8-3 迷宮探索試験の前にて(その3)
第26話です。
宜しくお願いします。
<<主要登場人物>>
キーリ:本作主人公。スフォン冒険者養成学校一回生。成績も良く、運動系の能力は非常に高い。欠点は魔法の才能が絶望的にないこととイケメンを台無しにする目つきの悪さ。
フィア:赤い髪が特徴で、キーリのクラスメイト。ショタコンで可愛い男の子に悶える癖がある。キーリに剣の指導を施す程達者だが魔法もそれなりに使いこなす。勉強はできるが机に座っているのが苦手。
シオン:冒険者養成学校一回生で、魔法科所属。実家はスフォンの平民街で食堂を経営しており、日々母親のお手伝いをする頑張りやさん。
レイス:メイド服+眼鏡の無表情少女。フィアに全てを捧げるフィアの為のメイドさん。キーリ達の同級生でもある。
アリエス:帝国からやってきた金髪縦ロールのお嬢様。入試の主席。貴族であることに誇りを抱いているが、筋肉愛好家。フィアと同じくクラスで最上位の剣の腕前を持つ。
養成学校の廊下を一人の女性が歩いていた。
両腕の上には何十枚にもなる書類の束。校長であるシェニアの所にこういった書類を毎日運ぶのも秘書である彼女の仕事だ。だが彼女――ミーシアは腕の中のそれを見ながら溜息を漏らした。
シェニアの毎日はそれなりに多忙である。校長であるが故に講義等は無いが、教育機関と同時に研究機関の一面も持つ養成学校には多くの教職員を抱えており、彼らから多くの書類がシェニアに提出される。
新たな研究を行うための研究費の申請や研究道具の申請、各教育コースの今後の予定の確認に生徒たちの試験結果の精査。教員の配置に問題が無いか気を配らなければならないし、教員が不足していれば対策を講じなければならない。
それら通常の業務に加えてシェニアは今、この養成学校の教育内容の改革を進めている。普通科や迷宮探索科といった元より迷宮探索を念頭に置いた学科はオットマーなどの手腕によって特に目立った問題は起きていないのだが、魔法科や戦略・戦術研究科など貴族の子弟が主に所属する学科は多くの問題を孕んでいる。
研究資金の誤魔化しや倫理的に問題のある実験の実施。迷宮探索をするための学校であるのにただ単に机上の理論ばかりを並べ立てて満足する授業。挙句、授業そっちのけで政治的やり取りに腐心する生徒たち。かと思えばギルドの建物である学舎内で露骨に行われる平民、他人種への差別的言動などなど。挙げていけばキリがない。
それらを是正して本来のあるべき姿へと変えようと奮戦する毎日だが、一朝一夕で変わるわけもなく、そもそも教職員からして問題なのだから堪らない。彼らを罷免して新たに教員を迎え入れようにも人格的・能力的に問題のない人間などそうそう見つかるはずもなく、頭の痛い状態が続いている。
そういう状態ではあるためシェニアも忙しいのだが、それでも寝る間もない、という程では無い。ミーシアが予め書類を精査して重要度を分類し、他の教頭や学科主任の先生でも処置が可能なものはそちらに回しているためシェニアの負担はかなり軽減されている。にもかかわらずシェニアは殆ど毎日自分の執務室で朝を迎えている。何故かといえば――
「サボってどっか出て行くの止めてくれないかなぁ……」
彼女の呟きが全てを表していた。
シェニアがサボり、書類が滞る。ミーシアが探しに歩きまわり説教。その間に更に書類が増えていく。
そんな無駄なループによってシェニアのみならず秘書であるミーシアの仕事も増える。ああ、今日も残業だ。これもあのシェニアのせいだ。考えたら腹が立ってきて、鼠人類の特徴である大きな頬袋をミーシアは膨らませた。今度の休みに貴族街のレストランの食事をおごってもらわなければ割に合わない。もしくはイケメンで金持ちで性格にも問題が無いイイ男を紹介して貰わねば。
