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8-6 始まるメイク・マイ・デイ(その6)

第3部 第48話になります。

よろしくお願いします<(_ _)>


初稿:18/03/24


<<<登場人物紹介>>>


キーリ:転生後鬼人族に拾われるも村が滅ぼされた事で英雄への復讐を誓い冒険者となった。国王殺害の濡れ衣を着せられ逃亡生活中。

フィア:パーティのリーダーで王国の王女。国王殺害犯としてキーリ、レイスと共に逃亡生活真っ只中。

レイス:フィアに付き従うメイドさん。フィアと共に一緒に生活中。

フレイ:グラッツェンで人々を支える修道女。倒れたフィアを介抱していた。

クラーメル:グラッツェンの貴族。難民キャンプの扱いでフレイたちと交渉している。





「ではクラーメル、この街を頼む」

「はい、お気をつけて」


 崩れかけた街門の外でフィアは胸を張ってクラーメルと握手を交わした。

 橙に染めていた髪の染料は綺麗に落とされ、今は真紅の髪が朝日に照らされ輝いている。鋭い切れ長の眼差しは期待に満ち、クラーメルもまたその視線を受けてしっかりと頷いた。


「街の人たちと協力して全力で復興に取り組みます。次にこの街に来られた時には見違えた姿をお見せすると約束致しましょう」


 彼の後ろには大勢の街の人たちが集まっていた。フィアとキーリの出立を聞き、みな彼女を見送ろうと駆けつけたのだった。

 痩せている人、怪我をしている人も多い。それでも彼女を見る眼差しには希望が宿っている。それを裏切る訳にはいかない、と改めてフィアは強く思う。もう、何があろうとくじけない。彼女は自分を立ち直るきっかけを与えてくれたシスターへと顔を向けた。


「フレイさん」

「王女様」

「ありがとうございました。貴女のお陰で覚悟を決めることができました。どれだけ礼を述べても足りませんが、いつか御恩をお返しします」

「俺からも礼を述べさせてくれ。アンタが居てくれたからコイツも元気になれた。ありがとうな」


 キーリもまた前髪を切り、髪色も元の黒混じりの銀色に戻していた。フレイに向かって手を差し出して感謝を述べると、彼女はその手を取りながらも首を横に振った。


「そんな……とんでもありません。私ができたことなどほんの些細なことでしかありません。ですが、少しでもお役に立てたのであればこの上ない幸せです。

 それにこうして私たちもまた新たな一歩を踏み出せたのも王女様、キーリさんが背中を押してくださったお陰です。きっと、出会えたのも光神様のお導きだったのでしょうね」

「だとしたら、光神もいい仕事しやがるな」


 フレイにしてみれば失礼な物言いだが、そんなキーリの言い方にも彼女は笑っただけだった。


「そうだ、これをどうぞ」

「これは……?」


 フレイが包みを取り出してフィアに渡す。なんだろうか、と思いながら包みを開いて取り出すと、それはマントだった。一方が白地で裏側が濃いめの紅。どちらを表にしても良さそうだ。


「何か餞別に贈れるものは無いかと教会を探していたら出てきまして……おそらく、司祭様が使用されていたものだと思います。王女様にこのような物をお渡しするのも恐縮なんですが……」

「そんな大事なもの……良いのですか?」

「ええ。それを着て子どもたちの笑顔を見て回るのが好きな方でしたから……王女様に使って頂ければ司祭様もきっと喜ばれると思います」

「……ありがとうございます」


 感謝を述べ、フィアとキーリは見合うと頷き合った。

 すっかり汚れてくたびれてしまったマントを脱ぎ、綺麗に洗濯されている司祭の遺品を颯爽と纏う。

 もちろん紅を表にして。


「良かった。王女様にはその色がよく似合いますね」

「ああ。やっぱしっくりくるな」

「そうかな?」


 褒められ、フィアの頬が緩み気恥ずかしそうに頬を掻いた。そして指先で生地を軽く撫でた。

 人々を大事にしていたという司祭。会うことはできないが、彼の意思はフレイたち残された者たちに受け継がれている。そんな彼女からもまたフィアに想いがマントと共に託されたような気がして、フィアは気を引き締めた。

