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6-4 グラッツェン(その4)

第3部 第30話になります。


初稿:18/02/01


<<<登場人物紹介>>>


キーリ:幼い体で転生後鬼人族に拾われるも村が滅ぼされた事で英雄への復讐を誓って、冒険者となった。国王殺害の濡れ衣を着せられ逃亡生活中。

フィア:パーティのリーダーで王国の王女。国王殺害犯としてキーリ、レイスと共に逃亡生活真っ只中。末期のショタコン。

レイス:フィアに付き従うメイドさん。フィアと共に一緒に生活中。

アリエス:帝国貴族の筋肉ラブな女性。剣も魔法も何でもこなす万能戦士。

カレン:弓が得意な猫人族で、キーリと同じく転生者。キーリとは異父兄妹になる。

ギース:スラム出身の斥候役。不機嫌な顔で舌打ちを連発する柄の悪さが売り。意外と仲間思い。

シオン:狼人族の魔法使い。頑張りやさんで、日々魔法の腕を磨く。実家の店がパーティの半拠点状態。

イーシュ:パーティのムードメーカー。勉強が苦手で三歩歩けばすぐ忘れる。攻撃より防御が得意。

ユキ:キーリと一緒にやってきた性に奔放な少女。迷宮核を自ら作り出したりと不思議な力を持つが正体は不明。

ユーフェ:スラムで住んでいた猫人族の少女。フィアに雇われた後、家族として共に過ごしていた。時々不思議な勘の鋭さを見せる。

シン:王国南部のヘレネム領を治めるユルフォーニ家の嫡男。キーリ達を匿っている。

ミュレース:レイスの後輩メイド。フィアを探して王国中を回っていた。




「うーん……」


 キーリは立ち止まって唸り声を上げた。一通り街を回ってみたもののフィアを見つける事が出来ないでいた。

 ただでさえ広い街なのに、戦争で建物が崩壊して瓦礫まみれ。元々の路地に新たな路地ができていたり、絡む気満々のゴロツキや傭兵くずれなどがいたせいで細かいところまで探した訳ではない。とりあえず大通りらしきところをぐるっと回っただけだが、彼女の気配も他の人間の「瘴気」のような気配にかき消されてさっぱりだった。


「ま、魔法に頼り切りになるのも良くねぇって事だな」


 何事も便利なものがあると頼り切りになってしまうものだ。ここは自分の脚で情報を稼ぐとしよう。溜息ととともに気を取り直して歩き出す。


(まずは……基本的だが聞き込みか)


 それから街の地図みたいなものも欲しい。完全に迷路のようになり、似たような景色が続いているため、自分の所在地や探し終えた場所さえも細かい場所だと分からなくなってしまう自信がある。

 キーリは頭を掻くと、とりあえずそこらに居る人にでもフィアを見なかったかと足を向けた。

 ――のだが。


「ちょっと待ちな、そこのデケェ嬢ちゃん」


 横からそんな声が聞こえた。だが「嬢ちゃん」と明らかに女性を指した言葉だったのでキーリは無視して歩いた。


「無視してんじゃねぇ!」


 怒鳴り声と共に強く掴まれたキーリの肩。正面にはモヒカン頭の別の男が立ちはだかり、ニヤニヤと笑う。しかしキーリが「何だよ?」と声を発した途端に固まった。


「………………男?」

「悪かったな!」


 最近はいじられるのが目元ばかりだったせいか、自分が女顔であることをすっかり忘れていた。


(そういえば……)


 ふとキーリは初めてスフォンにやってきた時の事を思い出した。ギルドで酔っ払ったガルディリスに女顔と絡めて鬼人族をバカにされたのだった。あの時は激怒したが、今はもういい思い出となっている。


(……久々に)


 皆と会いてぇなぁ。みんな元気にやってるだろうか。感傷じみた気持ちがキーリの中で広がっていく。


「けっ、まあいい。それよりお前、外から来たんだろう?」

「ん? まあそうだな」

「なら人頭税を払ってもらわねぇとなぁ?」

「人頭税だ?」

「なんなら入市税でも通行料でもいいぜ」

「ほれ、痛い目みたくなかったら出すもん出しな」


 キーリの肩に手を置いてギリギリと力を込めていく。腕力だけはそこそこあるようだが、キーリにしてみれば痛くも痒くもない。変なのに絡まれたなぁとつい溜息が漏れた。


「なんでお前らに?」

「ンなもん決まってら。今も昔も街を守ってんのは俺らだ。ならその為に何かと入用だからなぁ?」


 格好は役人が着ているもののようだが、言動やその粗暴さ、それに服を着慣れていない様子からして税金を渡すべき相手とはどう見ても思えない。つまりはかつあげか。

 だが、声を掛けた相手が悪かった。


「いだだだだだだだだだだだだっっっっ!!??」


 キーリの肩に触れていた男の腕を軽く握ってやる。キーリとしてはちょっと力を入れただけだが、途端に男は眼をひん剥いて悲鳴を上げ、腕を押さえて地面を転げ回った。


「お、おい! どうしたんだぁ!?」

「う、腕が……」

「わりぃ、これでも結構加減したんだけどな」

「あぁん! ふざけたことぬかしやがってっ!! 許さねぇ! 治癒魔法代も一緒に払ってもらうからな!」


 いけしゃあしゃあと言い放つキーリに、もう一方の男が唾を飛ばしながら腰の剣を抜いた。痛がっていたもう一人も脂汗を流しながら立ち上がり、強がっているのか「へ、へへ、やるじゃねぇか」的なことを嘯いていたがダメージがでかかったのは明白だ。

