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4-4 彼方から来たりし人(その4)

第3部 第18話になります。


初稿:18/01/06


<<<登場人物紹介>>>


キーリ:幼い体で転生後鬼人族に拾われるも村が滅ぼされた事で英雄への復讐を誓って、冒険者となった。国王殺害の濡れ衣を着せられ逃亡生活中。

フィア:パーティのリーダーで王国の王女。国王殺害犯としてキーリ、レイスと共に逃亡生活真っ只中。末期のショタコン。

レイス:フィアに付き従うメイドさん。フィアと共に一緒に生活中。

アリエス:帝国貴族の筋肉ラブな女性。剣も魔法も何でもこなす万能戦士。

カレン:弓が得意な猫人族で、キーリと同じく転生者。キーリとは異父兄妹になる。

ギース:スラム出身の斥候役。不機嫌な顔で舌打ちを連発する柄の悪さが売り。意外と仲間思い。

シオン:狼人族の魔法使い。頑張りやさんで、日々魔法の腕を磨く。実家の店がパーティの半拠点状態。

イーシュ:パーティのムードメーカー。勉強が苦手で三歩歩けばすぐ忘れる。攻撃より防御が得意。

ユキ:キーリと一緒にやってきた性に奔放な少女。迷宮核を自ら作り出したりと不思議な力を持つが正体は不明。

ユーフェ:スラムで住んでいた猫人族の少女。フィアに雇われた後、家族として共に過ごしていた。時々不思議な勘の鋭さを見せる。

シン:王国南部のヘレネム領を治めるユルフォーニ家の嫡男。キーリ達を匿っている。



「なんか首の骨が砕けたみたいに痛いんスけど、なんでッスかね?」

「貴女の頭が空っぽだからでしょう」

「つーかアンタも大概頑丈だな」


 首をさすりながら頭を捻るミュレースにレイスは辛辣な言葉で応え、キーリは横に座って呆れてみせた。

 どうやら記憶は飛んでしまったらしいミュレースは、そんなキーリの反応に首を傾げて走った痛みに顔をしかめた。


「それで、今までのやり取りで何となく二人がどういう関係か分かったが、改めて紹介してもらっていいか、レイス?」

「畏まりました。多大な誤解を解くためにもそうさせて頂きます」


 身分の差を殊更にはっきりさせるレイスにとってミュレースの行動は耐え難いものがあったのだろう。無表情に見える中でも幾分レイスの眼が死んでいる気がするが、キーリとフィアは指摘する事は止めた。


「先程から騒がしいこの娘はミュレース。王城で働いている使用人でございます。

 ……非常に残念ながら私の後輩にあたります」

「どもども! ヨロシクっす!」

「フィアだ。こっちはキーリ。レイスにはいつも世話になっているよ」


 半分けなされた紹介なのだが、ミュレースは気づいていないのか気にしていないのか、元気に挨拶をした。

 お調子者だが何処までも快活で、ここまで元気が良いとこちらまで元気を貰えそうだな。似たような感想を抱きながらフィア、キーリは順に手を握って挨拶をしていく。


「それで、ミュレース。何故貴女がここに居るのです?」カップを置き、レイスが尋ねた。「コーヴェル侯爵様のお世話をしているはずでしょう? 幾ら適当な人間である貴女といえども仕事だけは放り出さないよう厳しく指導したつもりですが」


 コーヴェルという名に、カップに口をつけようとしていたフィアの動きがピタリと止まった。


「そりゃもちろん! 私がここに来たのは先輩を探し出すためッス。

 どっかに居なくなった王女様を探せっていうのが侯爵様のご命令だったんスけど、なんつーんスかね? 将を射んと欲すれば先ず馬を射よ? ともかく、王女様を探すんなら王女様にベッタリで変態的に偏執的に愛してる先輩を探していけば見つかると思ってここまで遥々やって来たって訳ッス。

 まあ、と言いつつも見つけるまで半年も経ってしまったんスけどね。まさか国内の、それも表向き(・・・)貴族派である人らに匿われているとは思わなかったスよ」


 フィアの体が強張った。警戒を露わにし、平静を装いながらも彼女の背がジワリと汗を掻いた。

 この三年もの間、各地を転々としてきたし例え短期間の滞在であっても痕跡は残さないようにしてきた。ユルフォーニ家に匿われて以降も、自分はもちろんレイスだって村の外に出ることは稀だ。自分らを探し回る連中に嗅ぎつけられるようなヘマはしていない。

 何より、ユルフォーニ家が本当はどの派閥に所属しているかを正確に把握しているかのような言葉。どうやら、見た目やこれまでのおちゃらけた言動は素直に信じない方が良いらしい。

 ミュレースから見えないようにフィアは左手に魔素を集めていく。何かあればいつでも逃げ出せるよう常に準備は出来ている。彼女は頭の中でこの後の行動をシミュレートし始めた。

