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11-4 闇は光に包まれ消える(その4)

第3部 第60話になります。

お付き合い、よろしくお願いします<(_ _)>


初稿:18/04/24


<<<登場人物紹介>>>


キーリ:転生後鬼人族に拾われるも村が滅ぼされた事で英雄への復讐を誓い冒険者となった。国王殺害の濡れ衣を着せられ逃亡生活中。

フィア:パーティのリーダーで王国の王女。国王殺害犯としてキーリ、レイスと共に逃亡生活真っ只中。

レイス:フィアに付き従うメイドさん。フィアと共に一緒に生活中。

カレン:弓が得意な猫人族で、キーリと同じく転生者。キーリとは異父兄妹になる。

ギース:スラム出身の斥候役。不機嫌な顔で舌打ちを連発する柄の悪さが売り。意外と仲間思い。

シオン:狼人族の魔法使い。頑張りやさんで、日々魔法の腕を磨く。実家の店がパーティの半拠点状態。

イーシュ:パーティのムードメーカー。勉強が苦手で三歩歩けばすぐ忘れる。攻撃より防御が得意。

ミュレース:レイスの後輩メイド。フィアを探して王国中を回っていた。




「うわあぁぁぁぁぁぁぁっっ!?」

「悲鳴っ!?」


 その時、緩やかなカーブを描いた前方から男性の悲鳴が反響した。次いで剣がぶつかり合う音。遅れて炎神魔法らしい火球が迷宮の壁に命中して辺りを赤く染めた。


「来るなァァァっっ!! 来ないでくれぇっっ!!」


 声の様子からして状況は逼迫している模様。フィアは一歩踏み出しかけ、しかしその直後に紫電をまとった光線が飛来し、フィアたちの前方の天井へぶつかる。

 響く爆発音。天井の一部が崩落し、轟音とともに砂埃が舞い上がる。戦闘の流れ弾か。落下した瓦礫が埃を舞い上げて途端に視界は不明瞭になり、だが前方からは変わらず剣戟の音が続いていた。


「……っ!」

「ちょ、王女様っ!?」


 一瞬の迷いの後、フィアが飛び出した。ミュレースが声を掛けるもフィアは止まらない。力強く加速し、前方へ走る。

 カーブを曲がり、戦闘現場が視界に入ろうかという距離に差し掛かる。

 次の瞬間、光の球がフィアへと迫った。だが彼女は落ち着いてその軌道を見切り、半歩分だけ体をずらしてそれをやり過ごそうとした。

 しかしすれ違う直前、その光球が眼の前で弾けた。


「くぅ……っ!」


 迸る閃光。辺り一面の色を全て白に塗り潰し、その強さにフィアの視界も一瞬で奪われた。

 視界と共に思考も奪われ、フィアは反射的に立ち止まる。最後に踏み出した脚がパシャリ、と水たまりを踏み抜き音を立てた。

 それを合図としたかのように何かがフィアの脚に絡まった。ロープのような輪っかが彼女の足首を強く締め付ける。女性として一般的な体重しか無いフィアの体は瞬く間に吊るし上げられ、視界が一瞬でグルリと回る。


「お嬢様っ!!」

「このっ……!」


 自身に何が起こったかフィアは分からなかった。だが逆さまになったレイスが埃で遮られたカーテンの向こう側で叫んでいる姿を認めるとすぐに我に返り、腰から剣を引き抜いて自身を吊るす縄を切断しようとした。


「上だっ!!」


 閃光に瞳を焼かれたギースが片目のまま叫ぶ。ハッとフィアが天井を見下ろせば、双剣を手にした男がフィアに迫ってきていた。


「――」

「くっ!」


 くすんだ金髪をなびかせ、顔には白い仮面。両腕がクロスしたその隙間から、仮面に描かれた口が不気味に嗤っていた。

 フィアはとっさに炎壁を目の前に展開させた。男との間に瞬時に紅いカーテンが築かれる。

 無詠唱であり、本能的な反応で展開したがために本来に比べれば威力は相当に劣る。それでも人間であれば重症は免れない威力はある。

 だが男はその壁を突き破って現れた。


「なっ!?」


 彼の胸元で羊皮紙が焼け落ち、魔素を撒き散らして光の屑へと化していく。剥き出しの腕には、防ぎきれなかった火傷の痕が赤くなっていて、くすんだ金色の髪の先端が焼け焦げている。それでも目の前の男はフィアの魔法を確かに貫いた。

