10-3 王家に連なる迷宮(その3)
第3部 第55話になります。
お付き合い、よろしくお願いします<(_ _)>
初稿:18/04/12
<<<登場人物紹介>>>
キーリ:転生後鬼人族に拾われるも村が滅ぼされた事で英雄への復讐を誓い冒険者となった。国王殺害の濡れ衣を着せられ逃亡生活中。
フィア:パーティのリーダーで王国の王女。国王殺害犯としてキーリ、レイスと共に逃亡生活真っ只中。
レイス:フィアに付き従うメイドさん。フィアと共に一緒に生活中。
カレン:弓が得意な猫人族で、キーリと同じく転生者。キーリとは異父兄妹になる。
ギース:スラム出身の斥候役。不機嫌な顔で舌打ちを連発する柄の悪さが売り。意外と仲間思い。
シオン:狼人族の魔法使い。頑張りやさんで、日々魔法の腕を磨く。実家の店がパーティの半拠点状態。
イーシュ:パーティのムードメーカー。勉強が苦手で三歩歩けばすぐ忘れる。攻撃より防御が得意。
ユキ:キーリと一緒にやってきた性に奔放な少女。迷宮核を自ら作り出したりと不思議な力を持つが正体は不明。
ミュレース:レイスの後輩メイド。フィアを探して王国中を回っていた。
フェルミニアス:かつてのパーティメンバー。一人スフォンの街を離れて活動をしていた。
「――っ」
剣が振り下ろされる。
だがその直前に、カレンとほぼ同じタイミングで異変に気づいたキーリとフィアが同時に動いた。
フィアがイーシュを突き飛ばし、キーリの掌打がスケルトンの肋を砕き飛ばす。地面に叩きつけられ、破壊された白い骨を散らばらせながら壁にぶつかって軽い音を立てた。
その音に理解が追いついたレイス達も慌てて武器を構えた。
「大丈夫か、イーシュ?」
「あ、ああ、大丈夫。ありがとな、フィア」
「礼は後で受け取ろう。今は――」
イーシュを助け起こしながら、フィアはキーリが殴り飛ばしたスケルトンたちの方へ振り返った。
そこには文字通り死屍累々とした屍たちが転がっているはずだった。だが彼らの前には確かに倒したはずのアンデッドナイトとスケルトンが何事も無かったかのように立ちはだかっていた。
そして今しがたキーリが叩きのめしたスケルトンもまた普通に立ち上がった。軋み音を立てながら失った骨を拾い上げると、その骨が手のひらの中に消え、砕かれた肋骨が元通りに復活する。
「どういうことッスかっ!? 倒したんじゃなかったんスかっ!?」
「俺が知るかっ! シオン! スケルトンは背骨を砕けば倒せるってんで間違いねぇな!?」
「ええ、そのはずですっ!」
ギースに怒鳴り返しながらシオンは懸命に思考を巡らせる。
スケルトンは厄介な敵だが、ギースが口にした通り背骨が弱点だ。腕や脚をもぎ取っただけでは微塵の痛痒も見せないが、背骨を砕いてさえしまえば後は魔素に還るだけ。アンデッドナイトも心臓に近い位置にある小さな魔法陣を破壊すれば動けなくなる。シオンは頭の中に叩き込んだ本の内容を何度も読み返していくが、その知識に間違いはない。
常識が間違っているのか、それとも目の前のモンスターが自分たちが知るそれとは異なるのか。
(後者なら……)
厄介だ。焦りが思考をかき乱す。
それでもシオンは何か手がかりはないかと敵を観察する。起き上がったモンスターは全てではない。キーリの馬鹿力で粉砕されたスケルトンとフィアに斬り裂かれたアンデッドナイトはすでに魔素と化していっている。その二体と他の個体の違いはなんだ?
焦りを抑え、考える。だがシオンが答えに辿り着く前にモンスターたちが再び襲いかかった。すかさずキーリたちも対処するが、心なしか先程よりも動きが洗練されているようにも見えた。
(成長、してる……?)
