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11-3 闇は光に包まれ消える(その3)

第3部 第59話になります。

お付き合い、よろしくお願いします<(_ _)>


初稿:18/04/21


<<<登場人物紹介>>>


キーリ:転生後鬼人族に拾われるも村が滅ぼされた事で英雄への復讐を誓い冒険者となった。国王殺害の濡れ衣を着せられ逃亡生活中。

フィア:パーティのリーダーで王国の王女。国王殺害犯としてキーリ、レイスと共に逃亡生活真っ只中。

レイス:フィアに付き従うメイドさん。フィアと共に一緒に生活中。

カレン:弓が得意な猫人族で、キーリと同じく転生者。キーリとは異父兄妹になる。

ギース:スラム出身の斥候役。不機嫌な顔で舌打ちを連発する柄の悪さが売り。意外と仲間思い。

シオン:狼人族の魔法使い。頑張りやさんで、日々魔法の腕を磨く。実家の店がパーティの半拠点状態。

イーシュ:パーティのムードメーカー。勉強が苦手で三歩歩けばすぐ忘れる。攻撃より防御が得意。

ミュレース:レイスの後輩メイド。フィアを探して王国中を回っていた。






「……ユキ?」


 国王の証を手に入れるために迷宮に潜り始めて二日目。

 午前中の踏破を終えて休憩していたキーリはだったが、不意にユキとの繋がりが途切れた感覚に顔を上げた。


「……ユキ」


 もう一度キーリは彼女に呼びかける。だが彼女からの反応は無ければ、途切れた繋がりが復活する様子もない。

 迷宮の壁にもたれかかったまま繰り返し呼び続けるも応答はなく、初めてのことに不安感がキーリの中で増していく。

 その時、彼に向かって近づいてくる足音に気づき、顔を上げた。


「キーリ」

「あ? ああ、なんだ、フィアか。どうした……ってお前も感じ取ったか」

「そうだ。この感覚が何か、言葉にするのは難しいのだが……何か妙な感じがしてな。

 私を見るなりそう言うということは……お前もか」

「まあ、な」

「原因は分かるか?」


 尋ねられてキーリは頭を掻いて言葉を探し、しかし上手い言葉が見つからずしかたなく事実だけを端的に答えた。


「……ユキとの繋がりが切れた」

「何だと?」


 今こうしてキーリが生きているのは、端的に言えばユキの力によるところが大きい。英雄によって肉体は半ば以上死に瀕していたが、神である彼女の膨大な魔力を媒介に霧医・文斗、ユーミルの肉体を再構成して生まれたのが今のキーリである。そのために現在のキーリはユキとの繋がりが非常に強い。

 受肉したユキは身体を構成する要素――例えば体液を多少なりとも交換することで、一方的に他者の情報を自らのものとすることが可能だ。また逆に彼女の方からも交換した誰かに対して働きかけることもできる。

 彼女のその特性は、ユキに比べれば遥かに弱いながらもキーリにも受け継がれている。それ故にフィアもまたユキとキーリ双方と弱い繋がりを持っていて、故に今回の切断についてもぼんやりながらも感じ取ることができていた。

 ユキの正体まではフィアは知らない。だがそういった事実だけはフィアもまた知らされていて、それでも特にユキの方から干渉があるわけでもなくユキと繋がりがあると言われても感覚的に理解できていなかった。だからキーリから感じた違和の要因を説明されて、これが繋がりが絶たれるということか、と初めて合点した。

 そしてキーリの顔色から察するに、それが常に無いことだということにも気づいた。


「こういった事はこれまでもあったのか?」

「……全く無かったか、と言われれば嘘になるけどな。こっちからはともかく、アイツからは自由に遮断できるからな。でもこんな風に突然途切れるなんて事は初めてだ」

「外部から何らかの干渉があったという事か? それか迷宮に何か異変があったとか……」

「可能性はゼロじゃねぇだろうが……迷宮がちょっちくれぇおかしくなったからってぷっつりとアイツの存在が感じられなくなるなんてことは考えられねぇな」

「ということはユキの身に?」


 考えられる事象を口にしたフィアに対し、キーリは苦虫を噛み潰したような顔で応えた。

 ユキ自身に何かしらの異変が起きた。そう考えるのが恐らくは妥当なのだろう。しかし誰よりもユキの事を知るキーリにはそれがあまりにも馬鹿げた考えに思えてならなかった。


「どうする? 引き返すか? 私は引き返す訳にはいかないが、お前だけでも戻っても構わないぞ」

「……いや、構わねぇよ」


 ユキを探しに入口へ戻ることをフィアは提案するも、キーリは首を横に振った。そして心配そうにキーリを見下ろす彼女に向かって、口角を吊り上げてみせる。


「どうせユキの事だからな。想像してみろよ? アイツをどうこうできる人間が居ると思うか?」

「……確かに」キーリに合わせる形でフィアも笑ってみせる。「正直、全く想像がつかんな」

「だろ? 何かあったかなんて心配するだけムダムダ。どうせ行きずりの男でも真っ昼間から引っ掛けたか、面白そうだなんだと相手の罠にでも自分から飛び込んでいったんだろうよ」


