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10-4 王家に連なる迷宮(その4)

第3部 第56話になります。

お付き合い、よろしくお願いします<(_ _)>


初稿:18/04/14


<<<登場人物紹介>>>


キーリ:転生後鬼人族に拾われるも村が滅ぼされた事で英雄への復讐を誓い冒険者となった。国王殺害の濡れ衣を着せられ逃亡生活中。

フィア:パーティのリーダーで王国の王女。国王殺害犯としてキーリ、レイスと共に逃亡生活真っ只中。

レイス:フィアに付き従うメイドさん。フィアと共に一緒に生活中。

カレン:弓が得意な猫人族で、キーリと同じく転生者。キーリとは異父兄妹になる。

ギース:スラム出身の斥候役。不機嫌な顔で舌打ちを連発する柄の悪さが売り。意外と仲間思い。

シオン:狼人族の魔法使い。頑張りやさんで、日々魔法の腕を磨く。実家の店がパーティの半拠点状態。

イーシュ:パーティのムードメーカー。勉強が苦手で三歩歩けばすぐ忘れる。攻撃より防御が得意。

ユキ:キーリと一緒にやってきた性に奔放な少女。迷宮核を自ら作り出したりと不思議な力を持つが正体は不明。

ミュレース:レイスの後輩メイド。フィアを探して王国中を回っていた。

フェルミニアス:かつてのパーティメンバー。一人スフォンの街を離れて活動をしていた。




「終わった……のか?」

「そのようですね」


 敵の姿が全て魔素へと還っていったのを確認し、フィアは大きく息を吐き出した。他のメンバーも緊張が解けて腰を下ろしたり汗を拭ったりと銘々に一息ついていく。イーシュもまた慣れない魔法を使い緊張したか、その場に大の字になって転がり「終わったー!」と歓声を上げた。


「イーシュ」


 そんなイーシュに、キーリが近寄り声を掛けた。無事戦闘を切り抜けて安堵感が広がっているが、キーリの表情は何処か強張っており顔色も悪い。


「お前、魔法を……?」

「へっへー、ビビったろ?」

「そうですよ、イーシュさん。いつの間に魔法を覚えたんですか?」

「ってかテメェ、そもそも魔法使えたのかよ」

「まーな」起き上がり、イーシュは鼻高々といったふうに胸を張った。「いつまでもキーリとフィアの二人に任せっきりってのも悔しくてな。お前らが帰って来た時にビビらせてやろうと思ってコッソリ練習してたんだよ」

「しかし、まさか光神魔法とはな。正直に驚いたよ。貴族であっても才能があるものは少ないというのに」

「つか、光神魔法が使えんならさっさと使えってんだよ」

「いやー、だって今まで使ったこと無かったしよ。こいつらに光神魔法が効くとかって考えもまーったく思い浮かばなくてさ。シオンが光神魔法がーって言ってんの聞いてようやく思い出したわ」


 頭を掻きながら悪びれず笑うイーシュ。それを聞いてギースやカレンは呆れシオンは苦笑いを浮かべるが、それもまたイーシュらしい、とフィアはクスと笑った。


「本番で使うのは初めてだったけどな。上手くいって良かったぜ。しっかしよ、実際の戦闘中に使うってスゲー難しいんだな。やっぱシオンとかフィアってスゲェってよーく分かった」


 イーシュの顔には疲労がにじんでいるが、それ以上に満足感と充足感が広がっている。シオンにとってこれまでもイーシュは頼れる仲間ではあったが、光神魔法が重要となりそうなこの迷宮でより一層頼もしさが増したと思う。戦術としても幅が広がるのは確かで、カレンやフィアを見てもシオンと同じ様に思っているのが見て取れる。