 仮面の奥から黒い瞳が覗いた。眼が合ったフィアはその昏さにゾッとし、また魔法を破られた動揺もあって一瞬だけ反応が遅れた。

 彼女が剣を振るよりも早く、男の剣がフィアを捉えた。

 ――かと思われた。


「……っ!」


 仮面の奥からくぐもった驚愕の声が微かに零れる。

 男の剣とフィアの間に潜り込んだ一つの影。銀と黒の斑模様の髪を揺らし、キーリがいつの間にかフィアの体を抱き抱えていた。

 キーリの背を剣が斬り裂く。背負った大剣のために半ばまでしか達しなかったが、それでも両肩から背に掛けて男の双剣はキーリの肉を貫いた。

 マントが裂ける。だがその下から流れ出たのは紅い血などではなく、ドロリとした真っ黒な泥のような何かであった。


「やってくれるじゃねぇか――」


 キーリの通常より低い声が響く。怒気を多分に含んだ視線が男を捕え、体を完全に硬直させた。男の全身はそれだけでがんじがらめにされたように動けなくなり、それでも仮面の男はとっさに手首だけを動かし双剣を自らの脚に突き刺したのだった。


「……っ!」


 あまりの痛みに、押し殺した悲鳴を男は上げた。だがお陰で体はすぐに自由を取り戻し、足元から伸びた黒い影の剣が前髪を削ぐだけで済んだのだった。

 その隙にキーリはフィアを吊るしていた縄を断ち切る。真っ逆さまだったフィアは巧みに体を入れ替えて着地。目配せでキーリに感謝を述べると、柳眉を逆立て彼女は仮面の男へ向かって駆けた。


「――シッ!!」


 短い呼吸音と共にフィアの鋭い一撃が振り抜かれた。

 男は双剣を重ねて彼女の攻撃を受け止めようと試みる。しかしフィアの一撃は重く、鋭い。耐えきれず剣は手から離れ、男の体は弾き飛ばされた。

 カラカラと地面を擦りながら音を立てる男の双剣。地面を一回転しながらも男はすぐに体勢を立て直した。それでも無手である。フィアはこの好機を逃すまいと距離を詰めていく。

 だが、彼の手にはいつの間にかまた別の双剣が握られていた。


「いつの間にっ……!? だが――」


 フィアは驚くも止まらない。何度でも弾き飛ばしてやる、と足を止めて脇構えで男の攻撃を待ち受ける。

 だが男がフィアに飛びかかることはなかった。剣を構えたものの、彼女が真正面から受けるつもりでいるのを理解すると、即座に背を向けて逃走を始めた。


「逃がすかっ!」


 すかさずフィアが追いかける構えを見せる。引いた右足に溜めた力を一気に解放し、瞬間的に開いた男との距離を瞬く間に詰める。

 彼我の距離がほぼゼロになる。今度こそ、捕える。フィアは剣を握る腕に力を込めた。

 だが、それを待ち受けていたかのように男は再びフィアに向き直った。

 剣を持った両手を振り上げ、何処に隠し持っていたか、腕から何かが落ちていく。

 落ちていくのは何かを丸めたような白い玉。男は脚を後ろへ振り上げ、ちょうど良い高さに来たそれをフィア目掛けて蹴飛ばした。

 割れながらそれは数瞬だけフィアの方へ向かっていく。だがすぐにそれは粉となって散らばっていき、彼女の視界を奪い去った。


「くそっ、先程から――」


 粉が眼に入り、涙目になりながら苛立ったようにフィアは声を荒げ、とっさに伏せた顔を上げて何とか片目だけでも開ける。直後、彼女は息を飲んだ。

 煙幕を切り裂いて現れたのは男の仮面。煙をたなびかせて跳躍し、再び頭上からフィアへと襲いかかった。


「させないっ!」


 だが彼の双剣が振り下ろされるよりも早く、カレンの放った風神魔法が煙幕を吹き飛ばした。風は男目掛けて吹き付け、仮面の隙間から入り込んで男の視界を今度は奪った。

 そして彼女の後方から高速でナイフが飛来する。それは彼女の脇をすり抜けると男の仮面を打ち据え、仮面と共に男の体を弾き飛ばした。

 男の体が地面を後ろに倒れる。フィアは追撃のために追いかけようとするが、それよりも早く別の男が二人の間に割って入り彼女を牽制した。


「くっ……」


 目まぐるしい攻防が一度止まり、彼女の周りにレイスたち仲間が集まってくる。

 そして、吹き飛ばした敵の周りにも。

 何処から現れたのか、どうやらフィアとキーリが仮面の男と戦闘している間にも、仲間たちもまたそれぞれ他の敵と攻防を繰り広げていたようだ。仲間たちの様子をキーリが見遣れば、ギースやイーシュなども皆、武器を銘々に構えて敵と対峙していた。


