>

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