 そんな中、キーリだけは表情が晴れない。


「……何処で光神魔法を習ったんだ?」


 硬い声で問うたキーリだったが、イーシュはその様子に気づかず「あー……」と言葉を詰まらせた。


「ウチってスフォンで道場やってんじゃん? 実は昔からウチに住み込みで働いてる人が居てさ、その人にちょっと相談してみたんだよ。その……もっと強くなりてぇってな」


 心情を吐露するのが恥ずかしいようで、イーシュはキーリから眼を逸して頬を掻いた。


「別に恥ずかしがる事はないだろう。冒険者なら当たり前の感情だ」

「仕方ねぇじゃん。俺は恥ずかしいの!」フィアに向かってイーシュは舌を出した。「で、だ。相談してみたら魔法はどうだって言うからよ。調べてみたら才能があるって言うし、馬鹿だから無理だっつったらやる前から諦めんなって怒られてな」

「はっはーん、わかったッス。その顔は……女ッスね?」


 ミュレースのいたずらな目線にイーシュは顔を赤らめた。その反応はまさにミュレースの指摘が的確であることを表していて、「へ?」とカレンは口を開けた。


「うそ? ホントに?」

「まあ、な」


 イーシュは顔を赤くしたまま明後日の方を向いた。

 これまで幾度となく女性と関係を築いてはフラレてを繰り返してきたが、今のイーシュの様子はそのいずれとも違う。それだけに、今回の恋が本当に本気だということがカレンにはなんとなく分かった。

 それが嬉しい半面、ちょっと寂しいと思った。


「そ、そっち方面の話はいいんだよ!

 ……ともかくさ、そう怒られて、自分でも気づかねぇ内に自分の持ってる力の幅を狭めてたんじゃねぇかなって気づいたんだ」


 説明しながらイーシュは仲間たちの顔を見回した。そして握った自身の拳に向け、悔しさと誇りの入り混じった眼差しを向けた。


「ここまで一緒にやってきてさ、力じゃキーリに、剣じゃフィアには到底敵わねぇ。ギースやレイスみたいにすばしっこく動けるわけじゃねぇ。シオンみたいに頭も良くねぇし、カレンみたいに遠くから攻撃できるわけねぇ。

 でも光神魔法なら……まだ誰も手を出してねぇところなら今から始めた俺でも張り合えるかもって思ったんだ」


 イーシュは視線を上げてキーリとフィアを見る。ニヤリと嬉しそうに、褒められた子供のような笑みを浮かべた。


「で、その結果が今見せた通りだ。これでもうお前ら二人に任せっきりってわけにゃいかねーぜ? この迷宮では目一杯俺を頼ってもらうからな、期待してくれよ」

「ああ、もちろんだとも。これまで以上に期待させてもらうさ」

「だとしても、もちょっと練習しないとねー? そばで聞いてたけど、さっきのはたどたどし過ぎるよ」

「う……まあ、そこはさ? 慣れるまではみんな宜しくってことで」


 カレンにツッコまれてイーシュは頭を掻いた。締まらない終わりだが、それもまたイーシュらしい、とみんな呆れたり苦笑いを浮かべる。


「キーリ? さっきから様子がおかしいがどうしたんだ?」


 そうした中でも依然、キーリは眉間に皺を寄せ一人険しい顔をしたままだった。

 フィアに肩を叩かれてキーリはハッとした。意識を周囲に向ければ心配そうにするフィア、そして他の仲間たちの視線。それらに気づいて頭を軽く振った。


「いや……スマン、俺もちょっと光神魔法に中てられたみたいだ」

「あ、そうか……僕らには影響ないですけど、キーリさんの魔法属性を考えると確かに相性は悪いかもしれませんね」

「え? どゆこと?」

「もう、鈍いんだから」


 カレンに耳打ちされ、イーシュもキーリの言葉の意味にやっと気づく。


「あ、あー……そっか、そりゃそうかもな。

 ……使うの、控えた方がいいか?」

「……んにゃ、大丈夫」キーリは頭を振って表情を緩めた。「さっきのは何の準備も出来てなかったからな。来るかもって知っときゃなんともねぇから心配すんな。遠慮せずガンガン使え。頼りにしてるからよ、大将」


