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10-2 王家に連なる迷宮(その2)

第3部 第54話になります。

お付き合い、よろしくお願いします<(_ _)>


初稿:18/04/10


<<<登場人物紹介>>>


キーリ:転生後鬼人族に拾われるも村が滅ぼされた事で英雄への復讐を誓い冒険者となった。国王殺害の濡れ衣を着せられ逃亡生活中。

フィア:パーティのリーダーで王国の王女。国王殺害犯としてキーリ、レイスと共に逃亡生活真っ只中。

レイス:フィアに付き従うメイドさん。フィアと共に一緒に生活中。

カレン:弓が得意な猫人族で、キーリと同じく転生者。キーリとは異父兄妹になる。

ギース:スラム出身の斥候役。不機嫌な顔で舌打ちを連発する柄の悪さが売り。意外と仲間思い。

シオン:狼人族の魔法使い。頑張りやさんで、日々魔法の腕を磨く。実家の店がパーティの半拠点状態。

イーシュ:パーティのムードメーカー。勉強が苦手で三歩歩けばすぐ忘れる。攻撃より防御が得意。

ユキ:キーリと一緒にやってきた性に奔放な少女。迷宮核を自ら作り出したりと不思議な力を持つが正体は不明。

ミュレース:レイスの後輩メイド。フィアを探して王国中を回っていた。

フェルミニアス:かつてのパーティメンバー。一人スフォンの街を離れて活動をしていた。




 入り口は洞穴、扉をくぐれば回廊。

 そして更に奥に進んだキーリたちを迎え入れたのは、まるで城の中のような装いの通路だった。

 壁や天井の質感は確かに迷宮だ。最初に迎え入れた回廊の灯りは途絶え、代わりに壁や天井が発光してキーリたちを照らしている。だが壁にはまるでレンガを積み上げたような模様が刻まれている。加えて所々に点在する何かの装飾品のような出っ張り。天井から吊り下がる土色のシャンデリア。果ては、土くれで出来た兵士を模した像まである。


「うわぁ……」


 見上げたカレンの口から感嘆が漏れた。ただそれは偶々彼女だっただけであり、もう少し遅かったら他のメンバーが似たような反応を示しただろう。

 まさにそこは迷宮でありながら城であった。


「これ……まさかこの中で作らせたのか?」

「いや、さすがにそれはないだろう」

「んじゃ外で作って運び込んだってことかよ?」

「それも迷宮の一部だろうさ」

「迷宮の?」


 素朴な疑問を口にしたイーシュにキーリが振り返り説明してやるが、端的すぎて理解が及ばなかったらしい。カレンやミュレースも同じ顔をして首を傾げたため、シオンが補足した。


「いつだったかユキさんが言ってましたね。迷宮は魔素と一緒に人の意思や感情を吸って成長するって」

「そ。ま、とは言ってもボケっと考えてるだけじゃ影響はしねぇけどな」

「ということは――」フィアは歩きながら像や装飾を眺め、呟いた。「こんなにも精緻な装飾が再現される程、ここに入った人間はよっぽど執着が強かったらしいな」

「そりゃそうッスよ。じゃなきゃこんな場所に来ようなんて思わないッス。それとも王女様は冷やかしのつもりで来たッスか?」

「吐かせ」からかうような口調で尋ねたミュレースに、フィアは挑発的に口の端を吊り上げてみせた。「ここに来た誰よりも強く願っているさ。何としても王になる、とな。それがここまで支えてくれたみんなに対する感謝と、辛い思いをさせてしまった人たちへの贖罪だと信じているから」

「その言葉が伊達や酔狂じゃないって信じてるッス」


 ミュレースの物言いにレイスは渋面をするも、即答したフィアの返答にミュレースは嬉しそうに顔を綻ばせた。


「ペチャクチャとくっちゃべってるとこワリィがな」索敵のために先頭を歩いていたギースが立ち止まった。「どうやら王女様を出迎えてくれる連中が居るらしいぜ」


 警告を発し、ギースがナイフを構える。やや遅れて全員が立ち止まり、即座に各々の武器を構え神経を研ぎ澄ませた。


「数は?」

「足音からおそらく十体近くにのぼるかと思われます。骨の軋む音も混じっておりますので敵は――」

「了解だ。把握した。近くに罠の類はあるか?」

「少なくとも見える範囲にはねぇな」

「なら――周りを気にせず存分に戦えるってわけだな」


 キーリが大剣を構えて獰猛に笑う。シオンが後ろに下がって全員に加護魔法を掛けると、淡い光が包み込んで体が軽くなった。

 近づいてくる足音が大きくなる。カタカタと笑うような音が反響し、やがて鬼火とともにモンスターたちが姿を現した。


「やっぱアンデッド系か……」


 現れたのはスケルトンとアンデッドナイト、それに死者を招く鬼火(コーリング・ウィスプ)

 スケルトンは文字通り肉を失った骨だけのモンスターだ。手に剣を持ち、眼窩から虚ろな光を発している。

 他方でアンデッドナイトは騎士が纏う鎧だけが動く実態不明のモンスターである。兜を脇に抱え、片手には鋭い長剣。鎧の中身は空洞であり、本体はおそらく鎧そのものと思われるが、どうやって無機物である鎧が意思を持って動いているか、未だ研究者によって研究がなされているほど詳細は不明となっている。コーリング・ウィスプを伴って現れることが多いことから、ユラユラと揺れる鬼火が操っているという説もある。


