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4-3 彼方から来たりし人(その3)

第3部 第17話になります。


初稿:18/01/05


<<<登場人物紹介>>>


キーリ:幼い体で転生後鬼人族に拾われるも村が滅ぼされた事で英雄への復讐を誓って、冒険者となった。国王殺害の濡れ衣を着せられ逃亡生活中。

フィア:パーティのリーダーで王国の王女。国王殺害犯としてキーリ、レイスと共に逃亡生活真っ只中。末期のショタコン。

レイス:フィアに付き従うメイドさん。フィアと共に一緒に生活中。

アリエス:帝国貴族の筋肉ラブな女性。剣も魔法も何でもこなす万能戦士。

カレン:弓が得意な猫人族で、キーリと同じく転生者。キーリとは異父兄妹になる。

ギース:スラム出身の斥候役。不機嫌な顔で舌打ちを連発する柄の悪さが売り。意外と仲間思い。

シオン:狼人族の魔法使い。頑張りやさんで、日々魔法の腕を磨く。実家の店がパーティの半拠点状態。

イーシュ:パーティのムードメーカー。勉強が苦手で三歩歩けばすぐ忘れる。攻撃より防御が得意。

ユキ:キーリと一緒にやってきた性に奔放な少女。迷宮核を自ら作り出したりと不思議な力を持つが正体は不明。

ユーフェ:スラムで住んでいた猫人族の少女。フィアに雇われた後、家族として共に過ごしていた。時々不思議な勘の鋭さを見せる。

シン:王国南部のヘレネム領を治めるユルフォーニ家の嫡男。キーリ達を匿っている。




 ―― 一方、村人たちの中心で女性は声を張り上げ続けていた。


「だーかーらーっ! 私はここに人を探しに来たんッス! さっきもそう言ったじゃないっスか!」


 苛立った様に彼女は黒いショートブーツで地面を踏み鳴らした。ブーツからは少し褐色がかった脚が伸び、その根本はエプロンドレスによって隠されている。胸元には大きな真紅のリボンが踊り、黒く長い髪はツインテールにまとめられていた。

 むぅぅと唸りながら小柄な体で見上げた。取り囲む村人達に比べるととても小さく、眼はクリっとしているがそばかすがあり、不満を如実に表す口元といい容姿といい子供が背伸びして大人と対等に接しようとしているようだ。

 人の良い村の人達もそれ故に大声で怒鳴ったり邪険にすることも出来ず、互いに困ったように顔を見合わせた。


「とは言われてもなぁ……」

「ここにはそんな奴ら居ないもんなぁ……お前、聞いたことあるか?」

「いやぁ、そんな名前に聞き覚えないぜ」

「こっちは急いでるんス! 隠してるとためにならないッスよ!」


 ぐるるぅと今にも噛みつきそうな勢いで食って掛かる少女の様子に頭を掻くが知らないものは知らない。どうしたものか、ともう一度彼女の探し人という人物の特徴を確認した。


「お嬢ちゃん、もう一度聞くな? 名前はレイスとスフィリアースって二人で、もしかするともう一人、男と一緒かもしれない。で、レイスって女の人は髪が短くて眼鏡を掛けてるんだよな?」

「そうッス! 最近村に住み着いたんじゃないかって推測してるッス! 少なくともこの村に居るのは確かッス」

「そう言われてもなぁ……お前知ってるか?」

「いんや。何度聞いてもさっぱり分かんねぇなぁ」

「ちっせぇ村だし、居着いた人間なら全員顔見知りのはずだもんな」

「でも村の外の森とかだったら俺らも知らない奴が居るんじゃないか?」

「心当たりがあるッスか!?」

「いや、ねぇけどさ」


 ある村人の発言に食いつくも、残念な返事に少女はガクリと肩を落とした。

 彼女が得た情報であれば、ここに居るのは間違いないのだ。だが、もしかしたら一時的にコッソリと滞在しただけで村を出ていってしまったのかもしれない。彼女の知る探し人ならばその可能性も十分にある。

 思い至ってしまった可能性に、少女は発狂したように「うがー!」と天に向かって叫びながら頭を掻きむしった。苦労してこんな田舎までやってきたのに空振りとかやってられない。