 ニッといつもどおり口端を吊り上げて笑い、キーリがイーシュの肩を叩く。それを受けてイーシュも少しホッとした顔を見せる。


「ほれ、それより早よ行こうぜ?」

「それが良いかと。思った以上に時間を掛けてしまいました」


 レイスがやや早めの歩調で前に進み始め、後にキーリたちも続く。

 足音を迷宮内に反響させ、奥へと進攻していく。歩きながらフィアはキーリの横に並び体を寄せた。


「それで……本当のところは何があったんだ?」

「お見通し、か。いい女だよ、お前は」

「ごまかしはいい」フィアはジロ、とキーリを見上げた。「何も教えてもらえないのは辛いんだ。何かあったなら……ささいな事でもせめて私には教えてくれ」


 たしなめるような、寂しそうな、そんな感情が小声の中にも滲んでいるのが感じられ、キーリはバツが悪そうにしながらも彼女の頭に手を置いた。


「中てられたってのは本当さ。ま、イーシュに言った通りそれは大丈夫だけどな。

 それとは別に少し……村の事を思い出したんだよ」

「鬼人族の、か?」

「ああ。俺にとって光神魔法は、なんだ、その……村が壊滅した象徴みてぇなもんだからな。それを仲間が使ったってのに少し感傷的になったんだ」

「そうか……」

「ユキも村の跡に行っちまったし、俺もなんだかんだ言いながらも気にしてんだなーってな」

「……すまない」

「謝んなって」そう言ってキーリは笑った。「こっちこそ悪いな、心配させて。けどもう大丈夫だよ。聞いてくれて、ありがとな」

「私は何もしてないが……」

「口に出させてくれたろ? それだけで違うもんだ。

 けど……ちょっち意見聞かせてもらっていいか?」

「なんだ?」

「イーシュの魔法……それもよりによって光神魔法をこのタイミングで使えるようになるたぁ、出来すぎじゃねぇか?」


 イーシュ自身に光神魔法の適性があったことにも驚きだが、それはあくまで彼自身の資質の問題だ。埋もれていた才能が陽の目を見るのは悪いことではない。

 しかしそれが明らかになるタイミングに、それを指導できる人間が直ぐ側に居たこと。しかもその人物はイーシュの道場に住み込みだというのだから貴族ではないのだろう。貴族以外で光神魔法を使えるのは――


「もしかして……キーリは教会の関与を疑っているのか?」

「まあ、な。この三年、お前が生きてんのにもかかわらず不気味なくらい教会はお前にちょっかいもかけてこなかった。それがずっと気になってんだ。国を追われて取るに足らねぇって思ってくれてんならこっちとしても好都合だがな、もし連中に狙いがあって手を出してこなかったとしたら、ひょっとして……なんて思ってな。

 さっきも言ったように故郷の近くだからその感傷に考えも引っ張られてんのかなって思わねぇでもねぇけど」

「……さすがにそれは穿ち過ぎだろう。イーシュに教えた方も昔から共に過ごしていたようだし、イーシュが私と関わりが深い人間だとしても貴族でも何でもない。こう言ってはなんだが、彼を巻き込んだところで教会にメリットはないだろう」

「だよな。いや、ワリィ。考え過ぎだ。忘れてくれ」


 ひょっとすると彼と深い仲になっているというその女性も、単に貴族の血を引いていただけかもしれないし、住み込みでイーシュと接している中で想いが募って、単に彼の力になりたいという純粋な想いで魔法を教えただけかもしれない。むしろその方が可能性としては高いはずだ。


「ダメだなぁ」


 キーリは溜息を吐いた。故郷が近くなった事で、自分で思っている以上に感情が揺さぶられているのかもしれない。だが今すべきは自分の事ではなく、フィアを王位につけることだ。そちらに集中しなければ。

 いつの間にか凝り固まっていたこめかみを揉みほぐす。そして一度大きく背伸びすると浮かんでいた怪しい考えを頭の隅に追いやり、目の前に広がる迷宮へと気持ちを集中させた。

 それでも、こびりついた汚れのように不安な感情はどうしてもキーリの内から消える事は無かったのだった。





お読み頂きましてありがとうございました<(_ _)>

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