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13-3 北方からの声(その3)

第3部 第77話になります。

お付き合い、よろしくお願いします<(_ _)>


初稿:18/07/21


<<<登場人物紹介>>>


キーリ:転生後鬼人族に拾われるも村が滅ぼされた事で英雄への復讐を誓い冒険者となった。国王殺害の濡れ衣を着せられ逃亡生活中。

フィア:パーティのリーダーで王国の王女。国王殺害犯としてキーリ、レイスと共に逃亡生活真っ只中。

レイス:フィアに付き従うメイドさん。フィアと共に一緒に生活中。

カレン:弓が得意な猫人族で、キーリと同じく転生者。キーリとは異父兄妹になる。

ギース:スラム出身の斥候役。不機嫌な顔で舌打ちを連発する柄の悪さが売り。意外と仲間思い。

シオン:狼人族の魔法使い。頑張りやさんで、日々魔法の腕を磨く。実家の店がパーティの半拠点状態。

イーシュ:パーティのムードメーカー。勉強が苦手で三歩歩けばすぐ忘れる。攻撃より防御が得意。

ミュレース:レイスの後輩メイド。フィアを探して王国中を回っていた。

フェルミニアス:かつてのパーティメンバー。卒業後しばらくしてパーティを脱退していた。

イルムガルド:現王・ユーフィリニアの非嫡出子。王の命で国王の証を取りにやってきた。





 暗い森の中をただひたすらに前を見て走り続ける。枝や鋭い草が行く手を阻んでくるが、それらを全て弾き飛ばしてキーリは先頭を進んでいく。


「後どれくらいで到着する!?」

「このペースですと、一鐘(≒一時間)強かと思われます」


 リズの返答にフィアは下唇を強く噛んだ。

 リズから状況を伝えられ、王国軍が向かったという帝国との国境へ向けて彼女らが走り出してから既に一時間以上が経過していた。

 幸いにして王国軍が向かった国境は、国王の証があった迷宮からは比較的近い。通常ならば森を迂回し、山道を越えていかねばならないために徒歩で一、二日というところだ。だが今キーリ達は森を一直線に突っ切り、かつその行く手を阻む全てを打ち払いながら進むことで大幅にその旅程を短縮していた。

 それでも後一時間。普通の十分の一以下にまで短くなったが、まだまだ遠い。

 速く、速く。少しでも速く。いつまで経っても森の中の景色は変わらず、着実に前に進んでいるはずなのに本当に進んでいるかどうかも分からない。フィアは苛立ちに思わず拳を握りしめた。


「焦んな」


 そんな彼女の肩に手が置かれた。


「キーリ」

「焦ったってしょうがねぇ。それよりお前は、興奮してる輩連中をどうやって止めるか考えてろ。それなら走りながらでもできんだろ?」


 そう言われてフィアはやや冷静さを取り戻した。

 そうだ。ただ辿り着いてしまえばゴールではなく、これから戦争を始めようかという彼らを止めなければならないのだ。もしかすると、最悪、既に戦闘が始まっている可能性さえある。


(何ができる……?)


 まだ王国にとって「何者でもない」自分がどうやって止める? 将校を見つけ出して一人ひとりに証を示して命令を聞くように説得する? ダメだ、そんな事をしても到底間に合わない。

 脚は前へと絶えず動かしながらもフィアは考え込み始める。そんな彼女を見て、キーリは少しだけ安心した。

 だがすぐにキーリは表情を険しくして前方を睨みつけた。


「おい」

「ああ、わかってる」


 フィアよりも前に出てギースと並ぶと、同じく前を走っていたレイスともアイコンタクトを交わして散開。一気に加速した。


「邪魔すんじゃねぇ」


 背負った大剣の柄を握ったかと思った瞬間、キーリは跳躍した。深々と茂る枝葉の隙間を強引に突き破っていく。彼の視線の先には通常よりも巨大化したモンスター――ホワイトウルフの姿があった。

 濃い魔素で成長したのであろうが、これほどの個体であればCランク或いはBにも届くかもしれない。


「――らぁっ!!」


 しかし落下しながら振り下ろされたキーリの剣は、易々とその巨体を斬り割いた。長い刀身で、かつ闇神魔法によりコーティングされたその剣は大剣に似合わない程に鋭い。胴体を真っ二つにされたホワイトウルフは真っ赤な血を辺りに撒き散らしたかと思うと、陽を遮って薄暗い森を鮮やかな魔素の粒子で彩っていった。