 顔を上げるとクラーメルとフレイ、そして多くの人々が居る。彼らはみな笑顔で見送ってくれている。


「んならそろそろ行くか」

「そうだな」


 この笑顔を何としても守り続けたい。その気持ちを胸に抱き、フィアとキーリはグラッツェンの街に背を向けて歩き出した。


「ご武運を」

「お二人の無事をお祈りしております。

 光神様、どうかお二人の前途に光をお授けください……」


 クラーメルとフレイの言葉に手を上げて応え、次第に姿が小さくなる。

 やがて街は完全に木々に隠れ、二人だけになった。


「色々あったけど、来て良かったな」

「ああ。きっと次来る時には、クラーメルの言ったとおり素晴らしい街になっているだろう」


 まだ何の権限も無いが、快く引き受けてくれた彼にフィアは胸の中で感謝を述べた。早く実権を得て正式にクラーメル家の再興を認めてやらねば。そう思うと一刻も早くヘレネムへと戻りたくなった。


「さて、んじゃさっさとヘレネムに戻るか。あのかしまし娘を出迎えねぇとな」

「そうだな。

 よし、では一つどちらが先に戻れるか競争でもするか?」

「お? やるか? いいぜ。半鐘(≒三十分)くらいハンデやるぜ」

()かしてろ。むしろこちらがハンデをくれてやる」


 互いに不敵に笑いあうと、地面にラインを引いてスタートの姿勢を取った。

 その時だった。


「キーリさんっ、フィアさんっ!!」


 前方から二人を呼ぶ声が聞こえた。

 聞き慣れた、しかししばらく耳にしていなかった声。一度キーリはフィアと顔を見合わせると、声の方に顔を向けた。

 上り坂の奥で生まれる小さな影。徐々に大きくなり、やがてハッキリと顔を確認できる距離になって二人は破顔した。


「シオンっ!」

「それに皆もっ!」


 先頭を切ってシオンが駆けてくる。息を切らし、跳ねるマントの裾からフサフサの尻尾を左右に揺らしてやってくる。更に少し遅れてカレン、そしてイーシュの姿も見える。二人もキーリたちの姿を認めて顔を綻ばせ、シオンを追いかける。

 坂の上に居るのはギースとユキ。距離があるためハッキリ表情は見えないが、仕草から呆れた素振りを見せつつも何処か嬉しそうにしているギースの姿がキーリの頭を過り、思わず笑みが零れた。

 そうしている内にシオンがすぐ目の前まで辿り着いた。二人は立ち止まって待ち受けていた。だが、あと少しというところでシオンの脚がもつれ、勢い余ってキーリへと飛び込んでいくがそれをしっかりと受け止める。


「おっと。大丈夫か?」

「はあっ、はあっ……す、すみません。お二人の匂いがしたのでつい嬉しくて……」


 締まらない再会に、シオンは恥ずかしそうに笑って頭を掻いた。

 するとその小柄な体が後ろからヒョイッと持ち上げられた。かと思うと、自然な流れでクルッと回ってフィアの腕の中。一拍遅れてドボドボと赤い何かが降り注いでくる。


「ああ、この抱き心地にこの触り心地……何年経ってもシオンは変わらないでいてくれてホントに良かった」

「……フィアさんもお変わりないようで」


 鼻から垂れ流される情熱によって頭から真っ赤に染まっていくシオン。途端に眼から光が失われて死んだ魚のそれになるが、これもまた再会の証だと思ってシオンは潔く諦めることにした。