「ちっ、やりづらいのが現れたな」


 ギースが舌打ちした。肉のないモンスター故に骨を直接攻撃しなければならず、骨自体も普通の生物のそれとは性質が異なる。ナイフなどの小型の斬撃武器ではダメージが通りづらい。骨をも斬り裂くほどに鋭い斬撃を与えられれば有効だが、「斬る」よりも「砕く」方が対処法としては正しい。


「気にすんな。どうせどんな敵が出たってやることは変わんねぇんだ」

「キーリの言うとおりだ。私たちがすることはこれまで通り一つ――」フィアが向かい合う敵を鋭く睨む。「どんな敵も打ち砕くだけだ」


 次の瞬間、フィアが手にした剣から白熱した焔が立ち上る。強い意志を示すように真っ直ぐに伸び、煌々と周囲を照らしていく。その光に威圧されたか、モンスターたちがたじろいだように一歩下がった。


「ヒュー、フィアも気合入ってんなぁ」

「でも言うとおりです。いつも通り戦えば勝てる相手です。

 硬いアンデッドナイトは基本的にフィアさんとキーリさんの二人で相手をしてください。イーシュさんはスケルトンたちの攻撃を引き付けてください。カレンさんは後方からイーシュさんの支援を。残りの三人は遊撃しながらスケルトンへ打撃中心で行きましょう」

「ん。分かった。ウィスプには風神魔法が少しは効いたよね? そっちも何とかしてみる」

「スケルトンは俺に任せてみんな休んでていいぜ?」

「んならテメェがボコボコにされるのを高みの見物させてもらうぜ」

「でも気をつけてください……」シオンが怪訝そうにスケルトンの姿を観察する。「何だか、僕らの知ってるスケルトンとは違う気がします」

「同感です。私の記憶が確かであれば……スケルトンは防具の類は身につけなかったはずです」


 レイスが指摘したように、スケルトンの何体かは剣の他に胸当てや鎧を装備していた。いずれもかなり古くボロボロで、骨の大部分はむき出しになっているが通常のスケルトンはそのような行動を取らない。せいぜいが粗末なボロ布をまとうくらいである。


「了解。注意だけはしとく。

 なら――行くぜ」


 二人の注意を心に留めつつもキーリは大剣を片手で握りしめた。

 筋肉が隆起し、通常よりも遥かに太くなる。力強く蹴った床が抉り取られ、低く跳ぶ。地を這う鳥のように疾走し、一瞬でアンデッドナイトを射程距離に捉えた。


「――らぁっ!」


 眼を見開き、剣が暴風とともに振り抜かれる。大剣とは思えぬ速度で迫るその動きについてこれなかったアンデッドナイトが一拍遅れて剣を掲げるも、キーリの剣戟はそのまま剣を弾き飛ばした。

 叩きつけられた大剣が鎧を砕く。人間であれば右肩に当たる箇所から叩き斬り、アンデッドナイトは二つに分断されながら後方へと大きく転がっていった。

 更にその後をフィアが疾走り抜けた。弾き飛ばされた個体に巻き込まれるのを避けた残りのアンデッドナイト目掛け、彼女は火炎を迸らせた剣を振り下ろした。


「フッ――!」


 短く息が吐き出され、焔による白閃を空間に描く。鋭い踏み込み。フィアの体がアンデッドナイトを通り過ぎていく。そしてフィアが残心を解いた時には、胴から両断されて鎧が赤熱したかと思うと、瞬く間に炎に包まれていった。


「やっぱ凄いなぁ……私も負けてらんない」


 一瞬でアンデッドナイト二体を葬った二人に感嘆しつつ、カレンもまた自らの役目を果たすため弦を引き絞った。


「セット……リリースっ!」


 引き絞った弦の先に現れる半透明の矢。それ目掛けて周囲から風が巻き起こり、掛け声と共に弦を離すと溜め込まれたエネルギーが一気に解放された。

 螺旋状に回転しながらそれは突き進み、仲間たちの間を縫って正確に敵を捉えていく。次から次へと無数に放たれ、スケルトンの骨をえぐり取り、手に持っていた剣を弾き飛ばす。それによってスケルトンたちとイーシュの打ち合いに余裕が生まれ、ギースやレイスが蹴りを中心とした打撃でその骨の肉体を叩きのめしていった。

 骨が転がる音が次々に迷宮に響く。

 そうして瞬く間に十体を超えるモンスターたちはみな地に伏した。鎧は叩き潰され、骨は砕かれ、頭蓋骨は背骨から別れて転がっている。ウィスプはカレンの魔法を持った矢に巻き込まれ、あっけなく倒されていた。

 迷宮での初戦闘は接敵からほんの僅かの時間で終わりを告げた。


「ふん、大したことねぇな」

「ほー……薄々感じていたッスけどみんな強いッスね……特にカーリオさんが意外と戦えてるのがびっくりッス」

「へっへー、ナメンなって。サシだったらフィアにだって負けねぇ自信があるぜ」

「敵が多くても安定して戦えるのもイーシュが敵を引きつけてくれるからだからな。この先も頼りにしている」


 戦いを終え、剣を鞘に仕舞いながらフィアはイーシュを労う。他のメンバーもそれぞれ緊張を解すように肩などを回しながら集まってくる。

 そんな中、異変に気づいたのは後方から全体を見る立ち位置にあったカレンだった。


「イーシュくん、後ろっ!!」

「えっ?」


 褒められて嬉しそうににやけていたイーシュに、切迫したカレンの声がぶつかった。それに押され、振り向く。

 気がつけば、顔の欠けたスケルトンがすぐ後ろで剣を振り上げていた。



お読み頂きましてありがとうございました<(_ _)>

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