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14-7 鐘の音は響き、針は再び時を刻み始める(その7、第三部完)

第3部 第85話、ラストになります。

お付き合い、よろしくお願いします<(_ _)>


初稿:18/08/20


<<<登場人物紹介>>>


キーリ:転生後鬼人族に拾われるも村が滅ぼされた事で英雄への復讐を誓い冒険者となった。国王殺害の濡れ衣を着せられ逃亡生活中。

フィア:パーティのリーダーで王国の王女。国王殺害犯としてキーリ、レイスと共に逃亡生活真っ只中。







 戦場を去ったフィアは、途中で教会兵を足止めしていたシオンたちとも無事に合流し、多くの兵士を連れて王都へと向かった。

 彼女の宣言は瞬く間にレディストリニア王国全土に広がっていた。現王に不満を持っていた国民は各地で彼女を歓迎し、苦境に立たされていた旧国王派の貴族も続々とフィアの軍へと合流していく。

 貴族派の首魁たる大貴族たちは大部隊となっていくフィアたちに歯向かうのは得策では無いと見たか静観の構えを見せ、大貴族の支配に反感を抱いていた中小の貴族はここぞとばかりにそれぞれがフィアに表面上の従順を示した。

 そして、貴族派貴族の重要拠点でもあった都市・スフォンに彼女たちは辿り着く。そこで一悶着あるかとフィアは覚悟をしていたが、都市はあっさりと陥落した。


 スフォンに拠点をおく貴族たちは当初、徹底抗戦の構えを見せていた。多くの兵士を集め、門を固く閉ざし、門の上には多くの弓兵・魔法兵を配置していた。それを眼にしたフィアたちも意識を戦闘時のものに切り替える。

 しかしフィアたちの兵が攻撃をされることはなかった。

 攻撃をしようとした貴族である魔法兵は、味方であるはずの他の歩兵や弓兵によって引きずり落ろされ、フィアが姿を見せると閉ざされていたはずの街の門が内側から開かれていく。

 門が開かれ、彼女が街に入った時、多くの市民が彼女の帰還を出迎えていたのだった。


「ふっふっふ。あらかじめ街の人達を懐柔していた甲斐があったってもんッスよ。

 とは言っても、説得するのもそんな難しいもんじゃなかったっスけどね」


 そう楽しそうに語ったのはミュレースで、それは彼女と出会った夜にシオンたちが考え出した「自分たちでもできること」を実践した成果であった。

 何もできなかった無力感に蓋をし、フィアたちがいつ帰ってきても良い様に彼女たちに掛けられた嫌疑が濡れ衣であると人々を地道に説得していった。或いはそれとなく真実を噂として流したりと草の根的な活動をして回った。

 流石におおっぴらにはできないため街を回る兵士たちの目を盗んでの活動であり、その苦労は大変なものであった。説得が通じず時には罵声を浴びせられたり、兵士に見つかって追いかけられたりもしたが、その努力はこの時、結実した。

 そもそも現王に対する良くない噂もあり、またミュレースの巧みな話術やシオンたちの必死な姿に心打たれたというところもある。だが何よりも、スフォンに居た数年の間にフィア自身に助けられた人が大勢居た事が大きかった。

 真面目で誠実で、弱き者を助ける。そんなフィアの人となりは街に住む人々の間には十分に知れ渡っていて、だからこそいつか王としてフィアが街に戻ってきた時に、今度は自分たちが彼女の助けとなりたいと誰しもが思っていた。


「スフィリアース様だっ!」

「おかえりなさい、フィアちゃんっ!!」

「俺たちはあんたを信じてたぞっ!」


 街に足を踏み入れ、驚きに呆然とする彼女に掛けられる多くの声。徴兵されたのだろうか、人々の多くが武器を手にとっているがそれらは天に向かって突き上げられているだけで決してフィアに向けられることはない。彼らの背後では武装した貴族らの姿があるが、自分たちに一切見向きをしない人々に戸惑うばかりだった。

 フィアは自分の名前の大合唱をただ立ち尽くして聞くだけであったが、その肩にイーシュの手が置かれた。


「へっへー。どうよ? 俺らも頑張ったんだぜ?」

「イーシュ、みんな……」

「おら、ボサッとしてねぇでさっさと歓声に応えてこいってんだ」


 トン、とギースに背を押され、フィアは少したたらを踏みながらも人々の前に進み出る。すると再びスフォンの市民の大歓声が彼女を包み込んだ。

 感情が、昂ぶる。身に余るほどの期待。脚が震えてしまいそうだ。だがそれ以上にフィアの心が震えた。

 一度空を仰ぎ、息を吸い込む。

 フィアは心のままに観衆に向かって叫んだ。


「ありがとうっ!! そして――みんな、ただいまっ!!」


 勢いよく拳を突き出す。

 その途端、空を割らんばかりに人々の声が、巨大な迷宮都市全体に響き渡ったのだった。





 スフォンの人々の支持を前に、貴族派の貴族たちは為す術は無かった。

 フィアたちが居なければ強引に収めることもできただろうが、支持を受けた国王を前にして強引な手段に出るわけにもいかず、また武力でもフィアたちの大軍には及ばない。これも彼らが人々の支持を得るための行動をこれまで行わなかったが故の、当然の帰結であった。

 歓喜に湧く市民、そして彼らに囲まれたフィアを貴族たちはただ睨むしかできなかった。


 こうして貴族派の一大拠点であるスフォンは、フィアの傘下に収まった。

 王都へ向かう行軍の士気はますます高く、最早彼女たちの前に立ち塞がる敵はいない。それは彼女の兄が待ち受けるはずの王都でも同じであった。

 さすがに王の座す街というべきか、フィアに対する熱狂はなく、しかし妨げもしない。如何なる者かと行軍の中に居る彼女を遠巻きに、物珍しげな視線を向けてくるだけであった。

 それら視線の中を抜け、王城へと入城してキーリたち仲間と貴族数名を引き連れて階段を登っていく。

 そしてたどり着いた玉座の間。華美な大扉が開かれていく。

 しかしそこにユーフィリニアの姿はなく、ただ一人、宰相だけが彼女の到着を待っていたのだった。


「……貴女が、新たな(あるじ)でしょうか?」

「――いかにも」


 痩せぎすの宰相から向けられた問いにフィアは短く応じた。それを受け宰相は膝を突き、彼女に向かって頭を垂れて隈のできた眼を床へと落とした。


「ようこそ、我が主。新たな王の誕生を歓迎致します」





――レディストリニア王国暦・七七五年。


 僭王・ユーフィリニアは姿を消し、スフィリアース・フォン・ドゥ・レディストリニアが新たな女王として立った。

 この日この時、止まっていた王国の時計の針が三年以上の時を経て再び動き始めたのだった。




 第三部・完




ここまでお読み頂きまして、ありがとうございました<(_ _)>

長くなった第三部もここでお終いです。

次の第四部はいよいよ最終部になる予定です。


……と言っても、まだまっさらな状態なので連載再開はしばらく後の話になるかと思いますが。


一度本作とは別の新連載を挟むつもりでして、そちらをしばらく書こうかと思っています。

そちらの連載の間に少しずつプロットを組み立てていって、また再開後は週一ペースでのんびり連載していこうと考えています。


 本作をご贔屓にしてくださっている方々には申し訳ありませんが、そういうことですのでのんびりお待ち頂ければ幸いです。

 

 それではまた別連載で。そして本作の再開時にまたお会いしましょう。

 ではでは(・ω・)ノシ


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