 剣を背負い直し、再び加速。彼らを獲物とみなしたモンスターを、キーリと同じ様に退けたギース達と合流する。


「そっちも無事に終わったか」

「キーリ様こそご無事でなによりです」


 レイスの労いにキーリは小さく口端を吊り上げて応じ、しかしすぐに鋭い視線を彼女の奥の森へと向ける。


「……お気づきですか?」

「まあな。

 さっきからずっと付いてきてる連中がいるな」


 眼を凝らしても、耳を澄ませても正体は分からない。だが確かにキーリたち一行を取り囲むようにして並走を続ける何者かたちは居る。それらは少しずつ、本当に少しずつ距離を詰めてきていた。

 そして彼らの正体が、キーリだけは何となく分かっていた。視覚とは違う、闇神魔法を使いこなすキーリだからこそ分かる感覚。眼を閉じればよりはっきり見える。幾つもの眩い光の存在がそこには居る。

 それはつまり、光神魔法の使い手。しかもこれだけの数を揃えられる存在など、キーリが知る限りは一つしかない。


「……」


 キーリは後ろを振り向いた。フィアやイーシュ、シオンはまだ気づいていないようで、しかしミュレースとリズの二人は何かの存在は察しているようだ。カレンも、ぼんやりとだが感づいているみたいで、首を傾げながらチラチラとキーリの方を窺っていた。

 キーリはレイスとギースの二人を見つめた。


「ご随意に。キーリ様を信用致します。ただしお嬢様の御尊顔に傷の一つでも残した場合は――その先はお分かりかと」

「ちっ、好きにしろよ。時間稼ぎくらいは引き受けてやる」


 どうやら二人もキーリと考えは同じ。要件を述べる前に二人から返答がくる。

 キーリは速度を調整してフィアに並んだ。


「どうした?」

「気づいてっか? どうやらお前の熱狂的なファンが居るらしいぜ?」


 遠回しな言い方にフィアは一瞬首を傾げるが、その意味を理解した途端フィアは弾かれたように周囲を見渡した。


「確かに……すまない、考えに没頭して注意が疎かになっていた。

 それで、私のところに来たということは何か考えがあるということか?」

「まあな」


 だがキーリはそれ以上は口にせず、更に速度を落として最後尾を走るシオンに並走する。


「はぁ、はぁ……キーリさん?」


 メンバーの中で最も体力的に劣るシオンはきつそうに息を切らしながらキーリを見上げた。迷宮内でも常に全体の動きに気を配り、戦闘後も敵味方問わず魔法をかけ続けていた。そこからほぼ休み無くこうして走り続けており、並の冒険者であれば既に倒れていてもおかしくないくらいに疲弊しているはずだ。

 そんなシオンに更に負担を掛けるのは心苦しい。だが、最も頼れるのもシオンだとキーリは信じて疑わない。萎れた尻尾を振りながら必死に走る小柄な彼を、キーリはせめて、とばかりに抱え上げた。


「え!? ちょっと、キーリさん、だ、大丈夫です、まだ走れ――」

「頼みてぇことがある」


 そんなに辛そうだっただろうか、と勘違いしたシオンが小脇に抱えられたままワタワタと弁解しようとするもキーリの少し硬い声にマジマジと見つめた。


「また、でスマネェんだけどな。ちょっちこの場を頼むわ」

「……何かあったんですか?」

「ヤベェお友達が新しい王様とお近づきになりてぇんだと。本来なら脚を止めて丁重におもてなしするのが妥当なんだろうが、あいにくそんな余裕はねぇからな」

「ははーん、そゆことッスか。ま、しゃーないッスね」


 そこに訳知り顔のミュレース、少ししかめっ面のカレンに事情を何も分かってなさそうなイーシュが近寄ってくる。


「……やっぱり、何か居るんだね?」

「へ? なになに? 何かやんの?」

「おう。ついでだからお前も光神魔法の勉強だと思って頑張れよ」


 いたずらっぽくキーリは笑い、わざとイーシュに伝わらないような言い方をすると、イーシュを除いて楽しそうだったり苦笑いだったりとそれぞれの表情を浮かべる。だがそれで、シオンやカレンの緊張も取れたようだった。