 そんな二人に、キーリはやれやれと肩を軽く竦めていたが横合いから拳がニュッと伸びてくる。


「よう、キーリ。元気だったか?」

「……当たり前に決まってんだろ、イーシュ。そういうお前こそ……いや、聞くまでもねぇな」

「おうよ、あったりまえだろ。てか、お前何、その髪の色? イメチェン?」

「まあそんなもんだ。髪の色が違うと結構バレねぇもんなんだぜ?」


 適当にごまかしを口にするが、イーシュは特に疑わず「へぇ」と感心したように唸った。

 疑わないイーシュにキーリは苦笑いをしつつ、遅ればせながらイーシュの拳に自分の拳を軽く打ち付け、そして互いにニッと笑い、再会を喜び合う。


「ちっ、さんざ苦労して落ち着いたかと思ってりゃ……ったく、相変わらずだな、テメェらは」

「もう、ギース君ったら……素直じゃないんだから」

「……ちっ」

「ギース、カレン……」


 内心を看破されてギースはそっぽを向き、カレンは呆れ半分で溜息を吐くもキーリとフィアの方へ向き直ると嬉しそうに眼を細めた。


「ふふっ……信じてたけど、二人共元気そうで良かった。

 でも急に居なくなるし、いつの間にか指名手配されてるし……最初の頃は心配で心配で気が気じゃなかったんだからね」

「……すまない」

「心配かけたけど、ま、この通りピンピンしてるんでな。それで許してくれ」


 真っ赤に染まったシオンを解放してフィアはバツが悪そうに頬を掻き、その横でキーリは悪びれずに笑いながらフィアの肩を叩いた。

 パッと見は変わりない二人。だがカレンは、どことなく二人の間に流れる雰囲気が前と変化していることに気づいた。しかし、そのことには特に触れずに微笑みながら首を横に振った。


「うん、謝ってくれたから許してあげる。

 ……大変だったね」

「まあ、な……嘘でも大変では無かったとは言い難いな。

 が、お陰で得られたものもあったと思う。そう考えると、悪いことばかりでは無かったな」


 既に三年が経過しているとはいえ、身内を亡くす辛さはそう簡単には癒えない。そう思ってフィアの心中をカレンは慮るがフィアはそれに小さく笑ってみせ、それによって彼女もフィアが既に吹っ切れている事を知った。だからそれ以上言葉にするのを止め、代わりに一度だけハグをして気持ちを伝えた。


「カレン……心配してくれてありがとう」

「ううん、私が勝手にしてただけだから」

「ところで、なんで皆ここに居るんだ?」


 居場所はずっと知らせていなかったし、偶然再会したという様子でもない。キーリが疑問に思って尋ねると、シオンが「えっとですね」と切り出した。


「ユキさんに誘われまして。キーリさんたちを迎えに行くからって」

「ちっ……ったく、仕事も全部キャンセルしなきゃなんねぇかったしよ。こっちの都合も考えろっつうんだ」

「ユキ、お前の差し金か」

「ふっふーん。まーねー。でも良かったでしょ? お陰でこうしてちゃんと合流できたんだから」

「ちっ……食えねぇ女だな、テメェは」


 ギースが鼻白むも、ユキは黒いマントの裾から真っ白な腕を出して腰に当て、何年経っても変わらない豊かな胸を自慢げに突き出した。


「本当はアリエスも連れてこようかなーって思ったんだけどな。帝国まで呼びに行くと間に合わなかったし、それに声掛けても来なさそうだったし」

「アリエスは帝国に居るのか?」

「ええ。どうやらアリエスさんの領土は王国との国境近くらしくて……忘れそうになりますけど、アリエスさんも帝国貴族ですから。昨今の噂が本当ならユキさんの言うとおり帝国を離れられないかもしれませんね」

「そうか……」


 シオンの予想が正しければ、かなり緊張は高まっているのかもしれない。フィアは顔を険しくした。

 あまり時間の猶予はない。急ぎ王家の証を取って王城に向かわねば。

 せっかく再会できたのに残念だ、と思いながら彼女は一時の別れを告げようとする。

 だが。


「おいおい、つまんねーこと言い出すなよ?」

「イーシュ?」


 フィアの言うことを先回りしてイーシュが釘を差したのだった。




お読み頂きましてありがとうございました<(_ _)>

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