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1-2. 終焉のプロローグ(その2)

初稿:19/06/28


<<<登場人物紹介>>>


シオン:狼人族のパーティメンバー。パーティの頭脳の頑張りやさん。

シェニア:ギルド・スフォン支部の支部長。キーリたちが在籍時の養成学校校長でもある。

ミーシア:シェニアの秘書。いい男を探し中だが仕事が忙しくて絶望してる。





 レディストリニア王国・スフォン




 手渡された書類をシェニアはじっと見つめて読み進めていく。やがて読み終えると一度小さくうなずき、机の上に置かれたペンを手に取った。そうして最下部に自身の名前をサラサラと慣れた手付きで書き、傍に控えていたミーシアに渡すと正面のシオンに向かって微笑んだ。


「はい、書類に問題なし。承りました。今日から貴方が名実ともにパーティのリーダーね」

「ありがとうございます」


 そう告げたシェニアにシオンは頭を下げた。その表情にはやや不安が滲んでいたが、シェニアは「大丈夫よ」と励ますように声を掛ける。


「これまで通りしていけば良いわ。みんないい子たちだし、リーダーだからって気負う必要はないの。貴方は貴方らしくあればみんな付いてくるわよ」

「そう、だと良いんですけど……」

「心配するだけ杞憂よ。それに、なんでも貴方一人で背負い込む必要はないの。助けが必要だったら仲間を頼ればいいし、話しにくいことであれば私のところに相談なさいな。できる限り力になるわよ」

「……そうですね」


 シェニアの言葉にシオンはようやく表情を緩めた。

 彼が提出したのはパーティ編成の変更書類だ。これまでリーダーだったフィアから正式にシオンに引き継がれ、今日から彼が仲間たちを引っ張っていく存在となる。

 と言っても、国王となったフィアも今後参加することはほとんどないだろうがパーティには残るし、彼女たちが不在だった三年間は実際シオンがギルドとのやり取りを担ってきた。あくまで書類上の話でしかない。

 それでもシオンはその重責に不安を感じていた。が、シェニアに言われたように強く仲間を引っ張っていく必要もない。これまで通りやれることをしっかりとやっていけばいい。そう思い直して気持ちを切り替えたのだった。

 名だたるメンバーが揃うパーティのリーダー。それだけでもシオンにとっては大きな変化であるが、それとは別に、もう一つ大きな変化があった。


「それと――アリエスの脱退申請も受理したわ」

「……ありがとうございます」


 アリエス・アルフォニア改め、アリエス・フォン・アルフォリーニのパーティからの脱退。その正式な受諾が告げられた。


「……彼女が決断した以上私から言えることはないけれど、やっぱり寂しいわね」

「そうですね……」


 兼ねてより彼女の祖父から請われていたアルフォリーニ家当主の座の継承。しばし悩んでいた彼女だったがついに決断した。それと同時にシオンたち仲間に伝えられたパーティの脱退。当然カレンを始めとして皆引き止めようとしたが彼女の決意は固く、先日自身の手によって届け出がなされていた。


「フィアちゃんも残るんですよね? だったら、離脱することはないと思うけど……」


 ミーシアも残念そうに眉尻を下げる。彼女と同じ思いをシオンもまた抱いたものだが、アリエスの人となりをよく知る彼は無理に止めようとはしなかった。


「アリエスさんは誰よりも貴族であることに誇りを持っていますから……パーティを抜けるのもきっと、あの人なりの決意の現れなんだと思います」

「やっぱり帝国軍と王国軍の戦闘が関係してるのかなぁ……?」

「無くはないでしょうね。アルフォリーニ家は代々帝国と王国の国境を管理してる名家だし、今の両国の状態を鑑みれば領民を守ることを優先するのは彼女らしい選択と言えるわ」


 まだ記憶に新しい、王国軍の帝国への出兵。フィアたちが間に合ったおかげで全軍を上げた大規模開戦にこそ発展しなかったものの、両国の間では緊張状態が続いている。それこそ、いつ戦端が開かれてもおかしくない状況だ。