いや、違う。どちらかと言えば――ぎこちなさが消えたように見える。
「くそっ! どうすりゃいいんだよっ!」
「皆さんはとりあえず敵を食い止めてくださいっ! 倒せないはずはありませんっ!」
「だからそれを聞いてんだよっ!」
「分かりませんっ! ひとまず木っ端微塵に砕いてしまうつもりでお願いしますっ!」
「はっ! そりゃナイスな対策だ! いいぜ、そういうわかりやすいのは好きだぜ!」
ともすれば投げやりにも聞こえるシオンの指示だが、キーリは笑いながら大剣を力任せに振り払った。その威力に一体は右半身が砕かれ、更に一体は上下に真っ二つに分かれる。
それでもなお起き上がろうとするが、キーリの足元から出た影が実態を持ち、ハンマーのようにして叩き潰した。そして影が消えると、そこにはシオンの言葉通り粉々に砕かれた骨だけが残った。さすがにここまで砕かれると再生はしないようだった。
確かにこうすれば敵は倒せる。
しかし。
「こうすりゃ万事解決ってな」
「ならこの先全部テメェが担当ってことでいいなっ!」
アンデッドナイトを蹴り飛ばしながらギースが怒鳴ったように、この戦い方はキーリにしかできない戦い方だ。この先も出てくるであろう敵を全てキーリ一人に任せるなんて――彼なら余裕でできてしまいそうだが――できない。任せるにしても、せめて少しでも負担を減らす方法はないか。
「何か、何かないのか……」
戦う仲間たちを見つめながらから滑りする思考。額から汗が流れ落ち、鼻筋を撫でる。今のシオンには考えを邪魔されるようでそれさえひどく不快だった。
「アンデッド系に効く魔法って何か無かったかなっ!?」
「基本的には光神魔法が有効なんですけど……」
懸命に矢を射るカレンの横でシオンは口ごもった。
ただでさえ強力な光神魔法だが、光の下で生きられない彼らには特に有効だ。光神の属性が加味されたものであれば、単なる光球であってもダメージを与えられるはずだ。
だが問題は――この中に誰も光神魔法を使える人間がいないということだ。
素質の多少を考えなければ、魔法の属性はシオン自身がそうであるように貴族平民問わずにある。
しかし光神魔法だけは例外だ。貴族の血を引く者にしか才は顕現せず、その中でも才能がある者は極わずかだ。だからこそ跡目を考える時に光神魔法の才能があることが重要なファクターとなる。
(こんな時に……)
アリエスさんが居てくれたら。メンバーで唯一の貴族だった彼女の事を思い浮かべ、すぐにそれをシオンは首を振って打ち消す。居ない人を頼ったって何の解決にもならない。
「貴族……?」
だが不意に引っかかるものがあった。シオンは顔を上げる。そこに居るのは戦い続ける仲間たち。その中で、剣にまとわせた焔のせいで一際鮮やかに浮かび上がる存在。
「そうか、フィアさんなら……!」
身分を隠していた彼女と接し続けていたせいで実感が乏しかったが、王族である彼女なら光神魔法が使える可能性は高い。彼女が敵を倒せているのも、もしかするとあの焔にも光神魔法を作用させているからかもしれない。
解決への道筋が浮かび上がった。思いついた策を叫ぼうとシオンが息を吸い込み、しかし声となって飛んでいくよりも早く戦場の方から声が上がった。
「あ、そうだ!」
声を上げたのは――イーシュだった。
「どうしたッスか!?」
「すまん! ちょっと頼む!」
「あ、おい! こらテメェ!!」
スケルトンたちを引き受けていたイーシュだったが、一度大きく押し飛ばして距離を取ると突然その場から離脱。敵をギースやレイスたちに任せるとシオンたちの方まで下がって剣を仕舞った。
「えーっと、確か……」
「イーシュさん?」
ぶつぶつと呟きながらイーシュは両手のひらをモンスターたちに向けた。眼を閉じ、記憶を探るような素振りを見せながらたどたどしい言い方で言葉を紡ぎ始める。
途切れ途切れの音。耳から入ってきたその音がシオンの頭の中で繋ぎ合わされていく。そしてイーシュの発した声の意味を理解し、シオンは眼を剥いてイーシュを見上げた。
「――、っと、最後はえーっと……」
「まさか……!」
「聖なる輝きは光神への導」
紡がれた詠唱が終わりを迎え、次の瞬間、イーシュの突き出した両手が光を発し始めた。
薄いベールが彼の手を覆ったような淡い光。だがイーシュが眼を開けて手のひらを大きく開いた瞬間に眩いばかりの強烈な光が無数の白閃となって飛び散っていった。
四方へと降り注ぐそれらはフィアやギースなど、前線に残った仲間たちをも貫く。だが彼らには一切の影響はない。しかし光の雨に打たれたスケルトンやアンデッドナイトは不意にその動きを鈍らせ、まるで光の先に何かを見つけたようにぼんやりと眺め始めた。
「今ッス!」
その機を逃すまいとミュレースやレイスがモンスターを蹴り飛ばす。
その攻撃はこれまでと一切変わらないものだったが、地面を転がったスケルトンの骨はあっけなくバラバラになり、アンデッドナイトの鎧も軽い音を立てていくつもの破片に砕けていった。そうして動かなくなったモンスターたちの体からはイーシュの発した魔法とはまた違った淡い光を発し、魔素へとなって迷宮の壁の中へと吸い込まれていった。
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