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2-1. 帝国にて(その1)

初稿:19/07/03


<<<登場人物紹介>>>


フィア:レディストリニア王国女王として即位したキーリたちの仲間。王位についてシオンにhshsできなくて寂しい。

宰相:ユーフィリニア王の時代から王国を切り盛りする敏腕宰相。そろそろ休みをあげたいとみんなが思ってる。








オースフィリア帝国


帝都・レニヴィエトフ




 フィアは椅子に座して静かに審判の時を待った。

 何年もの間戦いの場に身を置いてきたが、これほどにも緊張した事はない。身なりは着慣れた戦いの装いではなく、白と赤を貴重とした豪華なドレス姿。特徴的な真紅の髪も華やかに整えられている。

 レディストリニア王国を出立する直前に宰相からこの服を渡された時は恥ずかしさに悶え、半ば強引にレイスの手によって普段はしない化粧まで施されてグッタリしていたが、今はそれにすら感謝しても良いと思えた。ドレスの華やかさと化粧で隠されているが、きっと現在の彼女の顔色はひどく悪いだろうから。


「……ふむ」


 正面から届く声や些細な仕草に対して異常に敏感になる。一挙手一投足が気になって仕方がない。背中から冷や汗が止まらない。早く言葉をくれと思う気持ちと結論を出さないでくれ、という相反する気持ちが彼女の中でせめぎ合っていた。

 父は、ずっとこのような場に身を置いていたのか。亡き父の偉大さに改めて感嘆と尊敬を心の中でつぶやいた頃、向かい合う相手がそっと手紙をテーブルに置いた。


「お待たせした」


 テーブルを挟んで相対する男性の威厳のある声が届き、フィアは気持ちを入れ直した。

 彼女が向かい合っているのは大国・オースフィリア帝国の皇帝にして、歴代でも名君と名高いエドヴィカネル一世だ。壮年と言われる歳だが武を尊ぶお国柄の王らしく鎧と紫紺のマントを身につけている。

 彼はフィアと宰相が手渡した親書を隣りに座っていた外相に渡すと、年齢を感じさせない力強い輝きと相応の深慮が宿るその瞳で彼女を見つめた。


「さて、念の為確認させて頂こう。

 先日の王国側からの国境侵攻について――王国には帝国を侵略する意思はなく、敵対の意思もない。事件についてはあくまでユーフィリニア前王の乱心の結果であり、王国として謝罪する。

 そういうことで相違ないか?」

「――はい。間違いありません」


 フィアは皇帝の言葉を肯定すると、椅子から立ち上がった。彼女の隣に座っていた宰相もまた立ち上がる。


「この度は、誠に申し訳ございませんでした。レディストリニア王国を代表して私、スフィリアース・フォン・ドゥ・レディストリニアがお詫び申し上げます」


 彼女が頭を深々と下げる。遅れて宰相もまた頭を垂れた。

 外交の場で公に国の代表が頭を下げて謝罪するのは難しい。だがフィアはこうした態度を選択した。

 そもそもが今回の事件は王国の一方的な侵略行為である。父王・ユスティニアヌスの時代には良好な関係が保たれていたところに兄王・ユーフィリニアが関係を破壊したもので、帝国に落ち度はない。国内情勢もまだまだ回復には程遠く、これ以上関係をこじらせて帝国側から侵攻されたら勝ち目はないのだ。

 それに、宰相からもたらされた情報も彼女の決断を後押しした。彼が言うには、皇帝は冷静な人間で利よりも理を重んじる性格である。今後のためにも、非を認めてキチンと謝罪をした方が後々王国に利すると彼はフィアに助言した。


「分かった。そちらの謝罪を受け入れよう」


 果たして、皇帝は重々しく頷いた。その言葉にフィアはようやく重かった肩の荷が降りたような心地を得た。


「皇帝陛下のお言葉どおり、帝国は女王陛下の謝罪をしかと受け止めました。

 しかし実際、アルフォリーニ家の兵士には多数の死傷者も出ておりますので……」


 フィアたちが再び席に着くと同時に、外相がそう切り出した。フィアは軽く頷き、「承知しています」と応じる。


「そちらの親書にも書いておりますが、王国には賠償に応じる準備があります」

「ふむ、ふむ……なるほど、帝国に金貨二万枚、その他個別に死亡した兵へ金貨五百枚、負傷兵へ見舞金として金貨五十枚を支払う、と」


 会戦が局所的だったことを考えればそれは相場以上の賠償額だった。加えて自国内の兵士に対しても補償してやらねばならない。現在の王国の財務状況を考えるとかなり苦しいが、何とか捻出できると宰相からも同意を得ている。