 胸騒ぎは強くなるばかり。だがキーリは奥歯を噛み締めてその感情を押し殺し、立ち上がってフィアの頭をポンポンと撫で、大きく背伸びをした。


「アイツの事より今は目の前に集中だ。

 シオン、魔法陣の方はどうよ?」

「あ、はい。とりあえず三枚程は追加で描きましたから、多少ストックはできたと思います。でも……」


 シオンはキーリの問いかけに応じながらも最後は口ごもった。申し訳なさそうに耳を萎れさせて隣を見下ろす。


「……」


 そこにはうつ伏せでイーシュが倒れ、シクシクと涙を流していた。傍らには怪しげな印が付けられた小瓶。それを見てキーリは事情を察したのだった。


 アンデッド系が殆どであるこの迷宮のモンスターに対して光神魔法が有効だ。だが現在のパーティの中で光神魔法が十分に使えるのはイーシュだけである。

 フィアも素質はあるのだが光神魔法については使用したこともなく、またあまり覚えてもいない。加えて精霊を身に宿しているせいか、炎神と光神の両素養が入り混じったような状態になっているようで、純粋な光神魔法は使用できそうになかった。

 その結果、イーシュの重要度がうなぎのぼりになっていた。それはそれでイーシュにとっては非常に嬉しいことではあるが、どこまで迷宮が続いているのかが判然としない状況で常に彼一人に頼るのは危うい。

 そのために辿り着いた策が魔法陣の作成であった。


「あの……水飲みますか?」

「……頼む」


 魔法陣であれば、予め魔法を封じておくためトリガーとなる魔素さえ供給すればよく、したがって光神魔法が使えなくとも多少でも魔素のコントロールができれば誰でも使用が可能となる。

 欠点としては羊皮紙に封じておける魔法の種類が限られている事と、そのまま魔法を使う場合に比べて威力が落ちてしまう事、それにこれが最も困難なのだが正確な方程式(魔法陣)を紙に描く事が必要となる。

 だが幸いにして、キーリたちにはシオンという心強い味方が居るのだ。

 学校卒業後も暇さえあれば魔法や魔法陣の勉強を続けるシオンの知識は最早単なる魔法使いを通り越してマニアと化しており、当然光神魔法の魔法陣も全て頭の中に叩き込まれている。

 なので昨日から寝る前と休憩の時間にシオンがせっせと魔法陣を描き、イーシュがそこに光神魔法を込めていくという作業が行われているのだが、イーシュ自身の魔力量が特別多いわけではない。なので必然的に魔力回復薬でドーピングしながら作業が行われるのだが――


「……結局、クルエはクルエだったか」

「味は最後まで改善されませんでしたね……」


 シオンとキーリは揃ってため息を吐いた。

 クルエ謹製の魔法薬。彼の作る物は全て効果はてきめんだ。反面、最大にして唯一の欠点は使用者の味覚を破壊してしまうということか。


「……なんでお前ら平気でこんなん飲めるんだよ」

「別に平気ではないんだが……」

「慣れだ慣れ。そのうちイーシュも我慢できるようになる……不幸なことだけどな」

「んー、でも何回も食べてると意外と癖になるよ?」


 約一名、ポリポリと薬を噛じる味音痴のネコ娘が居たが全員その意見を黙殺したのだった。


「おら、とっとと起きやがれ。そろそろ出発するぞ」

「あひんっ!?」


 屍と化したイーシュをギースが蹴り起こす。それを合図にして全員が立ち上がり、各々の準備をしていく。


「では行こうか。みんな、油断の無いよう十分注意してくれ」

「気を抜く趣味はないッスけど、了解ッス。ここまで来て撤退とかゴメンッスからね」


 簡易的に作り上げた休憩スペースから魔法陣を剥がし、レイスとミュレースを先頭にして攻略を再開する。

 慎重に、かつ最大の進行速度で深くまで潜っていく。途中何度もアンデッド系のモンスターと遭遇するも、光神魔法で空間を浄化さえしてしまえばモンスターたちの再生能力も奪われ、動きも鈍くなる。そうなれば彼らが苦戦する相手ではない。

 数の暴力に押されることもあったが、それでも丁寧に相手をして倒していく。

 そうして進んだのはどれくらいか。体感で数時間程が経過した頃、キーリたちの眼に入る景色に変化が現れた。


「お待ち下さい」


 先頭を進んでいたレイスが後続を制し、それを受けてキーリたちも脚も止める。

 何かが居る。それを感じたレイスはジッと暗闇の中で眼を凝らし、慎重な足取りで気配を消しつつそれの正体を確かめようと先行する。そして程なくその脚が止まった。


「これは……!