 シェニアが知る限り皇帝も武を尊びこそすれど、無益な戦いは好まない性格であるしフィアもまたそうであると知っている。だからすぐに戦争などという愚策には走らないと信じているが、状況がいつ悪化するとも限らない。アリエスが自国を優先するのは当然であるし、そのような状況下で、中立である冒険者と言えど敵国になるかもしれない場所に大貴族の子女が留まり続ける選択肢はありえなかった。


「……帝国とはフィアさんがきっとうまくやってくれると思います。アリエスさんも冒険者を辞めたわけではないですし、状況がまた落ち着けばパーティから抜けたってまた一緒に迷宮に潜る機会はあるってみんな信じてますから」

「……そうね。その時はまた歓迎してあげなさい。それと、歓迎会をするなら私にも声を掛けてよ?」

「あはは、でしたらミーシアさんに怒られないよう仕事を片付けてしまってくださいね?」

「あら、シオンくんも言うようになったわね?」

「あっ……す、すみません、口が過ぎました」

「もう、冗談よ」

「でも仕事を片付けてくれない限り行かせませんからね?」

「……分かってるわよ……っと、そうそう、もう一つ貴方達に渡さないといけないのがあったわ」


 ミーシアから言われて口を「へ」の字に曲げたシェニアだったが、手をパンと叩くと引き出しから書類と銀色に輝くプレートを取り出して机に並べた。

 不足がないかざっとそれらを確認すると、今度はシェニアからシオンへと手渡される。


「はい、キーリくんとフィアさんの冒険者資格回復の証明書。それと、他のメンバーの新しい冒険者証よ。後でみんなに渡してあげて」


 渡された書類に眼を通せば、かつて逃亡生活中に停止されていたキーリ、フィアに対する処分の撤回と過去の功績の回復について記載されていた。それに伴い、保留となっていたB+ランクへの昇格も併記されていた。

 また、王家の迷宮で倒したBランクのモートゥス・ドロール討伐の功績を加味されてシオンたちもまた各々C+、あるいはCランクへの昇格を果たし、新たな冒険者証が発行されたのだった。


「これで全員Cランクかぁ……早いものですねぇ」

「そうね。貴方達も一端どころか、もうどこに出してもおかしくないような一流の冒険者か。みんな才能もあったけど、努力も惜しまなかった結果だわ。たいしてお世話もできなかったけど、貴方達を見てると私も誇らしいわ」

「そんな……他の人たちはすごい人たちですけど、僕はまだまだ全然ダメです。勉強しなきゃいけないことも多いですし、もっと強くならないと」


 謙遜、というよりもシオンは頑なにそう信じているようにシェニアには見えた。

 狼人族ではあるが小柄な彼の純粋な身体能力はパーティの他のメンバーに及ばない。だがそれを補って余りある知識と魔法技術がシオンを一流冒険者足らしめている。特に知識に関しては、キーリから得た別世界からの知識もあって、王国内の学者でも及ばないほどだ。

 それでもシオンは満足しない。もっと、もっと上へ。気弱ではあるが、自身の成長に関しては貪欲であり続けていた。


(生徒だった頃はまさかここまで成長するとは正直思って無かったけど……)


 それも向上心が為せる業か。だが隠れていたその心を引き出したのも――


(いい仲間に恵まれたから……いえ、巡り会えたのもシオンくんの人となりのおかげかしら)


 直ぐ側にキーリがいてフィアがいてアリエスがいる。カレンやイーシュ、ギースもまた自己の鍛錬を怠らない。仲間の足を引っ張りたくない。誰もがそう思うからこそ成長を続けるし、そうした「腐らない」メンバーが集まって関係が崩れずに続いているのもシオンがいるからこそだろう。昔と変わらないシオンの姿を見つめて、シェニアは嬉しそうに目を細めた。