 しかしもう一方の手に、隣に座っていたキーリの手が重ねられる。顔を上げると眼が合い、キーリは黙って頷いてみせる。

 それだけで、フィアの硬くなった表情が無意識に緩んでいった。


「レイス、コイツは……?」

「彼女はコーヴェル侯爵様専属の使用人……と申しましてもメイドとしては落第も落第ですが、もう一つ、侯爵様の諜報員としての顔もあります。そちらとしての力量は優秀ですし、こんな人間ですが信頼できる人間であることは私が保証致します」

「いやー、先輩には鍛えられたッスから。あの地獄の日々……忘れられないッス。褒められると嬉しいッスけど、流石に先輩にはまだまだ敵わないッスよ」

「一応確認なんだが……ミュレースのそっちの仕事を鍛えてたってことは、レイスもそっち方面の仕事をしてたってことなんだよな?」


 キーリに尋ねられ、レイスは一瞬の間をおいて小さく頷いた。


「はい。お嬢様のお付きとなるまでは主にそちらの仕事をこなしておりました。お嬢様のお世話をするようになりましても王命で少々……

 今まで黙っておりまして申し訳ありませんでした」

「いや、いいんだ。気にしなくていい」フィアは小さく笑って頭を振った。「単なるメイドが冒険者になんてなれる訳は無いからな。それに昔から時々姿を見せない時もあったし、薄々は気づいていたさ。

 何にせよ――レイスはレイスだ。今更そんな事で見る目を変えたりはしないさ」


 彼女の生い立ちが普通とは異なることくらいは知っていた。当時は気づかなかったが、自分専属の使用人になった直後は今とは比べ物にならないくらいに感情が無かったし、フィアを見る眼にも一切の感情が無かった。彼女は口にしないが、恐らくは人に言えないような事もして生きてきたのだろう。

 父が何を思って彼女をフィアのメイドとしたのか。今となってはもちろん不明だ。しかし何となく父の狙い、というよりもレイスに対する思いが分かったような気がした。


「なんか分からんッスけど、良かったスね、先輩」

「貴女に言われると悔しいですが、ここは素直に受け取っておきましょう」


 そう言ったレイスは少し嬉しそうで、キーリはフィアと共に笑いあった。


「ま、そういう訳で先輩を無事見つけ出した訳ッスけど……」


 自分の事の様に嬉しそうにしていたミュレースだったが、ふとキョロキョロと付近を見回し始めた。


「どうしたんだ?」

「いや、先輩が居るんなら王女様も居るはずと思ったんスけどね。もしかして外出中ッスか? あ、でもそれなら先輩がここに居るはずがないッスよね……

 むむ! 先輩、何処に王女様を隠したんスか?」


 何故か一人で難しい顔をしてミュレースはレイスに詰め寄った。キーリとフィアは「は?」と首を傾げ、レイスは深々とした溜息を吐き出した。


「先程からここにいらっしゃるでしょう」

「誰がスか?」

「貴女の探している人であり、私が敬愛しているお嬢様です」


 ミュレースの目線が順に動いていく。レイスは違う。髪は伸びたが、間違いなく先輩は先輩である。

 次いでキーリ。前髪で隠れていて分かりづらいが確かに女性のような顔立ちだ。しかし声は男性だ。王女というくらいだから女性である。だから違うだろう。

 そしてフィアに辿り着く。髪の色は橙でショートヘア。眼鏡を掛けており、ミュレースが聞いていた特徴とは違うが――

 恐る恐る彼女はフィアに尋ねた。


「……もしかして、もしかします?」

「もしミュレースの探しているのがスフィリアースなのだとすれば、それは私で間違いない」


 王女としての名で呼ばれるのは辛い。だがこの期に及んで誤魔化す意味もない。困ったようにフィアは頭を掻きながらも首肯した。


「は、ハハハハハハ……ま、またまた~。やだな~、先輩。冗談がキツイっすよ」

「私が冗談を言う人間に見えますか?」

「……見えないっす」


 軽い現実逃避の道をあっさりとレイスに塞がれ、笑顔のままミュレースの額からブワァっと汗が滝の様に流れた。

 先程からの自らの言動が走馬灯のように流れる。かくなる上は、最早道はただ一つ。

 無言で立ち上がる。右足を一歩後退。両膝を床に突き、そのままうつ伏せで横たわる。

 流れるような動きで見事な五体投地が出来上がった。


「この度は王女殿下と知らず度重なる無礼を……」


 ふざけているのか真面目なのか――恐らく本人は大真面目なのだろうが――床に向かってミュレースはモゴモゴと謝罪の言葉を述べ、キーリは頬を、フィアは頭を掻き、レイスはこめかみに青筋を浮かべながら、遠い目で自分の教育の仕方を振り返るしかできなかった。





お読み頂きましてありがとうございました<(_ _)>

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