ミーシアが如何に代償をシェニアに払わせるかに腐心していると、校長室の方から一人の生徒が歩いてくるのが見えた。
「こんにちは、アルカナ君」
ミーシアは栗毛の髪を掻き上げて少年――キーリに声を掛けた。この数ヶ月ですっかり顔なじみになった相手だ。一見すると女性と見間違うような端麗さを持つミーシアの好みの少年で、自然と彼女の顔も綻んだ。シェニアなどは「目つきが最悪」などと評しているがそこがミーシアにしてみればそこがいいのだ。女性っぽさのあるシルエットの中で目立つその目つきの悪さが男らしさを醸していて、彼女にとってはたまらない。
「お? ちわっす、ミーシアさん」
「今日もまた答え合わせで呼ばれたの?」
「そ。最近週一で呼ばれるんだけど、アイツちゃんと仕事してんの?」
「一応ね。その合間にアルカナ君の魔法の解読をしてるから滞ってる事が多いけど。
それで今日はどうだった……ってその様子だとまた外れってところかな?」
「ご名答。いい加減諦めてくれりゃいいのに」
軽く嘆息して肩を竦めるキーリ。そんな彼の様子にミーシアは苦笑いを浮かべた。
「ホントそう。魔法を研究するのが好きなのは知ってるけど、仕事に支障が出ない程度にしてほしいわ」ミーシアも小さく頬袋を膨らませた。「シェニアさんに答え教えてあげてくれない?」
「俺もそうしたいんだけどさ、アイツ『絶対ダメっ! ぜっっっったいに私が自分で解き明かして見せるわ! これは精霊神が私に与えた試練なのよっ!』とか言って答えを言わせてくれねーんだもん」
「ぷっ! 今のシェニアさんの真似だよね? そっくり! 確かにあの人ならそう言いそう」
キーリの声色を使ったモノマネにミーシアは思わず吹き出した。思った以上にシェニアに似ていて、彼女がそう言った姿が容易に想像できた。
「呼ばれる度にミーシアさんに会えるから良いけどさ、こうもいつも呼ばれて魔法を実演させられるのもいい加減面倒になってきたからさ、ミーシアさんからも何か言ってやってよ」
「……う~ん、もう私も何度も言ってるんだけどね」
キーリから「ミーシアに会えるから良い」と言われて少し胸が高鳴ったが、それを抑えてキーリに返事をした。そこまでの深い意味は無いと分かっているが、そう言われて悪い気はしない。
「まあ忙しい彼女の息抜きみたいなものだから許してあげて」
「でも仕事に影響したらミーシアさん怒るんだろ?」
「それはそうよ! シェニアさんが仕事サボるせいで今月だけで何日残業したことか……」
「ま、分かったよ。週一程度だし、それでシェニアの気分転換になって仕事が捗るんなら協力すんのも吝かじゃねーし。それじゃミーシアさんも仕事頑張って」
「あはは、ありがと。アルカナ君も訓練頑張ってね」
キーリと別れ、お気に入りのイケメン(ミーシア視点)と会話できた事でテンションが上ったミーシアはウキウキしながら廊下を進み、校長室の扉を開けた。
校長室へと入ると、すぐ正面にシェニアの執務机がある。机の上にはそれなりの高さに書類が積まれているのだが、彼女はそれらをそっちのけにして一心に紙に何かを書き殴っている。額に手を当てて白く長い髪を鬱陶しそうに掻き上げ、血走った眼で紙に向かい合うその姿は校長にあるまじき姿。とても生徒には見せられない。床に眼を移せば丸められた紙くずがそこかしこに散らばっていた。かつてミーシアが憧れていた、冒険者時代の余裕たっぷりだった大人の女性の姿はそこにはない。
「……――、あ゛あ゛~っ!! 違う! コレじゃ魔法自体が発動しないじゃないのっ!! バカか私はっ!!」
突然奇声を上げたかと思うと紙をグシャグシャに丸めて後ろへ放り投げる。両手で頭を掻きむしり髪の毛を振り乱す姿は狂人である。すでにぶち壊されて灰になった上にグリグリと踏みにじられたシェニアに対する憧れだが、それを更に撒き散らかすような彼女の醜態にミーシアは溜息を禁じ得ない。