 やけくそになりながら少女は村人達に向かって叫んだ。


「あー、もうっ! こうなりゃなんでも良いッス! 見慣れない人を見たとか、単なる旅人とかでもなんでもばっちこいっす!」

「うーん、それなら誰か知ってるかもしんねぇな。偶にだが旅人もやってくるしな」

「お? マジっすか! 全く見るべき物もないこんなクソど田舎でもやってくる物好きな道楽者は居るもんスね!」

「……嬢ちゃん、本当に情報欲しいんだよな?」

「こまけーことは気にしないで大丈夫ッス! さあ! さあ! 情報ぷりーず――」

「ミュレース」


 カモン、カモン、とばかりに大仰な身振りで村人を促していた少女だったが、不意に名前を呼ばれて動きを止めた。

 振り向く村人たちの間をレイスがゆっくりと近づいてくる。ジャリ、ジャリ、と地面を踏みしめながら無表情で。

 それを見た少女――ミュレースは途端に顔を満面の笑みに綻ばせた。髪こそ長く伸びているが、全くと言っていい程動かない表情筋と無駄のない動き。間違いない。半ば諦めていたところに突然現れた探し人。気持ちが弾まない事があろうか。


「レイス先輩っ! 不肖、ミュレース! 貴女の大事な妹分がやってきたッスよーっ!!」


 両腕を目一杯大きく広げて嬉しさを全身でアピール。再会は何年ぶりか。先輩、自分、こんなに成長しましたよ。尊敬する先輩の感触を全身で堪能しようと彼女はレイスに向かって飛び込み――


「がひゅっ!?」


 顔面を鷲掴みにされた。


「あががががががががががががががががががっっっっっ!!??」

「ミュレース」


 顔だけを捕まれて宙吊り。そしてレイスの細い指が徐々に、だが確実にミュレースのこめかみやら頬骨やらに食い込んでいった。


「私の名前は『スイ』です。レイスなどではありません」

「で、でもっあばばばばばばばばばば」

「もう一度だけ言います。私は『スイ』です。よく覚えておくように」

「わわわかりましたッス! 了解ッス! だから村人さんタスケテー!!」

「はは、なーんだ、その娘はスイさんの知り合いだったのかい?」


 ギリギリと万力のようにミュレースの頭を押し潰していくレイスと、悲鳴を上げるミュレース。ミュレースは本気で泡を噴き始めているのだが、どうやら村人達は単なるじゃれ合いと判じたらしい。もしくはど田舎と称された事を根に持っているのかもしれない。特にレイスを止めるでもなく、笑いながらレイスに話しかけた。


「はい、お恥ずかしながらそうです。騒がしい娘でしてみなさまにご迷惑をお掛け致しました事、お詫び致します」

「なんのなんの。レイスレイスっていうから誰かと思って、まさか村に変なやつが勝手に住み着いたかとちょっと心配したけどな」

「どうせこの季節はやることもなくてみんな暇だし、いい暇つぶしにはなったしな。気にしてないさな。

 ……ところで、そろそろ離してやった方がいいんでないかい?」


 ぷらんと脱力して動かなくなったミュレースを心配そうに指差した。レイスはミュレースをゴミを見るような眼で一瞥し、手を離した。

 べちゃりと墜落したミュレースを今度は後ろ襟を掴みあげ、彼女は村人達に向かってもう一度頭を下げた。


「お心遣いに感謝致しますがこの馬鹿娘にはこの程度の扱いで十分です。

 それでは連れ帰って折檻――いえ、教育をしないといけませんので。失礼致します」

「……まあ、程々にな」

「野菜譲ってやっからまた顔を見せな!」

「量はねぇが山で取れた鴨肉があるから、取りにおいで!」


 口々に誘い文句を投げかけられ、レイスは少しだけ表情を緩めて手を小さく振り返した。そして、右手で気を失ったミュレースをズリズリと引きずっていきながらキーリ達の元へと戻っていく。スカート部がめくれてパンツがむき出しになっているが、全く気遣う様子は無かった。


「……探し人が見つかったってのに、難儀な娘だなぁ」


 せめてもの情け、とばかりに村人の男はミュレースの姿をこれ以上見ないよう背を向けた。寒風が吹き抜けていき、村人達は体を擦りながら今日は解散とばかりにそれぞれの家へと戻っていったのだった。