 シオン様っ!」


 レイスの珍しくやや切迫した声に、シオンとキーリが駆け寄っていく。

 城壁のような回廊を曲がり、レイスの姿が見えてくる。そこでシオンは息を飲んだ。

 散らばる骨や鎧。恐らくはスケルトンやアンデッドナイトなどの果ての姿だろう。それらから立ち昇る魔素が煌めいており、壁や天井に吸い込まれていく。

 そして、それらモンスターの残骸の中に倒れ伏す男性の姿がそこにあった。


「っ……!」


 一瞬立ち尽くし、しかしすぐに男性の元へ駆け寄りシオンは回復魔法を唱えた。手のひらから光が男性の全身に広がっていく。だがすぐにその光は消えさり霧散して男性の体に戻ることは無かった。

 それが示す理由は唯一つ。


「……ダメです、もう」

「そうでしたか……」


 シオンは首を横に振り、レイスは軽く目を閉じ祈りの仕草をする。やや遅れてフィアたちが追いつき、男性の遺体を見てカレンは痛ましく顔を歪めた。

 一頻り全員で男性の死を悼み、祈りを捧げる。迷宮内では余程余裕がない限り遺体は放置せざるを得ないのだが、キーリであれば闇神魔法で収納が可能だ。影の中にその遺体を収容し、後ほどギルドへ届ける方針を確認した上で気持ちを切り替える。


「……で、さっきの死体が俺らより先に入った野郎って事だな?」

「たぶんな。ここらに骨やらが散らばってるとこ見ると、まだついさっき戦闘があったってことだろうな」


 ギースが確認するように誰とはなしに話しかけ、キーリが頷きながら応じる。そこにレイスが補足を加えた。


「男性の鎧含め、全身に切り傷がありました。一人でここまで来たとも思えませんし、推察するに、モンスターとの戦闘で倒れて動けなくなって已む無くここに安置していったかと」

「つまり――」


 フィアは視線をモンスターの残骸からその先へ移す。ここまでほぼ一本道で、淡く光る迷宮の壁を眺める限りではこの先も分岐は無さそうだ。

 それが示す事は――


「……この先に居るってことッスね」

「ああ。それもこんなモンスターよりもよっぽど厄介な連中がな」


 モンスターの残骸が完全に魔素に戻りきっていないことから戦闘が行われたのは、本当につい最近だろう。もしかするとまだこの近くに、先行者たちが留まっている可能性がある。


「……行こう」


 薄暗い道の先を睨み、静かに告げてフィアが歩みを再開する。

 これまで以上に周囲を警戒し、慎重に前進する。キーリの影によって全員の存在を極限まで薄くし、耳を澄ませた。

 そうして三十分ほど進んだ頃か。シオンとカレンが急に顔をしかめて鼻を押さえ始めた。


「う……なに、この臭い……」

「く、くさい……」

「どうしたんだ?」

「何かこの先から凄い臭いがするんです……」


 涙目になりながらシオンが説明するとミュレースが鼻をひくひくとさせ、全員に向かって頷いた。


「確かに臭うッスね。まだ臭いの元からは結構距離あるみたいッスけど、獣人族のお二人にはきつそうッス、これは」

「……ここまでくれば俺にだっても分かるぜ」イーシュは同意しながらも首を傾げた。「でもなんだっけ、この臭い? 何か嗅いだことあんだけどな」

「モンスター避けの臭い袋かと思われます」

「しかも強烈なやつな。

 ……ちっ、だがここの敵はアンデッド系だぞ? 臭い袋なんざ『へ』の役にも立たねぇ代物だってのに何考えてんだ?」

「持ってきたものを落としちゃったのかな?」


 鼻を覆ってスンスンと鳴らすカレンの意見を聞きながらシオンはそうだろうか、と首をひねった。

 ここの迷宮の事前情報は確かに少なかった。だからあらゆる状況に対応するためにそういった物を準備しておくというのはあり得る話ではある。しかし臭い袋は衝撃を受ければすぐに効果を発揮してしまうため、通常は落としたりしても臭いが外に漏れないよう密封しておくものだ。


(僕らを、待ち伏せしてる?)


 先行している彼らの目的は言わずもがな、自分たちと同じだろう。

 もし彼らが追いかけている自分たちの存在に気づいていれば後続を叩こうとする可能性は高い。自分たちの集中を削ぐため、こうした手を打っているのだろうか。現にシオンとカレンは嗅覚を潰されているし、他のメンバーも強くなっている臭いに顔をしかめている。

 もちろん穿ち過ぎな考えであることも否めない。もしかすると、待ち伏せなどではなく警戒を促して進攻を遅らせようとしているだけかもしれない。

 だがいずれにせよ、そういった懸念は皆で共有しておくべきだろうか。臭いの強さに頭痛を覚え、涙目になりながらもシオンは皆に自分の考えを伝えようとした。

 だが。


「うわあぁぁぁぁぁぁぁっっ!?」

「悲鳴っ!?」


 その時、緩やかなカーブを描いた前方から男性の悲鳴が反響した。




お読み頂きましてありがとうございました<(_ _)>

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