「またダメだったみたいですね。もう諦めたらどうですか?」
「まだよ! まだ私は諦めないわ! 私の魔法に対するプライドに賭けても……って、なんだミーシアか」
「なんだ、とはまた随分な返事ですね。こうして書類を持って来てあげたっていうのに」
ムッとしながらミーシアはこれみよがしにシェニアの目の前に書類を積み上げていく。既存の書類が下になり、しかし下になった書類から片付けなければならない。手間が増えた、とシェニアはミーシアを睨むが、ミーシアは素知らぬ顔だ。
「私は魔法理論はさっぱりですけど、シェニアさんがここまで解析できないなんてそんなに難しいんですか?」
ミーシアはポットから紅茶を注ぎ、シェニアの机に置きながらそう尋ねた。
元冒険者であるが、シェニアは魔法理論・実践学の実力者としても有名だ。冒険の傍らに趣味として魔法理論の考察や新たな魔法の開発を独力で行い、数々の論文を発表した。分析力に優れ、またそれを独自の視点で応用するその能力を活かして最終的にはA-ランク冒険者までのし上がってきている。引退した今もそれ故に時々魔法理論の査読を依頼されたりもする。
冒険者時代からの付き合いであるミーシアも当然その事を知っており、だからこその質問であったがシェニアは肩を竦めて両手を一度上げるとカップを口元に運んだ。
「ん、いい香り……ありがと。
そうね、ハッキリ言って正直、お手上げに近いわ。私が知り得る限りの仮説を立てて考察してみたけど、さっぱり分かんない」
「それってこれまでにない新しい魔法理論をあの歳で組み立ててるって事ですよね? それもシェニアさんも理解できない程の。やっぱりアルカナ君ってスゴイですね」
我が事の様に嬉しそうにミーシアは顔を綻ばせるが、返ってきたシェニアの反応はイマイチだ。首を横に振って椅子の背もたれにもたれ掛かり、天井を仰いだ。
「んー、新理論とは違うのよねぇ。何回も間近で魔法を見せてもらったけど、確かに構成式とか魔法レベルの割に複雑で難解ではあるけれど全て既存の理論の範囲に過ぎないのよ。だから理論というよりは応用分野の話だとは思うんだけど……」
「さっぱり分からない、と」
「その通り」
はぁ、と深々と溜息をシェニアは吐いた。三ヶ月以上もこうして暇さえあれば、或いは仕事を放棄して考察に取り組み、自分で試してみたりするがキーリと同じ事は出来ない。似た現象は使用する魔法の等級を上げれば起こせるが、それだって似て非なる現象に過ぎない。
もし解読できて既存の魔法に応用できれば世の中の魔法のレベルが大きく上がるとシェニアは信じているが、その道はまだ険しそうだ。
「応用って確か……イメージと制御の精密さ? が重要なんでしたっけ?」
「そうよ。如何に現象を正確にイメージするかと魔力の流れを如何に思った通りに制御するか。同じ構成式と魔力量でもそれだけでかなり違った魔法になるわ」
「何か私達とは違ったものがアルカナ君には見えてるんですかね? 見た目といい、雰囲気といい、何か私達とは違った世界で生きてるみたい」
「違う世界、か……」紅茶を口に含みながらシェニアはつぶやいた。「ホント、彼って全然世界が違う場所で育ったのかもしれないわね。
はぁ……だとすると私の考え方だと正解にたどり着けないのかしら? これでも頭は柔らかい方だと思ってたんだけど、せめてヒントくらいは貰った方がいいのかもしれないわねぇ」
「ぜひそうしてください。そしてさっさと仕事を片付けて私を早く仕事から解放してください。シェニアさんは長耳族で長命だから良いんですけど、私はもうとっくに適齢期過ぎてるんです。ギルドの同期は皆いい相手見つけて幸せでラブラブな毎日を過ごしてるっていうのに私はココと家を往復する毎日で相手を見繕う時間も無いしこれも全部シェニアさんが仕事サボってどっか行っちゃうから悪いんですよたまにいい男に誘われたって仕事で疲れて相手する余裕も無いしそもそも仕事の割にはお給金だって安いと――」