「はい。今回の件については王国内の落ち度。できる限りの補償をさせて頂くつもりです」

「……王国の、ひいては女王陛下のお気持ちは分かりました。ですがこれだと……」


 帝国外相は困った顔をしながら悩む素振りを見せ、宰相はいつもながらの無表情だが微かに口角が下がったのにフィアは気づいた。それに伴い、彼女にも外相が足元を見ようとしているのが分かり、やや眉間にシワを寄せた。

 だが。


「前王はどうしている?」


 唐突にエドヴィカネルが彼女にそう尋ねた。それには外相も面食らって口を開きかけるが、エドヴィカネルは外相をひと睨みして黙らせた。


「どうなのだ?」

「……現在、行方は分かりません」


 フィアが王城に凱旋した時にはすでにユーフィリニアの姿は無かった。宰相も途中から目撃しておらず、仕えるべき主が不在で途方に暮れていた時に彼女が戻ってきたとのことだった。

 彼女も人を使って捜索にあたったが依然どこへ消えたかはつかめていない。南へ向かったらしい、という情報こそ得られているがそれ以上は不明だ。


「そうか……それでどうするつもりだ?」

「探し出し、裁きにかけます」


 フィアは即答した。

 彼は何としてでも捕まえ、罪を償わなければならない。

 父を殺し、友を殺した。国を混乱に招き、多くの人々が死んだ。街は破壊され、生きる希望を潰したのだ。そそのかされた側面もあるだろうが、彼は、彼として責任を取らなければならないのだ。

 真っ直ぐにエドヴィカネルの眼を見て応えたフィアに、彼は問いを重ねる。


「良いのか? 愚を犯したとはいえ、そなたの実の兄でもあろう?」


 フィアの表情が曇る。膝の上においた手が震えた。

 即答はしたが即断をしたか、と問われればフィアは否と答えただろう。王位の宣言をして王城に戻ってからは眼が回るような忙しさにあったが、もし兄を見つけたらどうするか、という問いは常に彼女の頭の中にあった。

 彼は、許されるべきではない。分かってはいても戸惑いは消えない。父を殺し、友を殺したとはいえ兄は兄だ。幼少時に優しくされた記憶はなく、かといって特別冷遇されたわけでもない。それでも現時点で残っている、ただ一人の家族だ。

 捕らえれば極刑は免れない。そうしなければ誰もが納得しないだろう。彼女も死して償わせたい気持ちがある。だが同時に、このまま何処か、誰も彼を知らぬ場所でひっそりと生き続けてくれればそれでもいいとも思ってしまう。

 しかし。


「構いません。それだけの事を彼はしました」


 王として、国を守る者として彼女は決断した。苦悩の末に選んだ。膝上のドレスに深いシワが寄った。


「そうか。ならば女王の意思を尊重しよう」


 彼女の真っ直ぐな瞳からその苦悩を汲み取ったエドヴィカネルはそう告げ、そして改めて親書に視線を落とす。


「兵たちへの補償金についてはありがたく頂戴しよう。だが帝国への賠償は不要だ」

「……!」

「なっ……!? 陛下! それは――」

「構わぬ。元より帝国に人的被害以外は出ておらん。その代わりだが」


 代わりを求められる口ぶりにフィアは身構える。そんな彼女に皇帝は皮肉げに片口だけを吊り上げて笑った。


「そう身構える必要はない。今回の会談の内容を臣民に伝えねばならんのでな。

 補償と合わせて新国王の言葉として謝罪を頂いたということと、これからも王国とは良好な関係を構築していくと発表させてもらうだけだ」

「……」

「不服かな?」

「……女王陛下」


 呆けたままのフィアの脇を突きながら宰相が声を掛けると、彼女はハッとして慌てて頭を振った。


「い、いえ! その、まさか皇帝陛下からそういった申し出を頂くとは思っていませんでしたので少し驚いてしまいました」

「そう感じるのも無理はあるまい。だが私は本気だよ」


 彼が冗談を言うことはそう多くない。それでも外相は冗談であることを期待していたのだが、その願いは呆気なく散った。苦言を申し上げようとするも、横目で向けられた冷たい皇帝の視線に、開きかけた口をそのまま閉じたままにした。


「それで、如何かな?」


 再度尋ねるエドヴィカネル。賠償金の減額は非常に助かる話であるし、帝国との関係を修復できることは願ってもない機会である。フィアとしては両手を挙げて賛成したい話だ。

 であるのだが。


「宰相……?」

「恐れながら……少し検討させて頂いても宜しいでしょうか?」





お読み頂きありがとうございました<(_ _)>

引き続き宜しくお願い致します<(_ _)><(_ _)>

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