「んじゃワリィけど宜しくな。多分手強いだろうけど、気ぃつけてな」

「キーリさんたちの方こそ」

「良い結果を期待してるッスよ」


 ミュレースの発破に親指を立てて応じ、キーリはシオンを降ろして再びフィア、そしてリズの間に並んだ。


「何を話してたんだ?」

「ちょっち作戦会議だよ。

 んで、連中に動きは?」

「まだありません」


 端的なリズの返答にキーリは「さよか」と短く応じ、両端の二人の様子を窺う。キーリのその不審な動きに、フィアは眉を潜めた。


「先に謝っとくぜ」

「ちょっと待て、キーリ。お前何を――」


 フィアが言い終わる前に、キーリはフィアとリズの手を引いて脚を止めた。戸惑うフィアを他所に、他のメンバーも立ち止まると追いかけてきていた気配たちも彼らに合わせて走るのを止めた。

 そして。


「――じゃあな」


 木々の奥に居るであろう何者かに向かってキーリは笑った。

 それと同時にキーリたちと何者かの間を隔てる壁が突き上がった。それは真っ黒な濃密な影でできていて、完全に内と外を分離。ずっとフィアたちを追ってきていた彼らは壁を前にして立ち尽くし、どこまでも高く伸びるそれに慄いた。

 それでも彼らはすぐに気を取り直し、光神魔法を唱えていく。だが彼らが展開した魔法を放つよりも前に彼らの足元から黒いトゲが飛び出した。それらを間一髪かわすも、突然の攻撃に彼らは茂みから姿を表した。

 そして彼らがフードに覆われた顔をあげると目の前にあった黒い壁がフッと、まるで蜃気楼であったかのように消え去った。


「――」


 押し殺したくぐもった声が微かに響く。木々の隙間から完全に姿を現した彼らは、白を基調とした旅装を振り乱しながらキーリたちの行方を探した。

 直後に彼らの背後に現れる気配。白装束たちは弾かれたように振り返った。

 十分に距離をとったところにキーリたちは現れた。だがその両脇に抱えられたフィアとリズの顔色は一様に悪くグッタリとしていた。

 キーリとしてはもう少し離れたところで影から出て行きたかったが、二人にとって影の中は毒でしか無い。特にフィアにはこの後に大仕事が控えているのだ。無理をさせる訳にはいかなかった。

 スマン、と小声で謝罪すると二人を抱えたままキーリは走り出し、二人の重量を感じさせない疾さで森の奥へと消えていく。

 フィアたちを探していた白装束たちも遠ざかるキーリに気づき、即座に追いかけようとそちらに体を向けた。だが直後に飛来したナイフや矢が彼らを足止めした。


「ランデブーを邪魔する奴は嫌われるッスよ」

「貴方たちの相手は私たちだからね? 勘違いしないで」


 ナイフを器用にクルクルと回すミュレースと、視認できる程に高密度に圧縮された風の矢を番えたカレンの二人が追手たちの前に立ち塞がる。

 それを見た追手たちは彼女たちから踵を返した。


「おっと、こっちは通行止めってな」

「テメェらとしばらく遊んでろっていうのがウチの影の大将からの命令でな」

「お嬢様の邪魔はさせません」


 だが彼らが逃げようとした方向もギースたちが立ちはだかる。フィアをずっと追いかけていた彼らは、今や完全に挟まれていた。


「……!」


 状況は不利。すかさず彼らは懐から取り出した煙玉を地面に叩きつけた。

 一瞬で辺りは白い煙に包まれ、彼らの姿を覆い隠す。しかしそれも、彼らが動き出す前に突風によって吹き飛ばされてしまった。


「見たところ教会の方々なのでしょうけれど、フィアさんたちの邪魔はさせません」


 シオンは魔素をまとわせた右腕を突き出したまま警告した。すでに次弾は準備されており、いつでも撃てる――もっとも、何処に飛ぶかは分からないが――状態だ。

 できれば降伏してほしいと思いつつも、その選択は取らないだろうとシオンは思った。果たして、教会の密命を帯びているらしい白装束の連中は予想通り交戦の構えを取る。

 教会の兵士だ。きっと強いのだろうと思う。ましてこっちは迷宮から出てきたばかりで疲労は溜まっているし、シオン自身も魔力の残りは乏しい。

 でも、負けるわけにはいかない。そして負ける気もしない。


「――いつまでも、足手まといじゃないんです」


 そう言い聞かせ、シオンは仲間の邪魔をしようとする敵を強く睨みつけたのだった。






お読み頂きましてありがとうございました<(_ _)>

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