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4-2 彼方から来たりし人(その2)

第3部 第16話になります。


初稿:18/01/04


<<<登場人物紹介>>>


キーリ:幼い体で転生後鬼人族に拾われるも村が滅ぼされた事で英雄への復讐を誓って、冒険者となった。国王殺害の濡れ衣を着せられ逃亡生活中。

フィア:パーティのリーダーで王国の王女。国王殺害犯としてキーリ、レイスと共に逃亡生活真っ只中。末期のショタコン。

レイス:フィアに付き従うメイドさん。フィアと共に一緒に生活中。

アリエス:帝国貴族の筋肉ラブな女性。剣も魔法も何でもこなす万能戦士。

カレン:弓が得意な猫人族で、キーリと同じく転生者。キーリとは異父兄妹になる。

ギース:スラム出身の斥候役。不機嫌な顔で舌打ちを連発する柄の悪さが売り。意外と仲間思い。

シオン:狼人族の魔法使い。頑張りやさんで、日々魔法の腕を磨く。実家の店がパーティの半拠点状態。

イーシュ:パーティのムードメーカー。勉強が苦手で三歩歩けばすぐ忘れる。攻撃より防御が得意。

ユキ:キーリと一緒にやってきた性に奔放な少女。迷宮核を自ら作り出したりと不思議な力を持つが正体は不明。

ユーフェ:スラムで住んでいた猫人族の少女。フィアに雇われた後、家族として共に過ごしていた。時々不思議な勘の鋭さを見せる。

シン:王国南部のヘレネム領を治めるユルフォーニ家の嫡男。キーリ達を匿っている。



「そういえば、前々から気になっていたんだが」


 迷宮から何事も無く脱出し、村へ戻る道中でふとフィアは疑問に思っていた事を尋ねた。


「なんでしょう?」

「今みたいに新しい迷宮が現れる度に潰していっている訳だが、これまでヘレネム領には主だった迷宮は無かったのだろう? 育てて富を得ようとは考えなかったのか?」


 迷宮は危険であるが、多くの富を生み出す金のなる木だ。生まれたての若くて小さい迷宮であれば高価な素材となるモンスターも現れない、放っておけばモンスターと魔素を撒き散らす迷惑なものだが、時間を経て成長すれば莫大な富をもたらすし、その富目指して多くの人がよってきて金の流れが生まれる。領内を発展させるため、小領しか持たない弱小貴族であれば喉から手が出るほどに欲しいものだ。普通は。

 だがユルフォーニ家は、ためらいもなく生まれたての迷宮核を潰していっている。それは領内の発展を抑え、貴族として成り上がる事を放棄するのに等しいとも思えた。

 当たり前のようにそんな行動を取るシン達がフィアは不思議でならなかった。


「はは、魅力的ではありますけどね。でも僕らじゃたくさんの迷宮を管理なんてできませんから。他所に協力を頼もうにも、どうせ足元を見られるだけですしね」

「しかし一つくらいであれば出来なくはないだろう? どうせ育つのには長い年月が掛かるのだし、ゆっくりと信頼できる人材を育てたりということも出来たのではないか?」

「言われりゃそうだな。欲さえかかなきゃユルフォーニの人材ならキチンと管理できそうなもんだけど」


 フィアの意見もキーリも同調した。シンは指先で顎を撫で、そして少し恥ずかしそうに首筋を掻いた。


「うーん、そうですね……正直申し上げると、そういう意見もあったんですよ。上手く管理できれば領内をもっと豊かにできるんじゃないかって」

「んじゃなんでそうしなかったんだ? いや、別に話せない理由があるならいいんだけどよ」


 貴族故に柵とかもあるだろう。そう思って気を遣ったキーリだったが、シンは「そんな大層なものじゃありませんよ」と首を横に振った。


「……三人共、ムエニ村を覚えてますか?」

「えーっと、確か……」

「以前にシン様にご招待頂いた保養地の近くにありました村ですね」


 養成学校の夏休みにシンに連れられていった、ヘレネム領に隣接するパルティル男爵の領地で、滞在中はそこで買い出しも行っていた。アトベルザや口の悪い老婆、そしてアンジェリカとの遭遇など、キーリが一度思いを馳せると良きも悪きもどんどん思い出してくる。


「ああ、思い出した。風光明媚な良いところだったな。村の人も親切で、いつかはまた脚を運びたいと思っていたが……あそこがどうかしたのか?」

「実は……もうあの村は無いんです」

「え……?」


 村が無い。それは軽いショックを以てキーリやフィアに受け止められた。


「正確に言うと村ではなく街になったんですけどね」

「……なんだ、そういうことか。驚かせないでくれ」


 ホッとフィアは胸をなでおろした。シンは「すみません」と苦笑いしながら謝罪を口にするが、その眼は何処か懐かしむような、そして残念がっているようなものだった。


「村は無くなった、か……

 もしかして、お前が言いたいのってもう思い出のような場所じゃなくなったってことか?」

「ええ……キーリ君のご理解の通りです。

 ……以前からパルティル男爵はあの場所を交易の拠点として、そして鉱山を利用した工業の街として発展させるつもりでした。そして順調に村は大きくなり、今やパルティル男爵領随一の人口を誇る街になっています」

