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8-1 始まるメイク・マイ・デイ(その1)

第3部 第43話になります。

よろしくお願いします<(_ _)>


初稿:18/03/13


<<<登場人物紹介>>>


キーリ:転生後鬼人族に拾われるも村が滅ぼされた事で英雄への復讐を誓い冒険者となった。国王殺害の濡れ衣を着せられ逃亡生活中。

フィア:パーティのリーダーで王国の王女。国王殺害犯としてキーリ、レイスと共に逃亡生活真っ只中。

レイス:フィアに付き従うメイドさん。フィアと共に一緒に生活中。

フレイ:グラッツェンで人々を支える修道女。倒れたフィアを介抱していた。







 フィアがグラッツェンに到着して五日が経った。

 今日もまたキャンプの中では忙しい時が流れ、そこかしこで賑やかであった。


「フィアさん、西側に新たに怪我人が出たようなのでそちらの応急手当に向かってください」

「分かりました」

「終わったら教会のところへお願いします。そろそろお昼の準備をしたいから火を起こしてほしいってシスターたちが言ってましたので」

「わ、分かりました!」

「そうしたらお昼ができるまでの間に、適当に元気そうな子でも捕まえて南門のところに物資の受け取りに向かってください。予定ですと、商人の方々が食料や包帯を寄付してくれる手はずになってますから」

「……分かりました」


 フレイから矢継ぎ早に飛んでくる指示にフィアの眼が光を失っていく。それを見てフレイはクスリと笑った。

 キーリによる強制睡眠から眼を覚ました頃にはすっかりフィアも、心理面はともかく体調という面ではすっかり元気を取り戻していた。

 改めて彼女は「フィア」とフレイに名乗り直し、以来約束した通りフレイ達の仕事を手伝い始めたのだが、早々とこれでもかと言わんばかりに扱き使われたのだった。

 難民キャンプにいる誰よりも早朝から叩き起こされて大量の食事の準備から始まり、その後は付近の町や村からやってくる傷ついた人々の受け入れと具合の悪い人はいないかの見回り。合間に子どもたちの相手をしたり喧嘩の仲裁をしたりとてんやわんやだった。

 おまけに、彼女が炎神魔法が得意であることが知れ渡ると三食の準備の度に火おこしに駆り出されていた。火は何かにつけて便利で使用頻度も高いことから、それ以外にも事あるごとに重宝がられてあちこちに連れ回されている。おかげで一日が終わると疲れ果て、倒れるように眠るのがここ数日の常であった。


「ほら、笑って笑って。そんな顔をしてると逆に心配されてしまいますよ?」

「……そうですね」


 かと言って、その分フレイ達シスターが楽をしているかというとそういう訳でもない。フィア以上に忙しなく怪我人・病人の世話を甲斐甲斐しくし、誰もがここに居る誰しもに笑顔を振りまいている。その上、合間を縫ってはお祈りもしているのだから、いったいどんな体力をしているのだろうか、とフィアは空恐ろしささえ覚えていた。

 ゲンナリとした顔を向けると、逆にこうしてフレイから笑顔で励まされる。忙しい最中、彼女から改めて応急処置の仕方や気休め程度だが簡単な治癒魔法も習ったのだ。怪我人の存在を望むわけではないが、怪我人が出た以上自らのスキルを活かさねばもったいない。

 フィアは指先で頬を無理やり押し上げて笑みを作り――かなり不格好だが――テントから出ていく。その後姿をフレイは笑顔で見送った。


「……少しは笑い方もマシになったかしらね?」


 フィアの姿が見えなくなるとフレイはそう独りごちた。

 ここに居る人たちは皆家をなくし、家族を亡くした人も大勢いる。そんな人たちを励ます意味でも笑顔は欠かせない。だがフィアの笑顔は酷いものだ。あまりに酷過ぎて逆に心配になる程だ。

 それでもフレイが漏らしたように幾分マシになってきた。それは、忙しすぎて余計な事を考えずに済んでいるということもあるだろうし、笑顔の人たちと多く接しているからというのもある。

 幸いにしてここには笑顔の先生である子どもたちも大勢いる。フレイがお願いしたからもあるが、フィアも度々子どもたちに囲まれているようであるし、きっと遠からず笑い方を取り戻せるだろうと期待していた。