「ちっ……ぞろぞろと出てきやがって」

「数も多い、か……」

「気をつけてください。この人たち――強いです」


 シオンは杖を敵に突き出すように構えつつギースたちに注意を促した。

 キーリたちが仮面の男と攻防を繰り広げていた間も、シオンは一歩距離を取った状態で他の敵との戦闘指揮をしていて分かったのは、彼らは非常に手強い相手だということ。純粋な戦闘能力もそうだが、それ以上に勝つ事に貪欲だ。

 シオンたちを取り囲む敵の数は十二。彼らが、ミュレースたちが見かけた騎士たちの一団だとすると、どうやら敵のうちの半数程度が騎士を生業としているようだ。身元がバレないようにするためか、全員が冒険者然とした装備をしていて、その立ち振る舞いも一見冒険者そのものだ。

 ただしその振る舞いも完全では無いし、シオンの嗅覚が回復した今なら確信を持って言える。臭いが明らかに冒険者とは違って、言うなればまさに「良い生活」をしている臭いがするのだ。

 騎士が半数に冒険者が半数。だがその騎士たちも決して「綺麗な」戦い方を先程の攻防で選択をしなかった。


「……騎士になるだけの実力があるのに騎士らしくない――こりゃ厄介な相手ッスね」


 ミュレースは軽く笑いながらそう言うが、彼女のこめかみを冷や汗が流れ落ちた。

 騎士というのは、得てして戦い方に拘るものだ。少なくとも彼女が知る限りでは。許されるならば一対一の戦いを好み、負けるにしても正々堂々と戦って散る事を良しとする文化だ。

 しかし先程から仕掛けられていたのは、臭い袋で獣人族二人の嗅覚を潰し、渾身の演技でフィアを引き寄せて罠に掛け、目くらましで動きを止める。もしかすると実際にそういった動きをしたのは冒険者側の連中かもしれないが、少なくとも騎士たちの様子を見る限りではそうした行動を咎める雰囲気は感じられなかった。


「卑怯な手ばっか使いやがってっ!」

「いやいや、それが悪いたぁ言わねぇさ」


 生来の性根として真っ直ぐなイーシュが剣を向けて吠えるが、キーリは彼の肩を叩いてなだめながら一歩前に出た。


「キーリ」

「試合ならともかく、ガチの奪い合いなら勝たなきゃ意味がねぇ。戦い方に拘って目的を果たせねぇなら、何のために戦ってんのか分かんねぇもんな。だから否定はしねぇよ。ただ、まあ――」キーリは口端を吊り上げた。「度が過ぎるのは嫌いだけどな」


 足元から飛び出した影が地を這う。不定形なそれは取り囲む男たちの足元を抜けて壁を這い上がり、壁へと突き刺さった。どうやらそこは窪みとなっていたようで、崩れた足場の上から男が一人落下してきて気を失う。その手にはボウガンが握られており、先端が何かの液体で滑っていた。


「まだ一人隠れていたのか……!」

「毒のおまけまで付いてな」


 軽く息を吐いてキーリは落下した男から興味を失った。そして、先程キーリが投げたナイフで吹き飛ばされた仮面の男に向けて鋭く視線を飛ばした。


「今度は死んだふりか? 迫真の演技をしてくれてるとこ悪ぃけど、バレバレだぜ?」


 キーリが鼻で笑って指摘すると、それまで微動だにしなかった仮面の男の指先がピクリと動いた。割れた仮面が顔から滑り落ち、くすんだ金色の髪が目元までかぶさる。その上から自分の顔を隠すように手で覆いながら男は立ち上がった。

 暗闇の中に溶け込みそうな雰囲気を纏った彼を、キーリは嗤いながらも痛ましそうな眼で見つめた。


「一緒にバカやってた時もあったが、戦い方は真面目だったよな。それがまあずいぶんと変わっちまったもんだ」

「……」

「さっきも言ったが悪いとは言わねぇよ。戦い方はひとそれぞれだからな。でも本音を言えば……俺はお前には自分を貫き通して欲しかったと思うよ。

 なあ――フェルミニアス」


 え、と誰かが声を漏らした。フィアやシオンたちの視線が一斉に起き上がった男に注がれる。

 一瞬、空白。染み出した地下水が天井から雫となって落ち、水たまりで跳ねた。


「どうしたよ? せっかくの再会だ。皆にも顔見せてやれよ?」

「……俺は、できればこんなとこでお前らに会いたくなかったよ」


 そう言ってフェルミニアスはゆっくりと手を下ろして、かつての仲間達にその相貌を晒した。そしてその眼差しは、既に仲間を見るものとはかけ離れていることにカレンは気づいて息を飲んだのだった。






お読み頂きましてありがとうございました<(_ _)>



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