「なんかお尻が割れたように痛いんスけど、なんでッスかね?」

「貴女がバカだからでしょう」


 自分の尻を撫でながら首を傾げるミュレースに、彼女の横に立つレイスは無表情のまま辛辣な回答を返した。

 眼を覚ましていの一番に聞いたのが罵声。ミュレースは尻と同様に痛む顎関節を押さえつつ首を傾げるも、それもまた懐かしい。「先輩は変わらんッスね」と気に留めた様子もなくレイスを見上げた。


「あまりいい茶葉では無いんだが、どうぞゆっくりしていってくれ」

「あ、すんません。頂きますッス」


 フィアがミュレースの前に紅茶の入ったカップを置いてもてなすと、ミュレースは軽い感じで一度頭を下げた。レイスはフィアに向かって何とも言えない表情をして頭を下げようとするが、それを彼女は小さく笑って首を横に振った。


「彼女はレイスの客人だろう? なら是非とも私に歓待させてくれ」

「ですが……」

「偶にゃレイスも仕事は忘れてゆっくりしろって。それにコイツもこういうの楽しんでんだから好きにさせてやってくれよ。

 ささ、どうぞお座り下さい、レイス『お嬢様』?」


 ニヤッといたずらな笑みを浮かべてキーリが椅子を引き、レイスに座るよう促す。彼女は微かに困ったように眉尻を下げてフィアを見遣るが、彼女も軽くウインクし、レイスの前にもカップを並べて紅茶を注いだ。それを見てレイスは観念したように溜息を吐くと、大人しくミュレースの正面に座った。

 芳しい薫りが際立つカップを手に取る。一口含めば、茶葉の芳香が鼻をくすぐる。フィアに紅茶の入れ方を指導したのはレイスだが、贔屓目抜きにしても文句のない入れ方だ。感動が胸を打った。


「いいですか、ミュレース。この紅茶はいわば炎神様がお入れになったも同然の素晴らしい逸品。心して――」


 飲みなさい。そう諭そうとした。

 だがそんな彼女の目の前でミュレースはカップを一気に、それこそ首が真後ろに倒れる程に傾けて飲み干した。


「ぷはー! いやー、喉乾いてたんッスよー。お陰で生き返ったッス」

「はは、そうか。ならすぐにお代わりを準備しよう」

「いいッスか? ならお願いするッス。

 あれ、どうしたんッスか先輩? そんなスライムからドラゴンが生まれたみたいな絶望的な顔をして」


 無言で立ち上がるレイス。彼女は黙ってミュレースの後ろに立つと、両脇の下に手を入れて立たせる。

 いつも通りの無表情で彼女の背後からそっと腰から下腹部に手を掛け、自分の額をミュレースの背に押し付ける。熱い吐息がエプロンドレス越しにミュレースに伝わってきた。


「ちょ、ちょっと先輩、どうしたんッスか!? あ、もしかして私の気持ちに気づいてくれたんスね!?」


 赤い顔をしたミュレースの脳内では百合の花が咲き乱れているらしい。言葉と裏腹にまんざらでもない様子でイヤンイヤンと首を振る。それに応えるようにしてレイスの腕がミュレースの腰の辺りを強く締め付け、抱きしめるようにしてミュレースの小柄な体を持ち上げた。

 そして。


「嬉しいッス! けどこんな場所じゃダメっすよっ! できれば王都辺りのもっとムードのある場所で――」


 グルン、とミュレースの姿が消えた。

 次の瞬間に二人の目に入ったのは、大きく海老反りしたレイスの体。柔らかな体が見事なブリッジを描き、ミュレースの後背部が木の床を突き破った。その凄まじいまでの技のキレは、キーリとフィア二人の眼をもってしても追いきれなかった。


「じゃ、じゃーまん・すーぷれっくす……」

「……見事に決まったな」


 首から先を床下にめり込ませ、スカートが綺麗に捲れてピクピクと痙攣する脚とかぼちゃパンツが露わになる。レイスは海老反り状態のまま、最早聞こえてないだろうミュレースに言った。


「――寝言は寝て言いなさい」




お読み頂きましてありがとうございました<(_ _)>

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