「さて、と……私も頑張らなきゃね」


 手を上げて大きく背伸び。凝った肩を揉み解して息を吐き出すと、自分の顔を軽く叩いて気合を入れてフレイもまたテントから出ていった。


「お? フレイ」


 背をピンと伸ばし、白っぽい金髪をなびかせて颯爽と出てきたそんな彼女を、街の外から戻ってきたキーリが見つけて声を掛けた。


「あら、キーリさん。戻ってこられたんですね。調子はどうでしたか……って聞くまでも無かったですね」

「おう、大漁大漁。これだけありゃちょっちは足しになるだろ」


 フレイが感心半ば呆れ半ばでキーリの肩に担がれた山を見上げ、キーリもまた自慢げに端正な口元を豪快に開いて笑った。

 キーリが持って帰ってきたのは大量のモンスターの肉だ。夜中から近くの山中にこもって獣系のモンスターを狩って得たもので、数え切れないほどの麻袋がキーリの肩の上でうず高く積もっている。


「だ、旦那ぁ……」

「待ってくださいよぉ……」


 ひぃひぃ言いながら男性が二名遅れて追いかけてくる。このキャンプを探し出すのを手伝わせた、キーリにちょっかいを掛けてきた二人だ。キーリによってシメられた彼らの肩と背にも麻袋が背負われている。


「なんだよ、情けねぇなぁ。たった二袋じゃねぇか」

「無茶言わんでください。これでも何頭分あると思ってんですか……」

「旦那の方こそいったいどんな力してんですか。モンスターを狩る時もとんでもない狩り方してましたし……」


 キーリのモンスターの狩り方はシンプルだ。

 最早舎弟と化した二人を安全な場所に待機させ、一人真っ暗な夜の山でその身を無防備に晒す。獲物を求めてモンスターがやってきたら一気に一網打尽だ。まとめて狩り終わったら待機していた二人を呼び寄せて素材や肉を剥ぎ取っていき、場所を変えてまた同じように狩りを繰り返していって、その結果が大量の肉である。


「食料を下さるのは嬉しいんですけれど……あまり無茶はしないでくださいね。フィアさんにも伝えてますけど、みなさんが元気じゃないと意味が無いんですから」

「分かってる分かってるって。アイツじゃねぇんだから無茶はしねーよ」

「大丈夫ですぜ、フレイの姐さん。遠くで見てただけですけど、やり方は無茶苦茶ですが全く危なげないんですから」

「そうなんですか?」

「俺らもモンスターに詳しいわけじゃありませんがね。中にはDランクやCランクのモンスターも居たんですが、そいつらも一瞬で首をぶった切ってしまうんですから。最初に見た時は正直、眼を疑いましたよ」


 昨今の魔素濃度の増加のせいで山中のモンスターは数を増しているし、生み出されるモンスターのランクも遥かに高くなっている。おかげで狩るモンスターに困ることはないのだが、とてもそこらの冒険者一人では対応できない状態になっていた。


「今もこうしてハンパねぇ量を軽々と持ち運んでますし……ねぇ、キーリの旦那。旦那っていったい何者(なにもん)ですか?」

「別に。お前が考えてるような大層なもんじゃねぇさ。ちょっちばかし冒険者やってただけだよ」

「はぁ、そうですか」

「冒険者ってのはやっぱスゲェんだなぁ」

「それより、フレイ。こいつらはどこに持っていけばいい?」

「はい、でしたら教会の中に運んでおいて頂けると助かります」

「ならお前ら、教会まで運んでこい。んでそのまんまシスターたちの手伝いをしてこいよ。食事を作るのにも力仕事はあるだろうしな」

「うへぇ、マジっすか……?」

「ちょっとは休ませてくださいよぉ」

「昼メシの準備が終わったら好きにしていいから、それまではきっちり働いてこいっての」

「へぇい、わかりやした、わかりやしたよ。メシも食わせてもらってますし、やることはやりますって」


 二人組は一度下ろしていた麻袋をもう一度担ぎ直し、教会へ向かっていった。口では泣き言を言っていたが、あの二人も誰かの役に立てるというのはやりがいがあるのだろう。愚痴を互いに言い合いながらも表情は明るい。


「ところで、フレイ。アイツの様子はどうだ?」


 キーリは二人が十分に離れたところで担いでいた荷物の山を下ろし、フレイに尋ねた。


「フィアさんですか? そうですね……」フレイはやや俯き、言葉を選んで答えた。「だいぶ良くなっていますが、もう少しケアが必要かと思います」

「不器用だからな、アイツも。何でもかんでも深く悩んじまう。そこがアイツのいいとこだが、今回は度を越しちまったみてぇだからなぁ」

「情の(こわ)そうな方ですから。戦地の状態に衝撃を受けたのだと思います。自分が食べるものも食べず分け与え続けたのにしても、何とか助けてあげたいという思いが強すぎたのでしょうね」


 フレイはフィアが向かった方を見遣った。冒険者をしていたという彼女の姿はフレイ自身よりも体つきもしっかりしていて強そうだ。だがフレイにとって今のフィアは、危うさを纏いに纏った儚い女性にしか見えなかった。