「はいはい、分かった分かった、私が悪かったわよ。仕事を片付けます片付けます」
途中から呪詛と思える様な止めどない愚痴がミーシアの口から溢れ始め、シェニアは露骨に顔をしかめると慌てて書類を一枚掴んで眼を通し始めた。
「……あら、そういえばもう一回生の迷宮探索試験なのね?」
たまたま取ったその書類は迷宮探索試験に関する計画書だった。当日のスケジュールから監督役として冒険者を雇うための費用などが丁寧な文字で記されていた。
「――お陰で部屋も散らかり放題で皆からは干物女だなんだって――え? ああ、はい」シェニアに問われてミーシアの死んだ魚の眼に生気が戻ってくる。「計画通り来週の火精霊の日に行われる予定です」
「そう。
今年からルールとか色々変更を加えたと思うけど、問題は特に発生してないかしら?」
「ええ、一部の生徒からは不満も出てますけど目立った問題は寄せられていません。普通科のオットマー先生とカイエン先生が率先して動いてくれていますから」
「そ。ならいいわ。魔法科からは何かしら上申があるかと思っていたのだけれど」
「今回のルールだと魔法科生徒の重要性が高くなりますからね。それに今までの単なる遠足みたいな試験と違って、危険度は少ないとは言っても本物の迷宮に潜りますし、なので幾つかの貴族からは危険だから止めさせるべきとの意見を頂いてますけれど、私の方で適当に言い包めて追い返してます」
「ありがと。やっぱ優秀な秘書を持つと助かるわ」
「褒めてくれるなら今度いい男の一人でも紹介してください……あ、そうだ。この試験の件で一つお耳に入れておきたい事が」
軽口で返答したミーシアだったが、ふと耳にした話を思い出し、居住まいを正してシェニアの前に立った。それを見てシェニアも真面目な話だと察して姿勢を正した。
「これはまだ何の確認も取れていない情報ですが、宜しいですか?」
「ええ、構わないわ。些細な事でもミーシアが重要だと思ったのならそうなんでしょ。そこは信頼してる。もちろん結果的に何てこと無い話だったとしても責めたりはしないわよ」
「感謝します。実は、どうやらまたエルゲン伯爵のご子息が動いているようです」
シェニアは出てきた名前を聞いて「またか」と頭を抱えた。
ゲリーの問題行動は今に始まった事ではない。入学試験での悪事から始まって学内に専用の食堂を作らせたり、キーリ以外の平民の生徒に因縁を吹っかけて退学させようとしたり、突然暴力を振るったりと度々目に余る事を引き起こしていた。その度にシェニアからも色々と処分を下してはいるのだが、処分を受けた直後は大人しくしていてもすぐに喉元をすぎれば悪さをし始める。シェニアとしても頭の痛い問題の一つだ。
「はぁ……今度は何をしようとしているのかしら?」
「そこまではまだ分かりません。ただ、身近な貴族を使って人を集めているみたいです。空き教室の一つを放課後に占領して、一部の貴族には金銭を握らせているとの話もあるみたいですけど……賄賂でしょうか?」
「頭は悪いけど腐ってもエルゲン伯爵家の人間よ? 金銭なんて渡さなくても一声掛ければおもねる貴族くらい動かせるでしょうに」
「お金を渡さないと満足に動かせないくらいに求心力が落ちているということでは?」
「それか、それくらいしないと割に合わない事をやらせようとしているとか、かしらね? なんにせよ、碌な事じゃないわ」
「これまでの成績の悪さを補うために、他の生徒にわざと悪い成績を取らせようとしている可能性はありませんか?」
「八百長って事? 確かにあの子なら考えそうな事だけど……」
シェニアは口元に手を遣って考えこむ。ゲリーならばそんな小細工くらいはやりそうだが、何か引っかかる。引き出しを開けて中に仕舞ってあった紙を取り出し、一度は読んだそれをシェニアは再び眼を通していく。