「良いことの様に聞こえるが……シンの顔を見る限りだとそうではないんだな?」

「良いことか悪いことかの判断は僕にはできません。けれども好悪で言えば、今のあの『街』は好きではありませんね。のどかだった景色は無くなって建物ばかりになり、銅山からの排水で川は汚れて臭いはひどい。急激に人口が増えた事で畑も何もかもが宅地にされてしまいましたし、村のみんなは住んでいた場所から追い出されてしまいました。治安もお世辞にも良いとは言えません」


 心底残念です、と言わんばかりにシンの口から溜息が漏れた。


「パルティル男爵の改革は成功したと言えるでしょう。それは間違いありません。でもそれは、元々住んでいた方々の生活を犠牲にした結果です。

 たぶん……僕らが迷宮を活かそうとしたならば、やがてそういった急激な発展は免れないでしょう。でも僕らユーフォニアの人間は今の生活が好きなんですよ。決して裕福ではないですけれど、のどかでゆっくりと時間が過ぎていく生活が。

 煩わしい政治とも距離を置く事ができますし、領内のみなさんと一緒に畑仕事に精を出していると何だか『生きている』ような感じがするので、なんだかんだ気に入ってるんです。

 だから、所詮僕らのエゴでしかないですけど、方針としては今の生活を守りながらゆっくりと発展させていく。そのためには迷宮は『害』でしかないから潰してしまうってみんなで決めたわけです」

「そういうことか……」


 フィアは顔を上げて辺りを見渡した。

 季節はすでに冬に差し掛かろうとしている。刈り取りの終わった畑は茶色で山の木々からは葉が落ちて寒々しい。だがまた半年もすれば季節は巡り、瑞々しい色に景色は包まれていく。

 この領内に住み始めて二年。季節は巡り、いずれの季節も違った光景を見せてくれていた。村に住む人達も親切で困った時は助け合い、余所者にも暖かい。フィアは何となくシンが大切にしているものが理解できたような気がした。


「なるほど、な。確かにどの村もみんな親切だし、飯は美味いし、生活は静か。それが無くなるのは惜しいもんな」

「私も同意するよ。民を大事にするユルフォーニ家の方々らしい。すまない、つまらない事を聞いたな」

「いえ、普通はフィアさんのように考えますしね。僕らがきっとマヌケなんですよ」


 自分たちを自虐するような言い方だが、シンの口ぶりからはそれを誇りに思っている事が窺えた。フィアはそれを心から羨ましいと思った。




「……おや? 何だか賑やかですね」


 そうこうと話している内に、キーリ達は生活している村へと戻ってきた。迷宮には陽が昇る前から潜っていたためまだ時刻は昼を過ぎた辺り。山間を縫って寒風が吹き抜ける季節のため、いつもであればみな家の中で静かに過ごしていたり、近所で集まって焚き火の近くで幾人かがのんびりと井戸端会議をしているのだが、近づいていく村の様子を眺めていると、いつもと様子が違う。


「だな。みんな集まって何やってんだ?」

「雰囲気が物々しいような感じがするが……もしかしてまたモンスターか?」

「それにしちゃあ切迫感は無さそうだけどな」


 物々しい、と言うよりは困惑の色の方が強いか。近づいていき、よりはっきり様子が伺えるようになる。どうやら一人が騒いでいて、その周りを村人が取り囲んでいる様だ。聞こえてくる大声は高い。村人達の間からチラリと覗く顔は、遠目なのでよく見えないが若い女性のようである。

 だが、その女性の発した名前に四人の動きが止まった。


「もう一度言うッスよ! レイスとスフィリアース! そのお二人がこの村に居るはずなんス! だから教えて欲しいんスよ!」


 レイス、そしてフィア。確かに彼女は二人の名前を口にした。


「……下がっていてください。僕が行きましょう。三人はすぐにここを離れて下さい」


 二人がここに居る事は誰にも話していない。知られるはずのない情報だ。にもかかわらず村人に囲まれている女性は二人がここに居ると確信している口ぶりだ。

 シンは三人に小声で告げて一歩前に出る。キーリとフィアも警戒を露わにして互いに目配せをする。

 だがそんな中でレイスが一人、シンを制した。


「レイスさん?」

「もしかして……知っている娘か、レイス?」

「……ええ、お恥ずかしながら」


 フィアに尋ねられると彼女は、一瞬間を置いて頷いた。指で頭痛を堪えるような仕草をし、表情の明確な変化に乏しい彼女の口元がピクピクと震えていた。


「……様子を伺って参りますので失礼致します」


 珍しいレイスの反応にキーリは何処か面白がり、フィアとシンは首を傾げた。レイスはそんな三人にも目もくれず一人早足で先行していく。編み上げの頑丈そうなブーツが地面を踏みしめるが、その足音は何処か荒々しく、三人はもう一度揃って首を傾げたのだった。




お読み頂きましてありがとうございました<(_ _)>

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