 フィアを想い、眼を細めるフレイ。その彼女に向かってキーリは頭を下げた。


「すまねぇけどもう少しの間、アイツを頼む。情けねぇ話だけど、俺よりフレイの方がアイツを何とかできそうな気がするからさ」

「私ができる事なんて殆どありませんよ」フレイは優しい笑みを浮かべ首を横に振った。「私だってそうですけど、力を与えてくれるのは、こうした境遇にもめげずに前向きに生きているみなさんなんです。傷ついても苦しくても、顔を上げて笑顔を見せる人たちに励まされて私たちは動いています。

 フィアさんも今、きっと子どもたちを始めとして色んな人から元気をもらっていると思いますから、心の面でもすぐに元気になりますよ」


 フレイは微笑み、キーリもつられて笑みを浮かべて頭を掻いた。


「そうかもな……あんまここに居られる時間もねぇけど、俺共々もうしばらく世話になるよ」

「ええ、彼女はもちろん、キーリさんや先ほどのお二人も頼りにしていますから」

「人使いの荒いことだ。

 ところでちょっち小耳に挟んだんだけどな」

「なんでしょう?」

「ここ、立ち退きを迫られてんだって?」


 キーリがその話題を口にした途端、フレイの表情が見るからに曇った。


「ええ……そういう話は来ています。この地での戦闘も終わり、新市街を新たに作るのに邪魔だから退くように、と領主様の遣いが来られて……」

「復興が始まんのか。それ自体は好ましいことなんだが……急に動けって言われても怪我人、病人ばっかで動けるわけねぇしなぁ」

「はい。なのでその時は同じことを言ってお帰り頂いたのですが、その後も度々やってこられては土地を明け渡すように仰って……」

「アンタらがやってる事だって本来なら領主がやるべきことだろうに、それもしねぇで退けってのはとんでもねぇ話だな」


 キーリは非難するが、フレイは悲しそうに眼を伏せた。


「元の領主様もこの戦禍で亡くなったと聞いています。なのでこちらまで手が回らないのだと思いますので、仕方のないことなのでしょう」

「退けって言ってきてんのは新しい領主か……にしても退けって言うだけじゃなくてせめて住む場所くらい準備してから言えってんだよ。それか金でも支給しろっての」

「さすがにそこまでは……ただせめて、ここに居るみなさんの傷が癒えるまでは許してほしいですね」


 キーリの発言にフレイは苦笑いした。


「アンタんとこの教会はどうなんだよ? どうにかできねぇのか?」


 フレイは首を横に振った。


「一応近隣の教会にも支援をお願いしているのですが……今のところナシのつぶてです」

「そうか……」


 教会の支援も望めず、一介のシスターでしかないフレイたちに領主の命令に逆らえるほどの権力もあるはずがない。二人は顔を突き合わせて溜息を吐いたが、フレイはすぐに顔を上げて手を叩いた。


「嘆いていても仕方ありません。私たちは許された時間でできることをするだけです。それに領主様が何度来ようとも突っぱねて見せますよ。こう見えても私たちだって強いんですよ?」

「ああ……確かに飯作ってるシスターたちは強そうだわ」


 腕まくりをして力こぶを作ってみせるフレイにキーリは苦笑し、別のテントで食事を作っているシスターたちを見遣った。若いシスターは別として、白髪の目立つ熟年のシスターたちはみなふくよかで、鍋をかき混ぜたりしているその腕は立派だ。貴族だろうが国王だろうが、間違った事をしようとしていたら力強く張り飛ばしてしまいそうだった。

 これなら安心だな。キーリは首を回して凝りを解すと、下ろした山積みの荷物をまた器用に担ぎなおした。


「邪魔したな。んじゃ俺はこれを運んでくるわ」

「はい、お願いします。キーリさんにも光神様のご加護がありますように」


 光神に対する祈りの言葉にキーリは苦笑いをした。キーリ自身は祈りも感謝も光神などには毛頭するつもりはないが、フレイは神に仕える者として純粋に感謝してくれている。その気持ちに水を差すほど愚かではなかった。


「どーも。感謝するよ」


 クルリと背を向け、フレイに言われた通り教会の方へと荷物を運びに向かう。


「フレイ姉ちゃんっ!」


 だが歩き出した直後、バンダナの少年――ティムが勢い良く駆け込んできた。

 息を切らし、脚をもつれさせながらやってきたその様子はただならぬものを感じさせた。キーリは脚を止めてティムと、彼の背を擦るフレイを見た。


「どうしたの、ティム? そんなに慌てて」

「はぁ、はぁ……来たんだよっ」

「来たって……まさか!?」

「領主連中が来たんだっ! 南の方で騒いでるんだ! 今はフィア姉ちゃんが食い止めてるけど……早く行ってやってくれよ!」





お読み頂きましてありがとうございました<(_ _)>

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