それは最近のゲリーの行動について記載されたものだ。あまりにも問題行動が目立つためにオットマーに頼んで目に付く範囲で報告させている。気の短い彼の事、入学当初からすぐに癇癪を起こしていたが、最近は特に暴力行為が目立つ。
それまで和やかに談笑していても突然「キレて」仲間の貴族にも暴力を振るう。暴れたかと思えば頭を抱えて泣き始めたりと、情緒不安定な行動も現れている。手の掛かる生徒である事は違いないが、それでもシェニアは彼の事が心配だった。
「シェニアさん?」
「ん? ああ、ごめんなさい。とにかく、今の彼からなるべく眼を離さないように伝えてちょうだい……と言ってもあまり信用できる教師が居ないのが悩ましいわね」
「この街を治める大貴族ですもんね。皆、下手に機嫌を損ねたくないでしょうし」
「そこを生徒のために敢えて諫言するのが教師ってもんでしょうけど、研究したくて集まってる教師が多いし、期待できないか。それでもいいわ、何も伝えないよりはマシでしょうし。
それと、彼の親から何か返事は来た?」
「はい、先ほど。ですけど……」
言いづらそうにして、ミーシアは封筒をポケットから取り出しシェニアに手渡した。受け取ったシェニアは怪訝そうにしていたが、眼を通していく内にどんどん表情が厳しいものに変わっていく。
「……呆れたものね。連々と言葉を重ねてるけど、結局はこっちに丸投げってわけじゃない」
「はい……退学だけは何とか止めて欲しいとは書かれてますが、それ以外に伯爵の方で手を打つことは無さそうですね」
「王都が今忙しいのは分かるけど、自分の血を分けた息子でしょうに。今、手を打たないとあの子、取り返しのつかない事になりかねないわ」
「貴族は特に嫡男だけを優遇するとは聞きますが、やはり三男だから関心が無いんでしょうかね?」
ミーシアの疑問に、シェニアは緩々と首を横に振った。
「確かに伯爵は実務に関しては合理的な人物だけど、家族を大事にする人間よ。じゃないと、幾ら発展性が乏しいとはいえ、実務の出来る優秀な家臣を残してスフォンの名代をゲリー君に任せたりしないわよ」
「じゃあやっぱり多忙過ぎてこちらにやってこれないということなんですかね? ここ数ヶ月、汚職がいっぱい発覚してかなりの貴族が改易されて王宮も人手不足だって聞きますし。新たに英雄様が一人、伯爵に叙爵されましたし、王国も変革の時が来てるんじゃないですか?」
「それならまだ良いけれど……」
シェニアは立ち上がって窓の外を見た。
外に広がるのは貴族街。平民街に比べて遥かに豪華な家々が並んでいる。何も知らない平民から見れば豊かで満たされた毎日を送っているように見えるが、内実は魑魅魍魎が跋扈する魔境だ。誰かに汚点を付けようと暗躍し、上の者を引きずり降ろそうと誰もが虎視眈々と機会を待っている。仕事が出来るだけでは生き残っていけないそんな世界だ。
「正しく報告が届いていない、としたらまずいわね……」
「どこかで伯爵への報告が捻じ曲げられているって事ですか? でも、何処で?」
「タイミングは色々あるけれど、本当にまずいのは彼の部下の中に裏切り者がいる場合だわ。そしてそれに伯爵自身が気づいてないなら、最悪ね」
「政治とは関係のない子供に関する事でもそんな事をするんですか? ひどい……」
「あそこはそんな世界よ。利用できるものは何でも利用する。絶対に関わりたくない場所の一つだわ」
シェニアは溜息を漏らし、貴族街から視線を外した。そしてもう一度手紙を書く為にミーシアに封筒と便箋を準備するように指示をする。
それが、きっと無駄に終わるだろうと思いながら。
2017/5/7 改稿
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