 すると、顔を上げたシオンと目が合った。


「ん? なにかしら?」

「いえ、その、僕が気にするようなことではないのかもしれないですけど――シェニアさんの学校の方は大丈夫なんですか?」


 キーリたちが追われる立場になり、彼らに対する処遇と養成学校への貴族の介入に嫌気が差したシェニアはギルド支部長の立場を辞して、ユーグノースで私立の養成学校と孤児院を設立していた。

 にもかかわらず、再びスフォンでギルド支部長へと戻ってきている。そちらを放り出して戻ってきたとはシオンも思っていないが、気にはなるところだった。


「ふふ、心配しなくても大丈夫よ。今は経営も安定してるし、オットマー先生やクルエくんが切り盛りしてくれてるから。他にもいい先生が集まってくれたし、孤児院の方も何とかやっていけてるわ」

「そうですか。確かにオットマー先生たちがいらっしゃるなら安心ですね」

「ええ。それに、せっかくの新しい国王様直々の依頼だもの。今はここのギルドと養成学校の立て直しが急務だわ」


 フィアから直々に頼まれなければシェニアも突っぱねたかもしれないが、彼女とてこの街には思い入れもある。シェニアは柔らかく微笑み、しかし少しだけ表情を曇らせた。


「でも……子どもたちの成長を見られないのは少しさみしいかしら」

「やっぱり育っていくのを見るのは嬉しいですか?」

「もちろん。戦争でご両親を亡くしたり、育てられなくて捨てられたりして傷ついた子が多いし、そういった子のケアは難しくて大変だけどやりがいがあるわ。それに、孤児院を建てるまでは子どもって弱い存在で守ってあげなきゃっていう気持ちもあったのだけれど、毎日の姿を見てると彼らはすごく強いんだって思う。泣いて、笑って……それを繰り返しながら辛い過去を乗り越えていこうとしている姿を見ると、逆にこっちが励まされるわ」


 シェニアはそう言って楽しそうに笑った。独身の彼女にとって、孤児院の子どもたちを本当の子の様に思っているのだろう。彼女が口にしたとおり、そちらの仕事にも強いやりがいを感じているに違いない。


「なら――」

「でもそれは貴方達のことも同じよ」


 今回の仕事を断っても良かったのでは。そう尋ねかけたシオンだったが、シェニアは机の上で手を組んでシオンを見た。


「ここの養成学校から巣立っていった子たちも、私にとっては大切な子どもたち。どれだけ大きくなっても、ね。みんながみんな冒険者として大成するわけじゃないけど、進んだ道がどうあれ、成長していく様を見ていくのは楽しいの。

 だから戻ってきたのよ」


 ここも、ユーグノースの学校も大事。どれだけ成長しても彼女にとって自分たちは子供か。シオンは「敵わないなぁ」と頭を掻いたが、その思いが嬉しくもあった。


「ま、とは言っても孤児なんて増えない方が良いのだけれどね」

「ですね。でもフィアさんも頑張ってますし、すぐにまたフィアさんのお父さんの時代のようになると思います」

「そうそう。フィアちゃんが王様になってから国内の戦争も止まりましたし、王国内も帝国との関係も、きっとこれからずっと良くなっていきますよ」

「そうね。ぜひとも彼女には期待してるわ」


 王直轄領となったスフォンの街でも貴族派はすっかり大人しくなり、街で感じる民衆の不安感も小さくなっているのはシェニアも肌で感じる。それだけみなが彼女に期待しているのだろう。フィアがここの養成学校に入学した背景も知っているシェニアは彼女の即位に複雑な思いはあるが、その決断をした新王を誇りに思った。


「でもホント……落ち着くべきところに落ち着いて良かったわ。一時はどうなるかと思ったけど」

「ホントですよー。みんな心配してましたもんね」

「あるべき姿に戻ったのは良いのだけれど――」シェニアはくるりと椅子を回して窓の外を眺めた。「さてさて……その立役者さんは、いったいどこをほっつき歩いてんのかしらね?」





お読み頂きありがとうございました<(_ _)>

引き続き宜しくお願い致します<(_ _)><(_ _)>

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