 キーリは「面倒くせぇなぁ」と聞こえよがしに呟きながら聞こえないふりをしていたが、ふと妙案が過ぎった。


「おら! 黙ってねぇでさっさと――」

「なあ、昔からって事はアンタらこの街には詳しいんだよな?」

「あ? 何当たり前の事言ってやがる? ンなの決まってんだろうが!」

「くだらねぇ話してねぇで金出せっつってんだ! そしたら殺すのだけは勘弁してやるぜ!」

「おう、やってみろよ。一撃でも当てられたら有り金全部やるぜ」

「んなっ!?」


 自分の言葉を証明するように、ほーれ、とキーリは男たちに金貨を数枚放り投げた。

 受け取った男たちは、マジマジと金貨を観察する。紛れもなく本物。二人の顔がニタァと緩んだ。


「ほれ、どうするどうする? ま、女子供相手にしか突っかかれねぇ玉無しにゃそんな勇気ねぇだろうけどな」

「テメェ……言ったな?」


 挑発に二人組は顔を真赤にさせた。その間にもキーリはおちょくるようにヘラヘラと笑い、指先でクイクイっと招くような仕草をした。

 すぐにバレるような嘘を吐いて金を巻き上げようとする短絡的な連中だ。ここまでやれば行動は目に見えている。


「この野郎っ!」

「調子こいてんじゃねぇぞっ!?」


 青筋をこれでもかとばかりに浮かべて、金に眼が眩んだ二人は一斉にキーリに殴りかかったのだった。

 そして。




 ――三十秒後




「も、もうゆるひてくだひゃい……」

「ご、ごかんびぇんを……」


 ボコボコに顔を腫らせた男が二名、転がっていた。


「んだよ、もう終わりか?」


 当然キーリは息一つ乱していない。

 かなり手加減されたのだが、すでに因縁を吹っかけた二人は完全に心を折られてしまい、弱音を吐いて這いつくばってでも逃げようとした。

 今や二人の心情は見事にシンクロしていた。

 ヤベー奴に手を出してしまった。このままでは殺されちまう。

 この期に及んでようやく自らの過ちに気づき、戦争時に支給されて以来結局使わずじまいだった煙幕魔法陣を放り投げた。


「お?」


 軽い閃光の後、瞬く間に魔法で作られた煙が辺りに立ち込めていく。彼らからキーリの姿が見えなくなると大急ぎで二人は立ち上がり、脱兎のごとく逃げ出した。

 が。


「まあそう慌てんなって」

「ひぎやぁいぃぃぃぃっっ!?」


 いつの間にか目の前にキーリがいた。

 朗らかに笑いながら肩に軽く手をかけてくるキーリの姿は、きっと二人からすればどんなモンスターや戦争よりも恐ろしいものに見えたのだろう。

 形容し難い絶叫の後に完全に腰が砕け、一人はキーリを眼にした瞬間に泡を吹いて倒れた。

 幸か不幸か、意識を失うのに失敗した残った一人は己の運命を恨んだ。


「ななななななんでしょうか!? 金でしょうか!? 金なら全て差し上げます! だからもう許してくださいぃぃぃ!」

「いや、金は別にいらねぇけどさ」


 これまで色んな人間から巻き上げた金を、気を失った相方のポケットからもほじくり出して全てキーリに捧げるがキーリはあっさり首を横に振った。

 見逃してもらう最後の望みをあっさり絶たれ、男は「もはや我が人生、ここまで」とばかりに自発的に意識を飛ばそうとするも、キーリから「こら、寝るんじゃねぇよ」とデコピンされて意識を留めたまま悶絶した。


「ぉぉぉぉぉぉぉ……」

「さっきお前ら、この街に詳しいっつってたよな? なら頼みてぇ事があんだけど」

「は、はいっ! 何でございましょう!? 見逃して頂けるのなら何でも致します! だから何卒、命だけは……」

「お、マジで? なんでも?」


 満面の笑みをしたキーリを見て、男はまたしても失態を悟った。


「あ……いや、まあ程々で――」

「いやぁ、そうかそうか! ツイてるってもんだな、こりゃ。こんな気の良い連中と巡り会えんだからよ」


 白々しい笑い声が無人の通りに響き、男の肩をバンバンと叩く。そしてキーリは気を失っていたもう一人に「喝」を入れて叩き起こすと、二人の顔をグイと掴んで引き寄せた。


「あ、あの……荒事はちょ、ちょっとご遠慮させて頂きたいなー、なんて……」

「あぁん? さっきなんでもやるって言ったじゃねぇか」


 前髪をチラリと掻き分け、シリアルキラーも真っ青な眼を覗かせてやると、それだけで二人は首をちぎれんばかりの勢いで縦に振った。

「なぁに、簡単なことさ。ちょっち人探しをお願いしてぇだけだよ」

「な、なんだ……それくらいなら」

「ただし――なるはやで、な? 夜中になったからってグッスリできるたぁ……思ってねぇよな?」


 そう言ってキーリは楽しそうに口端を吊り上げ、男はヤバい奴に絡んだのだとまた心から後悔したのだった。





お読み頂きましてありがとうございました<(_ _)>

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